Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Basic study of chemiluminescent enzyme immunoassay (CLEIA)- and electrochemiluminescence immunoassay (ECLIA)-based whole-parathyroid hormone (PTH) assay
Masayuki MIYAKEKouichi ITOSHIMAKen OKADAFumio OTSUKA
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Keywords: whole PTH, CLEIA, ECLIA
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2017 Volume 66 Issue 2 Pages 133-140

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Abstract

副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone; PTH)測定には完全長のPTH(1–84)のみを測定するwhole PTHがあるが,近年CLEIA法を原理としたルミパルスプレストwhole PTH「DSPB」とECLIA法を原理としたエクルーシス試薬whole-PTHが発売されたため,それぞれの基礎的検討および両試薬の比較検討を行った。併行精度,室内精度においては両試薬とも良好であったが,希釈直線性においてエクルーシスでの低濃度域で若干の高値化が認められた。干渉物質においてはいずれも最終濃度まで影響が認められなかった。検体安定性においては両試薬ともに血漿と比べ血清で不安定であり,室温保存が最も不安定であった。相関においてはIRMA法と両試薬の比較でIRMA法が低値となった。ルミパルスとエクルーシスの比較では濃度帯域により傾向の変化が見られた。両試薬における血清とEDTA-2Na血漿の比較では良好な相関性が得られた。保存容器としてMPC処理を施した容器を用いた場合と比較して未処理の容器で低値になることが確認された。MPC処理容器は吸着反応が抑制されるため,この現象はPTHが保存容器に吸着したことが原因であると考えられた。本研究から比較的安定性が高く従来法であるIRMA法との反応性が近いルミパルスプレストwhole PTH「DSPB」が有用であると考えられた。

I  序論

副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone; PTH)は副甲状腺から分泌されるホルモンであり,骨や腎臓に働きかけ血中Ca濃度を上昇させる生理活性をもつ。PTHは84個のアミノ酸から構成されるペプチドホルモンであり,N末端のヘリックス構造が生理活性に重要な構造である1)。半減期は2~4分と短く血中に様々な不完全長のフラグメントPTHが存在している。

PTH測定系はC末端を認識する抗体を用いたC-PTHやPTHの中間部(44–68)を認識する抗体を用いた高感度PTHから始まった。しかし,C-PTHや高感度PTHは腎臓によってのみ代謝されるC末端側の不活性なPTHフラグメントを測定してしまうために副甲状腺機能を過大評価してしまう問題があった1)。その問題点を解決するために開発されたのがPTHインタクトである。この方法ではN末端側のPTH(1–34)を認識する抗体とC末端側のPTH(39–84)を認識する抗体を用いることで生理活性のある完全長のPTHのみを測定しようとするものであったが,後々PTHインタクトでも生理活性をもたない不完全長のPTH(7–84)を同時に測定してしまうことが明らかになった1)。またこのPTH(7–84)はPTHアンタゴニストの可能性が示唆されているものであり,つまりはPTHインタクトも副甲状腺機能を過大評価する可能性をもっていることになる1)~3)。さらに,人工透析患者では重篤な腎機能障害のためにPTH(7–84)が蓄積し,PTH(1–84)の7割程度のPTH(7–84)が存在しているといわれている1),4),5)。PTH(7–84)を測定してしまうPTHインタクトよりもPTH(1–84)のみを測定する測定系の方が患者死亡リスクをよりよく反映するともされている6)

その後whole PTHが開発され,完全長のPTH(1–84)のみを測定する測定系として注目されているが,測定に時間のかかるイムノラジオメトリックアッセイ(immunoradiometric assay; IRMA)でしか測定できずあまり臨床に普及していなかった。しかし近年自動分析機で測定可能な化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescence enzyme immunoassay; CLEIA)や電気化学発光免疫測定法(electrochemiluminescence immunoassay; ECLIA)を用いた測定系が開発され30分以内での測定が可能となった。今回はCLEIAとECLIAを用いたwhole PTH試薬の基礎的性能評価とその比較検討を行ったので報告をする。

II  対象および測定原理

平成28年1月26日から5月31日までの間に,当院検査部にPTHインタクトの測定依頼があった外来患者検体120件を対象とした。対象となった患者検体の残余から血清およびEDTA-2Na血漿を分注し検体とした。またそれらの残りを自家調整プール血清および血漿として使用した。そのほかに血清ベース凍結乾燥品のキャリブレータと精製PTHが添加された液体キャリブレータを添加したプール血清を検体として用いた。

測定試薬はCLEIAを原理としたルミパルスプレストwhole PTH「DSPB」(DSファーマバイオメディカル株式会社)と,ECLIAを原理としたエクルーシス試薬whole-PTH(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用い,従来法としてIRMAを原理としたインタクト副甲状腺ホルモンキット whole PTH「住友」(DSファーマバイオメディカル株式会社)を用いた。

測定機器としてCLEIAはルミパルスPresto II(富士レビオ株式会社),ECLIAはモジュラーアナリティクスE(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用い,IRMAはLSIメディエンス株式会社に外注委託した。

なお,本研究は岡山大学生命倫理審査委員会の承認を得たものである。

III  方法と結果

1. 併行精度

3濃度に調整したプール血清および血漿を用いて同時に20回測定を行った。変動係数(coefficient of ‍variation; CV)はルミパルスで1.17~3.16%,エク‍ルーシスで1.41~4.47%であり良好であった(Table ‍1)。

Table 1  Repeatability
Serum EDTA Plasma
Low Middle High Low Middle High
LUMIPULSE Average (pg/mL) 25.9 138.2 253.2 25.6 149.1 273.4
SD (pg/mL) 0.57 2.18 4.05 0.81 1.93 3.21
CV (%) 2.21 1.58 1.60 3.16 1.29 1.17
ECLusys Average (pg/mL) 30.4 136.9 245.1 33.7 151.7 265.9
SD (pg/mL) 0.827 3.91 3.45 1.505 2.78 4.09
CV (%) 2.72 2.86 1.41 4.47 1.83 1.54

2. 室内精度

3濃度に調整したプール血清および血漿を用いて1日2回15日間測定を行った。総変動係数はルミパルスで1.54~2.88%,エクルーシスで3.55~5.07%でありともに良好であったが,ルミパルスでより良好な結果が得られた(Table 2)。

Table 2  Intermediate precision
Serum EDTA Plasma
Low Middle High Low Middle High
LUMIPULSE Average (pg/mL) 22.6 121.6 246.2 23.7 136.5 261.6
SD (pg/mL) 0.65 2.56 5.67 0.64 2.59 3.98
CV (%) 2.88 2.11 2.32 2.79 1.90 1.54
ECLusys Average (pg/mL) 33.7 149.8 275.4 38.0 167.1 290.1
SD (pg/mL) 1.192 5.20 11.01 1.884 8.16 10.52
CV (%) 3.55 3.49 4.01 4.97 5.07 3.66

3. 希釈直線性

高値試料のみをプールしたプール血清および血漿と,ルミパルスではプール血清にキャリブレータ溶液を添加したものを,エクルーシスでは血清ベースの凍結乾燥キャリブレータを規定の半量の純水で溶解したものを使用して,10段階で希釈系列を作成し測定した。ルミパルスでは良好な直線性が得られたが,エクルーシスでは1/10希釈における実測値が理論値と比較して高値になった。その程度は血清で40.3%,血漿で38.7%,凍結乾燥血清で37.3%となり,低濃度域の実測値は理論値と比較して高値となる傾向が見られた(Figure 1)。

Figure 1 

Dilutional linearity

4. 干渉物質の影響

3濃度に調整したプール血清および血漿を用いた。干渉物質として干渉チェック・Aプラス(シスメックス株式会社)および干渉チェック・RFプラス(シスメックス株式会社)を用いて,干渉物質の影響を確認した。遊離型ビリルビンは18.9 mg/dLまで,抱合型ビリルビンは21.3 mg/dLまで,溶血ヘモグロビンは500 mg/dLまで,乳びは1,410ホルマジン濁度まで,リウマトイド因子は450 IU/mLまで影響はなかった。なお,エクルーシスの溶血ヘモグロビンにおいて一部10%以上の変動が見られるが,測定誤差の範囲であると考えられる(Figure 2, 3)。

Figure 2 

Effect of interfering substances on LUMIPULSE

Figure 3 

Effect of interfering substances on ECLusys

5. 検体の保存安定性と容器の影響

3濃度に調整したプール血清および血漿を用いて室温(25℃),冷蔵(4℃),凍結(−20℃)での保存安定性を確認した。それぞれの保存条件で小分け保存した検体をそれぞれ1,2,3,4,8,24,48,72時間保存し,室温に戻して10回転倒混和後測定を行った。保存容器には日立用サンプルカップ(ユニフレックス株式会社)(以下日立カップ)およびタンパク吸着抑制スクリューキャップマイクロチューブ(ザルスタット株式会社)(以下MPCチューブ)を用いて比較した。また保存開始直後の検体をMPCチューブに分注・測定したものを100%とした。ルミパルスでは,血清において室温保存で4時間後に平均86.6%,24時間後に平均69.5%となり明らかな低値化が認められた。また冷蔵保存で72時間後には平均90.7%となりやや低値化が認められた。血漿においては室温保存で72時間後に平均89.1%となり低値化が認められた。その他は72時間以内に10%以上の低値化は認められなかった。またエクルーシスでは,血清において室温保存で24時間後に平均74.1%となり低値化が認められた。また冷蔵保存では72時間後に平均91.9%となりやや低値化が認められた。血漿においては室温保存で72時間後に平均86.9%となり低値化が認められた。一見するとルミパルスと比較してエクルーシスで8時間後までの安定性が良好である様な結果となったが,これはエクルーシスでの測定値が8時間後まで上昇していることが原因であると考えられる。保存開始時と24時間後以降は始業時の測定であるが,それ以外は日常検査中の測定であったことを踏まえると,装置が稼動し始めた時の測定値が低く,その後経時的に上昇したものであると思われる。これまでラテックスを利用した免疫反応においてラテックス粒子の混和不良によりデータのばらつきやトレンド現象が発生することはよく知られている。また当院で免疫装置を使用する上で,ラテックス粒子の混和不良で発生するものと同様の現象がマイクロパーティクルでも発生することを経験している。本研究で行った操作はすべて試薬添付文書に従っており,また人為的なミスが連続して発生したことも考えにくい。つまり今回の現象は分析装置及びwhole PTH試薬が原因と考えられるが,稼動直後のマイクロパーティクル混和不良がその要因の1つとして挙げられる。免疫反応を利用した試薬の組成は測定対象となる物質の性質によって細かく調整されており,今回の現象もエクルーシスのwhole PTH試薬で特異的に発生した現象であると考えられるが,この点については今後詳細な検討を行っていく。MPCチューブで測定した値に比べ日立カップでは低値を示す傾向にあり,保存開始直後のみの比較でルミパルスでは平均90.3%,エクルーシスでは平均91.6%となりおよそ10%前後の低値化が見られる結果となった(Figure 4, 5)。

Figure 4 

Preservation stability on LUMIPULSE

Figure 5 

Preservation stability on ECLusys

6. 相関

Whole PTHを測定した120件において測定値の比較を行った。ただしIRMAでは血漿のみ,ルミパルスおよびエクルーシスでは血清および血漿での測定を行った。IRMAとルミパルスの血漿での比較では回帰式y = 1.37X − 2.4,r = 0.9877であり,IRMAとエクルーシスの血漿での比較では回帰式y = 1.31x + 13.4,r = 0.9835となりIRMAでやや低値を示した結果となった。さらにエクルーシスではIRMAに比較して低濃度域で高値を,高濃度域で低地を示す傾向にあり,低濃度域および高濃度域における反応性の違いが示唆される。また血清におけるルミパルスとエクルーシスの比較では回帰式y = 0.96x − 7.1,r = 0.9855であり,血漿におけるルミパルスとエクルーシスの比較では回帰式y = 1.01x − 7.5,r = 0.9877となり良好な相関性が確認できた。しかしながらエクルーシスがルミパルスに比較して低濃度域で高値を,高濃度域で低値を示す傾向があり,低濃度域および高濃度域における両試薬の反応性の違いが示唆される。またルミパルスにおける血清と血漿の比較では回帰式y = 0.94x − 0.5,r = 0.9982であり,エクルーシスにおける血清と血漿の比較では回帰式y = 0.89x + 0.2,r = 0.9970となり共に血清で血漿と比較して低値を示す傾向であった(Figure 6)。

Figure 6 

Correlations

IV  考察

Whole PTH測定試薬の基礎的性能評価およびルミパルスとエクルーシスの比較検討を行った。

併行精度および室内精度においては両試薬とも良好な結果が得られたが,エクルーシスに比較してルミパルスでやや良好な結果であると言えた。干渉物質においては本研究ではすべての物質において最終濃度まで±10%以上の影響はなく良好な結果となった。また検体の保存安定性においては血清において血漿と比較して室温,冷蔵ともに不安定な傾向となった。これは血液中のプロテアーゼの働きをEDTAのキレート作用によって阻害していることが原因であると推測される。しかしプロテアーゼは細胞内に多く含まれており,血清血漿を問わず溶血により保存安定性が悪くなる可能性が考えられるため,強度の溶血には注意が必要であると考えられる。whole PTH測定系は血清での測定が可能であるとされているが,血清では室温保存4時間で10%程度低値化し凍結保存しない限り不安定であるため,血清と血漿のどちらで日常業務を行うかは運用面との兼ね合いを考え慎重に選択すべきである。容器の影響であるが,MPCポリマーで処理されたMPCチューブでは疎水性のプラスチック表面が親水性のMPCポリマーでコーティングされておりタンパク質の疎水基とプラスチック樹脂表面の疎水基が疎水性相互作用により結合するのを阻害しており,タンパク質がプラスチック表面に吸着する現象を防いでいる。サンプル数が少なく有意差検討が行えなかったが,このMPCチューブと通常業務で用いている日立カップの比較を行ったところ,日立カップでMPCチューブと比較して平均10%程度低値を示した。検体をサンプルカップおよびサンプルチューブに移し替えることにより測定値が低下するという報告4)を踏まえると,PTHのプラスチック容器への吸着の影響が強く示唆されるため,日立カップをはじめとしたサンプルカップおよびサンプルチューブの使用は避けた方がよいと考えられた。なお,今後より詳細な検討を行う予定である。相関において,相関係数は概ね良好な結果が得られたが,従来法であるIRMAと比較して本研究で検討したルミパルスおよびエクルーシスにおいておよそ3割程度高値を示す結果となった。ルミパルスとエクルーシスの比較においては血清および血漿において共に良好な結果が得られていることを加味すると,外注委託したIRMAと院内測定を行ったルミパルスおよびエクルーシスで何らかの手技の差が影響したものと考えられ,容器への吸着の影響も考えうる。またルミパルスおよびエクルーシス共に血清と血漿の比較で血清が低値になる傾向が見受けられた。凍結融解直後に測定を行っていることを考えると保存安定性の影響は低く,これもやはり容器への吸着の影響があると考えられる。さらに当院では血清分離用採血管として高速凝固タイプを採用しており,この容器および分離剤への吸着もしくは添加されたトロンビンによる分解の影響が考えられる。これについても今後詳細な検討を行っていく。また,エクルーシスにおいてIRMAおよびルミパルスとの比較でともに低濃度域でエクルーシスが高値傾向に,高濃度域でエクルーシスが低値傾向になった。IRMAとルミパルスは共にDSファーマバイオメディカル株式会社の試薬であり,使用している抗体やその反応性はほぼ同一であると考えられる。対してエクルーシスはロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の試薬であり,使用している抗体が異なるために反応性の差異が生じたものであると推測される。以上のことを踏まえて,比較的安定性が高く,従来法であるIRMA法との反応性が近いルミパルスのほうがエクルーシスと比較して有用であると考えられた。

文献
 
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