2017 Volume 66 Issue 3 Pages 212-216
ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus)感染症の診断補助用に現在本邦で市販されているイムノクロマトグラフィーを原理とした迅速抗原検出キット全5製品(プライムチェックhMPV,プロラストhMPV,チェックhMPV,イムノエースhMPV,クイックチェイサーhMPV)について,ウイルス検出感度を比較した。hMPVサブグループA2a,A2b,B1の実験室株各1検体ならびに,PCR法でhMPV陽性を確認した鼻腔吸引液の臨床検体からサブグループA2a,B1,B2陽性検体を1検体ずつの計6種の検体について階段希釈してキットと反応させ,陽性反応が出る最大希釈度を求めた。その結果,それらは各製品間で異なっており,その差は6種の検体すべてにおいて最大33倍であった。各検体のウイルス遺伝子コピー数濃度を測定し,最小検出感度を検出限界コピー数濃度として表したところ,検体によって106から108コピー/mLの範囲にあった。各キットの成績を全キットの幾何平均値と比較してみたところ,6種の検体すべてに対して,反応を示す最大希釈度が低いキットあるいは高いキットも存在しており,統計学的有意差は証明できなかったものの,製品間でhMPV抗原全般に対する感度性能に差があることが示唆された。
ヒト・メタニューモウイルス(以下hMPV)は2001年に発見されたパラミクソウイルス科のウイルスで1),エンベロープを持ち8種類のタンパク質をコードする一本鎖のマイナス鎖RNAを遺伝子とするウイルスである。ウイルス粒子表面のGタンパクの構造の違いからA1,A2,B1,B2の4つのサブグループに分けられ,A2はさらにA2aとA2bに分けられている2)。乳幼児の上気道炎の原因となり,新生児や基礎疾患のある小児では肺炎や細気管支炎などの重篤な症状をもたらす例も報告されており3)~5),また近年では成人や高齢者においても肺炎の起因ウイルスとなる例がみられ,死亡例の報告もある6)~8)。
hMPV感染症は主に3月から6月にかけて流行するとされているが2),通年的に流行している可能性も示唆されている9)。医療機関等での集団感染の報告からもその制御が重要視されているが,ワクチンや治療薬はなく,感染制御のためには確実な診断に基づく早期の隔離が重要である。だが,hMPVは分離による検出が容易ではないため診断にはPCRによる検出が一般的であったが,それは臨床の現場では実質的にはほぼ不可能であった。そのため手軽で確実な迅速診断キットの開発が望まれていた。そしてイムノクロマト法による簡易抗原検出キット(以下キット)が開発され,2014年保険適用となるに至った10)。その後同キットについてはメーカーの参入が相次ぎ,本研究が実施された2016年12月現在では5社から発売されている。
本邦で市販されているhMPVに対する抗原検出キット各社製品は,すべてイムノクロマト法の原理に基づくものである。そこで用いられる一次抗体は,公表されているものでは全製品,ウイルス粒子表面にあってかつ変異の頻度の少ないN蛋白質もしくはF蛋白質に対する抗体である10)。以上から基本的原理は同じであり,製品間の感度の差異の主な要因は,用いられている抗原抽出のための検体溶解液や発色系や抗体の違いと考えられる。これらのキットに関しては,保険適用からそう間もないことからか,製品間の感度を比較した情報はこれまでほとんどなかった。そこで我々は,現時点で本邦において入手しうる5種類の製品間でhMPV検出感度について比較評価してみたので,報告する。
本試験で性能を比較した製品は,すべてイムノクロマトグラフィーを基本原理とする5種類である(Table 1)。ウイルス抗原の抽出は,各ウイルス検体の希釈液を各キット付属の検体採取用綿棒に10秒間浸透させたのち,付属の抗原抽出液へ入れ30秒間抽出操作を行い,各キットの添付文書に記載されている方法で実施した。結果の判定は,全種類のキットについて著者である一人の臨床検査技師(O.S)が目視で判定した。
| 製品名 | 製造元 | 反応時間 (分) |
添付文書記載の最低検出感度 (log10)TCID50/mL |
|
|---|---|---|---|---|
| サブグループA | サブグループB | |||
| プライムチェック® hMPV | アルフレッサファーマ株式会社 | 10 | 2.7 | 2.0a |
| プロラストhMPV | 株式会社LSIメディエンス | 15 | 3.5 | |
| チェックhMPV | Meiji Seika ファルマ株式会社 | 15 | 3.1 | 3.1 |
| クイックチェイサー® hMPV | 株式会社ミズホメディー | 10 | 6.4b | 5.5b |
| イムノエース® hMPV | 株式会社タウンズ | 8 | 3.7 | 3.5 |
a:2種類の株での結果
b:(log10)コピー数/mL単位
本試験で製品間の感度比較の被験対象として用いたウイルス材料は,当施設において−80℃に保存していたものを用いた。当施設で分離したhMPVウイルスのサブグループA2a,A2b,B1の実験室株ウイルス各1検体,ならびにPCR検査11)でhMPV陽性となり,さらにA2a,B1,B2と同定された患者由来の鼻腔吸引液3検体の計6検体である。なお,本研究は倫理面に配慮し,患者情報が特定できないよう処理した検体を使用しており,当院の倫理委員会の承認は不要である。これらの材料を,イーグルMEM培地(Eagle’s minimal essential medium; MEM)を用いて半ログ希釈系列で階段希釈し,キットとの反応試験に用いた。
3. ウイルス遺伝子コピー数濃度の定量被験対象となった比較用検体から,QIAamp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出し,そこからHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit with RNase Inhibitor(Applied Biosystems)を用いてcDNAを合成し,定量的リアルタイムPCRによる定量を実施した。
iQ Supermix(Bio-Rad)を使用し,既報12)に準じてプライマー,蛍光プローブを加え,MiniOpticon(Bio-Rad)を用いてhMPVウイルスN蛋白遺伝子のコピー数濃度を測定した。なお,本定量のための標準曲線は,既知濃度のhMPVウイルスRNAを用いて決定した。
Table 2に,検体を半ログ希釈した希釈系列で各キットが陽性を示した各ウイルス検体の最高希釈倍率を示した。これをウイルス検出感度として用いて,各製品間で比較した結果,各検体に対し陽性を示す希釈度は異なり,感度の高低差の存在が示された。サブグループB1の実験室株ウイルスとA2aの実験室株を検体としたとき,最大1.5ログ(33倍)の差があった。一方,他の4株では最大でも10倍の差に収まっていた。それぞれの製品間で比較すると,プロラストは全ての型のウイルス検体について感度が低めであった一方,イムノエースはいずれに対しても感度が高かった。
| 製品名 | hMPVウイルス検体 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 分離株 | PCR陽性臨床検体 | |||||
| A2a (No. 11355) |
A2b (BL-No. 108) |
B1 (JBS0726) |
A2a | B1 | B2 | |
| プライムチェック® hMPV | 1.0 | 0.0 | 1.5 | 0.5 | 1.5 | 1.0 |
| プロラストhMPV | 1.0 | 0.0 | 1.5 | 0.5 | 1.0 | 0.5 |
| チェックhMPV | 1.0 | 0.5 | 1.5 | 1.5 | 1.5 | 1.5 |
| クイックチェイサー® hMPV | 1.5 | 0.0 | 2.0 | 1.0 | 1.0 | 1.0 |
| イムノエース® hMPV | 2.5 | 1.0 | 3.0 | 2.0 | 2.0 | 1.5 |
次に,本試験に用いた全ての検体についてウイルス遺伝子濃度を求め(Table 3),それらと先の最高希釈倍率から,ウイルスの最低検出感度を遺伝子濃度で表現した。これによれば遺伝子濃度で見た場合,サブグループA2a実験室株ウイルスで最低検出濃度が106から108コピー/mLであった。一方,A2bとB1の実験室株ウイルスとB1の臨床検体では106から107コピー/mL,A2aとB2の臨床検体では107から108コピー/mLという結果となり,ウイルスサブグループ間で検出感度差が認められた。そうした感度差を製品ごとに見ると,プライムチェックでは大きかったが,他の4キットについては比較的小さかった。
| hMPVウイルス検体 | コピー数(log10)/mL |
|---|---|
| a 実験室株サブグループA2a(No. 11355) | 9.3 |
| b 実験室株サブグループA2b(BL-No.108) | 7.8 |
| c 実験室株サブグループB1(JBS0726) | 9.2 |
| d PCR陽性臨床検体A2a | 9.2 |
| e PCR陽性臨床検体B1 | 8.5 |
| f PCR陽性臨床検体B2 | 8.9 |
本研究におけるhMPV迅速抗原検出キットの感度比較では,製品間の差は検討に用いたウイルスのサブグループによっては最大33倍であった。このような差が生じた原因の可能性としては,各キットで使用している1)抗ウイルス抗体,2)陽性ライン可視化のための発色剤,3)ウイルス抗原抽出液の性能の違いあるいはそれらの組み合わせ等の,反応性の最適化の差が考えられる。遺伝子濃度で表した検出感度によるウイルス株間での感度比較では,サブグループB1の実験室株と臨床検体に対する最低検出感度が高めであったが,これは,各キットの製造に用いられた抗体の,各サブグループのウイルスの抗原への反応性の違いによるものかもしれない。サブグループ間での検出感度差についても注意が必要であろう。
抗原迅速検出キット製品の選択をするにあたって,感度は重要なポイントである。各製品におけるこの感度性能の情報は,各製品の添付文書に記載されており,使用者はそれを見ることが多い。それらについて我々が調べた結果,クイックチェイサーを除く全製品が最小検出限界をウイルス感染価で表示していた。だが,ウイルス感染価は,使用するウイルスの増殖ならびに保存状態で大きく変動するものであり,特にhMPVはウイルス分離の指標となる細胞変性効果(CPE)の判断が難しく13),そのためCPEを指標としたウイルス感染価の測定については,試験を実施する研究室ごとに差があることが容易に考えられ,これを用いた比較は信頼性に乏しいことが予想される。実際,我々の今回の5種の製品を試験した成績において,感度について他より高めに出た製品が添付文書の記載の比較では他の製品より低い,といった結果の齟齬が認められている(Table 1, Figure 1)。使用者の立場からすれば,適正な比較検討が可能となるよう,感染価以外のより信頼性の高い指標の感度表示を,全メーカーが統一して採用することを望むものである。遺伝子濃度は,遺伝子のない中空粒子あるいは一部遺伝子欠損粒子の存在や,測定者ごとのシステムの違い,同一測定者であってもそれぞれのウイルス型に対する定量反応の最適化の度合いなど,様々な要因から必ずしも抗原量を完全に反映しているわけではない。だが,遺伝子濃度は抗原量との一定の相関はあると考えられ,現在のところは少なくとも,感染価よりは信頼がおける指標と考えても良い。各社が統一した厳密なプロトコールを用いた定量的リアルタイムPCRで測定すれば,かなり信頼できる指標となりうると考えられる。

遺伝子濃度を指標とした各キットのウイルス検出感度の比較(log10)
5種類のhMPV迅速抗原検出キット製品の,種々のhMPV抗原に対する検出感度を比較したところ,製品間の差は最大33倍であった。さらに各製品についてウイルスのサブグループ間での検出感度差も認められた。
本研究において技術補助をいただきました産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門の永井秀典氏に深謝いたします。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。