2017 Volume 66 Issue 4 Pages 404-410
医療安全対策委員会のIAレポート(incident accident report)の集計分析と検査技術科の年度安全目標からの業務改善の取り組み,ポジティブレポート(positive report)を紹介する。検査技術科での3年間のIAレポートと,病棟・外来・透析室での2年間の検査に係るIAレポートを集計分析した。科内ではIAレポートの問題点を情報共有し,業務改善に導くことができた。他部署での検査に係わる報告からは,臨床検査技師が病棟・外来・透析室で,検査の指示受け・採血管の準備・採血業務・検査説明などを行うことが,IAを未然に防ぐ可能性が示唆された。年度安全目標は業務改善の達成度を自己評価し,次年度の課題を見いだせた。ポジティブレポートはIAレポートの増加と安全に関わる他部署との連携につながる良いシステムと思われる。医療安全の継続と発展のためには,IAレポートを報告しやすい環境作り,自部署・他部署を問わず情報共有と状況改善の協同,レポートの集計分析から課題を導き,他部署(病棟・外来・透析室)とともに業務改善につなげることが重要である。
医療法人仁真会白鷺病院は大阪市東住吉区にあり,透析医療を中心とした腎・尿路系の専門病院として社会に貢献することを基本方針としている。病床数は92床,外来は内科,外科,泌尿器科,腎疾患専門外来,糖尿病外来,血管アクセスセンター,フットケア外来がある。また,仁真会は近隣に4つの透析施設を有し,合計約840名の血液透析患者が通院しており,電子カルテとオーダリングシステムは全施設で共有している。
検査技術科のスタッフは9名,生理検査は超音波検査(心臓・腹部・頸部副甲状腺・下肢動脈・バスキュラーアクセス),心電図,脈波伝播速度(brachial-ankle pulse wave velocity; baPWV),足関節上腕血圧比(ankle brachial pressure index; ABI),足趾上腕血圧比(toe brachial pressure index; TBI),皮膚再灌流圧(skin reperfusion pressure; SRPP),神経伝導速度,終夜睡眠ポリグラフィー(polysomnography; PSG),聴力検査,肺機能検査を,検体検査は生化学,血算,尿一般,凝固,HbA1c,血液ガス,輸血,腹膜透析排液中皮細胞診等の業務を行っている。
1. 医療安全対策委員会医療安全の委員会活動は,毎月1回の医療安全対策委員会を開催している。委員の構成は医師2名(院長,内科医師),医療技術部長,看護部次長,看護部科長2名(病棟・外来担当,透析室担当),臨床工学科長,薬剤科長,医事課主任,リスクマネジャーを兼任している検査技術科長と医療安全管理者である。医療安全管理者は専従のため,施設基準は医療安全対策加算Iを取得している。委員会の活動内容は,IAレポート1)の報告,事故報告の調査・分析および今後の対策などの検討,各リスクマネジャーが月ごとにIAレポートを集計し,委員会で報告している。
IAレポートはヒヤリハット報告とも言われ,業務上のミスが実際起きても起きなくても,インシデントアクシデント(IA)として報告する。報告事例に対する業務改善を目的としているので,報告者が処罰されることはない。検査技術科でIAが発生した場合,当事者または発見者がオーダリングシステムのIAレポート作成ソフトを使用して報告書を作成し,検査技術科長(リスクマネジャー)に報告する。その報告から科内の情報共有を行い,業務改善に向けた活動につながるように取り組んでいる。また委員会では各部署が年度安全目標を設定し,1年間の成果を報告している。
今回,このIAレポートのデータ(検査技術科・他部署の検査に係るもの)を集計し,今後の業務改善の課題を導いたので報告する。また検査技術科の年度安全目標とその評価も報告する。
2. インシデントアクシデント報告基準2017年1月から国立大学病院医療安全管理協議会の医療事故の影響度分類に合わせて,レベル3と4をaとbに細分化した。
インシデント
・レベル0
間違ったことが発生したが,患者には実施されるに至らなかった事例
アクシデント
・レベル1
事故による患者への実害はなかったが,何らかの影響を与えた可能性のある事例
・レベル2
事故により患者のバイタルサインに変化を生じた,あるいは本来必要のない検査を行う必要がある,観察の強化が必要になるなど,何らかのアクションが必要になった事例
・レベル3a
簡単な処置や治療を要した事例(消毒,湿布,皮膚縫合,鎮痛剤の投与など)
・レベル3b
濃厚な処置や治療を要した事例(バイタルサインの高度変化,人工呼吸器の装着,手術,入院日数の延長,外来患者の入院,骨折など)
・レベル4a
永続的な障害が残ったが,有意な機能障害や美容上の問題は伴わない事例
・レベル4b
永続的な障害や後遺症が残り,有意な機能障害や美容上の問題も伴う事例
・レベル5
事故が死因になる事例
1.検査技術科のインシデント報告,アクシデント報告の3年間(平成25,26,27年)の集計を行った。
①事故の種類②発生時刻③経験年数④忙しさ(業務の煩雑性)との関連について調査した。
2.他部署(病棟・外来,透析室)からの検査に係るインシデント報告,アクシデント報告の2年間(平成26,27年)の集計を行い,病棟・外来,透析室のアクシデントの要因を分析した。
3.検査技術科の年度安全目標を立て,平成26年度1年間取り組んだ成果を評価した。
①事故の種類として,
インシデント62件(報告27%,検体18%,機械・装置18%,患者対応18%,輸血13%,他部門6%)(Figure 1),アクシデント80件(報告35%,検体30%,機械・装置14%,患者対応10%,輸血5%,他部門5%,物品1%)(Figure 2)であった。
Incident report of inspection technology department
Accident report of inspection technology department
インシデント報告では「報告」が最も多く,次に同率で「検体」,「機械・装置」,「患者対応」が多かった。アクシデント報告では「報告」と「検体」によるものが多く,「報告」は入力間違いと報告の遅れが多く,「検体」は受付時と検体処理が多かった。アクシデントレベルはすべて1であった。
②発生時刻は,検体が最も集中している10:00から11:00に多かったが,勤務時間全般に起こっていた(Figure 3)。
Accident time zone of inspection technology department
③勤務歴は,10年以下(3名)46%,10–19年(1名)1%,20–29年(4名)25%,30年以上(1名)13%,不明15%であった(Figure 4)。
Accident work history of inspection technology department
④忙しさ(業務の煩雑性)は,かなり忙しい4%,忙しい30%,普通59%,ゆとりがある0%,不明7%であった(Figure 5)。
Accident busyness of inspection technology department
医療安全対策委員会で報告される他部署のIAレポートの中から,透析室と病棟・外来の検査に係るもの2年間を集計した。
透析室は,インシデント38件,アクシデント164件であった。アクシデントの要因は,検体不良45件(血算凝固30件,保管8件,採血7件),採血忘れ42件(定期採血24件,臨時採血9件,容器準備4件,その他5件),説明15件,検体提出忘れ13件,採血管間違い11件,指示受け10件の順に多かった(Figure 6)。
Accident report of dialysis section
病棟・外来は,インシデント26件,アクシデント66件であった。アクシデントの要因は,指示受け18件,採血忘れ17件(容器準備6件,他科重複6件,蓄尿3件,検体2件),採血管間違い8件の順に多かった(Figure 7)。
Accident report of ward·outpatient section
平成26年度の安全目標として,1年間検査技術科で取り組んだ目標の達成度を自己評価した。
①事例に対する要因分析と改善の実施
評価:検査技術科全員が出席するミーティングで問題のある事例を話し合い,情報を共有して改善策を協議した(達成度70%)。次年度は,ミーティングで医療安全の話題提供やIAレポートの協議など必ず1例行う。
②整理整頓(ミス・事故につながらない環境作り)
評価:病院増築による検査室移転を経験したことにより,整理整頓の習慣が身に付き,時間を無駄なく使えるようになった(達成度80%)。次年度は,収納場所が分かるリストを作成する。
③機器管理(検査不能状況を回避できる管理体制)
④ミスを防ぐ体制作り(マニュアル,効率化)
評価:③④各機器担当者の任命により,定期メンテナンスとマニュアル作りが実践できた。また突発的な機器の不具合が減少した(達成度80%)。次年度は,各装置の日常点検表,修理記録,精度管理の他者チェックを毎月行う。
⑤生理検査における患者満足度の向上
評価:エコー装置の更新で,解像度が良くなりデータの信頼性が増した。臨床検査技師は接遇を心がけた(達成度70%)。次年度は,もう一歩踏み込んで患者満足度の向上を目指す。
検査技術科の事故の種類では,「報告」「検体」などの手作業によるものが多く見られた。確認不足,思い込み,入力ミス,取り違いなど,システム化されていないものが問題点に挙がった。平常心で業務をこなすこと,二重チェックの方法などの対策を行った。問題点を改善しIAを回避できたものは多いが,繰り返す事例では再度検討する事例もあった。また「装置のメンテナンス」や「患者対応」では,迅速な初期対応でアクシデントに至らなかった事例もあった。これらは次年度も継続課題とした。
時間帯では,検体処理の多い時間帯の10:00から11:00が多発しており,人員配置や業務の見直しなどの課題が見つかった。
勤務歴では,入職1年目は仕事上のミスがアクシデントになったが,次年度から徐々に件数が減少した。
忙しさでは,アクシデント発生原因が業務の煩雑さや多忙によるものと推測していたが,普通と感じるときが最も多かった。同じ動作を繰り返す業務や緊張感が緩む時に,事故が起こりやすいと考えられた。
透析室では,検体不良や採血忘れのアクシデントが多かった。要因としては,看護師・臨床工学技士が透析の穿刺と検査用採血を同時に実施していることや,穿刺の技術,経験,患者要因などが考えられた。
病棟外来では,検体検査の指示受けから検体提出までを看護師・クラーク・臨床工学技士が係わっており,多様で煩雑な業務内容にアクシデント要因の可能性があると思われた。
複数部署が関連する問題に対しては,さらに要因分析を進めて,連携部署間での検討・協議の必要性を感じた。
平成28年第65回日本医学検査学会演題の聖隷横浜病院の病棟臨床検査技師の活動報告2)では,医師・看護師のアンケート調査に,臨床検査技師の病棟勤務によりインシデント事例は減少するであろうとの報告があった。当院における他部署(病棟・外来,透析室)のIAレポートの集計分析からも,臨床検査技師が専門とする検査の指示受け,採血管の準備,採血・検体採取,検査説明などを病棟等で行うことによって,IAを回避できる可能性を示唆し,臨床検査技師による病棟業務の重要性を再認識した。
スタッフが日常からIAレポートを報告しやすい環境にするために,今年度からポジティブレポート3)の報告が始まった。ポジティブレポートとは,従来のインシデントレポートを前向きに捉えたものである。これにはミスした相手が不快に思わない配慮や,「発見してくれてありがとう」という良好な人間関係の構築や,「なぜ発見できたか」を共有する職場環境が重要である。1月の病院創立記念行事である白鷺アクションクラブ(SAC:研究発表会)にて,優秀ポジティブレポートを表彰することになり,検査技術科からは,担当する定期検査(胸部X線と心電図)に遅刻した臨床検査技師に,患者の受付順を書いたメモをそっと渡してくれた放射線技師を推薦した。彼の気転のおかげで検査順番のトラブルが回避でき,スムーズに検査を終えることができた。この推薦で「ナイスフォロー賞」の表彰をいただき,感謝の思いを伝えることができた。このような取り組みから医療安全を通して他部署との連携につなげて,IAの未然防止に役立てていきたい。
検査技術科の医療安全を継続する目的は,スタッフが日常の中で安全対策に関する眼を持ち続けることである。そのためには,
・スタッフがIAレポートを提出しやすい環境を作る。
・スタッフ間で情報を共有し,改善案を協議する。
・他部署と情報共有し,状況改善に協同する。
・IAレポートの集計・分析から問題点を見出し,対策を講じる。
・IAの内容を分析し,再発防止のシステムを構築する。
・ポジティブレポートの記入を積極的に心がける。
これらを医療安全に対する継続課題として,医療安全対策委員会の情報を発信し,スタッフとの情報共有を心がけたいと考える。
なお,本研究は仁真会の臨床研究の承認を得ているため,倫理委員会の承認は得ていない。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。