2017 Volume 66 Issue 5 Pages 463-470
非侵襲で採取が容易である尿は多くの情報が得られる。尿には定性と定量の検査があり,主に自動分析装置を用いて行われている。尿定性検査の自動分析装置は試験紙片の呈色変化を連続数値である反射率で計測し,定性値もしくは半定量値に変換して迅速に報告されている。一方,尿定量検査の自動分析装置は初回測定に標準パラメータを用いるので,異常高値検体は希釈再測定によるフィードバック手法のため結果報告が遅延傾向にある。定性と定量は各々の分析装置にて単独で測定され,計測データの共有はほぼ行われていないが,尿定性検査は新鮮尿にて速やかに測定することが重要であり,通常の定性検査は定量検査の測定前に終了しているため,ホストコンピュータを介して定性検査の尿試験紙反射率データを利用することが可能である。連続データである尿試験紙反射率データを解析し,定量自動分析装置において最適な測定パラメータを選択するフィードフォワード測定手法を検討したところ,尿蛋白891例,尿糖171例において,構築した測定手法ではすべての検体が初回測定にて報告可能となった。尿定量自動分析機器のパラメータを選択する測定手法は,より迅速結果を必要とする異常高値検体の測定において有用であると思われた。
非侵襲で採取が容易である尿は多くの情報が得られるため,腎・尿路系のスクリーニング検査のみならず,糖尿病や肝・胆道系の疾患などの検査として利用されている。尿の検査には定性と定量があり,主に自動分析装置を用いて行われている。尿定性検査は自動分析装置にて尿試験紙片の呈色変化を連続的な数値である反射率で計測し,定性値もしくは半定量値に変換して報告されている1),2)。定性検査以外においても定量値の算出や精度管理などで尿試験紙反射率を利用する試みがこれまでに行われている3)~5)。腎,尿路系の病態や治療効果などを把握するためには定性のみならず定量検査が重要であり6),7),高値ほど検査率が高いが,高値検体は測定後に得られた結果から再測定を行うフィードバック手法が一般的であり,結果報告に多くの時間を必要とする。特に異常高値検体は通常の自動分析機器において,測定範囲外のため希釈再測定により遅延傾向にある。生化学や免疫検査では前回値を確認し自動希釈する測定手法が試みられているが8),9),尿は様々な要因で変動するために困難である10),11)。しかし,尿定性検査は新鮮尿を用いて速やかに測定することが原則であり10),通常は定量検査の測定前に定性検査は終了している。そのため,尿試験紙反射率から測定範囲外の検体を推測し,ホストコンピュータを介して定量検査に利用することができる。
今回我々は,尿蛋白および尿糖の定量検査において,尿試験紙反射率の解析から自動分析装置の最適な測定パラメータを選択し測定する異常高値尿検体の迅速定量測定手法を試みた。
尿蛋白および尿糖の依頼があった検体の分析データを対象とし,「臨床検査を終了した検体の業務,教育,研究のための使用について―日本臨床検査医学会の見解―」に従い使用し,連結不可能匿名化した後に行った。
2. 試薬および測定機器 1) 定性検査尿試験紙はウロペーパーαIII(栄研化学)を用いて,全自動尿分析装置「US-3100R」(栄研化学)にて測定した。
2) 定量検査測定試薬は尿蛋白;マイクロTP-AR,尿糖;LタイプワコーGlu2(ともに和光純薬),を用いて,TBA-120FR(東芝)にて測定した。
3) 測定原理US-3100Rはサンプル滴下された試験紙片の呈色変化をカラーCCDセンサにて画像データを取得し,R・G・B画素から測定波長毎の反射光量を計測している。項目ごとの反射光量は測定パッドとブランクパッドとの対比を連続数値の反射率(%)として求め,検量線にて算出した各濃度から定性値もしくは半定量値に換算している12)。US-3100Rでは第1検量線用と第2検量線用に測定波長を使い分けている。尿蛋白では,(1+)以下は第1検量線にて変換し,第2検量線で(2+)以上に変換している。尿糖では(±)以下は第1検量線にて変換し,第2検量線で(1+)以上に変換している。
定性値と定量値について1,089例の尿蛋白および437例の尿糖において比較した。定性値が高くなるにつれて定量値幅が広くなり,尿蛋白の各定性値における定量値の平均は(−):1.89 mg/dL,(±):9.82 mg/dL,(1+):34.37 mg/dL,(2+):118.5 mg/dL,(3+):327.7 mg/dL,(4+):835.2 mg/dLであった。尿糖の各定性値における定量値の平均は,(−):0.005 g/dL,(±):0.07 g/dL,(1+):0.14 g/dL,(2+):0.31 g/dL,(3+):0.67 g/dL,(4+):4.65 g/dLであった(Figure 1)。
Comparison of qualitative value and quantitative value
(A) This figure shows a qualitative and quantitative boxplot diagram of 1,089 urinary proteins. The maximum value and the minimum value indicate ± 1 judgment range and, are (−); 0~25 mg/dL, (±); 0~65 mg/dL, (1+); 10~200 mg/dL, (2+); 25~650 mg/dL, (3+); 65 mg/dL~∞, (4+); 200 mg/dL~∞. (B): This figure shows a qualitative and quantitative boxplot diagram of 437 urinary glucose. The maximum value and the minimum value indicate ± 1 judgment range and, are (−); 0~75 mg/dL, (±); 0~175 mg/dL, (1+); 40~375 mg/dL, (2+); 75~1,000 mg/dL, (3+); 175 mg/dL~∞, (4+); 375 mg/dL~∞.
定性値と反射率との関係を4,841例の尿蛋白と尿糖において比較した。定性値に対する尿試験紙反射率は定性値が高くなるにつれて減少率が小さくなる傾向を示した。第1及び第2検量線の測定波長における各定性値の平均反射率は,尿蛋白では,(−):103.5%,79.5%,(±):94.3%,67.7%,(1+):84.4%,55.2%,(2+):73.2%,40.9%,(3+):67.0%,32.3%,(4+):64.5%,28.7%であった(Figure 2)。尿糖では(−):96.7%,42.4%,(±):55.3%,70.2%,(1+):23.7%,42.4%,(2+):14.0%,28.2%,(3+):9.9%,20.5%,(4+):6.6%,11.7%であった(Figure 3)。
Comparison of qualitative values and reflectance of test paper in urine protein
This figure shows a qualitative value and urine test paper reflectance boxplot diagram of 4, 841 urinary proteins. (A) The median in the first calibration curve is (−); 103.7%, (±); 94.5%, (1+); 84.8%, (2+); 73.1%, (3+); 66.9%, (4+); 64.6%. (B) The median in the second calibration curve is (−); 79.7%, (±); 68.0%, (1+); 55.4%, (2+); 41.0%, (3+); 32.2%, (4+); 28.9%. The qualitative value (1+) or less is converted by the first calibration curve, and the qualitative value (2+) or more is converted by the second calibration curve.
Comparison of qualitative values and urine test paper reflectance in urine glucose
This figure shows a qualitative value and urine test paper reflectance boxplot diagram of 4, 841 urinary glucose. (A) The median in the first calibration curve is (−); 97.0%, (±); 55.0%, (1+); 23.2%, (2+); 13.8%, (3+); 9.9%, (4+); 6.4%. (B) The median in the second calibration curve is (−); 91.8%, (±); 71.2%, (1+); 41.8%, (2+); 28.1%, (3+); 20.7%, (4+); 11.1%. The qualitative value (±) or less is converted by the first calibration curve, and the qualitative value (1+) or more is converted by the second calibration curve.
定量値と尿試験紙反射率の関係を891例の尿蛋白および171例の尿糖において比較した。また,定量検査において測定範囲を超える検体の尿試験紙反射率を高濃度検体の判定に使用される第2検量線の測定波長から求めた。定量値と尿試験紙反射率は累乗関係を示し,尿試験紙反射率の低い高値検体においては解離が大きくなる傾向を示した。尿蛋白における,第1及び第2検量線測定波長の相関係数および回帰式は,r = 0.973,y = 2.61E + 23x − 11.44,r = 0.970,y = 7.89E + 10x − 5.51であった。尿糖における第1及び第2検量線測定波長の相関係数および回帰式は,r = 0.959 y = 71.18x − 1.86,r = 0.965 y = 2141.34x − 2.62であった(Figure 4)。また,初回定量検査において希釈測定を行う尿試験紙反射率を求めるために,測定範囲上限値前後における尿試験紙反射率(尿蛋白30.0~36.0%,尿糖13.1~40.0%)と対数変換した測定値にて直線関係の回帰係数による予測区間推定を用いた。尿蛋白および尿糖の直線性上限値である450 mg/dL,1.0 g/dLにおける95%の予測信頼区間上限の反射率は約32.5%,約22.5%であった(Figure 5)。
Comparison of urine test paper reflectance and quantitative value
The relation of the urine test paper reflectance and quantitative value was calculated in 891 urine protein and 171 urine glucose. (A) A coefficient of correlation and a regression equation of the urine protein in the first calibration curve wavelength (○) are r = 0.973, y = 2.61E + 23x − 11.44. A coefficient of correlation and a regression equation of the urine protein in the second calibration curve wavelength (△) are r = 0.970, y = 7.89E + 10x − 5.51. (B) A coefficient of correlation and a regression equation of the urine glucose in the first calibration curve wavelength (○) are r = 0.959, y = 71.18x − 1.86. A coefficient of correlation and a regression equation of the urine glucose in the second calibration curve wavelength (△) are r = 0.965, y = 2141.34x − 2.62.
Comparison of the reflectance and quantitation value (Log10) of the upper limit of the measurement range
The sample more than the measurement ranges of the urine quantitative test was predicted from the urine test paper reflectance of the second calibration curve wavelength using prediction interval estimation of regression equation. The upper limit of the measurement range is 450 mg/dL of urine protein, 1.0 g/dL of urine glucose. A urine test paper reflectance of the quantitative upper limit of urine protein and the urine glucose is approximately 32.5% and approximately 22.5%.
尿蛋白および尿糖の定量に際して,定性検査にて測定した尿試験紙反射率をホストコンピュータより取得して,自動分析装置の適切な測定パラメータを選択する測定ロジックを構築し,従来の測定手法と構築した測定手法との再検数を比較した。定量検査において初回測定時に,定性検査の尿試験紙反射率が尿蛋白では32.5%以下,尿糖では22.5%以下の場合は希釈測定を行い,それ以外は通常測定を行う測定手法を構築した(Figure 6)。尿蛋白891例,尿糖171例の検討において,本ロジックによる測定ではすべて初回測定にて報告可能となった(Table 1)。従来法は測定データを基に希釈再測定するフィードバック手法を行うのに対して本測定手法では尿試験紙反射率を利用したフィードフォワード手法を用いているため異常高値尿検体の迅速測定に良好な結果が認められた。なお,希釈パラメータは尿蛋白および尿糖とも10倍希釈を用いた。
Outline of the measure logic using the reflectance of the urine test paper
Method for measurement of constructed urine quantitative test is a method to select in the appropriate measure parameter of the autoanalyzer using a urine test paper reflectance of acquired urine qualitative test from a host computer. When the urine test paper reflectance of urine protein and the urine glucose are 32.5% and 22.5% or less, the first measure uses a diluent measure parameter. The first measure of other samples uses a standard parameter. When the measurement value of urine protein and the urine glucose which we measured in a standard parameter is higher than 450 mg/dL and 1.0 g/dL, it is measured in a dilute parameter again. When a measurement value of the protein in urine which measured it in a dilute parameter and the glucose urinary is lower 100 mg/dL and 0.10 g/dL, it is measured in a standard parameter again.
measurement item | TP | GLU | |
---|---|---|---|
number of samples | 891 | 171 | |
number of re-measured samples |
conventional method |
36 | 16 |
method using reflectance ratio |
0 | 0 |
In 891 urine proteins and 171 urine glucose, there was the re-measurement sample of 36, 16 cases by the conventional measurement technique, but the measurement technique using this measure logic was able to report all the samples by the first measure.
尿試験紙による定性検査はスクリーニングが主な目的であり,最も重要なことは病的状態の検出である。特定健診においても尿蛋白と尿糖の定性検査が採用され,試験紙問で尿蛋白および尿糖は30 mg/dL:(1+),100 mg/dL:(1+)に統一されている13)。病的状態の検出に必要な低域では反射率から定量値が概ね推定可能であるが14),全ての範囲を正確に網羅することは困難である。US-3100Rでは広範囲の濃度に試験紙の呈色変化を対応させるために2波長で使い分けて測定しているが,尿試験紙の呈色変化を計測した反射率は定量値の変化に対して低濃度域の変化が大きく,逆に高濃度域における変化は小さいため,反射率と定量値は高域になるにつれて乖離する傾向がある。尿試験紙はあくまでも定性であり,正確な値を知るには定量を行うことを前提としている2),6)。
自動分析装置を使用する尿定量検査は初回測定に標準パラメータを使用するため,測定範囲外の高値検体は希釈再測定が必要であり,正常検体よりも多くの測定時間とコストを要する。臨床検査では前回値を利用した測定手法も試みられているが8),9),尿は生理的変動が大きく採尿時間により変動し,また,細菌増殖などで変質しやすく,服用薬剤や代謝物および飲料成分などの影響を受けるため10),11),尿検査では前回値を利用した測定手法は困難である。
現在の臨床検査では自動分析装置の測定に際して検査結果のみが利用され,様々な計測データは埋もれていることが多い。尿検査においても定性と定量を単独で測定しているので,自動分析装置間で計測データを相互利用することはほぼ行われていない。しかし,近年普及した検査システムでは各分析装置がホストコンピュータに接続され,様々な計測データは自動分析装置間において相互利用が可能である。操作手法には結果を省みて次の操作を考えるフィードバック的な考え方と対象の特性と環境(外乱)を把握して操作をするフィードフォワード的な考え方がある15)。尿定量検査においては測定範囲外の高値検体を希釈再測定する方法はフィードバック測定手法であり,定性検査の尿試験紙反射率をホストコンピュータより取得して,自動分析装置の測定パラメータを選択する方法はフィードフォワード測定手法である。尿は新鮮尿にて速やかに検査され,通常は定性が定量よりも先に検査されるので,フィードフォワード測定手法は精査や慢性疾患などが多い院内の尿定量検査において,初回測定にて報告可能な高値検体のTATを短縮することができる(Figure 7)。希釈測定は通常測定より多くの時間を要するため迅速性と処理能力のバランスが必要であり,いたずらに希釈測定を増やすことは出来ない。そこで,初回希釈測定を行う尿試験紙反射率の設定に,尿試験紙反射率に対して,定量値がある幅のばらつきをともなって決まる確率的な区間で推定する回帰分析の予測信頼区間を利用した。予測信頼区間を広く設定すれば再検数をより削減できるが逆に初回希釈測定数は増加するので,測定範囲上限値と予測信頼区間上限が交わる点の尿試験紙反射率を希釈測定の基準値とし,予測信頼区間に全検体の約10%程度(尿蛋白87件,尿糖19件)が希釈測定となる95%を用いた。従来法における希釈再測定は尿蛋白36件,尿糖16件であり,本手法では希釈測定は増加する。しかし,高値検体において,初回にて測定可能であり再測定が不要となることから,結果報告の迅速化およびコスト削減には有用な方法であると思われる。
Outline of urinary test using urine test paper reflectance
As for the conventional urine quantitative test, a standard parameter is used for all samples for the first measure. However, the re-measurement of the dilute parameter is necessary for the abnormal high level sample outside the measurement range. This measurement method using a urine test paper reflectance of the urine qualitative test can select an appropriate measure parameter. Therefore many samples can report a result by the first measure.
本測定手法は良好な検討結果を示したが,定量のみの検体は本測定手法では対応できないため,すべての尿検体に適用することは出来ない。また,特に尿蛋白では尿試験紙の測定原理に蛋白誤差法を用いており,アルブミンに特異度が高いのに対し11),色素定量法では蛋白種間差が少ないため16),アルブミン以外の蛋白が存在した時に特異性の違いから乖離が認められる。また,尿路感染症をきたした尿や長時間室温保存し場合はpH 8以上のアルカリ尿を示し,試薬中の緩衝剤による緩衝能を越えるため,蛋白の有無に関係なく陽性となることが知られている17)。今回の検討では選択した測定パラメータの測定範囲を逸脱する検体は認められなかったが注意が必要であると思われる。
尿定性自動分析装置の尿試験紙反射率を解析し,尿定量自動分析機器にて適切な測定パラメータを選択する測定手法は,より迅速な結果報告を必要とする高値検体の測定において有用であると思われた。
従来のフィードバック測定手法では処理速度に限界があり,様々な計測データを検査システムにて相互利用するフィードフォワード対応等の総合的な測定手法は迅速性やコスト削減に有用な方法の一つであると思われた。
本論文は第56回日本臨床検査医学会学術集会(2009. 8:札幌)において発表した内容の一部であるため,倫理委員会の承認は得ていない。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。