2017 Volume 66 Issue 5 Pages 493-499
2008年1月から2016年11月の期間中,埼玉県動物指導センターに収容されたイヌとネコから直腸便を採取し,腸管寄生虫類の検索を行った。イヌは1,290頭中296頭(23.0%)が寄生虫類陽性で,検出種とその陽性率はイヌ鞭虫(15.0%),イヌ鉤虫(6.4%),イヌ回虫(2.1%),イヌ小回虫(0.2%),マンソン裂頭条虫(2.0%),瓜実条虫(0.2%),日本海裂頭条虫(0.1%),縮小条虫(0.1%),Isospora ohioensis(1.3%),ランブル鞭毛虫(0.5%),Cryptosporidium canis(0.5%),腸トリコモナス(0.2%)およびIsospora canis(0.1%)であった。ネコは422頭中216頭(51.2%)が寄生虫類陽性で,検出種とその陽性率はネコ鉤虫(25.1%),ネコ回虫(17.8%),毛細線虫類(1.7%),マンソン裂頭条虫(18.2%),瓜実条虫(1.9%),テニア科条虫(0.5%),壺形吸虫(6.9%),Isospora felis(5.2%),Isospora rivolta(1.4%),Cryptosporidium felis(0.7%)およびToxoplasma gondii(0.2%)であった。また,2000年4月から2015年10月の期間中,同施設に収容されたネコから採血し,T. gondiiに対する血清抗体価を測定した。ネコにおけるトキソプラズマ血清抗体は,1,435頭中75頭(5.2%)が陽性であった。
イヌやネコは伴侶動物として広く親しまれているが,媒介する人獣共通寄生虫症の種類も多岐にわたる。たとえばトキソカラ症はトキソカラToxocara属の回虫の幼虫が引き起こす幼虫移行症である1)。また,新生児の先天性トキソプラズマ症は,ネコの腸管に寄生するトキソプラズマToxoplasma gondiiのオーシストを妊娠中の女性が経口摂取することが感染経路の一つである2)。そのため,身近な伴侶動物が人獣共通寄生虫症の媒介者となりうることを認識し,感染予防対策について知識を持っておくことは重要である。
著者らは動物由来感染症対策の基礎データを収集する観点から,埼玉県内で捕獲または飼養放棄されたイヌとネコを対象として,1999年5月より腸管寄生の蠕虫類,原虫類の保有状況について調査を実施している。国内では北海道のみに分布すると考えられてきたエキノコックスEchinococcus multilocularisの検出やクリプトスポリジウムCryptosporidium spp.の詳細な分子同定結果など,2007年末までの成績についてはすでに報告した3)。今回は,その後の9年間に得られた成績とともに,ネコを対象として行ったトキソプラズマ抗体の保有状況調査の結果も併せて報告する。
腸管寄生虫の調査は,2008年1月から2016年11月までの期間に,埼玉県動物指導センターおよび保健所に収容されたイヌとネコから採取した直腸便を用いた。検体(直腸便)は採取当日に速やかに検査を実施した。検体の採取にあたり,各個体の情報として,性別・推定年齢・収容市町村名,収容の理由(飼養放棄,捕獲または不明)を記録した。
また,トキソプラズマ抗体調査には2000年4月から2015年10月の期間中,同施設に収容されたネコから採取した血清を用いた。
2. 糞便検査の方法糞便検査は直接薄層塗抹法,ホルマリン・エーテル法(MGL法)および比重1.2のショ糖液を用いる遠心浮遊法を併用した。検出された寄生蠕虫卵と原虫類のシストまたはオーシストは,それぞれの形態学的特徴に基づき,属または種のレベルまで同定を行った。また,分子同定はトキソプラズマのオーシストについてはB1領域4),クリプトスポリジウムのオーシストは18S ribosomal RNA(18S rRNA)領域をそれぞれターゲットとするプライマー5)を用いてPCR法による増幅を行い,ダイレクトシークエンス法で塩基配列を解読し,種を決定した。
3. トキソプラズマ抗体価測定の方法ネコ血清中の抗トキソプラズマ抗体は,トキソチェック-MT(栄研)を用いて測定した。
4. 統計学的検定および区間推定の方法寄生虫陽性率の比較にはχ2検定(両側)を用いた。寄生虫種数の比較にはWilcoxon順位和検定を用いた。陽性率の信頼区間(confidence interval; CI)はZar6)に基づいて信頼率95%で推定した。検定はR(ver. 3.2.5, The R Project for Statistical Computing),信頼区間の算出はExcel 2010(Microsoft)をそれぞれ用いた。
調査期間中に採材対象となったイヌは1,290頭で,そのうち296頭が寄生虫陽性であった(陽性率23.0%)(Table 1)。
Species | Age group | Total (n = 1,290) Positive |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
Juvenile# (n = 26) Positive |
Adult (n = 1,264) Positive |
|||||
Number (%) | 95% CI* | Number (%) | 95% CI* | Number (%) | 95% CI* | |
Trichuris vulpis | 8 (30.8) | 16.5–50.0 | 185 (14.6) | 12.8–16.7 | 193 (15.0) | 13.1–17.0 |
Ancylostoma caninum | 3 (11.5) | 2.4–30.2 | 80 (6.3) | 5.1–7.8 | 83 (6.4) | 5.2–7.9 |
Toxocara canis | 8 (30.8) | 16.5–50.0 | 19 (1.5) | 1.0–2.3 | 27 (2.1) | 1.4–3.0 |
Spirometra erinaceieuropaei | 1 (3.8) | 0.1–19.6 | 25 (2.0) | 1.3–2.9 | 26 (2.0) | 1.4–3.0 |
Toxascaris leonina | 1 (3.8) | 0.1–19.6 | 2 (0.2) | 0.0–0.6 | 3 (0.2) | 0.1–0.7 |
Dipylidium caninum | 0 (0.0) | 0.0–10.9 | 2 (0.2) | 0.0–0.6 | 2 (0.2) | 0.0–0.6 |
Diphyllobothrium nihonkaiense | 0 (0.0) | 0.0–10.9 | 1 (0.1) | 0.0–0.4 | 1 (0.1) | 0.0–0.4 |
Hymenolepis diminuta | 0 (0.0) | 0.0–10.9 | 1 (0.1) | 0.0–0.4 | 1 (0.1) | 0.0–0.4 |
Isospora ohioensis | 0 (0.0) | 0.0–10.9 | 17 (1.3) | 0.8–2.1 | 17 (1.3) | 0.8–2.1 |
Giardia intestinalis | 0 (0.0) | 0.0–10.9 | 7 (0.6) | 0.3–1.1 | 7 (0.5) | 0.3–1.1 |
Cryptosporidium canis‡ | 0 (0.0) | 0.0–10.9 | 6 (0.5) | 0.2–1.0 | 6 (0.5) | 0.2–1.0 |
Pentatrichomonas hominis | 0 (0.0) | 0.0–10.9 | 3 (0.2) | 0.1–0.7 | 3 (0.2) | 0.1–0.7 |
Isospora canis | 0 (0.0) | 0.0–10.9 | 1 (0.1) | 0.0–0.4 | 1 (0.1) | 0.0–0.4 |
Total number positive | 12 (46.2) | 28.8–65.5 | 284 (22.5) | 20.3–24.9 | 296 (23.0) | 20.7–25.3 |
# Juvenile, under one year old
* CI, confidence interval
‡ On the basis of 18S rRNA base sequence
蠕虫類ではイヌ鞭虫Trichuris vulpisが最も多く(193頭,15.0%),次に,イヌ鉤虫Ancylostoma caninum(83頭,6.4%),イヌ回虫Toxocara canis(27頭,2.1%),マンソン裂頭条虫Spirometra erinaceieuropaei(26頭,2.0%),イヌ小回虫Toxascaris leonina(3頭,0.2%),瓜実条虫Dipylidium caninum(2頭,0.2%),日本海裂頭条虫Diphyllobothrium nihonkaiense(1頭,0.1%)および縮小条虫Hymenolepis diminuta(1頭,0.1%)の虫卵が検出された。
原虫類ではIsospora ohioensisが最も多く(17頭,1.3%),次に,ランブル鞭毛虫Giardia intestinalis(7頭,0.5%),クリプトスポリジウム属Cryptosporidium sp.(6頭,0.5%),腸トリコモナスPentatrichomonas hominis(3頭,0.2%)およびI. canis(1頭,0.1%)のシストまたはオーシストが検出された。クリプトスポリジウム属はすべてC. canisと分子同定された。
2. ネコにおける寄生虫類の検出状況採材対象となったネコは422頭で,そのうち216頭が寄生虫陽性であった(陽性率51.2%)(Table 2)。
Species | Age group | Total (n = 422) Positive |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
Juvenile# (n = 77) Positive |
Adult (n = 345) Positive |
|||||
Number (%) | 95% CI* | Number (%) | 95% CI* | Number (%) | 95% CI* | |
Ancylostoma tubaeforme | 8 (10.4) | 5.4–19.2 | 98 (28.4) | 23.9–33.4 | 106 (25.1) | 21.2–29.5 |
Spirometra erinaceieuropaei | 4 (5.2) | 1.4–12.8 | 73 (21.2) | 17.2–25.8 | 77 (18.2) | 14.9–22.2 |
Toxocara cati | 31 (40.3) | 30.0–51.4 | 44 (12.8) | 9.6–16.7 | 75 (17.8) | 14.4–21.7 |
Pharyngostomum cordatum | 3 (3.9) | 0.8–11.0 | 26 (7.5) | 5.2–10.8 | 29 (6.9) | 4.8–9.7 |
Dipylidium caninum | 0 (0.0) | 0.0–3.8 | 8 (2.3) | 1.2–4.5 | 8 (1.9) | 1.0–3.7 |
Capillaria sp. | 0 (0.0) | 0.0–3.8 | 7 (2.0) | 1.0–4.1 | 7 (1.7) | 0.8–3.4 |
Taeniidae | 0 (0.0) | 0.0–3.8 | 2 (0.6) | 0.1–2.1 | 2 (0.5) | 0.1–1.7 |
Isospora felis | 6 (7.8) | 3.6–16.0 | 16 (4.6) | 2.9–7.4 | 22 (5.2) | 3.5–7.8 |
Isospora rivolta | 3 (3.9) | 0.8–11.0 | 3 (0.9) | 0.2–2.5 | 6 (1.4) | 0.7–3.1 |
Cryptosporidium felis† | 1 (1.3) | 0.0–7.0 | 2 (0.6) | 0.1–2.1 | 3 (0.7) | 0.1–2.1 |
Toxoplasma gondii | 1 (1.3) | 0.0–7.0 | 0 (0.0) | 0.0–0.9 | 1 (0.2) | 0.0–1.3 |
Total number positive | 38 (49.4) | 38.5–60.3 | 178 (51.6) | 46.3–56.8 | 216 (51.2) | 46.4–55.9 |
# Juvenile, under one year old
* CI, confidence interval
† On the basis of 18S rRNA base sequence
蠕虫類ではネコ鉤虫A. tubaeformeが最も多く(106頭,25.1%),次に,マンソン裂頭条虫S. erinaseieuropaei(77頭,18.2%),ネコ回虫T. cati(75頭,17.8%),壺形吸虫Pharyngostomum cordatum(29頭,6.9%),瓜実条虫D. caninum(8頭,1.9%),毛細線虫類Capillaria sp.(7頭,1.7%)およびテニア科条虫Taeniidae(2頭,0.5%)の虫卵が検出された。なお,テニア科条虫卵が検出された2頭の糞便内抗原は陰性であった。
原虫類ではIsospora felisが最も多く(22頭,5.2%),次に,I. rivolta(6頭,1.4%),クリプトスポリジウムCryptosporidium felis(3頭,0.7%)およびトキソプラズマToxoplasma gondii(1頭,0.2%)のシストまたはオーシストが検出された。
3. 動物の種および齢クラスと寄生虫の種数の検討イヌおよびネコそれぞれの寄生虫陽性例における,寄生虫の種数とその内訳をTable 3に示した。イヌでは最大4種,ネコでは最大5種の感染が確認された。
Number (%) of parasite species detected | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Total number positive | 1 species | 2 species | 3 species | 4 species | 5 species | ||
Dogs | Juvenile# | 12 (100) | 7 (58.3) | 2 (16.7) | 2 (16.7) | 1 (8.3) | 0 (0.0) |
Adult | 284 (100) | 228 (80.3) | 48 (16.9) | 7 (2.4) | 1 (0.4) | 0 (0.0) | |
Total | 296 (100) | 235 (79.4) | 50 (16.9) | 9 (3.0) | 2 (0.7) | 0 (0.0) | |
Cats | Juvenile# | 38 (100) | 23 (60.5) | 10 (26.3) | 5 (13.2) | 0 (0.0) | 0 (0.0) |
Adult | 178 (100) | 97 (74.0) | 64 (21.3) | 15 (4.0) | 1 (0.7) | 1 (0.7) | |
Total | 216 (100) | 120 (55.5) | 74 (34.2) | 20 (9.3) | 1 (0.5) | 1 (0.5) |
# Juvenile, under one year old
同一動物種の齢クラス間で比べた場合,齢差はイヌでは有意(Mann-Whitney U検定:p < 0.05)であったが,ネコでは有意ではなかった(p > 0.05)。
4. ネコにおける抗トキソプラズマ抗体の保有状況ネコにおける抗トキソプラズマ抗体は1,435頭中75頭(5.2%)が陽性であった(Table 4)。成獣の陽性率(1歳以上)は幼獣(1歳未満)より有意に高かった(Mann-Whitney U検定:p < 0.01)。なお,糞便検査の結果と照合したところ,抗体陽性のネコは全例においてT. gondiiのオーシストは陰性であった。
Estimated age | Total number samples | Antibody titers | Total number positive (%) |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
<64 | 64 | 128 | 256 | 512 | 1,024 | |||
Juvenile# | 425 | 418 | 1 | 3 | 0 | 3 | 0 | 7 (1.65) |
Adult | 1,010 | 942 | 19 | 22 | 21 | 5 | 1 | 68 (6.73) |
Total | 1,435 | 1,360 | 20 | 25 | 21 | 8 | 1 | 75 (5.23) |
# Juvenile, under one year old
イヌでは幼獣の陽性率は,成獣と比較して有意に高かった(χ2検定:p < 0.01)。
ネコでは幼獣と成獣の寄生虫陽性率に差は見られなかった(Fisherの正確検定:p > 0.05)。
6. 動物の性別,収容理由と寄生虫陽性率の検討イヌあるいはネコの性別と寄生虫陽性率との間には,いずれも有意な関係は認められなかった(χ2検定:p > 0.05)。
また,収容理由と寄生虫陽性率との間では,イヌおよびネコ共に捕獲のほうが,飼養放棄より有意に高かった(χ2検定:p < 0.01)(Table 5)。
Total number samples | Parasite positve | |||
---|---|---|---|---|
Number (%) | 95% CI | |||
Dogs | Relinquished | 493 | 69 (14.0) | 11.2–17.3 |
Captured | 797 | 227 (28.5) | 25.5–31.7 | |
Total | 1,290 | 296 (23.0) | 20.7–25.3 | |
Cats | Relinquished | 197 | 87 (44.2) | 37.4–51.1 |
Captured | 225 | 129 (57.3) | 50.8–63.6 | |
Total | 422 | 216 (51.2) | 46.4–55.9 |
前回の調査では,埼玉県内のイヌ906 頭およびネコ1,079 頭の寄生虫陽性率がそれぞれ38.6%,43.1%であることを報告した3)。今回の寄生虫陽性率はイヌでは23.0%に低下し,ネコでは51.2%と増加傾向が認められた。
同一個体から検出される寄生虫種の数は,前回の調査で2種以上が検出されたイヌは陽性群の27.4%であったが,今回は20.6%であり感染機会の減少が示唆された。一方,ネコは前回が27.3%であったが,今回は44.4%であり感染機会の増加が示唆された。
幼獣と成獣の寄生虫陽性率を比較すると,イヌでは幼獣の方が成獣よりも有意に高く,ネコでは差は見られなかった。しかし,前回はイヌ,ネコ共に幼獣の陽性率の方が有意に高いことを報告した。前回検査を行った幼獣と成獣の割合はイヌでは1:4.7,ネコでは1:1.9に対して,今回はイヌでは1:48.6,ネコでは1:4.5であり,幼獣の占める割合が統計学的検定の結果に影響を与えた可能性がある。幼獣の飼い主や家族は過度にペットと接する機会が多いと思われるため,寄生虫の保有状況は動物病院で検査しておく必要がある。
捕獲したイヌおよびネコの寄生虫陽性率は,飼養放棄された個体よりも有意に高かった。野良イヌや野良ネコは砂場など幼児の遊び場で排便し,病原体を散布する可能性がある。小児を野外で遊ばせた後は,親子共に手洗いを励行するなど日頃の注意が必要である。
今回検出された寄生虫類の中で,イヌで最も多かったイヌ鞭虫と次に多かったイヌ鉤虫は,いずれも人獣共通種で,ヒトは経口または経皮的に感染する。イヌ鞭虫はヒトの大腸や盲腸に寄生し下痢,貧血,体重減少を呈することがある。また,イヌ鉤虫は第3期幼虫が経皮感染し,皮膚炎や皮膚爬行症を呈することがある7)。
次に比較的多く検出されるイヌ回虫とネコ回虫は,その幼虫包蔵卵を経口摂取することにより,トキソカラ症を引き起こすことがある。さらに,ニワトリやウシの飼育エリアにイヌやネコが侵入し排便することにより,Toxocara属の幼虫包蔵卵が餌に混ざることがある。ニワトリやウシがこの餌を経口摂取すると,第3 期幼虫が筋肉や肝臓に移行する。これらをヒトが生で喫食し,トキソカラ症を呈する感染経路もある1),8)。
これらの寄生虫卵は湿った環境であれば,厳しい寒暖の中においても長期間にわたり生存できることが知られている9)。ペットの糞便で環境を汚染させないために,飼養者に対して予防に関する知識の啓発が重要である。
ネコにおけるトキソプラズマに対する血清抗体調査では,筆者らによる陽性率は5.2%(75/1,435検体)であった。近隣都県の同様の調査結果として,Oiら10)は東京都内における陽性率は1999~2001年が5.6%(13/233検体),2009~2011年が6.7%(7/104検体)であったと報告している。また,Hataら11)によると,千葉県内の野良ネコにおける陽性率は1998年12月~1999年12月の調査では13.4%(13/97検体)であった。そして,糞便検査では326頭のうち1頭(0.3%)からT. gondiiのオーシストが検出されたと報告している。齢構成が異なるため陽性率を単純に比較できないが,現在でも終宿主であるネコとネズミなどの中間宿主との間では,トキソプラズマの生活環が維持されていることがうかがえる。
ネコが初めてT. gondiiに感染し発症すると,1日につき最高1,000万個のオーシストを糞便と共に排出する2)。排出されたオーシストは1週間以内に成熟し,ヒトや周囲の動物への感染源となる。そして比較的低温で湿潤環境であれば,1年間以上も生存が可能であることから,土壌との接触が感染の危険因子となる。今回検出されたT. gondiiのオーシストは,室温(25~27℃)では6日目,30℃では7日目にスポロシストが形成され,その中にスポロゾイトが観察された。
Cookら2)は先天性トキソプラズマ症の原因調査を行った。感染した妊婦の多くはシストを含んだ生肉や不完全な調理肉,またはサラミや乾燥保存処理された肉製品を喫食し,特に,豚肉と羊肉が牛肉や鶏肉より高い感染リスクをもたらすと報告している。これらの動物の感染源はネコが排出したオーシストであり,飼い主はネコの糞便処理を適切に行うことが重要である。Elbez-Rubinsteinら12)はトキソプラズマ症の既往歴のある母親が,先天性トキソプラズマ症の新生児を出産した症例を報告している。その新生児の末梢血から分離したT. gondiiの遺伝子型は,毒性の強い南アメリカの株で,ヨーロッパでは非常にまれであった。母親は妊娠中に輸入品の馬肉を生で数回喫食しており,感染を引き起こしたものと考えられる。この報告は,妊婦が海外旅行先で加熱が不十分な肉製品を喫食,または,輸入肉を生食することにより本症に再感染する危険性があることを示唆している。
G. intestinalisはassemblage A~Hの8遺伝子型に分類されている。ヒトからはAとBの遺伝子型が検出され,イヌはA,B,C,D,ネコはA,B,C,D,Fの遺伝子型が検出されている13)。今回イヌから検出したシストは形態で同定し,詳細な遺伝子解析が今後の課題である。
これまでに検出されたクリプトスポリジウムはイヌ由来のものがC. canis,ネコ由来のものがC. felisとそれぞれ分子同定されている。両種は一般に免疫不全者においては,感染すると考えられている14)。しかし,海外では健常者のC. canisあるいはC. felis感染事例が報告されており15),16),その中の一例は飼い主自身のネコが感染源となったことが,詳細な遺伝子解析により証明されている17)。
これまで,身近なペットや野生化したイヌ,ネコが,人獣共通寄生虫症を引き起こす虫卵や原虫類を保有していることを提示した。ヒトが感染するリスクを軽減するためには,ペットの飼い主の認識とモラルが重要である。そして,寄生虫症を良く理解し,ヒトとペットが共に安心して生活するために,排泄物の速やかな処理など周辺の衛生管理が望まれる。
筆者らの調査で2005年に検出されたエキノコックスは,北海道以外の都府県としては第一例目の感染症法の届出事例となった。その結果を受けて長期間にわたって調査を継続してきたが,再度検出されなかったことから,県内への定着はなかったものと考えられた。
我々は1999年から18年間にわたって,埼玉県内のイヌ2,196頭とネコ1,501頭における寄生虫類の保有状況を調査し,その実態を明らかにした。
動物指導センターでは,これまでの結果を「ペットの正しい飼い方教室」などの啓発事業に活用している。今後,さらに広く還元することにより,ペットの定期的な寄生虫検査と適切な駆虫薬投与による健康管理の重要性を認識する資料として活用されるものと思われる。この取り組みが進めば,ペットのみならず飼い主,さらには地域の住民や動物への感染リスクを低減させることができる。
本研究はイヌとネコを対象とした研究であるため,倫理委員会の承認を得ていない。
長期間にわたる本研究は,埼玉県動物指導センターおよび埼玉県衛生研究所の職員が協力して行った。関係諸氏に深甚なる謝意を表します。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。