Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of cortisol assay by chemiluminescent enzyme immunoassay
Yukari SUMIDATakashi HERAIRiichi KAWASAKIShigeyuki ENDOAkiko YONEYAMA
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Keywords: AIA-CL2400, cortisol, CLEIA
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2017 Volume 66 Issue 5 Pages 554-562

Details
Abstract

東ソー(株)よりAIA-CLシステム用として新たに開発された化学発光酵素免疫測定法を原理とするコルチゾール測定試薬の基礎的検討を行った。その結果,精密度および感度は良好であり,その他の基礎特性も良好であった。本法は測定時間が従来法に比べ短縮し,使用抗体がポリクローナル抗体からモノクローナル抗体となり特異性が高くなったことが大きな特徴である。これにより,従来から問題とされてきた合成ステロイド剤との交差反応性が改善しており,従来法に比べ正確な内因性コルチゾールが測定可能であることが示唆された。日常検査における本法の有用性は高いものと考えられ‍た。

I  はじめに

コルチゾールは副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドで,糖,脂質および蛋白の代謝作用,抗炎症作用,免疫抑制作用を有しており,生体のホメオスタシスの維持に必要不可欠なステロイドホルモンである。コルチゾールは視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone; CRH)および下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone; ACTH)によって合成,分泌の刺激を受けており,逆にCRHおよびACTHにネガティブフィードバックを及ぼす。この調節系によって血中コルチゾール濃度は早朝に高く,夕方に低いという日内変動を有する1)。コルチゾールの測定は下垂体機能および副腎皮質機能の診断指標として重要である。コルチゾールを測定するにあたり,合成ステロイド剤との交差反応性が従来から問題とされており,交差反応性の低い測定試薬が望まれている2)

東ソー(株)のAIA-CLシステムにて測定可能なコルチゾール測定試薬が新たに開発され,基礎的検討の機会を得たので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

検査終了後の残余検体を調査研究に使用することに同意し,当検査部にコルチゾール測定依頼があった患者検体を用いた。なお,本検討は当院研究倫理審査委員会の承認を得て行った。

2. 試薬および分析装置

検討試薬は東ソー(株)のAIA-CLシステム専用コルチゾール試薬で,分析装置には同社のAIA-CL2400を使用した。対照法には同社のEテスト「TOSOH」II(コルチゾール)免疫反応試薬(以下AIA-1800)を用い,分析装置にはAIA-1800を使用した。また,ロシュ・ダイアグノスティックス(株)のエクルーシス試薬コルチゾールI(以下cobas I)およびエクルーシス試薬コルチゾールII(以下cobas ‍II)を用い,分析装置はcobas6000を使用した(Table ‍1)。

Table 1  Protocol for cortisol assay
検討法 対照法① 対照法② 対照法③
試薬名 AIA-CLシステム用
コルチゾール試薬
Eテスト「TOSOH」II
(コルチゾール)免疫反応試薬
(AIA-1800)
エクルーシス試薬
コルチゾールI
(cobas I)
エクルーシス試薬
コルチゾールII
(cobas II)
測定機器 AIA-CL2400 AIA-1800 cobas6000
測定原理 化学発光酵素免疫測定法
(CLEIA)
酵素免疫測定法
(EIA)
電気化学発光免疫測定法
(ECLIA)
使用抗体 マウス
モノクローナル抗体
ウサギ
ポリクローナル抗体
ヒツジ
ポリクローナル抗体
ヒツジ
モノクローナル抗体
検体種 血清もしくは血漿 血清もしくは血漿
検体量 20 μL 10 μL 20 μL 10 μL
測定時間 15分 19分 18分
測定範囲 0.2~60.0 μg/dL 0.02~63.4 μg/dL 0.05~63.4 μg/dL

3. 測定原理

本法の測定原理はディレイ1ステップ競合法によ‍る化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)である。本法の反応試薬には凍結乾燥体を封入したセルが2つあり,セル(1)には磁性微粒子に固定化された抗コルチゾールマウスモノクローナル抗体,セル(2)にはアルカリ性ホスファターゼ標識コルチゾール誘導体が含まれている。セル(2)には分注水を,セル(1)には分注水と検体を加え凍結乾燥体を溶解し,セル(1)で第一反応が開始される。一定時間,一定温度でインキュベーション後,セル(2)の内容物をセル(1)に移すことで第二反応が開始される。B/F分離後,磁性微粒子に結合した酵素活性を測定するため基質を添加し,酵素による分解で得られる発光強度からコルチゾール濃度を算出する(Figure 1)。

Figure 1 

Principles for cortisol assay

4. 精密度

東ソーマルチコントロール3濃度を20日間3重測定し,一元配置分散分析にて同時再現性および日差再現性の変動係数(C.V.)を算出した。

5. 希釈直線性

高濃度の患者血清を専用希釈液で10段階希釈した後,3重測定を行った。

6. 検出感度

臨床化学会の定量分析法における検出限界および定量限界の評価法3)に従い,ブランク上限(limit of blank; LoB),検出限界(limit of detection; LoD),定量限界(limit of quantitation; LoQ)をそれぞれ求めた。LoBはブランクキャリブレータを5日間12回測定,LoQは低値試料17検体を5日間2重測定し‍た。

7. 共存物質の影響

干渉チェックAプラスおよび干渉チェック RFプラス(Sysmex社)の添付文書に従って添加調製し,溶血ヘモグロビン,乳び,抱合型ビリルビン,遊離型ビリルビン,リウマチ因子の各共存物質を5系列作製し2重測定した。

8. 相関

1) 対照法との相関

Prednisolone等の合成ステロイド剤を投与されていない患者血清(非投与群)およびPrednisoloneを投与されている患者血清(投与群)に分け,対照法との相関を求めた。

2) 検体種との相関

血清,ヘパリン血漿およびEDTA血漿を同時採血した49例を対象に本法の相関を求めた。

9. 検体保存安定性

それぞれ下記の条件を設定し,患者血清各5例を用いて2重測定した。

1)室温保存:25℃,4,8,24,48,72時間

2)冷蔵保存:4℃,3,7,10,14日

3)凍結融解:−20℃,凍結融解を3回

10. 各種ステロイドとの交差反応性

ステロイド(全11種)を各測定法の希釈液で希釈したものを2濃度作製し,それを2重測定して下記の算出方法で交差率を求めた(Figure 2)。

Figure 2 

Chemical structural formula of various steroids

交差率=(2重測定の平均値÷添加濃度)×100(%)

III  結果

1. 精密度

同時再現性のC.V.は2.3~3.1%,日差再現性のC.V.は5.4~5.8%であった(Table 2)。

Table 2  Reproducibility
同時再現性 日差再現性
Average
(μg/dL)
S.D.
(μg/dL)
C.V.
(%)
S.D.
(μg/dL)
C.V.
(%)
Low 5.24 0.163 3.1 0.297 5.7
Middle 19.13 0.446 2.3 1.026 5.4
High 34.62 0.996 2.9 2.001 5.8

2. 希釈直線性

測定範囲上限まで直線性が確認できた(Figure 3)。

Figure 3 

Dilution linearity

3. 検出感度

LoBは0.06 μg/dL,LoDは0.13 μg/dLであった。また,LoQ(C.V. 10%)は0.65 μg/dLであった(Figure 4)。

Figure 4 

Limit of quautitation (LoQ)

4. 共存物質の影響

乳びは1,450ホルマジン濁度,溶血ヘモグロビンは490 mg/dL,抱合型ビリルビンは20.9 mg/dL,遊離型ビリルビンは19.5 mg/dL,リウマチ因子は500 IU/mLまで影響は認められなかった(Figure 5)。

Figure 5 

Effects of interfering substances

5. 相関

1) 対照法との相関

本法(y)とAIA-1800(x)の相関は,非投与群がy = 0.94x − 0.06,r = 0.994,n = 146であり,投与群はy = 0.58x − 0.08,r = 0.480,n = 37であった。cobas I(x)との相関は,非投与群がy = 0.85x + 1.09,r = 0.990,n = 147,投与群がy = 0.64x + 0.87,r = 0.735,n = 37であった。cobas II(x)の相関は,非投与群がy = 1.08x + 0.97,r = 0.990,n = 151,投与群がy = 1.20x + 0.17,r = 0.979,n = 37であった(Figure 6)。

Figure 6 

Correlation to the reference method

2) 検体種での相関

血清(y)とヘパリン血漿(x)の相関はy = 0.98x + 0.35,r = 0.997であった。また,血清(y)とEDTA血漿(x)の相関はy = 1.04x + 0.16,r = 0.997であった(Figure 7)。

Figure 7 

Correlation of cortisol values by CLEIA between serum and plasma

6. 検体保存安定性

冷蔵保存14日間,凍結融解3回,室温保存72時間までの低下率はそれぞれ5%以内であった(Figure 8)。

Figure 8 

Sample stability

7. 各種ステロイドとの交差反応性

本法のPrednisoloneに対する交差率は9.5~9.7%,AIA-1800では48~55%,cobas Iは38~40%,cobas IIでは7.5~7.8%であった。6α-methylprednisoloneとの交差率は本法では1.6~1.9%,AIA-1800では3.3~7.0%,cobas Iは46~83%,cobas IIは7.7%であった。Corticosteroneとの交差率は,本法では0.5~1.7%,AIA-1800は3.4~3.6%,cobas Iでは5.6~7.5%,cobas IIは2.8~2.9%であった。Cortisoneとの交差率は本法では2.1~2.4%,AIA-1800およびcobas Iは0.2%,cobas IIは4.8~5.4%であった。Prednisoneとの交差率は本法では0.6~0.7%,AIA-1800は0.2~0.3%,cobas Iは0.1~0.2%,cobas IIは1.8~1.9%であった。6β-hydroxycortisolとの交差率は本法では4.0~5.0%,AIA-1800では1.8~2.2%,cobas Iは33~37%,cobas IIは143~167%であった(Figure 9)。Dexamethasoneとの交差率は本法では0.3%,AIA-1800は0.1%未満,cobas Iは0.1%,cobas IIは0.1%未満であった。Progesteroneとの交差率は本法,AIA-1800およびcobas IIともに0.1%未満,cobas Iは0.3%であった。17α-hydroxypregnenoloneとの交差率は本法,AIA-1800およびcobas IIにおいてそれぞれ0.1%未満,cobas Iは0.2%であった。EstradiolおよびTestosteroneはいずれの測定法においても0.1%未満であった(Table 3)。

Figure 9 

Cross-reactivity with various steroids

Table 3  Cross-reactivity with various steroids
ステロイド 本法
(%)
AIA-1800
(%)
cobas I
(%)
cobas II
(%)
Prednisolone 9.6 52 39 7.7
6α-methylprednisolone 1.7 5.2 65 7.7
Corticosterone 1.1 3.5 6.6 2.9
Cortisone 2.3 0.2 0.2 5.1
Prednisone 0.7 0.3 0.2 1.9
6β-hydroxycortisol 4.6 2.0 35 155
Dexamethasone 0.3 < 0.1 0.1 < 0.1
Progesterone < 0.1 < 0.1 0.3 < 0.1
17α-hydroxypregnenolone < 0.1 < 0.1 0.2 < 0.1
Estradiol < 0.1 < 0.1 < 0.1 < 0.1
Testosterone < 0.1 < 0.1 < 0.1 < 0.1

※2濃度の平均を表記

IV  考察

コルチゾールは下垂体機能および副腎皮質機能を診断する上で重要なステロイドホルモンである。コルチゾールの測定は負荷試験および抑制試験の評価にも利用されており,特に健常人への抑制試験の場合,血中コルチゾール濃度が1.0 μg/dL以下に抑制されるため,精密度および感度の良好な測定試薬が求められている4),5)。本法の精密度,直線性および検出感度は良好な結果が得られ,上述の要件を十分に満たしていると考えられた。

コルチゾールの測定は,従来からステロイドとの交差反応性が問題とされている。今回,他法との相関において代表的な合成ステロイド剤であるPrednisolone投与の有無に分け検討したところ,非投与群はいずれの対照法においても良好な相関であった。一方,投与群ではポリクローナル抗体を使用しているAIA-1800およびcobas Iを対照法とした場合,約4割低値となり,逆に本法と同様にモノクローナル抗体を使用しているcobas IIでは約2割高くなった。またPrednisoloneの交差率は従来法であるAIA-1800が48~55%,cobas Iでは38~40%であったのに対し,本法は9.5~9.7%と大幅な改善が認められた。したがって,投与群の相関が約4割低値となったのはPrednisoloneに対する交差率が低下したためと考えられた。その他の合成ステロイド剤およびステロイドホルモンにも改善傾向が見られ,本法が最も低い交差率であった。一方,コルチゾール前駆体であるCortisoneは従来法であるAIA-1800に比べ若干の交差率上昇が認められた。同様にcobas IIもcobas Iより交差率が若干高くなっていたが,健常人血清中のコルチゾールとCortisoneとの濃度比は2.8:1であること6)および本法の交差率は2.1~2.4%と低いことから実用上問題ないと考えられた。また,本法および対照法はいずれも尿検体の測定は適応外であるが,今回尿中に多く排泄される6β-hydroxycortisolの交差率をみたところ本法は4.0~5.0%,エクルーシス試薬では33~167%であった。

以上より,今回検討したAIA-CLシステム用に開発されたコルチゾール測定試薬は良好な基礎特性であったことから,日常検査に十分有用であると考えられた。

V  まとめ

今回,AIA-CLシステム用のコルチゾール測定試薬を検討した結果,良好な基礎特性であることが確認され,他法との相関においてもPrednisolone非投与群では良好であった。従来から問題とされてきたPrednisoloneとの交差反応性は従来法と比較して大幅に改善しており,その他の合成ステロイド剤およびステロイドホルモンとの交差反応性も低いため,本法は比較的正確な内因性コルチゾールが測定できることが示唆された。また,本法は測定時間が15分と短時間で結果が得られるためより迅速な結果報告が可能となった。以上より,本法は日常検査において有用性の高い試薬であると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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