2017 Volume 66 Issue 5 Pages 471-477
血小板凝集能検査は専用機器でしか測定できない検査である。当院では抗血小板薬の薬効評価を目的として,全血法での測定装置WBAアナライザー(株式会社タイヨウ)を用いて血小板凝集能を測定している。このたび凝固測定機器CS-2100i(シスメックス株式会社)で血小板凝集能検査が実施可能となった。CS-2100iでは,多血小板血漿(PRP)と乏血小板血漿(PPP)を準備すれば,その後の測定は自動で行われる。基礎検討の結果,日常検査に十分な性能であった。ADP 1 μM及び10 μMの2濃度を測定し最大凝集率を判定することで,全血法同様に抗血小板薬の薬効評価が可能であることが分かった。血小板凝集能検査はまだ実施施設が少ないが,CSシリーズの凝固検査装置はすでに多くの施設に導入されている。今後血小板凝集能検査の実施施設が増え,血小板凝集能検査の標準化が進み,抗血小板薬の薬効評価が広がることを期待する。
血小板凝集能検査は専用測定機器でしか測定することが出来ない検査である。また,検体の保存が困難なため外注検査としても測定することができず,限られた施設でのみ測定されている検査である。当院では,2001年より抗血小板薬の薬効評価を目的として,全血法での血小板凝集能測定装置WBAアナライザー(株式会社タイヨウ)を使って測定している1)。2015年より,凝固検査測定装置CSシリーズ(シスメックス株式会社)で透過光測定法(light transmission aggregometry;LTA法)を用いた血小板凝集能が測定可能となった。当院で使用中のCS-2100iでも測定可能となったため,その基本性能の確認及び,WBAアナライザーとの患者結果の比較を行いCS-2100iでの血小板凝集能検査の薬効評価の有用性を検討したので報告する。
採血は21G採血針を使用し,3.2%クエン酸ナトリウム加採血管を用いた。
正常検体は当院中央検査部ボランティア1名より検体採取。抗血小板薬服用検体は54例(アスピリン系13例,チエノピリジン系25例,2剤併用16例)血小板凝集能検査依頼のあった検体の残検体を使用した。
なお本論文の公表にあたり当院倫理委員会に審議請求し承認を得た。
3.2%クエン酸加血を採血後,15分間室温静置。100 g × 10分間遠心処理した上清を多血小板血漿(platelet rich plasma; PRP)として回収,PRPは15分間室温静置。PRP回収後の血液を2,000 g × 10分間遠心処理し,上清を乏血小板血漿(platelet poor plasma; PPP)として使用する。機器内部に試薬となる凝集惹起物質及びスターラー入りキュベットをセットし,PPPとPRPを検体ラックに乗せて測定開始すると検体分注,試薬分注,混和,測光,解析が行われる(Figure 1)。
CS-2100iの測定
A:専用のスターラーバー入りキュベット
B:機器内にスターラーバー入りキュベットを挿入
C:PPPとPRPを検体ラックに並べて測定
D:CS-2100iの結果確認画面
凝集惹起物質は,レボヘム ADPとレボヘム コラーゲン(シスメックス株式会社)を使用した。
2. WBAアナライザー:全血法の測定方法3.2%クエン酸加血を採血後60分間室温静置する。その後,1,2,4,8 μM(終濃度)のADPと全血を反応管内で混和してWBAアナライザーに検体を設置。機器内部では混和検体はマイクロメッシュフィルターを通して吸引され,その吸引圧が凝集率(%)に変換される。凝集惹起物質は,「MCM」ADP(株式会社エル・エム・エス)を使用した。
当院ではADP 8 μMの凝集率より抗血小板薬の薬効評価を行っており,50%以上を〈Class 0:正常〉,50%未満を〈Class 1:薬効良好〉,10%未満を〈Class 2:出血の危険性〉として,3群に分類している(Figure 2)。
WBAアナライザー結果報告書
正常検体を用いて,ADP 1 μM及び10 μM,コラーゲン2 μg/mL及び5 μg/mL(終濃度)で連続10回測定した。最大凝集率の変動係数1.74~3.55%であった。また10分後の最終凝集率の変動係数は3.89~4.38であった(Figure 3, Table 1, 2)。
同時再現性の波形
ADP 1 μMで凝集波形の立ち上がりが遅いものもあるが,最大凝集率,最終凝集率には影響しなかった。
ADP 1 μM | ADP 10 μM | コラーゲン2 μg | コラーゲン5 μg | |
---|---|---|---|---|
平均 | 87.7 | 93.8 | 89.9 | 91.4 |
標準偏差 | 3.12 | 2.02 | 1.57 | 2.25 |
変動係数 | 3.55 | 2.15 | 1.74 | 2.46 |
ADP 1 μM | ADP 10 μM | コラーゲン2 μg | コラーゲン5 μg | |
---|---|---|---|---|
平均 | 78.6 | 85.6 | 82.8 | 85.5 |
標準偏差 | 3.44 | 3.33 | 3.60 | 3.41 |
変動係数 | 4.38 | 3.89 | 4.35 | 3.99 |
正常検体を5日間,同条件で採血を行い,ADP 1 μM及び10 μM,コラーゲン2 μg/mL及び5 μg/mL(終濃度)で測定した。最大凝集率の変動係数は1.77~4.41%であった(Table 3)。
ADP 1 μM | ADP 10 μM | コラーゲン2 μg | コラーゲン5 μg | |
---|---|---|---|---|
平均 | 77.0 | 86.6 | 88.8 | 92.7 |
標準偏差 | 2.76 | 1.53 | 3.91 | 2.18 |
変動係数 | 3.59 | 1.77 | 4.41 | 2.36 |
正常PRPをPPPで希釈して血小板数を調整し,ADP 2 μM及びコラーゲン2 μg/mL(終濃度)で測定した。PRPの血小板200 × 109/Lまでは最大凝集率はADP 93.6~88.0%,コラーゲン98.1~94.7%と大きな変化が見られないが,150 × 109/LではADP 70.5%,コラーゲン78.8%と減少,それ以下では最大凝集率の低下,凝集波形の異常も見られた(Figure 4)。
血小板数の影響
黒:ADP,赤:コラーゲン(COL)
数値は最大凝集率(%)
抗血小板薬の薬効調査のためにCS-2100iの試薬濃度は,ADP 1 μM及び10 μM,コラーゲン2 μg/mL及び5 μg/mLの各2濃度で行った2),3)。患者検体は全血法とLTA法の測定を採血後3時間以内に終了した。
効果判定については全血法と同じく〈Class 0:正常〉,〈Class 1:薬効良好〉,〈Class 2:出血の危険性〉の3群に分けた(Table 4)。この判定基準は当院の結果を基にした独自案である。
LTA法 ADP |
ADP濃度 | 最大凝集率 | 判定 |
1·10 μM | 65%以上 | Class 0:正常 | |
1 μM | 65%未満 | Class 1:薬効良好 | |
10 μM | 65%未満 | Class 2:出血の危険性 | |
LTA法 コラーゲン |
コラーゲン濃度 | 最大凝集率 | 判定 |
2·5 μg/mL | 60%以上 | Class 0:正常 | |
2·5 μg/mLの差 | 10%以上 | Class 1:薬効良好 | |
2 μg/mL | 40%未満 | Class 2:出血の危険性 |
当院の結果を基にした「独自案」である。
抗血小板薬服用中54例に対し,全血法,LTA法コラーゲン,LTA法ADPを測定し,Class分類で比較した結果をFigure 5, 6に示す。
全血法ADPとLTA法コラーゲンの判定結果の比較
Class 0をC0,Class 1をC1,Class 2をC2と表記する。
全血法ADPとLTA法ADPの判定結果の比較
Class 0をC0,Class 1をC1,Class 2をC2と表記する。
抗血小板薬は動脈血栓症の抑制を目的として,虚血性脳血管障害,経皮的冠動脈形成術が適応される急性冠症候群,狭心症などの患者に対して投与されている。抗血小板薬はワルファリンや直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants; DOAC)といった抗凝固薬と同様に出血性副作用のある薬剤である。抗凝固薬は効果判定や出血の危険性をPTやAPTTといった凝固検査を測定して判定している。しかし抗血小板薬の効果を判定する検査は多くの施設で行われておらず,臨床医の「勘」や「経験」に基づいて投与されているのが現状である4)。米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)の不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞患者管理のガイドライン5)では,P2Y12受容体阻害薬(チエノピリジン系抗血小板薬)投与患者では,阻害反応の確認のため血小板機能検査の測定を考慮してもよい(Class IIb, Evidence: B)として記載されており,抗血小板療法に対する血小板機能検査の有用性を示唆している。
検討を行ったCS-2100iでの血小板凝集能検査は,PRP・PPPの作成,試薬・キュベットの準備は必要だが,その他の測定は自動で行われる。同時再現性においてADP 1 μMでは10回中2回凝集波形の立ち上がりが遅い測定があった。ADP 1 μMは非常に弱い惹起物質濃度であるため若干のバラツキとなったものと考えられる。しかし最大凝集は他の8回の測定と同程度となっている。その他の濃度に関しては非常に良い再現性を示している。日差再現性も同様に良好な結果であった。PRPの血小板数が150 × 109/L以下の検体では,200 × 109/L以上の場合に比べて最大凝集が低値となり,患者の状態を反映しない危険性があることが確認できた。
抗血小板薬服用検体においてLTA法コラーゲンでは,凝集惹起物質の違いで全血法ADPと判定の一致率が悪い結果となった。特にチエノピリジン系抗血小板薬はコラーゲン凝集を抑制しない薬剤の為,全血法ADPでClass 1,2になる検体のうちLTA法コラーゲンでClass 0になる検体が9例(52.9%)認める結果となった。LTA法ADPでは抗血小板薬服用検体54例のうち52例(96.3%)がClass 1以上の判定となり,抗血小板薬に対して高い陽性率を示す結果であった。
チエノピリジン系抗血小板薬服用検体では全血法と比較して1段階高い評価になる検体を14例(56%)認め,全血法でClass 1であった検体がLTA法でClass 2となった検体を6例認めた。これらについては臨床症状を確認するなど必要になると考えられる。
全血法の〈Class 2:出血の危険性〉は,高濃度ADPに対しても血小板凝集率が10%未満と非常に低く,出血の危険性が高いことを示唆する検査結果である。この全血法Class 2に対するLTA法の感度・特異度は,コラーゲン試薬で感度46.2%・特異度70.1%,ADP試薬で感度76.9%・特異度80.4%であった。全血法ADPとLTA法ADPの感度・特異度の結果は良好な数値であり,LTA法でも全血法同様に抗血小板薬の薬効評価が可能であると考えられる。
2013年に国際血栓止血学会(ISTH)より,LTA法を用いた血小板凝集能の標準化に向けた推奨測定法が発表された6)。ここには①採血前の条件②採血時の注意点③検体処理時の注意点④測定の条件⑤惹起物質の濃度⑥結果判定等について詳細に記載されている。この推奨測定法は血小板機能異常を疑う疾患の為の勧告であるが,抗血小板薬の薬効評価にも活用できるものである。
CSシリーズの凝固検査装置はすでに多くの施設に導入されており,抗血小板薬の薬効評価を多くの施設で行うことが出来るのは大きなメリットだと考える。今後ISTHの勧告などを基準にして血小板凝集能検査の標準化が進み,抗血小板薬の薬効評価が広がることを期待する。
本稿の一部のデータは平成28年度日本臨床検査技師会中四国支部医学検査学会(第49回)で発表したものである。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。