Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
An autopsy case of severe acute pancreatitis caused by Clostridium perfringens infection accompanied by pneumoretroperitoneum
Kouichi OSOEGAWAKenta YAMAGUCHIKyouko KISHIKAWAHidenori TSUKIJIYoko TSUTSUMIMidori YOSHIDAMichi ABE
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2017 Volume 66 Issue 6 Pages 686-690

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Abstract

Clostridium perfringensにより後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎の1剖検例を経験した。症例は79歳,男性。急激な腹痛で当院を受診した。腹部CTでは膵頭体部を主体として後腹膜腔におよぶガス像を認め,同部では膵実質が同定できなかった。後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎もしくは十二指腸穿孔による二次性急性膵炎の診断で保存的加療を行った。しかし全身状態は増悪し,発症より3日後に死亡した。病理解剖では膵頭体部にかけて急性壊死性膵炎の状態であった。Vater乳頭肛門側には傍乳頭憩室が存在したが,膵壊死組織とに明らかな連続性は見られなかった。組織では膵臓には広範な出血壊死・脂肪織炎が見られたが,炎症細胞浸潤は軽度であった。壊死巣の中にはグラム陽性桿菌を認めた。また肝臓では軽度の炎症細胞浸潤を伴った肝細胞の凝固壊死巣が拡がっていた。膵壊死部と肝臓の凝固壊死部よりの細菌培養検査にてClostridium perfringensEnterococcus faeciumが検出された。Clostridium perfringensにより後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎及び敗血症,循環不全が死因と考えられた。Clostridium perfringensによる膵炎や敗血症は非常に重篤な病態で急激な進行をきたすため,救命のためには早期診断と迅速な治療の開始が重要である。

Clostridium perfringensは嫌気性グラム陽性桿菌で,土壌中に広く分布しており,ヒトの腸管にも常在している。Clostridium perfringensは,外傷性のガス壊疽の起因菌として知られているが,近年,腸管や胆道系などから感染し発症する非外傷性Clostridium感染症の報告が増加している1)。また後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎は膵実質内のガスによって特徴づけられる極めてまれな膵炎の亜型であり,致死率が非常に高い疾患である2)。今回我々は,急激な経過を辿ったClostridium perfringensにより後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎の1剖検例を経験した。

I  症例

79歳,男性。

主訴:腹痛。

既往歴:以前から高血圧症にて治療中。

飲酒歴:ビール350 mL/日 ほぼ毎日。

現病歴:近医で早期胃癌を指摘され当院消化器内科に紹介予定であった前日から腹痛が出現した。腹部CTにて膵周囲の後腹膜腔に広範な気腫像を認め,消化管穿孔疑いで,当院外科に紹介入院となった。

入院時現症:意識清明。腹部:やや硬く緊満気味。体温38.0℃。血圧130/78 mmHg,脈拍94回/分。SpO2 97%。

入院時血液検査:著明な炎症所見および肝胆道系酵素の上昇を認めた(Table 1)。

Table 1  入院時検査所見
WBC 9.6 × 103/μL ↑ CK 192 IU/L
Neu 89% ↑ T-Bil 5.7 mg/dL ↑
RBC 470万/μL D-Bil 4.3 mg/dL ↑
Hb 15.9 g/dL BUN 39.9 mg/dL ↑
Ht 44.30% Cr 2.9 mg/dL ↑
PLT 16.2万/μL Na 136 mEq/L ↓
AST 763 IU/L ↑ K 4.7 mEq/L
ALT 538 IU/L ↑ Cl 107 mEq/L
LDH 1,076 IU/L ↑ Ca 9.2 mg/dL
ALP 720 IU/L ↑ Glu 236 mg/dL ↑
γ-GTP 879 IU/L ↑ CRP 10.07 mg/dL ↑
AMY 1,339 IU/L ↑ PT 12.7 sec
TP 6.9 g/dL PT-INR 83.50%
Alb 4.2 g/dL APTT 26.4 sec

腹部CT検査:膵頭体部を中心とした後腹膜腔にガス像を認め,同部の膵実質が同定されない(Figure 1)。十二指腸水平脚には小さな憩室が存在するが周囲の炎症は目立たない。

Figure 1 

腹部造影CT検査

膵頭体部を中心とした後腹膜腔にガス像を認める。

入院後経過:後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎もしくは十二指腸穿孔による二次性急性膵炎の診断で入院となった。全身状態が不良で開腹手術を行う‍にはリスクが高く保存的加療を行う方針となった。‍ナフェモスタットメシル酸塩,ウリナスタチンおよびimipenem/cilastin(IPM/CS)とclindamycin(CLDM)による急性膵炎に準じた加療が行われた。翌日にはCr 4.2 mg/dLと腎機能が更に悪化しほぼ無尿となった。膵尾部頭側に5 cm大の液体貯留を認めたため経皮経肝膿瘍ドレナージを施行したが,暗赤色の血性排液を少量認めるのみで全身状態の改善には繋がらなかった。その後も全身状態は増悪し,発症より3日後に死亡した。その後病理解剖が行われた。血性腹水を450 mL認めた。膵臓は腫大し,膵全体に出血と壊死が見られた(Figure 2)。Vater乳頭は正常で,それより2 cm肛門側の十二指腸水平脚に傍乳頭憩室が見られた。しかし,憩室と膵壊死組織とに明らかな連続性は見られなかった。組織では膵臓に広範な出血壊死・脂肪織炎が見られたが,炎症細胞浸潤は軽度であった(Figure 3)。そして壊死巣の中にはグラム陽性桿菌を認めた(Figure 4)。傍乳頭腸憩室周囲の炎症細胞浸潤は軽度であり憩室炎による腸管穿孔は否定的であった。また肝臓では軽度の炎症細胞浸潤を伴った肝細胞の凝固壊死巣が拡がっていた(Figure 5, 6)。膵炎による壊死部と肝臓の凝固壊死部から保存培地入りスワブで組織を擦過し,細菌検査に提出した。病理解剖所見では重症急性膵炎による敗血症・循環不全が死因と考えられた。

Figure 2 

解剖時膵臓の肉眼所見

膵臓は腫大し,膵全体に出血と壊死が見られる。

Figure 3 

膵の壊死像(×40)

膵臓には広範な出血壊死を認める。炎症細胞浸潤は軽度である。

Figure 4 

膵壊死組織のグラム染色像(×400)

グラム陽性桿菌を認める。

Figure 5 

肝細胞の凝固壊死像(×100)

肝細胞の凝固壊死が広範囲に見られる。炎症細胞浸潤は軽度であ‍る。

Figure 6 

肝細胞の凝固壊死像(×400)

肝細胞の細胞質の好酸性が増し,核が消失している。

II  細菌学的検査所見

1. 分離培養

検体は保存培地入りスワブ(BDカルチャースワブ)で提出された。増菌培地としてHK半流動培地に接種し35℃で培養した。分離培地としてTWINプレート(ヒツジ血液寒天/チョコレート寒天培地)を使用し35℃5%炭酸ガス培養環境下で16時間培養した。また嫌気状態に還元したTSAII 5%ヒツジ血液寒天培地(日本BD)を使用し35℃嫌気培養を行った。HK半流動培地では一晩で著明なガス産生がみられた(Figure 7)。培養液のグラム染色では,大型のグラム陽性桿菌と短連鎖のグラム陽性球菌を確認した。炭酸ガス環境下で培養したTWINプレートではα溶血のS型コロニーのみ極少数の発育でグラム陽性レンサ球菌であった。嫌気環境で培養した血液寒天培地にはレンサ球菌の他,R型5–10 mmの溶血著明なコロニーが多数発育した(Figure 8)。グラム染色では大型で角ばったグラム陽性桿菌であった(Figure 9)。グラム陽性桿菌はさらに好気環境下と嫌気環境下で培養し,嫌気性菌であることを確認し‍た。

Figure 7 

HK半流動培地での培養所見

著明なガス産生が見られる。

Figure 8 

嫌気培養血液寒天培地上のコロニー所見

R型,β溶血示す大型コロニー

Figure 9 

グラム染色所見

大型のグラム陽性桿菌

2. 同定・薬剤感受性検査

嫌気培養で発育したグラム陽性桿菌のコロニーはRAP ID ANA systemを用いてClostridium perfringensと同定された。薬剤感受性検査はドライプレート(栄‍研化学)とABCMブイヨンを用いた微量液体希釈法で行った。本症例ではすべての薬剤において良好な感受性成績を示した(Table 2)。レンサ球菌はVITEK2GPカードにてEnterococcus faeciumと同定された。

Table 2  薬剤感受性検査結果
薬剤名 MIC(μg/mL)
PCG ≤ 0.5
ABPC ≤ 0.5
ABPC/SBT ≤ 0.5
TAZ/PIPC ≤ 2
CEZ ≤ 1
CMZ ≤ 1
CTRX ≤ 2
CPZ/SBT ≤ 1
FMOX ≤ 1
MEPM ≤ 0.5
DRPM ≤ 0.5
MINO ≤ 1
AZM = 1
CLDM ≤ 0.5
GRNX ≤ 0.25
STFX ≤ 0.25

III  考察

後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎の成因は急性膵炎の場合と同じで,アルコール,胆道結石などが指摘されているが原因不明のものが多い3)。後腹膜気腫を来す経路としては2つの可能性が挙げられている4),5)。1つの経路は,壊死性急性膵炎時の腸管の透過性亢進により腸管内常在菌であるClostridium perfringensが管腔外(膵臓)に移動し(bacterial translocation),感染によって気腫を来す1),6)。もう1‍つの経路は,胆石症や十二指腸乳頭機能不全時に腸‍内細菌が胆道内に逆行し,Clostridium perfringensのように胆汁内で増殖しやすい菌,あるいは内毒素が胆管壁から膵臓に移行したと考えられる4),5)Clostridium perfringensの放出する毒素のうち,alpha toxinはphospholipase Cで,膵炎発症に関与するとの実験的報告があり7),このような毒素によって,二次的に膵炎が惹起されたとも考えられる。

傍十二指腸憩室は,Vater乳頭部を中心に2 cm以内に存在する憩室と定義されており,憩室炎を来たさなくても傍十二指腸憩室の存在によりOddi括約筋内圧は有意に低下し,逆行性収縮運動が出現することによって,十二指腸内容が胆道・膵管系に容易に逆流しやすくなると云われている8)。自験例においては,胆道結石やアルコール多飲歴もなく急性膵炎を来す様な背景は特になく,傍十二指腸憩室によるVater乳頭括約筋の低下によりClostridium perfringensの逆行性感染が惹起された可能性が高‍い。

本菌感染症の組織学的特徴は,グラム陽性大型桿菌の周囲の組織が選択的に凝固壊死もしくは出血壊死に陥っているにも関わらず,好中球浸潤などの炎症反応が乏しいこととされており,本症例も同様の結果であった1)

肝臓の広範な凝固壊死像と同部からの培養によるClostridium perfringensの検出は,本菌が膵臓から逆行性に肝臓に波及したことを意味しており,また入院時の肝胆道系酵素の上昇を反映されたものと思われる。

ガス産生菌としては大腸菌などの腸内細菌やClostridium perfringensなどの嫌気性菌が挙げられる。自験例で検出されたClostridium perfringensは培養時著明なガス産生が見られ,本菌の産生したガスが気腫の原因になったものと思われる。

培養ではEnterococcus faeciumが検出されたが,分離培地上でのコロニー数は少なく,剖検組織には連鎖球菌の証明ができなかった。この菌に関しては採取時のコンタミネーションの可能性が高いと考えられた。

Clostridium perfringensによる膵炎や敗血症は非常に重篤な病態で急激な進行をきたすため,救命のためには早期診断と迅速な治療の開始が重要となる1),2)。重症感染症では,菌血症を合併している可能性が高い。起因菌確定のため,抗菌薬治療開始前にはまず血液培養の採取を行い,さらに感染巣からの検体採取が可能な場合は速やかに検査に供することが,より適切な抗菌薬治療のために必要不可欠と考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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