2017 Volume 66 Issue 6 Pages 663-669
血液ガス分析装置はPOCTの代表的機器として緊急性の高い治療現場に設置されており,迅速な多項目評価が可能である。しかし使用者は現場スタッフであるため機器やデータの管理責任が不確定であった。我々は以前より血液ガス分析の病院全体での効率的運用と一括管理体制を目指していたが,それには多部門連携が必要であった。そこで今回の機器更新においては臨床工学科と協力し,現状問題点から目標を設定し行動計画を立てて実行した。その結果,分析装置を1社で構成し,試薬や資材を共有して使うことで,管理を簡便かつ効率的に行えると判断し,全ての機器をRADIOMETER製にした。管理は臨床検査科の役割とした。そして全ての装置を24時間管理するために,血液ガス管理システム(RADIANCE)を導入し,患者結果や精度管理データについては臨床検査管理システムで一括管理するようにした。また機器トラブル時のサポート体制の強化と環境整備により,業務の効率化に繋げることができた。臨床検査科で一元管理することで,無駄の少ない機器・試薬の管理運営が可能になり,機器管理やデータ管理の責任所在も明らかにできた。今回の機器更新を通し,検査機器の一元管理体制はチーム医療の中で臨床検査技師が大きく貢献できる分野の1つと考えられた。
臨床現場即時検査(point of care testing; POCT)は簡便な操作で迅速に結果が得られるため,適正な診療に寄与する検査として,病院経営合理化の進む海外では急速に拡大しており,日本市場でも近年POCT機器が増加している。血液ガス分析装置はガス交換機能や酸塩基平衡状態の評価を迅速かつ正確に行えることから,その代表的機器として緊急性の高い治療現場に設置されている。それゆえ使用者は医師・看護師が多く,機器管理や検査データに関わる精度管理の責任所在について不確定な点があった。今回我々は院内血液ガス分析装置の統合管理と効率的運用を目的とした機器更新を行ったので,その取り組みの実態と効果を報告する。
対象とした血液ガス分析装置は集中治療室(intensive care unit; ICU),新生児集中治療室(neonatal intensive care unit; NICU),救命救急センター(emergency room; ER),手術センター,検査室に設置された計5台である。現状各装置は設置場所により運用状況に下記の如く3つの相違があり問題となっていた(Figure 1)。
Previous pattern of equipment arrangement and data flow in our hospital
先ず,①機器管理者が機器設置場所により異なり,ICUと手術センターは臨床工学科が,ERとNICU及び検査室では臨床検査科が管理を行っていた。両科は互いに管轄外の血液ガス分析装置の管理実態や運用方法について把握していなかった。
また,②使用機器も設置場所で異なり,ICUと手術センターはRADIOMETER社製ABL700FLEX,NICUと検査室はSIEMENS社製RapidLabo860,ERはTechnoMedica社製Gastat602iと,3社の製品が使用されていた。
測定結果などの③データ管理方法も設置場所で異なっていた。院内患者情報管理の中枢は電子カルテ(HOPE/EGMAIN-EX;富士通)であり,ER,NICU,検査室の3箇所の血液ガス分析装置は臨床検査管理システム(Techno TOMOROW;テクノアスカ)を経由し電子カルテと接続されていた。しかし,ICUの同装置はICU部門管理システム(ICU/手術室統合型患者情報システムMetaVision;フクダ電子)とのみ,手術センターの同装置は手術センター部門管理システム(周術期患者情報システムFortec ORSYS;PHILIPS)とのみ接続されており,各部門管理システム専用の血液ガス分析装置として使用されていたため,電子カルテへ結果送信できない環境であった。
臨床検査科では上述の運用状況により生じていた非効率的な管理・運用体制の改善を望んでいた。その実現には今まで各々に機器管理を行っていた臨床工学科と臨床検査科の2部署の協力が必要不可欠と考えた。そこで2013年度の血液ガス分析装置の機器更新では,臨床工学科に協力を要請し2部署の協力体制の下で更新を行うこととした。
両部署からの担当者の選出により「院内の血液ガス分析装置を統合的かつ効率的に管理運営する」との将来構想に沿う達成目標を定め,行動計画を立てて実行した。
実現したい目標は,①機器・試薬を院内全体で統合的に運用すること,②管理者を明確にして24時間体制で一元的に管理を行うこと,③検査業務の効率化と使い勝手の良い測定環境を整備すること,の3 つとした。
目標達成に必要な行動計画は,①機器構成と管理体制を見直し,機器・試薬の共有化を可能にする,②データ管理体制を見直し,測定データの精度管理を一元化する,③機器トラブル時のサポート体制を強化する,④現場での使いやすさの向上・リスク低減を目的とした環境整備を行う,の4点であった。以上の行動計画に従い機器検討とシステム設定に取り組んだ1)。
2. 機器選定検討内容機器選定にあたっては現時点での使用機器メーカー3社を対象とし,①機器設置部門へのヒアリングに基づいて把握した要望,②機器の基本性能と使いやすさ,③機器運用に関わるコストの3点を評価内容とした。そして,機器設置部門からの要望を満たせる機器について,メーカーより機器を借用し,各部門へのデモンストレーションと検査室での機器の基礎的検討(日内・日間の再現性及び既存機器との相関性確認)を実施した。また機器運用に伴うイニシャルコスト・ランニングコスト試算を行い,総合的に評価した。
前述の経緯を経て5台の機器をすべてRADIOMETER製にし,ICU,手術センター,検査室には大型機のABL800FLEXを,NICU,ERについては小型機のABL90FLEXを導入した。
管理は臨床検査科の役割とし,院内すべての血液ガス分析装置を24時間モニタリングできるようにするため,血液ガス管理システム(RADIANCE; RADIOMETER)を導入し,管理端末を検査室に設置した。全ての測定結果はRADIANCE及び臨床検査管理システム経由で電子カルテに送信される仕様とし,内部精度管理データについては臨床検査管理システムでの一括管理とした(Figure 2)。以下,行動計画とそれに伴う成果について考察する。
Equipment arrangement and data flow in our hospital after systematic updating
院内血液ガス分析の統合的管理を行うには,管理を担当する部署を1つにすることが望まれた。今回24時間体制の管理を目標としていたことから,休日夜間も勤務し,日常的に検査機器を管理している臨床検査科を管理部署とした。同時に5台の血液ガス分析装置を同一機器メーカーの2機種で構成したことで,試薬・資材の共有化が実現した2),3)。
また,機器は近接した部門ごとに同一機種を配置したため,一方にトラブルが発生した際には,他方をバックアップ機として共有できるようになった。
この体制を始めて以降,全てを検査室で一括管理することで,無駄の少ない試薬の運用と適切な在庫数管理が可能になった。また試薬管理場所の情報は臨床検査科スタッフ間で共有し,機器・試薬別のラベリングを行った。可視化された試薬管理を行うことで,休日や夜間に試薬交換が必要になった際にも勤務者が迷わず対応できる体制になった。
2. データ管理体制の見直しによる,測定データと精度管理データの一元管理ICUと手術センターの血液ガス分析装置は,各部門の管理システム専用装置として扱われていた。しかし,実際には測定結果を電子カルテに反映したい検体も測定されており,臨床検査科では結果の手入力を行っていた。今回手入力に伴う誤入力リスク低減と業務負担軽減を目的として,血液ガス分析装置と臨床検査管理システムの中間に血液ガス管理システムRADIANCEを導入し,ICUと手術センターの血液ガス分析装置については,専用部門管理システムとRADIANCEの両方にデータ送信する仕様とした4)。その結果,全ての血液ガス分析装置がRADIANCE,臨床検査管理システムを経由し電子カルテに接続されたため,測定結果の手入力自体が無くなり臨床検査科の業務負担は大幅に軽減された(Figure 2)。
正確で信頼できる検査データを担保するためには日々の内部精度管理が非常に重要であり,継続的な品質管理(quality control; QC)データの蓄積と,日内・日間変動の観察により,機器の状態や測定データの安定性が客観的に評価されうる。臨床検査管理システムには分析装置の精度管理機能が備わっており,X-R管理図・ツインプロット図のほか複数機器の機械間差を比較できる複数管理図がある。これは同日内に同一管理試料を測定することで,複数機器のX管理図を1画面で確認することが可能な管理図である。
機器更新時に同一規格機種に揃えたことで,検査室からは5ヶ所に対し日内・日間変動だけでなく,機器間差の視点も含めた内部精度管理が行えるようになった(Figure 3)。また日頃から自動分析装置を管理している生化学検査担当者が,血液ガス分析装置の内部精度管理を担当することにより検査室外にある装置についても,検査室内と同等の精度保証が可能になったと考えられる5)。
Collective management of the data for quality control by multiple control charts in the clinical examination management system
機器更新前の血液ガス分析装置トラブル発生時において,検査室,NICU,ERの装置は臨床検査科スタッフの2~3名のみが対応可能,ICUと手術センターにある同装置は臨床工学科スタッフの2~3名のみが対応可能な状況であり,管轄部署を越えた横断的トラブル対応は全く出来ていなかった。そこで機器更新後は生化学検査担当者全員が機器管理者として対応できるサポート体制の構築を目指した。
また当臨床検査科は新生児センター内の継続保育室(growing care unit; GCU)およびNICUに専属臨床検査技師を派遣し,業務の一部としてNICUに設置されたABL90FLEXの機器管理を行っている。担当者は生理検査部門より派遣され,4名が1ヶ月交代で勤務しており,機器トラブル発生時は初期対応も行っている。
今回機器トラブル発生時のサポート体制強化を目的として,より多くの機器管理者育成に取り組み研修会への参加やメーカーオペレーターによる実技指導を複数回院内で開催し,トラブル発生時の初期対応技術を習得させた。これにより現在10名を超えるスタッフが院内全ての血液ガス分析装置トラブルに対応可能な体制が実現できている。しかし24時間体制で機器管理を行うには,管理者のさらなる増員と,簡単なトラブルに対応できる当直業務スタッフの教育が今後の課題と考えられる。
4. 現場での使いやすさの向上,リスク低減を目的とした環境整備今回の達成目標に使いやすさの向上とリスク低減を目的とした環境整備を入れた理由は,主に以下の3つであった。即ち,機器の使用方法が設置場所で異なっており複雑であったこと,次いで検査室以外は不特定多数のスタッフが測定を行うため,ヒューマンエラーの起きやすい環境であったこと,さらに検査依頼件数が年々増加しており,迅速な結果報告の為に業務効率化が必要であったことである。これらを改善すべく取り組んだ「測定手順の統一とマニュアルの整備」,「専用血液ガスシリンジとFLEXQ moduleの導入」について考察する。
まず測定手順を統一するために最も確実で簡単な手順を模索し,最終的にABL800FLEXについては「検体を所定の位置に設置し,測定開始を押すのみ」とし,ABL90FLEXは「検体バーコードを読ませて検体をサンプリングさせる」とする2つのパターンに絞った。その上で血液ガス分析検査を頻繁に行うICU,HCU,CCU,NICU,ER,手術センターの医師・看護師スタッフに対し,測定手順説明会を各2~3回ずつ開催するとともに,血液ガス分析装置のモニター横に測定手順マニュアルを添付した。
採血にはRADIOMETER製専用血液ガスシリンジ(safe PICOサンプラー及びsafe PICO Aspirator)を新規導入し,NICUとERを除く全ての外来・病棟に配置した。この血液ガスシリンジの抗凝固剤は一般的に使用されるヘパリンリチウムではなく,電解質バランスヘパリンが使用されており,血液凝固による影響をより確実に除去できる6)。更にシリンジ内には攪拌用金属球が内蔵されており,物理的に攪拌しやすいという特徴を持つ。
さらにABL800FLEXには専用ガスシリンジを装置に架設できるFLEXQ moduleを採用した。これにより検体を置くだけで連続して最大3検体が自動的に攪拌され測定されるようになった(Figure 4)。
ABL800FLEX in ICU
Upper part: Measurement manual attached next to the monitor. Lower part: Automatic stirring and measurement system equipped with specially designed blood gas syringe and FLEXQ module
2016年に生化学検査担当者で測定時の拘束時間を調査したところ,以前より使用している汎用タイプのガスシリンジでは,1検体の測定に測定前攪拌時を除き平均43.6秒(SD = 2.7秒,n = 15)機器に拘束される結果が得られた。しかし,専用ガスシリンジとFLEXQ moduleの組み合わせを使用した場合,拘束時間は平均5.9秒(SD = 0.8秒,n = 15)と,7分の1以下に減少した。専用ガスシリンジの導入前は1人の担当者が午前中機器の前に拘束されていたが,現在はそのような拘束はなくなった。
これらの取り組みの結果,現場で測定を行うスタッフからの測定方法に関する問い合わせはなくなったことから,誰でも迷うことなく測定できる環境が構築出来たと考えられる。
血液ガス分析検体の撹拌については臨床・検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute; CLSI)ガイドラインにおいて,測定前に1分間採血シリンジを転倒混和および両手で錐揉み回転させる標準法が提唱されている。また影山ら7)の報告では40秒間の撹拌で均一性が得られるとされているが,迅速性が求められる治療現場において,このような撹拌法を検査を専門としない医師・看護師スタッフへ周知することは困難である。
しかしながら専用ガスシリンジ導入後は,その攪拌の容易さから検体凝固に伴う再採血や検査中止の件数,攪拌不足による測定異常データ発生件数は大きく減少した8)。導入前後の凝固率に関する集計値は無いが,導入後の2016年10月のある一週間の集計値では,導入前にも使用していた汎用ガスシリンジの凝固率は1.2%(2/161),専用ガスシリンジの凝固率は0%(0/181)であった9)。
さらにはFLEXQ moduleと専用ガスシリンジの組み合わせにより,ABL800FLEXを使用するICU,手術センター,検査室においては,誰でも簡単に測定できるだけでなく,測定業務の大幅な効率化に繋がった。
血液ガス分析装置を病院全体で効率的に管理運営することを目的とした機器更新を行った。血液ガス分析装置をはじめとしたPOCT機器は小型化かつ簡便化に伴い今後も普及が想定される。その管理部署を1つにして機器,試薬,データを一括管理することは,業務負担が増す恐れがあるものの効率的な管理運営をする上で非常に有用な手段である。さらに臨床検査技師が責任を持って院内の検査機器を管理することで,検査室外にある検査機器についても「検査室と同等の精度保証と機器管理」,「効率的な検査機器の管理運営」が実現可能となる。院内の検査機器の臨床検査科による一括管理は,チーム医療という概念が当然となった現代医療の中で,臨床検査技師が大きく貢献できる分野の1つであると考えられる。
本論文趣旨は,第53回中部圏支部医学検査学会(2014,富山),第64回日本農村医学会学術総会(2015,秋田)にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。