Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Clinical significance of M2BPGi measurement in HCV treatment
Tatsuro TOYOFUKUKatsuharu HIRANOTakafumi ICHIDA
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Keywords: M2BPGi, DAA, HCV
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2017 Volume 66 Issue 6 Pages 642-648

Details
Abstract

C型肝炎のDAA投与前後でM2BPGiが低下し,その現象は肝硬変症例や肝移植後の症例でも同様であった。M2BPGiの減少率はSVR12時点で45.6%であり,ALT,AST,AFPと同等であった。治療前後でM2BPGiの2.00 COI以上の比率が,50.1%から26.2%に低下し,M2BPGiの2.00 COI以上に関連する因子が,治療前はAST,FIB-4,ALT,AFPの順であったが,治療後には,FIB4,ALB,PLTの順に変化していた。M2BPGiは治療前は炎症の影響を受けるが,治療後は炎症よりも線維化の影響を反映しているものと考えられた。

I  目的・背景

C型肝炎ウイルス(HCV)に対する治療の変遷1),2)はドラスチックである。近年,インターフェロン(interferon; IFN)を中心とした抗ウイルス療法から直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals; DAAs)としての経口剤を併用することにより飛躍的に治療効果を得られるようになった。そして,現在では副作用の多いIFNを外しDAA経口剤だけで治療するインターフェロンフリー時代に様変わりした。現在では経口薬のみで12週間という短期間でウイルス学的著効(sustained virological response; SVR)が90%を超えるようになってきた3)~5)。多くの症例でSVRが達成されることにより,今後はSVR後の肝発癌について重点をおき経過を見ていく必要がある6),7)。Mac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)はシスメックス社から2015年1月より肝線維化マーカーとして保険収載となり,C型慢性肝炎及びC型肝硬変に対する肝生検との一致率が高いということで,全国的にも脚光を浴びている新規糖鎖マーカーである8)。しかし,臨床現場で汎用されて早2年が経過しようとしているが,いまだに明確な機序の解明には至っていないのが現状である。IFN治療に対するM2BPGiの変動については多々報告されているが9),今回当院でHCVに対するDAA治療を行った症例に対して,各治療薬別と肝硬変,肝移植後感染に分類してM2BPGiの治療前後の変動を解析したので報告する。

II  対象・方法

2014年10月から2016年3月期間において,当院にてC型慢性肝炎及びC型肝硬変に対するDAA治療を行い,SVR12を達成した84症例を対象とした。

集計の解析部分は,治療前・治療終了時点・治療終了12週間後の3ポイントでM2BPGiを測定していたものとした。対象症例の背景因子及び治療選択薬剤(DCV + ASV:ダクラタスビル+アスナプレビル,SOF/LDV:ソホスブビル/レディパスビル,SOF + RBV:ソホスブビル+リバビリン)と治療前の検査データを示す(Table 1)。年齢の平均値は63歳で,肝硬変症13例,肝移植後感染6例を別途に分類した。治療前M2BPGiの平均値は3.19 cut off index(COI),ALT値の平均値は52.5 IU/mL,AFP値の平均値は8.8 ng/mLであった。肝硬変に絞ると平均値がM2BPGiは6.94 COI,ALT 55 IU/mL,AFP 21.7 ng/mL,肝移植後感染ではそれぞれ2.73 COI,41 IU/mL,4.2 ‍ng/mLとなった。

Table 1  治療前の背景因子
平均値 全体 DCV + ASV SOF/LDV SOF + RBV 肝硬変群 肝移植後
症例数 84 17 33 34 13 6
年齢 63.6 63(33–80) 65(27–82) 63(28–86) 66(50–80) 60(53–74)
♂/♀ 49/35 11/6 21/12 17/17 7/6 5/1
ALB 3.97 3.9(± 0.53) 4.0(± 0.47) 3.9(± 0.48) 3.5(± 0.50) 3.5(± 0.55)
AST 47.9 42(± 22.6) 51(± 32.9) 47(± 36.4) 66(± 31.8) 39(± 20.7)
ALT 52.5 40(± 20.1) 54(± 41.7) 56(± 65.1) 55(± 47.7) 41(± 17.1)
PLT 16.3 13.3(± 7.2) 16.1(± 6.1) 18.0(± 6.4) 9.4(± 6.8) 11.1(± 6.3)
AFP 8.8 7.3(± 10.8) 11.3(± 23.9) 7.2(± 10.6) 21.7(± 18.1) 4.2(± 8.5)
FIB4 3.89 4.55 3.61 3.01 7.36 5.44
M2BPGi 3.19 3.03(± 2.34) 3.28(± 3.69) 3.20(± 3.65) 6.94(± 3.59) 2.73(± 4.24)

治療前後及びSVR12の解析はT検定を用いデータの分散にはドットプロットを使用した。また,治療前後の肝臓関連マーカーとの比較はROC曲線のAUC値を用いた。

尚,本臨床研究は病院長より『研究に関する指示・決定通知書』の承認を得て,研究計画書に基づき,実施した。また,対象症例全例においてインフォームドコンセントを得ている。

III  結果

1. DAA治療によるM2BPGiの変動値について

DAA治療前,治療終了時,SVR12時点の検査デー‍タを示す(Table 2, 3, Figure 1)。DAA治療によ‍りM2BPGiの値が有意に減少した(p < 0.001)(Figure 1)。全体のM2BPGi平均値の変動は治療前3.19 COI,治療終了時1.85 COI,SVR12時点1.74 COIと減少を認め,DAA治療前とSVR12時点で比較した場合45.6%の減少率となった(Table 3)。肝硬変症でみるとそれぞれ平均値が6.94 COI,4.17 COI,4.06 COIで治療前後で比較し41.5%の減少率であった。他肝臓マーカーも同様に58.4%(ALT),45.8%(AST),55.0%(AFP)の減少率が治療前後で認められ,有意差のある減少となった(p < 0.001)(Table ‍3, Figure 2)。

Table 2  DAA治療によるM2BPGiの変動①
M2BPGi 治療前 治療終了時 治療終了12週
ASV + DCV 3.03 2.16 1.72
SOF + LDV 3.28 1.62 1.56
SOF + RBV 3.20 1.92 1.90
肝硬変群 6.94 4.17 4.06
肝移植後肝炎群 2.73 1.90 1.14
全体平均値 3.19 1.85 1.74
Table 3  治療前後の各種項目変動
疾患群 全体群 LC群
項目(平均値) 治療前 治療終了時 SVR12時点 SVR12の
減少率
治療前 治療終了時 SVR12時点 SVR12の
減少率
ALT 53 25 22 58.40% 56 23 23 58.90%
AST 48 27 26 45.80% 66 28 31 53.00%
ALB 4.0 4.0 4.1 3.6 3.7 3.9
T-Bil 0.8 0.8 0.8 1.1 1.2 1.2
NH3 36 37 35 49 51 34
AFP 8.9 4.1 4.0 55.00% 21.8 7.1 6.8 68.80%
PLT 16.3 18.1 17.1 9.4 10.7 11.2
FIB4 3.9 2.7 2.9 7.5 4.4 4.5
M2BPGi 3.19 1.90 1.74 45.60% 6.94 4.17 4.06 41.50%
HCV-RNA 全例陰性 全例陰性 全例陰性 全例陰性 全例陰性 全例陰性
Figure 1 

DAA治療によるM2BPGiの変動②

Figure 2 

治療前後の炎症項目の変動

2. 治療後の肝線維化進展度の検討

治療前のM2BPGiと他項目(ALB, PLT, AST, ALT, NH3, T-Bil, AFP, FIB4)との相関をそれぞれM2BPGiが1.00 COI以上,2.00 COI以上,3.00 COI以上でROC曲線を用いてAUC値から比較した。また治療終了時及びSVR12時点のM2BPGiの値も上記同様の方法で比較した(Table 4)。治療前のM2BPGi値が2.00 COI以上で他項目とのROC曲線から得たAUC値ではAST > FIB4 > ALT > AFPの順で近似した曲線が描かれた。一方,治療終了時点のM2BPGi値2.00 COI以上で同様にROC曲線を描いた場合,FIB4 > ALB > PLTという順に近似した曲線となった(Figure 3, 4, 5)。また治療終了時とSVR12時点のM2BPGi値2.00 COI以上の他項目との相関をAUC値で比較した結果を表に示す(Table 5)。治療終了時と比べSVR12時点の方がALB,PLT,FIB4と近似した曲線が描かれている結果となった。

Table 4  他項目とのAUC値比較
AUC値 治療前 治療後 SVR12時点
検査項目 1.00以上 2.00以上 3.00以上 1.00以上 2.00以上 3.00以上 1.00以上 2.00以上 3.00以上
ALB 0.702 0.688 0.852 0.722 0.796 0.828 0.787 0.876 0.877
FIB4 0.745 0.804 0.913 0.800 0.807 0.795 0.695 0.842 0.894
PLT 0.694 0.738 0.791 0.710 0.772 0.790 0.638 0.789 0.869
AST 0.769 0.846 0.929 0.572 0.703 0.613 0.633 0.714 0.792
NH3 0.657 0.653 0.619 0.634 0.632 0.718 0.566 0.580 0.556
ALT 0.717 0.792 0.790 0.538 0.654 0.645 0.566 0.569 0.663
T-Bil 0.611 0.604 0.653 0.539 0.709 0.734 0.543 0.712 0.800
AFP 0.590 0.751 0.806 0.503 0.596 0.676 0.500 0.648 0.709
Table 5  M2BPGiの他項目とのAUC値の変動
2.00 COI以上 治療前 治療終了時 SVR12
AST 0.846 0.703 0.714
ALT 0.792 0.654 0.569
AFP 0.751 0.596 0.648
NH3 0.653 0.632 0.580
T-Bil 0.604 0.709 0.712
ALB 0.688 0.796 0.876
PLT 0.738 0.772 0.789
FIB4 0.804 0.807 0.842
Figure 3 

治療“前”M2BPGi値の他項目との比較

Figure 4 

治療“後”M2BPGi値の他項目との比較

Figure 5 

SVR12時点のM2BPGi値の他項目との比較

3. 線維化進展例に対するモニタリング結果

対象84例の治療前・治療終了時・SVR12時点のM2BPGiの結果の内訳を表に示す(Table 6)。SVR12時点の採血結果にてM2BPGiの値が2.00 COI以上であった17例において治療終了後24週時点(SVR24時点)まで経過を追った。SVR24時点でM2BPGiの値が2.00 COI以上を示した結果は13症例であった。背景因子の内訳は肝硬変症8例,肝細胞癌既往が2例(Table 7)となり,13例中10例(76.9%)が肝硬変症まで進行していた。

Table 6  治療後M2BPGi値の割合
N; 84 治療前(%) 治療後(%) SVR12(%)
M2BPGi 全体群 LC群 全体群 LC群 全体群 LC群
0.0–1.0 16人(19.0) 1人 36人(42.8) 1人 39人(46.4) 1人
1.0–2.0 25人(29.7) 0人 26人(30.9) 3人 28人(33.3) 3人
2.0–5.0 25人(29.7) 4人(30.7) 15人(17.8) 4人(30.7) 14人(16.6) 7人(53.8)
5.0以上 18人(21.4) 8人(61.5) 7人(8.3) 5人(38.4) 3人(3.5) 2人(8.6)
Table 7  SVR12時点で2.00 COI以上だった症例
M2BPGi
選択薬剤 Sample No. 年齢 性別 肝硬変 肝細胞癌 肝移植 他疾患 治療前 治療後 SVR12 SVR24
ASV + DCV 1 75 M あり 7.31 4.70 4.25 4.93
ASV + DCV 5 64 F あり 10.10 5.23 3.18 1.94
ASV + DCV 9 53 M あり 6.46 5.10 2.24 1.71
ASV + DCV 13 68 M MDS 3.37 2.80 3.07 2.94
ASV + DCV 15 68 F あり 6.91 5.19 4.73 4.26
SOF/LDV 21 58 M あり 4.57 10.89 9.82 7.94
SOF/LDV 32 77 M 6.36 3.54 3.04 2.56
SOF/LDV 38 66 F 6.98 2.38 2.55 1.80
SOF + RBV 51 76 M あり 膀胱癌 3.26 2.32 2.38 2.39
SOF + RBV 53 71 F あり 10.20 5.97 6.33 4.88
SOF + RBV 57 86 M 6.51 3.37 3.57 3.18
SOF + RBV 58 50 F あり 17.90 11.60 12.11 8.80
SOF + RBV 63 52 M あり MDS 11.10 8.15 11.27 13.49
SOF + RBV 71 81 F 3.33 2.22 2.54 2.36
SOF + RBV 75 63 M あり 6.64 3.17 2.55 1.85
SOF/LDV 78 64 M あり 5.73 3.79 3.74 2.89
SOF/LDV 82 65 F あり 7.41 3.24 2.10 2.54

IV  考察

今回我々はC型慢性肝炎及びC型肝硬変症例におけるDAA治療に対するM2BPGiの経時的変動について焦点を絞り,様々な角度からM2BPGiの炎症と肝線維化についての検討を行った。

DAA経口剤治療によってM2BPGi及び肝臓マー‍カー全ての項目で改善を認めた(Table 3)。Transaminase(ALT, AST)の低下より,HCVの排除により肝細胞の炎症成分が取り除かれたことを意味していると考えられた。またこれは肝星細胞やKupffer細胞などの活性が止まったことに伴って減少したものと考えられ,肝線維化を反映しているものではないと考える10)。治療前M2BPGi値の平均値が3.19 COIからSVR12時点の平均値では1.74 COIとなり45.6%の減少率を認めた。結果,HCV-RNA陽生群のM2BPGiに関しては,「肝細胞炎症成因:肝線維化成因=5:5ないしは4:6」という構図が考えられた。また,HCV-RNAによる炎症が取り除かれた治療後のM2BPGiに着目し,各検査項目との相関をROC曲線を用いてAUC値で比較検討した。DAA治療前のM2BPGi値が2.00 COI以上で各種肝臓関連マーカーとの相関をROC曲線で描きAUC値で比較したところ,AST,FIB4,ALT,AFPの順でM2BPGiに近似した結果が得られた。一方,治療終了時点のM2BPGi値の2.00 COI以上で他項目との相関を同様の方法でみたところ,ALB,FIB4,血小板数の順でM2BPGiに近似した曲線が描かれた。このことからDAA治療前では炎症性項目と近似し,DAA治療後では肝線維化指標項目とより近似した結果であると推察された(Table 5)。以上より,治療前のM2BPGiはHCV-RNAによる炎症成分が上積みされており,DAAによる治療後ではより肝線維化を反映していると考えられた。これらの治療前後のROC曲線の結果から,より明確にDAA治療と炎症反応抑制,そしてDAA治療後と肝線維化項目との密接性が示された。さらにSVR12時点でM2BPGiが2.00 COI以上の17症例をSVR24時点まで経過を追ったところ,M2BPGi値が2.00 COI以上の症例は13例となった。内訳は肝硬変8例,肝細胞癌既往が2例を占め,基の高度線維化伸展例を示しており,血小板数で比較すると,全体のSVR12時点の平均値は17.1万/μLに対し,上記13例の平均値は10.8万/μLであり,炎症を取り除いた値がM2BPGiの真値として,臨床上診察する上で意義が高いものであると考えられた。

以上よりDAA治療により肝線維化が可逆的に改善しているかは今回の検討からは断言できないが,SVR24時点のM2BPGi値が2.00 COI以上の症例の76.9%(10/13症例)は肝硬変まで病態が進行していることから,C型慢性肝炎の治療後のM2BPGi値2.00 COI以上の症例においてはSVR後肝発癌リスクとして,今後も経過を慎重に追っていく必要があると考えられた。

V  結語

今回,M2BPGi値視点でHCV治療におけるモニタリングを検討,考察することで様々な結果が見え隠れしていることが結果からみてとれた。今回我々はM2BPGiは炎症成因+線維化成因という構図を考え,単に炎症分という大分類で群別したが,その中身には肝星細胞の働き,Kupffer細胞の活性であったり,Mac-2として取り込んでいる機序は明確にはできていない。しかし,炎症成分を取り除いたM2BPGi値でデータを集積することでより肝線維化部分を反映でき,より意味を成すものと考えられた。

最後に,当院におけるDAA経口剤治療に対するSVR後の肝発癌例は,平成29年1月現在でいまだ認めていない為,治療後M2BPGi値の高値群(2.00 COI以上)が肝発癌を予測しているか否かは,今後も症例数を重ねて経時的に結果を追っていく必要があると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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