2017 Volume 66 Issue 6 Pages 715-720
形質細胞白血病は形質細胞腫の一病型であり,末梢血中に多数の形質細胞が出現する稀な疾患である。形質細胞白血病は進行が早く,予後不良であるため,早期発見・早期の診断が重要である。今回,白血球分類の異常パターンを契機に,血液塗抹標本の鏡検を行い,迅速な形質細胞白血病の診断につながった症例を経験した。症例は75歳男性。急性腎不全,急性心不全が疑われ当院に搬送された。初診時に全自動血液検査装置による白血球分類結果が異常パターンを示したため,末梢血液塗抹標本を作製し鏡検したところ,形質細胞の特徴を示す異常細胞を42%認めた。形質細胞腫瘍が疑われたことから直ちに診療科へ報告したところ,当日中に骨髄穿刺等が施行され,骨髄腫細胞の診断に至った。その後の追加検査においても蛋白分画でMピークを認め,BJ蛋白が認められるなど,形質細胞白血病を示唆する所見があり,化学療法が開始された。日常検査において,全自動血液検査装置による白血球分類の異常パターンを認める場合には,速やかに塗抹標本を鏡検する重要性を改めて認識させられた。
形質細胞腫瘍(plasma cell neoplasms; PCN)は,B細胞の最終分化段階にある形質細胞がモノクローナルに増殖する疾患であり,International Myeloma Working Group(IMWG)の診断基準をもとに病型分類が行われる。PCNの中でも,形質細胞白血病(plasma cell leukemia; PCL)は,末梢形質細胞数>2,000/μLまたは形質細胞が20%以上出現することを特徴とする疾患である1),2)。PCLは貧血,腎不全,骨病変,高カルシウム血症など多発性骨髄腫(multiple myeloma; MM)と共通の臨床所見を認め,PCNの中でも進行が比較的早く予後不良とされている1)。その病像には,PCN発症時からPCLの所見を示す原発性PCLとMMの経過中にPCLを発症する二次性PCLの2つが知られている1),2)。また,PCLの発症頻度はPCNのうち1~4%程度であり稀な疾患である3),4)。
今回,全自動血液検査装置による白血球分類の異常パターンを契機に,血液塗抹標本の鏡検により迅速なPCLの診断に寄与することができた症例を経験したので報告する。
症例は,75才,男性。本院入院1週間前より腰痛の出現を認めた。このため,近医を受診したところ腰椎分離症と診断され,自宅にて療養していた。本院入院前日より腹痛と呼吸困難の症状が認められ,近医に入院となった。腹部域症状の悪化や腎機能低下を認め,急性腎不全や急性心不全等が疑われたため,当院に緊急搬送となった。
当院緊急搬送時の血液検査では,白血球数の高値,赤血球数と血小板数の減少を認めた(Table 1)。血液自動分析装置(XN3000,シスメックス)による白血球分類のスキャッターグラムは単球領域から芽球領域にかけて連続して細胞集団を認め,分類不能を示した(Figure 1a)。生化学的検査(Table 1)では総蛋白高値,アルブミン低値から,グロブリンの増加が示唆された。また,カルシウムおよびクレアチニンが高値を示したことから,高カルシウム血症,腎機能障害も認められた。さらにLD/AST比が高値であり,感染症および悪性腫瘍が疑われた。
Biochemistry | CBC | ||
TP | 8.2 g/dL | WBC | 23,500/μL |
ALB | 2.7 g/dL | RBC | 313 × 104/μL |
AST | 49 U/L | Hb | 9.6 g/dL |
ALT | 23 U/L | Ht | 29.2% |
LD | 406 U/L | Plt | 4.9 × 104/μL |
ALP | 191 U/L | Leukocyte classification | |
Ca | 16 mg/dL | Stab | 0% |
ChE | 177 U/L | Seg | 56% |
T-Bil | 0.9 mg/dL | Lymph | 0% |
BUN | 52.4 mg/dL | Mono | 1% |
CRE | 3.49 mg/dL | Eosino | 1% |
Na | 139 mEq/L | Abnormal Lymph | 42% |
K | 3.7 mEq/L | ||
Cl | 103 mEq/L | ||
CRP | 8.41 mg/dL |
緊急搬送時における血液学的検査結果及び骨髄像
(a)血液自動分析装置(XN3000,シスメックス)による症例の末梢血スキャッタグラム:縦軸は側方蛍光,横軸は側方散乱光を示す。矢印で示した部分は単球領域から芽球領域にかけて連続した蛍光強度の強い細胞集団を認め,分類不能となっている。(b)末梢血液像(メイ・ギムザ染色):矢印は形質細胞様の異常細胞を示す。核は「車軸状」を示し,細胞質の一方に偏在している。細胞質は好塩基性であり,核周明庭を有している。(c)骨髄液塗抹標本(メイ・ギムザ染色):矢印は形質細胞様の異常細胞を示す。末梢血液像と同様の特徴をもつ骨髄腫細胞が認められ,核が2つみられる細胞も存在する。
血液自動分析装置による白血球分類が不能であったため,末梢血塗抹標本を鏡検して白血球分類を行った。その結果,白血球分類で異常細胞を42%認めた。これらの細胞は,車軸状で偏在する核をもち,好塩基性の細胞質と核周明庭を有しており,形質細胞の特徴と合致していた(Figure 1b)。一部の細胞では,核型不整が強く,一見成人T細胞白血病細胞と類似した形態を有していた。また,赤血球の連銭形成や血小板数の減少も認めた。形態学的所見より造血器悪性腫瘍,特に形質細胞腫瘍が疑われ,診療科へ直ちに報告を行った。これらの結果よりPCNが疑われ,同日に骨髄穿刺が施行された。骨髄は軽度低形成から正形成であり,形質細胞様の骨髄腫細胞を23.6%認めた(Figure 1c)。
当日追加された生化学的検査(Table 2)ではIgG高値を示した。免疫学的検査では,蛋白分画でM-peakが認められ,免疫グロブリンのモノクローナルな増加を認めた(Figure 2a)。免疫電気泳動では,抗IgGと抗λおよび抗フリーライトチェーンλで沈降線を認められた。IgG(λ)型とベンズ・ジョーンズ(BJ)型の二つの免疫グロブリンが増加していることが示唆され(Figure 2b),院外検査(SRL)において尿中のフリーライトチェーンλが認められた(Table 2)。以上の結果より,PCLの診断に至った。翌日よりボルテゾミブとデキサメタゾンを使用した併用療法が開始された。
Serology | |
---|---|
IgG | 3,613 mg/dL |
IgA | 27 mg/dL |
IgM | 46 mg/dL |
Free light chain κ(尿) | 11 mg/L |
Free light chain λ(尿) | 3,180 mg/L |
蛋白分画および免疫電気泳動
(a)蛋白分画:矢印はγ分画に認められたM-peakを示す。(b)免疫電気泳動:矢印は抗IgG抗体,抗λ抗体および抗フリーライトチェーンλ抗体において検出されたM-bowを示す。
入院の翌日に,末梢血のフローサイトメトリーで大型単核球領域をゲーティングして解析した結果,CD38(98.4%),CD56(95.5%),HLA-DR(64.7%)が陽性であり,CD19(0.2%)は陰性であった。免疫グロブリン軽鎖の細胞表面での発現はκ鎖(0.2%)とλ鎖(9.1%)と低レベルの発現であったが,細胞内ではκ鎖(3.3%)に対してλ鎖は74.1%の高い発現が認められ,PCLに合致した結果が得られた。FISH検査ではt(4;14)の染色体転座が有核細胞の36%に認められた。さらにTP53の欠失も38%で認めた(Data not shown)。病理学的検査では,穿刺生検検体に過形成を呈する骨髄組織が採取された。形質細胞様細胞がびまん性に増加し,不整形核・多核の異常細胞も見られた。これらの細胞はCD138陽性であり,形質細胞白血病と矛盾しない所見であった(Figure 3)。
骨髄の組織生検
形質細胞様細胞がびまん性に認められ,核は偏在し,クロマチンが濃染している。これらの細胞はCD138染色で陽性を示す。
PCLはIMWGの診断基準で,末梢形質細胞数> 2,000/μLかつ,形質細胞比率 ≥ 20%以上と定義されており1),2),非常に稀な疾患である3),4)。本症例は,搬送直後の血液検査において,全自動血液検査装置による白血球分類結果が異常パターンを示したため,血液塗抹標本の鏡検を直ちに実施した結果,骨髄腫細胞が42%検出され,最終的に PCLの迅速な診断に繋がった。
PCLを含むPCNでは,高カルシウム血症,腎障害,貧血,骨病変が認められ1),2),5),それぞれの頭文字を取りCRABと呼ばれている2)。本症例でも初診時にCRABが認められた。また,同日に施行された骨髄検査でも末梢血液像と同様に形質細胞の特徴を有する骨髄腫細胞を認めた。
PCLでは臓器障害,M蛋白および骨髄浸潤の程度に多様性があることが報告されている3)。PCLの60~70%は原発性であり,二次性PCLはMM患者の1~2%で発症すると報告されている3),4),6)。本症例では,末梢血液についてフローサイトメトリー解析を行ったところ,骨髄腫細胞はCD38,CD56,HLA-DRが陽性であった。また,細胞質内の免疫グロブリンλ鎖が74.1%と高い発現が認められた。形質細胞腫瘍では,CD38が強陽性,CD56が陽性(67~79%),その一方でCD19はほとんど陰性2)であることが知られており,本症例の結果もこれに合致していた。しかし,CD56はPCL症例の多くで陰性1),4)であるが,MMでは陽性となることが多いと知られている1),4)。本症例は骨髄腫細胞の95.5%でCD56の発現が認められたことから,MMが基礎疾患として存在し白血化した二次性PCLの可能性が示唆された。
本症例は蛋白分画でMピークを認め,免疫電気泳動ではM蛋白だけでなくBJ蛋白も検出され,尿中のフリーライトチェーンλも認められた。BJ蛋白は尿細管内で凝集し,尿細管障害を引き起こすとされている2)。本症例も,この機序により腎障害を生じた可能性が推測された。
MMやPCLではいくつかの遺伝子異常が知られている。その1つであるt(4;14)は,MMやPCLの11~20%に認められる染色体異常であり,本転座を有する場合には予後不良であることが報告されている7)。またTP53の欠失は,MMやPCLの5~15%に認められる遺伝子異常であり,細胞増殖や治療抵抗性クローン増大や発生につながり,予後不良を意味する7)。本症例の骨髄FISH検査では,t(4;14)が36%の細胞に検出された。さらにTP53の欠失も38%細胞に認められた。これらの検査結果は,本疾患の予後を推測するのに有用と考えられた。
今回,我々は全自動血液検査装置による白血球分類の異常パターンを契機に,直ちに血液塗抹標本の鏡検を行ったことから,迅速なPCLの臨床診断に寄与することができた症例を経験した。末梢血液標本の顕微鏡検査は検体が提出された日のうちに結果を得ることが可能であり,重大な病態が疑われる際の速やかな診断につながる。日常検査において全自動血液検査装置から出力されるスキャッタグラムの注意深い観察と更に末梢血液標本の顕微鏡検査を行うことの重要性を改めて認識させられた。
当検査部の井上武志技師,菅文恵技師の技術支援に感謝いたします。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。