Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Rapid detection of extended-spectrum β-lactamase-producing bacteria using DPS192iX
Saori KOBAYASHITatsuya NAKAMURAMari KUSUKIKenichiro OHNUMANobuhide HAYASHIGoh OHJIJun SAEGUSA
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2017 Volume 66 Issue 6 Pages 649-655

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Abstract

近年,グラム陰性桿菌の薬剤耐性化が世界的に問題となっている。その一つにESBL産生菌があり,迅速な検出が求められている。そこで,各種β-ラクタマーゼ産生グラム陰性腸内細菌科細菌を用いて薬剤感受性測定機器DPS192iXおよび薬剤感受性測定パネルEPB1(ともに栄研化学)の有用性評価とESBL産生菌の迅速検出について検討した。対象は各種β-ラクタマーゼ産生菌71株とした。従来法(微量液体希釈法:ドライプレート‘栄研’DPK1,ドライプレート‘栄研’DP31)を対照とした本法の ±1管差一致率は対象とした全ての薬剤で94%以上を示した。ESBL産生株28株の検出率は,18時間でCTX 96%,CAZ 68%,CPR 93%,CPDX 96%であったが,5時間においてもCTX 75%,CPDX 96%と高率に検出可能な薬剤も存在した。18時間では,全てのESBL産生菌でいずれかの薬剤に陽性となったが,遺伝子型により陽性を示す薬剤が異なるため注意が必要であった。以上より,DPS192iXを用いた各種β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の薬剤感受性検査は,日常検査においても精度良く測定可能であった。また,ESBL産生株の迅速検出が可能であり,抗菌薬適正使用および院内感染対策にも貢献できる機器であると考えられた。

I  序文

近年,世界的にグラム陰性桿菌の薬剤耐性化が問題となっており1)~3),日本においても薬剤耐性(AMR)に対するアクションプランが2016年に設定され,以降その対策が本格化されつつある。グラム陰性菌の薬剤耐性化は,菌種を超えて伝達可能なプラスミド遺伝子上に様々な耐性遺伝子が集簇していることが原因の一つとされている4)。そして,それらのプラスミドをグラム陰性桿菌が獲得しやすいことが耐性菌拡大の理由の一つとして挙げられる。そのプラスミドに関連する薬剤耐性菌にExtended spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌は,その代表的な薬剤耐性菌の一つである。ESBL産生による初期投与薬の選択ミスが入院の長期化や死亡率の増加,医療費の増加を招いている5)~9)。さらに,これら薬剤耐性菌による病院内感染に関する報告もあり10)~13),院内感染対策上も重要な問題である。日本におけるESBL産生菌の報告は,1995年に初めてEscherichia coliで報告されているが14),それ以降増加傾向を示し,近年ではE. coliの20%程度がESBL産生菌であると報告されている15)。そのような背景から,ESBL産生菌を迅速に検出可能な検査方法が必要となってきている。

日常検査におけるESBL産生の検出方法は,抗菌薬含有ESBL選択培地やディスク拡散法によるDouble disk法16),VITEK2(SYSMEX)やPhoenix(BD)などの自動機器に搭載されたエキスパートシステムによる判定などがあるが17),数時間で薬剤感受性結果と同時にESBL検出の判定を可能とする方法は,我々の調査した範囲ではない。また,PCR法などの遺伝子学的検査による検出方法は,迅速性には優れているが,煩雑性やコストの問題から日常的に使用される頻度は低い。一方で,質量分析器が微生物検査の分野においても日常検査で使用されるようになり,菌種同定の迅速化に伴い薬剤感受性検査の迅速性も要求されつつある。

自動薬剤感受性測定機器DPS192iX(栄研化学,以下DPS192iX)は専用の感受性測定パネル(栄研化学)を用いて1時間毎にウェルの画像を撮像してMIC値の判定を可能とした,カイネティック機能搭載の薬剤感受性測定機器である。また,薬剤感受性用パネルは192ウェル・30種類以上の薬剤を測定可能とし,多種の抗菌薬をより広範囲な濃度で一度に測定することを可能としている。今回,CLSIドキュメント16)に記載されているクラブラン酸を用いたESBL検出法を搭載したドライプレート‘栄研’E‍P‍B1(以下EPB1)を用いて,各種β-ラクタマーゼ産生菌に対するMIC値測定の性能評価とカイネティック機能を用いたESBL産生菌検出の迅速化について検討を行ったので報告する。

II  方法

1. 使用菌株

当院にて分離または保存(カジトン培地および−80℃スキムミルク)されている各種β-ラクタマーゼ産生のE. coliKlebsiella pneumoniaeKlebsiella oxytocaProteus mirabilisの71株を使用した(Table ‍1)。耐性機序の確認は,既報のディスク拡散法を用いた各種確認法16)およびPCR法18)~21)により決定した。耐性菌株の内訳は,ESBL単独産生菌27株とESBL以外のβ-ラクタマーゼ産生菌(metallo β-lactamase産生菌18株,AmpC産生菌15株,その他11株)とした。また,精度管理用菌株としてE. coli ATCC 25922を使用した。

Table 1  Strains and β-lactamase types used in consideration
β-lactamase type No. of strains
E. coli K. pneumoniae K. oxytoca P. mirabilis
ESBL1) 14 7 3 4
MBL2) 5 12 1
AmpC 13 2
Other3) 4 2 4
Total 36 23 8 4
1)   Extended spectrum β-lactamase

2)   Metallo-β-lactamase

3)   GES type E. coli 3 strains, KPC type K. pneumonae 1 strain, KOXY type K. oxytoca 3 strains, AmpC + outer membrane protein mutation E. coli 1 strain, ESBL + AmpC + outer membrane protein mutation K. pneumoniae 1 strain

2. 薬剤感受性検査

保存菌株をヒツジ血液寒天培地(BD)にて,35℃,7% CO2,一夜培養したそれぞれの菌株を滅菌生理食塩水にてMcFarland No. 1濁度の菌液を調製した。以下に示す各方法により18時間培養した後,耐性菌検出用11薬剤(cefotaxime: CTX, ceftadizime: CAZ, cefpodoxime: CPDX, cefpirome: CPR, cefmetazole: CMZ, cefoperazone/sulbactum: C/S, amikacin: AMK, levofloxacin: LVFX, aztreonam: AZT, imipenem: IPM, meropenem: MEPM)のMIC値を測定し,従来法(微量液体希釈法:ドライプレート‘栄研’DPK1,ドライプレート‘栄研’DP31)とのMIC一致率(±1管差)およびカテゴリー一致率を求めた。カテゴリー一致率は,各抗菌薬に対する感性(susceptible: S),中等度耐性(intermediate: I),耐性(resistant: R)と判定された株数を比較し,category agreement(CA),major error(ME),very major error(VME)の3つに分類し,それぞれの割合を求めた。

1) 従来法

従来法として,ドライプレート‘栄研’DPK1,ドライプレート‘栄研’DP31(栄研化学)を使用した。調製した菌液25 μLをミューラーヒントンブイヨン‘栄研’(栄研化学)に加え,均等に浮遊させて接種用菌液とした。接種用菌液をドライプレートの各ウェルに100 μLずつ接種し,35℃,18時間培養した。培養後は,目視にて菌の発育状況を確認し,MIC値を測定した。肉眼的に混濁または直径1 mm以上の沈殿が認められた場合,あるいは沈殿物の直径が1 mm未満であっても沈殿塊が2個以上認められた場合を発育陽性と判定した。また,肉眼的に混濁または沈殿が認められない場合,あるいは沈殿物があっても直径1 mm未満で1個の場合を発育陰性と判定した。

2) 本法

本法として,ドライプレート‘栄研’EPB1(栄研化学)を用いて,DPS192iX(栄研化学)により測定した。調製した菌液25 μLをミューラーヒントンブイヨン‘栄研’(栄研化学)に加え,均等に浮遊させて接種用菌液とした。接種用菌液を専用のリノックにて各ウェルに50 μLずつ接種,DPS192iXに搭載し,35℃,18時間培養した。菌の発育状況の確認は,DPS192iXにより自動的に行われたものを用いて解析した。

3. DPS192iXによるESBL産生菌検出方法

ESBL産生について,DPS192iXに経時的に記録された4薬剤(CTX, CAZ, CPR, CPDX)のMIC値と各薬剤の阻害剤(clavulanate: CVA)併用薬剤(CTX/CVA, CAZ/CVA, CPR/CVA, CPDX/CVA)とのMIC値を比較し,CVA併用薬剤のMIC値が単独薬剤のMIC値よりも3管以上減少したものをESBL産生陽性とし,測定開始5時間値および18時間値の陽性率を算出した。また,ESBL産生菌以外のβ-ラクタマーゼ産生菌を陰性対照として用いた。

III  結果

1. MIC一致率

Table 2にMIC一致率を示した。±1管差一致率は対象薬剤すべてが94%以上を示し,概ね良好な結果が得られた。しかしながら,全体的にEPB1のMICが低値を示しており,特にAMK,CAZ,C/Sでは完全一致率が55~69%と低い結果であった。

Table 2  Comparison of DPS192ix to reference method MICs and interpretive category error
Antimicrobial agent Dilution difference (No. of isolates) Agreement(%) Major error Very major error
≤ −3 −2 −1 0 1 2 ≥ 3 MIC Category No. % No. %
same ± 1
cefotaxime 0 0 3 58 7 3 0 82 96 96 0 0 0 0
ceftadizime 0 1 23 45 1 0 1 63 97 79 1 1.4 0 0
cefpodoxime 0 0 1 66 3 1 0 93 99 96 0 0 1 1.4
cefpirome 1 1 4 53 2 0 0 87 97 ND ND ND ND ND
cefmetazole 0 2 7 49 3 0 0 80 97 98 0 0 0 0
cefoperazone/sulbactum 0 4 15 45 7 0 0 63 94 77 0 0 3 4.2
amikacin 0 3 24 39 5 0 0 55 96 100 0 0 0 0
levofloxacin 0 0 2 68 1 0 0 96 100 99 0 0 0 0
aztreonam 0 1 13 51 5 0 1 72 97 87 0 0 1 1.4
imipenem 0 0 6 62 3 0 0 87 100 94 0 0 0 0
meropenem 0 0 10 61 0 0 0 86 100 99 0 0 0 0

2. カテゴリー一致率

Table 2にカテゴリー一致率を示した。C/SおよびCAZ以外の対象薬剤で85%以上の良好な結果が得られたMEはCAZで1株(1.4%),VMEはCPDX 1‍株(1.4%),AZT 1株(1.4%),C/S 3株(4.2%)であった。

3. 各薬剤におけるESBL産生菌検出率

Table 3に各種菌株における陽性薬剤の一覧および培養5時間および18時間における陽性率を示した。18時間では,全てのESBL産生菌で4薬剤いずれかの薬剤に陽性となった。18時間における各薬剤のESBL産生菌の検出率は,CTX 96%(26株),CAZ 67%(18株),CPR 93%(26株),CPDX 96%(26株)であった。5時間においてもCTX 78%(21株),CPDX 96%(26株)と高率にESBL産生菌の検出が可能であった。Figure 1は陽性判定の累積率を時間経過とともに示した。CPDXは早期に検出率が上昇し,培養5時間で96%に達し,以降陽性にはならなかった。一方で,CAZは検出率が緩やかに増加する傾向を示した。また,今回使用したESBL産生菌以外のβ-ラクタマーゼ産生菌は全て陰性であった。

Table 3  Comparison of 4 antimicrobial agent for detection of extended-spectrum β-lactamases1)
Antimicrobial agent Ditection time
≤ 5 h after 18 h
No. % No. %
cefotaxime-cefotaxime/clavulanate 21 75 27 96
ceftazidime-ceftadizime/clavulanate 11 39 19 68
cefpirome-cefpirome/clavulanate 19 68 26 93
cefpodoxime-cefpodoxime/clavulanate 27 96 27 96
1)   ESBL: A ≥3 twofold concentration decrease in an MIC for either antimicrobial agent tested in combination with clavlanate vs the MIC of the agent when tested alone

Figure 1 

Cumulative detection rate of extended-spectrum β-lactamases

The cumulative detection rate of ESBL positive is shown with the passage of incubation time.

IV  考察

各種β-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌に対するDPS192iXの薬剤感受性検査は,従来法と比較して菌種・薬剤共にMIC ±1管差においては94%以上の一致率であった。他の自動機器による薬剤感受性検査の比較検討の報告では,高いMIC一致率が報告されているが,菌種と薬剤の組み合わせによっては90%以下の結果も存在している22)。また,CLSIのカテゴリーを用いた一致率では,S/C以外の薬剤はMEおよびVMEは1.4%と低値であった。機器の検討において,薬剤感受性検査におけるMIC一致率とカテゴリー一致率を評価する際には,MIC一致率は90%以上23),VME,MEは1.5%,3.0%24)が望ましいとされている。以上より,DPS192iXの性能はMIC値一致率やカテゴリー一致率からも日常業務に十分に対応可能であると考えられた。しかし,CAZやAMKなど特定の薬剤でMIC値が低値に出る傾向があったため,注意を要した。この現象に関する原因は特定できていないが,通常の薬剤感受性プレートと形状が異なることが,ウェル内の反応に何らかの影響を及ぼしている可能性があると考えられた。この原因の解明は今後の課題とされる。

腸内細菌におけるβ-ラクタマーゼ産生菌の検出は,抗菌薬治療や院内感染対策に影響を及ぼす。特に広域抗菌薬を分解するβ-ラクタマーゼ産生菌は,迅速な検出が重要であり,その代表的なβ-ラクタマーゼにESBLがある。ESBL産生菌の検出は,CLSI M100-S19までは,クラブラン酸を用いてMICや阻止円の大きさの変化を捉える方法を使用していたが,S20から感染対策上問題となる場合に実施する方向となった。しかし,Levermoreら25)はCAZやCFPMのBreakpointが高値に設定されているため,それらの使用で臨床的治療失敗例・微生物学的治療失敗例のいずれもが存在することを指摘しており,改めてESBL産生の確認試験の重要性を論じている。今回検討に用いた薬剤感受性プレートはCLSIのESBL検出法に準拠した方法を採用しており,薬剤感受性と同時にESBL産生を早期に捉えることが可能となっている。今回比較検討に用いた株では,CAZ,CTX,CPDX,CPRのいずれかで全ての株が陽性となり,ESBL産生菌の検出感度は良好であった。一方で,4薬剤の比較においては検出時間および検出率に差を示した。これは,現在臨床材料から検出される90%がCTX-M型のESBL産生菌であり,CTX-M型はCAZに対して感性を示す株が多く存在する。そのため,5時間値および18時間値においてもCAZで陽性率が低値であった。日本におけるESBL産生遺伝子型はCTX-M9が最も多く存在し,Nakamuraら26)E. coliで55.9%,Hayakawaら15)はcommunity-associated(CA)ESBL-producing E. coliで83.3%と報告している。CTX-M9はCAZのMICの上昇は軽度である場合が多く,その影響もあると考えられた。しかし,本パネルはESBL産生菌検出用に4薬剤が搭載されているため,遺伝子型による感度の違いをカバーすることが可能であると考えられる。

ESBL産生の確認試験は,薬剤感受性検査の結果判明後に実施されることが多いため,診断の遅れが発生する場合がある。特に重症患者においては早期に適切な抗菌薬の投与が必要となるため,より迅速な検出が求められる。日常業務における薬剤感受性検査の迅速化は,業務時間内における報告を考慮すると5~6時間での結果算出が必要となる。本機器によるESBL産生の5時間値における検出はCPDXで96%と最も高値であった。CPDXはセファロスポリナーゼやカルバペネマーゼなどのβ-ラクタマーゼにおいても耐性と判定されるケースが多い。しかし,CVAはESBL産生だけを阻害することができる特徴を活かし,CPDX-CVAとの差を見ることでESBL産生とそれ以外の耐性の判別が可能になると考えられた。他の3薬剤では5時間における陽性率は若干低値であるため,本機器におけるESBL産生の迅速検出の指標にはCPDXが妥当であると考えられる。一方で,ESBL産生に加えて他のβ-ラクタマーゼの産生が見られる場合には,陽性反応は得られにくいため注意が必要である。また,CAZやCTXが含有されたESBL選択培地やシカベータテスト27),DNA microarray28)を使用した方法などの薬剤感受性検査以外の方法により迅速に検出可能な方法も存在するが,感度・特異度の問題やコストパフォーマンスなどから使用される頻度は低い。DPS192iXは薬剤感受性検査と同時にESBL産生の迅速な確認が可能であり,日常業務において迅速性,正確性,経済性に優れた機器であると考えられた。

V  結語

今回検討した各種β-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌に対するDPS192iXの薬剤感受性は良好な結果であり,ESBL産生菌の検出においても迅速化が図れる機器であった。自動薬剤感受性測定機器DPS192iXは,1枚のプレートで30種類以上の薬剤を同時に測定して詳細な薬剤感受性情報を診療側に提供できると共に,カイネティック機能を利用した迅速な薬剤耐性菌の検出も可能とした機器であり,臨床微生物の日常検査に大きく貢献できると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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