2017 Volume 66 Issue 6 Pages 721-725
症例は30歳代,女性。咽頭痛,発熱のため近医を受診したところ,白血球増多,貧血,血小板減少を認め,急性白血病疑いで当院紹介受診となった。入院時の白血球数は40.7 × 109/Lと増加し,芽球細胞を96.6%認めた。末梢血中のcuplike芽球比率は,11.2%であった。凝固線溶検査では,FDP > 150 μg/mL,D-dimer > 150 μg/mL,SFMC 52.4 μg/mL,TAT 58.9 ng/mL,PIC 17.2 μg/mLであり,線溶亢進型DICの所見を呈していた。骨髄血塗抹標本では芽球細胞が大部分(97.8%)を占めていたが,cuplike芽球比率は1.6%とほとんど見られなかった。芽球細胞の細胞表面抗原解析では,CD13,CD33,MPOが陽性,CD34,HLA-DRは陰性であった。さらに,染色体分析では正常核型で,FLT3-ITDが検出された。以上の結果より,AML-cuplikeと診断された。本症例では骨髄血でのcuplike芽球比率が非常に少なく,AML-cuplikeを診断するには骨髄血塗抹標本だけでなく,末梢血塗抹標本観察を行うことが重要であった。また,AML-cuplikeはDIC合併など凝固線溶動態について十分な解析がなされていないため,症例の蓄積が必要と思われる。
AML-cuplikeは,形態的に陥入した核(cuplike nuclei; CN)を有するAMLで,2004年にKussickら1)により報告された。頻度はacute promyelocytic leukemia(APL)とacute monocytic leukemia(AMoL)を除外したAMLの3.8%1),あるいはAPLを除外したAMLの21.2%2)と報告されている。WHO分類第4版では独立した疾患単位としては認められていないが,細胞免疫学的にCD34とHLA-DRが陰性である。さらに,染色体は正常核型であるが,FMS-like tyrosine kinase3-internal tandem duplication(FLT3-ITD)を高率に認めるという特徴を有する。
今回我々は,線溶亢進型DICを合併したAML-cuplikeの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。
患者:30歳代女性。
主訴:倦怠感,咽頭痛,発熱。
既往歴:5歳時マイコプラズマ肺炎。
家族歴:特になし。
現病歴:2014年12月から倦怠感を自覚。2015年2月中旬より咽頭痛,発熱が出現したため,近医を受診。血液検査で,白血球増多,貧血,血小板減少を指摘され,急性白血病疑いにて当院紹介受診となった。
入院時検査成績(Table 1):末梢血液検査では,赤血球数2.42 × 1012/L,HGB 8.0 g/dL,血小板数68 × 109/Lと貧血および血小板減少を認めた。白血球数は40.7 × 109/Lと増加しており,白血球分類ではN/C比が高く,核クロマチンが繊細な芽球細胞が96.6%みられた。これら芽球細胞の中には,CNや,細胞質にアズール顆粒を有する細胞(Type II芽球)もみられた(Figure 1A)。Kussickら1)の定義に従いCNを有する細胞(cuplike芽球)の比率を算出したところ,芽球細胞中に11.2%認められた。生化学検査では,LDが378 U/L,CRPが2.13 mg/dLと高値を示した以外特に異常はみられなかった。凝固線溶検査では,PT 65.9%と低下,Fbg 138 mg/dLと減少,FDP > 150 μg/mL,D-dimer > 150 μg/mL,SFMC 52.4 μg/mL,TAT 58.9 ng/mL,さらにPICが17.2 μg/mLと異常高値であり,線溶亢進型DICの所見を呈していた。
CBC | 白血球分類 | 生化学 | 凝固線溶 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
WBC | 40.7 × 109/L | Blast | 96.6% | TP | 7.5 g/dL | PT | 65.9% |
RBC | 2.42 × 1012/L | (Cuplike* 11.2%) | ALB | 4.1 g/dL | PT-INR | 1.25 | |
HGB | 8.0 g/dL | (Type II* 14.0%) | T-Bil | 0.7 mg/dL | APTT | 29.0秒 | |
HCT | 23.0% | Promyelo | 0.3% | D-Bil | 0.1 mg/dL | Fbg | 138 mg/dL |
PLT | 68 × 109/L | Myelo | 0.3% | CK | 52 U/L | FDP | > 150 μg/mL |
Reti | 2.0% | Stab | 0.0% | AST | 32 U/L | D-dimer | > 150 μg/mL |
Seg | 0.0% | ALT | 43 U/L | AT | 88% | ||
Lymph | 2.8% | LD | 378 U/L | SFMC | 52.4 μg/mL | ||
Mono | 0.0% | ALP | 180 U/L | TAT | 58.9 ng/mL | ||
Eo | 0.0% | CRE | 0.65 mg/dL | PIC | 17.2 μg/mL | ||
Baso | 0.0% | UA | 4.7 mg/dL | ||||
NRBC | 2/100 WBC | UN | 9 mg/dL | ||||
CRP | 2.13 mg/dL |
*全芽球中に占める割合
末梢血および骨髄血塗抹標本
A:末梢血,メイ・ギムザ染色(×1,000),B:骨髄血,メイ・ギムザ染色(×1,000),C:骨髄血,ミエロペルオキシダーゼ染色(基質:2.7-Diaminofluorene)(×1,000)
骨髄検査所見(Table 2):有核細胞数912.0 × 103/μLと過形成で,巨核球数は0.00/μLと著減していた。細胞分類では,芽球細胞が全有核細胞の97.8%を占めていたが,cuplike芽球比率は芽球の1.6%と末梢血に比べて少なかった(Figure 1B)。芽球細胞の特殊染色を行ったところ,ミエロペルオキシダーゼ(MPO)強陽性であり(Figure 1C),フローサイトメトリー法による細胞表面抗原解析では,CD13,CD33,MPOが陽性,CD34,HLA-DRは陰性であり,AML-cuplikeに矛盾しない発現パターンであった。MPO強陽性,CD34,HLA-DR陰性の検査所見,および線溶亢進型DICを合併していることより,APLも疑われたが,PML-RARA融合遺伝子は認めず,APLは否定された。さらに,染色体分析では正常核型で,FLT3-ITDが検出された。以上の結果より,AML-cuplike(WHO分類;AML without maturation,FAB分類;M1)と診断された。
骨髄像 | 細胞表面マーカー検査(CD45 gating) | ||
---|---|---|---|
NCC | 912.0 × 103/uL | CD2 | 0.1% |
Mgk | 0.00/uL | CD3 | 0.7% |
Blast | 97.8% | CD5 | 0.5% |
(Cuplike* 1.6%) | CD7 | 0.2% | |
(Type II* 7.8%) | CD10 | 0.1% | |
特殊染色 | CD13 | 73.3% | |
ミエロペルオキシダーゼ(MPO) | 強陽性 | CD14 | 0.2% |
染色体分析 | CD19 | 0.8% | |
46,XX | CD20 | 0.5% | |
遺伝子検査 | CD22 | 0.7% | |
PML-RARA融合遺伝子(FISH) | 陰性 | CD33 | 99.7% |
FLT3-ITD**(PCR) | 陽性 | CD34 | 0.2% |
HLA-DR | 0.3% | ||
Cyto-CD3 | 0.9% | ||
MPO | 83.7% | ||
TdT | 0.0% |
*全芽球中に占める割合,**FMS-like tyrosine kinase 3-internal tandem duplication
AML-cuplikeは,細胞形態所見から染色体・遺伝子異常を推測できる疾患の一つである3),4)。AML-cuplikeの典型的所見は,正常核型で,FLT3-ITDを有しており,nucleophosmin 1(NPM1),isocitrate dehydrogenase(IDH)変異を持つ頻度が高い5)。細胞免疫学的にはCD34とHLA-DRを欠失しており,MPO強陽性,芽球比率が高く,FAB分類ではM1,M2と分類されるものが多いと報告されている2),6)。本症例もAML-cuplikeの典型的所見を呈していた。
AML-cuplikeは,核の陥入が核径の25%以上を占めるcuplike芽球が全芽球の10%以上認められるAMLと定義されている1)。本症例における末梢血のcuplike芽球比率は,11.2%と定義を満たしていたが,骨髄血では1.6%と少なかった。Parkら2)は,44例のAML-cuplike症例の末梢血と骨髄血におけるcuplike芽球比率を比較しており,末梢血ではAML-cuplikeの定義を満たすが,骨髄血では定義を満たさない症例が56.8%,末梢血,骨髄血ともに陽性の症例が34.1%,末梢血陰性で,骨髄血陽性の症例が9.1%と,末梢血に比べ骨髄血ではAML-cuplikeの定義を満たさない症例が多いことを報告している。また,Kroschinskyら7),Carluccioら8)も末梢血に比べ骨髄血では,cuplike芽球比率が少ないことを報告している。末梢血に比べ骨髄血でcuplike芽球比率が少ない理由として,細胞密度が挙げられているが,未だ明らかになっていない8)。本症例のように骨髄血でのcuplike芽球比率が少ない場合,骨髄血塗抹標本のみからAML-cuplikeの診断を行うことは定義上も困難であり,末梢血塗抹標本観察での評価の重要性を再認識した。
AML-cuplikeの凝固線溶動態を多数例で解析しているのは1報6)のみであり,AML-cuplike群は対照群と比較してD-dimer濃度が有意に高値であったと報告されている。また,凝固線溶項目を測定しているAML-cuplike症例は,本症例を含めて6報,7症例報告されている9)~13)(Table 3)。いずれの症例もFDPあるいはD-dimer濃度が高値で,DIC合併は「疑い」を含めると4例であり,DIC合併率は57.1%となる。APLを除くAML,およびAPLのDIC合併率は,それぞれ31.6%,78.0%であり14),AML-cuplikeはAPLと同様に,他のAMLより高率にDICを合併する可能性がある。各症例のcuplike芽球比率とFDPおよびD-dimer濃度との関係をみると,cuplike芽球比率の多い症例がFDPやD-dimerが高値となる訳ではなく,一定の傾向はみられなかった。しかし,cuplike芽球比率と凝固線溶項目を測定している症例数が少ない上に,末梢血および骨髄中両方のcuplike芽球比率を報告しているのは本症例を含め2例のみである。また,AML-cuplikeではType II芽球も出現するが15),Type II芽球比率を算出しているのは本症例のみであり,凝固線溶動態との関係を比較することはできなかった。今後,症例を蓄積しcuplike芽球およびType II芽球比率と凝固線溶動態との関係を解析する必要がある。
Cuplike芽球比率(%) | FDP (μg/mL) |
D-dimer (μg/mL) |
PIC (μg/mL) |
DIC合併 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
PB | BM | ||||||
森ら,20089) | 27.1 | 不明 | NT | 5.99 | NT | 不明 | |
吉岡ら,200910) | 12.0 | 14.0 | 47.4 | 18.8 | 9.9 | 有 | |
菱木ら,200911) | 不明 | 30.0* | 37.0 | NT | NT | 不明 | |
Jalal S et al., 200912) | 不明 | 不明 | NT | 61.6 | NT | 不明 | |
西村ら,201313) | 症例1 | 不明 | 21.0 | 108.4 | NT | NT | 疑 |
症例2 | 不明 | 38.0 | 28.0 | NT | NT | 疑 | |
本症例 | 11.2 | 1.6 | > 150 | > 150 | 17.2 | 有 |
*文献では,約3割と記載されている。NT:not tested
線溶亢進型DICの代表的基礎疾患としてAPLがあるが,その他の急性白血病においても比較的線溶亢進型DICに類似した病態となることが多い。APLを除く急性白血病に合併したDIC症例の平均PIC濃度は4.3 ± 2.0 μg/mL,APLのそれは9.3 ± 6.0 μg/mLとさらに高値を呈する16)。AML-cuplikeにおけるPIC濃度は,本症例を含め2例のみしか測定されていないが,それぞれ17.2,9.9 μg/mLとAPLに匹敵するほど高値である。APLにおける線溶亢進の機序の一つとしてAPL細胞上のアネキシンII高発現が知られている17)。また,APL以外の急性白血病においてもアネキシンIIが高発現している症例が報告されている17)。AML-cuplikeにおける線溶亢進の機序については不明であるが,線溶亢進型DICを合併したAML-cuplikeの芽球においてアネキシンIIの発現を評価することは,DICの発症機序解明の上で重要と思われた。
線溶亢進型DICを合併したAML-cuplikeの1例を経験した。AML-cuplikeは,DIC合併など凝固線溶動態について十分な解析がなされていない。今後,多数例の検討により,病態がより明らかになることが期待される。
本研究は当院での臨床研究審査委員会の対象とならないため,臨床研究審査委員会の承認を得ていない。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。