Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Case Reports
A case of AML-cuplike complicated by fibrinolytic advanced disseminated intravascular coagulation
Ryosuke MORIAIAkemi ENDOHSatoru YAMADAMaki MOCHIZUKITakashi KONDOKoichi ASANUMANozomi YANAGIHARASatoshi TAKAHASHI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 66 Issue 6 Pages 721-725

Details
Abstract

症例は30歳代,女性。咽頭痛,発熱のため近医を受診したところ,白血球増多,貧血,血小板減少を認め,急性白血病疑いで当院紹介受診となった。入院時の白血球数は40.7 × 109/Lと増加し,芽球細胞を96.6%認めた。末梢血中のcuplike芽球比率は,11.2%であった。凝固線溶検査では,FDP > 150 μg/mL,D-dimer > 150 μg/mL,SFMC 52.4 μg/mL,TAT 58.9 ‍ng/‍mL,PIC 17.2 μg/mLであり,線溶亢進型DICの所見を呈していた。骨髄血塗抹標本では芽球細胞が大部分(97.8%)を占めていたが,cuplike芽球比率は1.6%とほとんど見られなかった。芽球細胞の細胞表面抗原解析では,CD13,CD33,MPOが陽性,CD34,HLA-DRは陰性であった。さらに,染色体分析では正常核型で,FLT3-ITDが検出された。以上の結果より,AML-cuplikeと診断された。本症例では骨髄血でのcuplike芽球比率が非常に少なく,AML-cuplikeを診断するには骨髄血塗抹標本だけでなく,末梢血塗抹標本観察を行うことが重要であった。また,AML-cuplikeはDIC合併など凝固線溶動態について十分な解析がなされていないため,症例の蓄積が必要と思われる。

I  はじめに

AML-cuplikeは,形態的に陥入した核(cuplike nuclei; CN)を有するAMLで,2004年にKussickら1)により報告された。頻度はacute promyelocytic leukemia(APL)とacute monocytic leukemia(AMoL)を除外したAMLの3.8%1),あるいはAPLを除外したAMLの21.2%2)と報告されている。WHO分類第4版では独立した疾患単位としては認められていないが,細胞免疫学的にCD34とHLA-DRが陰性である。さらに,染色体は正常核型であるが,FMS-like tyrosine kinase3-internal tandem duplication(FLT3-ITD)を高率に認めるという特徴を有する。

今回我々は,線溶亢進型DICを合併したAML-cuplikeの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

II  症例

患者:30歳代女性。

主訴:倦怠感,咽頭痛,発熱。

既往歴:5歳時マイコプラズマ肺炎。

家族歴:特になし。

現病歴:2014年12月から倦怠感を自覚。2015年2月中旬より咽頭痛,発熱が出現したため,近医を受診。血液検査で,白血球増多,貧血,血小板減少を指摘され,急性白血病疑いにて当院紹介受診となった。

入院時検査成績(Table 1):末梢血液検査では,赤血球数2.42 × 1012/L,HGB 8.0 g/dL,血小板数68 × 109/Lと貧血および血小板減少を認めた。白血球数は40.7 × 109/Lと増加しており,白血球分類ではN/C比が高く,核クロマチンが繊細な芽球細胞が96.6%みられた。これら芽球細胞の中には,CNや,細胞質にアズール顆粒を有する細胞(Type II芽球)もみられた(Figure 1A)。Kussickら1)の定義に従いCNを有する細胞(cuplike芽球)の比率を算出したところ,芽球細胞中に11.2%認められた。生化学検査では,LDが378 U/L,CRPが2.13 mg/dLと高値を示した以外特に異常はみられなかった。凝固線溶検査では,PT 65.9%と低下,Fbg 138 mg/dLと減少,FDP > 150 μg/mL,D-dimer > 150 μg/mL,SFMC 52.4 μg/mL,TAT 58.9 ng/mL,さらにPICが17.2 μg/mLと異常高値であり,線溶亢進型DICの所見を呈していた。

Table 1  入院時血液検査所見
CBC 白血球分類 生化学 凝固線溶
​WBC 40.7 × 109/L​ ​Blast 96.6%​ ​TP 7.5 g/dL​ ​PT 65.9%​
​RBC 2.42 × 1012/L​ (Cuplike* 11.2%​) ​ALB 4.1 g/dL​ ​PT-INR 1.25​
​HGB 8.0 g/dL​ (Type II* 14.0%​) ​T-Bil 0.7 mg/dL​ ​APTT 29.0秒​
​HCT 23.0%​ ​Promyelo 0.3%​ ​D-Bil 0.1 mg/dL​ ​Fbg 138 mg/dL​
​PLT 68 × 109/L​ ​Myelo 0.3%​ ​CK 52 U/L​ ​FDP > 150 μg/mL​
​Reti 2.0%​ ​Stab 0.0%​ ​AST 32 U/L​ ​D-dimer > 150 μg/mL​
​Seg 0.0%​ ​ALT 43 U/L​ ​AT 88%​
​Lymph 2.8%​ ​LD 378 U/L​ ​SFMC 52.4 μg/mL​
​Mono 0.0% ​ALP 180 U/L ​TAT 58.9 ng/mL​
​Eo 0.0% ​CRE 0.65 mg/dL ​PIC 17.2 μg/mL​
​Baso 0.0%​ ​UA 4.7 mg/dL​
​NRBC 2/100 WBC​ ​UN 9 mg/dL​
​CRP 2.13 mg/dL​

*全芽球中に占める割合

Figure 1 

末梢血および骨髄血塗抹標本

A:末梢血,メイ・ギムザ染色(×1,000),B:骨髄血,メイ・ギムザ染色(×1,000),C:骨髄血,ミエロペルオキシダーゼ染色(基質:2.7-Diaminofluorene)(×1,000)

骨髄検査所見(Table 2):有核細胞数912.0 × 103/μLと過形成で,巨核球数は0.00/μLと著減していた。細胞分類では,芽球細胞が全有核細胞の97.8%を占めていたが,cuplike芽球比率は芽球の1.6%と末梢血に比べて少なかった(Figure 1B)。芽球細胞の特殊染色を行ったところ,ミエロペルオキシダーゼ(MPO)強陽性であり(Figure 1C),フローサイトメトリー法による細胞表面抗原解析では,CD13,CD33,MPOが陽性,CD34,HLA-DRは陰性であり,AML-cuplikeに矛盾しない発現パターンであった。MPO強陽性,CD34,HLA-DR陰性の検査所見,および線溶亢進型DICを合併していることより,APLも疑われたが,PML-RARA融合遺伝子は認めず,APLは否定された。さらに,染色体分析では正常核型で,FLT3-ITDが検出された。以上の結果より,AML-cuplike(WHO分類;AML without maturation,FAB分類;M1)と診断された。

Table 2  骨髄検査所見
骨髄像 細胞表面マーカー検査(CD45 gating)
NCC 912.0 × 103/uL CD2 0.1%
Mgk 0.00/uL CD3 0.7%
Blast 97.8% CD5 0.5%
(Cuplike* 1.6%) CD7 0.2%
(Type II* 7.8%) CD10 0.1%
特殊染色 CD13 73.3%
ミエロペルオキシダーゼ(MPO) 強陽性 CD14 0.2%
染色体分析 CD19 0.8%
46,XX CD20 0.5%
遺伝子検査 CD22 0.7%
PML-RARA融合遺伝子(FISH) 陰性 CD33 99.7%
FLT3-ITD**(PCR) 陽性 CD34 0.2%
HLA-DR 0.3%
Cyto-CD3 0.9%
MPO 83.7%
TdT 0.0%

*全芽球中に占める割合,**FMS-like tyrosine kinase 3-internal tandem duplication

III  考察

AML-cuplikeは,細胞形態所見から染色体・遺伝子異常を推測できる疾患の一つである3),4)。AML-cuplikeの典型的所見は,正常核型で,FLT3-ITDを有しており,nucleophosmin 1(NPM1),isocitrate dehydrogenase(IDH)変異を持つ頻度が高い5)。細胞免疫学的にはCD34とHLA-DRを欠失しており,MPO強陽性,芽球比率が高く,FAB分類ではM1,M2と分類されるものが多いと報告されている2),6)。本症例もAML-cuplikeの典型的所見を呈していた。

AML-cuplikeは,核の陥入が核径の25%以上を占めるcuplike芽球が全芽球の10%以上認められるAMLと定義されている1)。本症例における末梢血のcuplike芽球比率は,11.2%と定義を満たしていたが,骨髄血では1.6%と少なかった。Parkら2)は,44例のAML-cuplike症例の末梢血と骨髄血におけるcuplike芽球比率を比較しており,末梢血ではAML-cuplikeの定義を満たすが,骨髄血では定義を満たさない症例が56.8%,末梢血,骨髄血ともに陽性の症例が34.1%,末梢血陰性で,骨髄血陽性の症例が9.1%と,末梢血に比べ骨髄血ではAML-cuplikeの定義を満たさない症例が多いことを報告している。また,Kroschinskyら7),Carluccioら8)も末梢血に比べ骨髄血では,cuplike芽球比率が少ないことを報告している。末梢血に比べ骨髄血でcuplike芽球比率が少ない理由として,細胞密度が挙げられているが,未だ明らかになっていない8)。本症例のように骨髄血でのcuplike芽球比率が少ない場合,骨髄血塗抹標本のみからAML-cuplikeの診断を行うことは定義上も困難であり,末梢血塗抹標本観察での評価の重要性を再認識した。

AML-cuplikeの凝固線溶動態を多数例で解析しているのは1報6)のみであり,AML-cuplike群は対照群と比較してD-dimer濃度が有意に高値であったと報告されている。また,凝固線溶項目を測定しているAML-cuplike症例は,本症例を含めて6報,7症例報告されている9)~13)Table 3)。いずれの症例もFDPあるいはD-dimer濃度が高値で,DIC合併は「疑い」を含めると4例であり,DIC合併率は57.1%となる。APLを除くAML,およびAPLのDIC合併率は,それぞれ31.6%,78.0%であり14),AML-cuplikeはAPLと同様に,他のAMLより高率にDICを合併する可能性がある。各症例のcuplike芽球比率とFDPおよびD-dimer濃度との関係をみると,cuplike芽球比率の多い症例がFDPやD-dimerが高値となる訳ではなく,一定の傾向はみられなかった。しかし,cuplike芽球比率と凝固線溶項目を測定している症例数が少ない上に,末梢血および骨髄中両方のcuplike芽球比率を報告しているのは本症例を含め2例のみである。また,AML-cuplikeではType II芽球も出現するが15),Type II芽球比率を算出しているのは本症例のみであり,凝固線溶動態との関係を比較することはできなかった。今後,症例を蓄積しcuplike芽球およびType II芽球比率と凝固線溶動態との関係を解析する必要がある。

Table 3  凝固線溶項目を測定しているAML-cuplikeの症例報告
Cuplike芽球比率(%) FDP
(μg/mL)
D-dimer
(μg/mL)
PIC
(μg/mL)
DIC合併
PB BM
​森ら,20089) 27.1 不明 NT 5.99 NT 不明
​吉岡ら,200910) 12.0 14.0 47.4 18.8 9.9
​菱木ら,200911) 不明 30.0* 37.0 NT NT 不明
​Jalal S et al., 200912) 不明 不明 NT 61.6 NT 不明
​西村ら,201313) 症例1 不明 21.0 108.4 NT NT
症例2 不明 38.0 28.0 NT NT
​本症例 11.2 1.6 > 150 > 150 17.2

*文献では,約3割と記載されている。NT:not tested

線溶亢進型DICの代表的基礎疾患としてAPLがあるが,その他の急性白血病においても比較的線溶亢進型DICに類似した病態となることが多い。APLを除く急性白血病に合併したDIC症例の平均PIC濃度は4.3 ± 2.0 μg/mL,APLのそれは9.3 ± 6.0 μg/mLとさらに高値を呈する16)。AML-cuplikeにおけるPIC濃度は,本症例を含め2例のみしか測定されていないが,それぞれ17.2,9.9 μg/mLとAPLに匹敵するほど高値である。APLにおける線溶亢進の機序の一つとしてAPL細胞上のアネキシンII高発現が知られている17)。また,APL以外の急性白血病においてもアネキシンIIが高発現している症例が報告されている17)。AML-cuplikeにおける線溶亢進の機序については不明であるが,線溶亢進型DICを合併したAML-cuplikeの芽球においてアネキシンIIの発現を評価することは,DICの発症機序解明の上で重要と思われた。

IV  結語

線溶亢進型DICを合併したAML-cuplikeの1例を経験した。AML-cuplikeは,DIC合併など凝固線溶動態について十分な解析がなされていない。今後,多数例の検討により,病態がより明らかになることが期待される。

 

本研究は当院での臨床研究審査委員会の対象とならないため,臨床研究審査委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top