2017 Volume 66 Issue 6 Pages 680-685
2005年から2014年までに当検査室に提出された男性は尿,女性は頚管分泌物のクラミジア抗原検査について集計した。クラミジア抗原の検出には,IDEIATMイデイアPCEクラミジア(協和メデックス株式会社)を用いた。2005年から2014年までの検査総数は13,572検体であった。男性の検査数は1,926検体,女性は11,646検体であった。陽性総数は1,089検体であった。男性の陽性率は15.8%(306/1,926),女性の陽性率は6.7%(783/11,646)であった。陽性率は男性,女性ともに30代が最も高かった。陽性総数は減少傾向にあった。
クラミジアは絶対性細胞内寄生細菌の一種で,生細胞内でのみ封入体を形成し増殖可能である。とくにChlamydia trachomatis(以下クラミジア)は,女性の子宮頸管炎などを発症し不妊症の原因となり,妊婦では流早産を起こすことで知られている1)~3)。近年,若年齢層における感染が増加しており4),社会的な問題となっている。われわれは,1994年から2004年までのクラミジアの検出状況について調査報告5)した。今回は2005年から2014年の検出状況について報告する。
2005年1月から2014年12月に,さいたま市内(旧浦和地区)の医療施設のうち,主に産科,婦人科,泌尿器科36施設から当検査室にクラミジア抗原検査として提出された頸管分泌物および男性の尿を対象検体とした。
2) 集計方法クラミジア抗原検査の実施数,陽性数および陽性率について,年次推移,性別,年齢別に分類して集計した。
2. 測定方法 1) 原理「IDEIATMイデイアPCEクラミジア」(協和メデックス株式会社)は酵素免疫測定法(ELISA)である。クラミジア属共通の耐熱性抗原に対する,モノクローナル抗体を固相化したマイクロタイタープレートのウェル内で検体中のクラミジア抗原と反応させる。更にポリマー化アルカリフォスファターゼ標識抗クラミジアトラコマチス抗体を反応させることにより免疫複合体が形成され,発色増感液を加えると,サイリング反応により発色する。492 nmの波長で測定し,検体中のクラミジア抗原の有無を判定する。なお,操作方法は能書に準拠した。
1)2005年から2014年までの検査実施総数は13,572検体であった。内訳は男性1,926検体(14%),女性11,646検体(86%)であった(Figure 1)。
Total count of specimens
2)年度別検体数は,2005年度は1,783検体,2006年度は1,834検体,2007年度は1,582検体,2008年度は1,400検体,2009年度は1,498検体,2010年度は1,329検体,2011年度は1,220検体,2012年度は1,020検体,2013年度は963検体,2014年度は943検体であった(Figure 2)。
Count of total specimens, each years
3)年齢分布は,10代は77検体(0.6%),20代は1,793検体(13.2%),30代は5,266検体(38.8%),40代は3,376検体(24.8%)50代は1,430検体(10.5%),60代では789検体(5.8%),70代以上は423検体(3.1%),年齢不明は418検体(3.1%)であった(Figure 3)。
Count of specimens, each ages
1)2005年から2014年までの陽性総数は1,089検体(8.0%)であった。陽性数の内訳は,男性は306/1,926検体(15.8%),女性では783/11,646検体(6.7%)であった(Figure 4)。
Total count and rate of positive specimen, each male and female
2)年齢分布は,10代は4検体(0.4%),20代は237検体(21.8%),30代は428検体(39.3%),40代は245検体(22.5%),50代は95検体(8.7%),60代は46検体(4.2%),70代以上19検体(1.7%),年齢不明は15検体(1.4%)であった(Figure 5)。
Total count of positive specimens, each ages
2005年度は207検体(11.6%),2006年度は159検体(8.7%),2007年度は142検体(9.0%),2008年度は94検体(6.7%),2009年度は114検体(7.6%),2010年度は111検体(8.4%),2011年度は102検体(8.4%),2012年度57検体(5.6%),2013年度は53検体(5.5%),2014年度は50検体(5.3%)であった(Figure 6)。
Total count of positive specimens, each years
2005年度は53検体(17.3%),2006年度は44検体(14.4%),2007年度は23検体(7.5%),2008年度は32検体(10.5%),2009年度は38検体(12.4%),2010年度は33検体(10.8%),2011年度は20検体(6.5%),2012年度21検体(6.9%),2013年度は21検体(6.9%),2014年度は21検体(6.9%)であった(Figure 7)。
Count of male and female positive specimen, each years
2005年度は154検体(2.0%),2006年度は115検体(14.7%),2007年度は119検体(15.2%),2008年度は62検体(7.9%),2009年度は76検体(9.7%),2010年度は78検体(10.0%),2011年度は82検体(10.5%),2012年度36検体(4.6%),2013年度は32検体(4.1%),2014年度は29検体(3.7%)であった(Figure 7)。
③ 男女別年齢別陽性数10代では男性1検体女性3検体(0.4%),20代では男性38女性199検体(21.8%),30代では男性100女性328検体(39.3%),40代では男性98女性147検体(22.5%),50代では男性45女性50検体(8.7%),60代以上では男性22女性43検体(6.0%),年齢不明は15検体(1.3%)であった(Figure 8)。
Count of positive specimens, each ages and sex
今回われわれは,抗原検出法を用いた検査法により得られた2005年から2014年までのクラミジアの調査結果について年次推移,年齢別,男女別に分類して集計した。
検体数は2005年から2008年までは減少したが,2009年は増加した。2010年以降は減少傾向であった。陽性率は,男性は2005年から2007年までは減少傾向が認められたが,2008年から2009年は微増傾向が認められた。2012年以降は増減なしであった。一方,女性では,2005年以降2011年までは増減を繰り返したが,2012年以降は,継続して減少傾向が認められた。また,クラミジアの陽性総数は,増減は認められたが,おおよそ減少傾向であった。厚生労働省「感染症発生動向調査」定点把握4性感染症報告数の年次推移報告6)では,性器クラミジア感染症数は2002年をピークに減少傾向を示しているとされるが,今回のわれわれの集計結果も同様な結果が得られた。さらに,男女別年齢別の集計結果では,男女ともに30代が最も高い陽性率を示した。厚生労働省「感染症発生動向調査」定点把握4性感染症報告数の年齢別推移報告6)では,男女ともに20歳から29歳にピークがあると報告されており,われわれの集計結果とは乖離があった。北村ら7)は,国内における男女の生活と意識に関する調査を行った結果,16歳から19歳の男女の性交経験率が過去と比べると低下しており,性交に対する関心がうすれてきていると報告している。本検討での10代20代の陽性率が低い結果は,北村らの調査と同様な要因が関与していることは否定できない。一方,性器クラミジア感染症は,感染症法施行以前には,結核・感染症サーベイランス事業の性感染症サーベイランスとしての対象疾患8)とされていた。感染症法施行以降になってからのクラミジア感染症の届け出状況は,女性が急増しているとの報告8)もある。その要因は,感染症法では産婦人科定点が増加していることから,届け出数が増加しているためではないかと推定,報告8)もされているが,実際に女性感染者が増加傾向にあることも容易に推察できる。また,妊婦検診では,正常妊婦の3%から5%にクラミジア保有者がいるとの報告もあり,自覚症状のない感染者は相当数いると推測されている9)。本検討では,クラミジア抗原検査結果陽性のうち,妊婦の占める割合は調査できなかったが,2005年から2014年における男女別陽性率では,女性が陽性全体の60%から80%を占めていた。今回の調査結果の対象となっているのは,婦人科や泌尿器科等に受診した者であることから,一般人口の陽性率を示しているものではないため,既報と比較して高い陽性率を示していることも考えられる。今後もクラミジアの集計を継続実施し,さらに,サーベイランスの結果を注視していく必要がある。
2005年から2014年までに当検査室に提出された男性は尿,女性は頚管分泌物のクラミジア抗原検査について集計した。2005年から2014年までの検査総数は13,572検体であった。女性の検査数は11,646検体,男性は1,926検体であった。男性の陽性数は306/1,926(15.8%),女性の陽性数は783/11,646(6.7%)であった。年代別では男性,女性ともに30代がもっとも高い結果が得られたが,陽性数全体では減少傾向が認められた。
本論文の要旨は第65回日本医学検査学会にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。