Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Characterization of the first hemin-requiring Pseudomonas aeruginosa small-colony variant isolated from the blood of a patient with double pneumonia
Natsumi NAGANOHideo NAKAYASeiko NATSUMEMegumi NAGATAHideyasu HONJYORyuji KAWAHARAAtsuaki TAKADA
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2018 Volume 67 Issue 1 Pages 99-104

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Abstract

発育にへミンを要求するPseudomonas aeruginosaのsmall-colony variant(SCV)が両側肺炎患者の血液培養から分離された。血液培養の培養液のGram染色では形態的にHaemophilus属を推定する多型性のグラム陰性桿菌を認めた。本菌は発育が遅く,ヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地には小型コロニーを形成するが,血液成分を含まないMacConkey寒天培地には発育を認めなかった。またTSI培地にも発育を認めず,オキシダーゼ試験陽性,アシルアミダーゼ試験陰性であった。さらにX因子(へミン)・V因子(NAD)要求性試験では,X因子(へミン)要求性を示した。自動同定検査装置バイテック2では正確な同定に至らず,質量分析法および16S rRNAシークエンス解析で,P. aeruginosaと確定した。P. aeruginosaのへミン要求性SCVを検出した症例は,調べた限り本症例が初報告である。本菌株は典型的なP. aeruginosaの性状とは乖離を認め,同定に苦慮した。SCVsは持続性・再発性の感染症を引き起こすが,非典型的な性状ゆえに誤同定される可能性がある。適切な治療を選択する上で,SCVsの正確な同定が重要であり,同定方法については質量分析や遺伝子検査が有用であると考える。

I  序文

Small-colony variants(SCVs)は発育速度が遅く,小型で非典型的なコロニー形態を示す変異株の総称で,Staphylococcus aureus1)Enterococcus faecalis2)Escherichia coli3)Pseudomonas aeruginosa4)Serratia marcescens5)など様々な菌種において分離例が報告されている。さらにSCVsの中には,発育にへミン6)やチミジン7),メチオニン8),オレイン酸2)などの栄養物質を要求する株も報告されている。SCVsは持続性や再発性の感染症を引き起こすことが知られている9),10)が,その非典型的なコロニー形態や生化学的性状のために,見落としや誤同定される可能性が指摘されており,日常検査においては問題視されている。

今回我々は血液培養から発育にへミンを要求するP. aeruginosaのSCVを検出したので報告する。

II  症例

患者:80代,男性。

主訴:倦怠感および喀痰増量

既往歴:気管支拡張症(10年来)

現病歴:気管支拡張症の治療でerythromycin 200 ‍mg × 2/dayを定期内服中であったが,倦怠感と喀痰増量を自覚し,20XX年2月12日に当院を受診した。胸部CT検査で両側肺に浸潤影(Figure 1)を認めたため,両側肺炎と診断され,入院加療となった。

Figure 1 

Chest CT on admission

臨床経過:入院時の検査所見をTable 1に示す。入院時血液検査では著明な炎症反応と脱水所見を認めた。バイタルは血圧108/70 mmHg,脈拍120回/分,SpO2 95%(Room Air),体温36.4℃であった。血液培養2セットと喀痰が入院時に採取され,meropenem(MEPM)0.5 g × 2/dayの投与が開始された。喀痰培養からは口腔内常在菌のみ検出されたが,血液培養が第3病日に陽性となり,グラム陰性桿菌が検出された。その後13 日間のMEPM投与継続で炎症反応は徐々に改善し,20XX年2月25日に軽快退院となった。

Table 1  Laboratory finding on admission
Item Data Item Data
WBC (102/μL) 269 BUN (mg/dL) 34
RBC (104/μL) 504 Cre (mg/dL) 0.74
Hb (g/dL) 13.8 CRP (mg/dL) 20.05
PLT (104/μL) 48.4 AST (U/L) 32
Na (mEq/L) 139 ALT (U/L) 17
K (mEq/L) 5.6 TP (g/dL) 7.7
Cl (mEq/L) 96 ALB (g/dL) 3.4

III  細菌学的検査

1. 培養検査

血液培養にはBacT/ALERT FAボトル(好気培養用)・FNボトル(嫌気培養用)を用い,自動血液培養装置はBacT/ALERT 3D(SYSMEX bioMerieux)を用いた。入院時採取された血液培養2セット4本のうち,FAボトル2本が第3病日に陽性を示した。培‍養液のGram染色では,多型性のグラム陰性桿菌‍を認め,形態からHaemophilus属が疑われた(Figure 2)。サブカルチャーにヒツジ血液寒天培地,チョコレート寒天培地およびMacConkey寒天培地(全て日水製薬)を用い,35℃好気環境下で培養した。ヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地では,24時間培養後に1 mm程度の微小発育を認め,48時間培養後には2–3 mmのムコイド型コロニーを形成した。MacConkey寒天培地では48時間培養後も発育を認めなかった(Figure 2)。

Figure 2 

Appearing colonies grown on blood, chocolate and MacConkey agar plates and microscopic morphology

A: Blood agar plate after 24 h-incubation

B: Blood agar plate after 48 h-incubation

C: MacConkey agar plate after 48 h-incubation

D: Chocolate agar plate after 24 h-incubation

E: Chocolate agar plate after 48 h-incubation

F: Microscopic morphology of the isolate

2. 栄養要求性試験

ミューラーヒントンII寒天培地(日本BD)に分離株を塗布し,その上にBBLTM TaxoTM Differentiation Discs X,V(日本BD)を置いて,35℃48時間培養したところ,X因子ディスクの周辺のみ発育を認めたため,X因子の本体であるへミン要求性株と判断した(Figure 3)。

Figure 3 

Auxotrophy examination of the isolate using the X and V disc strips and heme-synthetic pathway

3. 同定検査

分離株の生化学的性状をTable 2に示す。自動同定検査装置バイテック2(SYSMEX bioMerieux)では,バイオナンバー1300100000,同定確率96%でAcinetobacter lwoffiiと同定された。菌液に終濃度10 μg/mLとなるようにへミン(和光純薬工業)を添加し,再度同定を試みたが,結果は添加前と同じであった。MALDI-TOF-MS Microflex(Bruker)を用いた質量分析法では,スコア2.281でP. aeruginosaと同定された。さらに,1,460 bpのDNA配列を測定し,BLAST,le BIBIおよびEzTaxonのデータベースで16S rRNAシークエンス解析を実施した結果,P. aeruginosaと100%(BLAST),97.1%(le BIBI),100%(EzTaxon)の相同性を示した。

Table 2  Biochemical characterization of the isolate
Test Oxidase Catalase Growth Arginine dihydrolase Lysine decarboxylase Acylamidase Acid production from
TSI 42°C Glucose Xylose Maltose
Result + + + +

4. ポルフィリン試験

RID Zyme PORテスト(LSIメディエンス)を用いてポルフィリン試験を実施すると,UV照射にて赤色蛍光色素の産生を認めた。

5. 増殖曲線

終濃度0,5,10および20 μg/mLになるようにへミンを添加したブレインハートインフュージョン(BHI)液体培地(栄研化学)に分離株を接種し,35℃好気条件下で培養した。0,24,48,72時間培‍養‍後にBHI培地1 mLあたりの生菌数をカウントした。それぞれのへミン添加濃度に対する増殖曲線‍をFigure 4に示す。添加濃度0および5 μg/mLでは菌の増殖はほとんど認めなかった。10 μg/mLと20 ‍μg/‍mLの添加量では,両者は類似した増殖曲線を示し,48時間培養後に定常状態となった。

Figure 4 

Growth curves of the SCV isolate in BHI broth under supplementation with various concentrations of hemin

6. 薬剤感受性検査

フローズンプレート(栄研化学)を用いて微量液体希釈法による薬剤感受性検査を実施した。接種菌液は終濃度10 μg/mLとなるようにへミンを添加し,培養48時間後のMICを測定した(Table 3)。

Table 3  Antimicrobial susceptibility results of the isolate
Antimicrobial agent MIC (μg/mL)
Ampicillin > 16
Tazobactam/Piperacillin 16
Cefmetazole > 32
Ceftazidime 4
Ceftriaxone > 32
Cefepime 4
Imipenem/Cilastatin ≤ 0.12
Meropenem ≤ 0.12
Amikacin ≤ 1
Tobramycin ≤ 0.25
Ciprofloxacin > 2
Levofloxacin 4

IV  考察

P. aeruginosaは通常,MacConkey寒天培地などの血液を含まない寒天培地にも発育し,オキシダーゼ試験陽性,グルコースおよびキシロースを酸化的に分解,アルギニン加水分解試験陽性,アシルアミダーゼ試験陽性などの性状を特徴とする,院内肺炎や慢性気道感染症の主要な原因菌である。また気管支拡張症患者においてP. aeruginosaの定着は気道からの粘液の産生を促進し,肺機能悪化の要因となることが報告されている11)。本症例の分離株は,MacConkey寒天培地およびTSI培地に発育せず,典型的なP. ‍aeruginosaの性状とは乖離を認め,同定に苦慮した。ヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地のみ発育を認めたことと,Gram染色の形態からHaemophilus属を疑ったことで,X因子V因子要求性の可能性を考慮した結果,X因子要求性を示したことから,発育にへミンを要求するSCVsの一種であると推定することができた。

Häußler4)らはP. aeruginosaが分離された嚢胞性線維症(CF)の患者86人のうち33人の気道検体からP. aeruginosaのSCVsを検出したと報告しているが,分離されたSCVsは全て栄養要求性株ではなかった。一方,Taylor8)らはCF患者からのメチオニン要求性P. aeruginosaの分離を報告しているが,我々が調べた限りでは,発育にヘミンを要求するP. aeruginosaのSCVを検出した症例は本症例が初報告である。

SCVsは2通りのメカニズムで発生すると報告されている。1つは電子伝達系の異常であり,もう1‍つはチミジンの生合成不足である12)。電子伝達系の異常の場合は,メナジオンやへミン生合成に欠陥が生じており,このことが発育にメナジオンやへミンを要求する原因となる。またSCVs発生の誘発因子として,gentamicin13)やamikacin14)などのアミノグリコシド系薬剤,sulfamethoxazole-trimethoprim(ST合剤)12)の長期投与との関連性が報告されている。本症例においては,患者はerythromycinを定期内服していたが,アミノグリコシド系薬剤やST合剤の投与歴は認められなかった。

Häußler4)らの報告では,P. aeruginosaのSCVsの抗緑膿菌薬に対するMIC値は,revertant(復帰変異株)と比較して2~8倍高値を示した。また松本ら15)の報告では,S. aureusのへミン要求性SCVsは電子伝達系の異常により,アミノグリコシド系抗菌薬の取り込みが減少し,耐性を示すとされている。さらにSCVsは野生株よりも細胞内に長期間生存可能で,抗菌薬の影響を受けにくく,持続性・再発性の感染症を引き起こすと報告されており9),10),特にP. ‍aeruginosaのSCVsは野生株と比較してバイオフィルムを形成しやすいことが明らかとなっている16)。今回分離したSCVはへミン要求性株だが,アミノグリコシド系薬剤の感受性は良好であった。しかし本症例患者は入院時から約1年半前に喀痰のGram染色でムコイド型P. aeruginosaを疑うグラム陰性桿菌を多数認めていたが,培養では発育を認めなかったことがあり,当時からP. aeruginosaの持続感染を起こしていた可能性がある。

本菌株はポルフィリン試験陽性であり,試験に用いたキットは,δ-aminolevulinic acidからprotoporphyrin IXが生成された時に生ずる赤色蛍光をUV照射で判定するものであるので,検出されたP. aeruginosaは,へミン合成経路(Figure 3)を保有し,protoporphyrin IXまでの経路は正常に働いていると考えられる。本菌のへミン要求性は,へミン合成経路の最終段階である,ferrochelataseによる鉄付加反応の異常が原因である可能性があり,遺伝子的にはhemH遺伝子の変異または欠損が推察される。

Matsumotoら17)はへミン要求性E. coliを分離し,調整菌液にへミンを添加することで,SEAMENS社のMicroScan NegCombo6.11Jパネルを用いた自動同定検査装置で正確に同定することができたと報告している。今回我々も,菌液にへミンを添加してバイテック2のGN同定カードを用いて同定検査を試みたが,添加の有無に係らず,Acinetobacter lwoffiiと同定された。本菌株はへミン添加BHI培地による増殖曲線において,定常状態となるまでに48時間以上必要であることが分かる。このことから,バイテック2の反応時間(10時間以内)では,同定カードに含有されている生化学基質と菌が十分に反応せず,菌液にへミンを添加しても正確な同定に至らなかった可能性がある。

本菌株は最終的に,質量分析法および16S rRNAシークエンス解析でP. aeruginosaと同定することができた。質量分析法は,菌種の違いによって分子量の異なるリボソームタンパク質のマススペクトルをデータベースで比較するため,発育の遅さや栄養要求性に左右されることなく同定することができ,16S rRNAシークエンス解析に限りなく近い同定精度が得られると報告されている18)。SCVsはその非典型的な生化学性状から,誤同定されることが懸念されているが,持続性や再発性の感染症の原因菌となるため,適切な治療をする上で正確な同定と薬剤感受性検査が望まれる。SCVsの同定は,現在のところ質量分析法や16S rRNAシークエンスが有用であると考える。

V  結語

血液培養から発育にへミンを要求するP. aeruginosaのSCVを検出した1症例を経験した。SCVsの正確な同定には質量分析法や遺伝子検査が有用であるが,培地の発育状況や,非典型的な生化学性状から,SCVsの存在を見逃さないことが重要である。

 

本研究は細菌を対象とした症例報告のため,倫理委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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