Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Serum bicarbonate concentration analysis using Dimension RxL Max
Hirofumi KUSUKIMai KAWAKAMIKeiji TAKAHASHINoriko MIYAZAWAYohei FUJIMOTOToyoko KOBAYASHITakafumi KATAYAMA
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2018 Volume 67 Issue 1 Pages 23-28

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Abstract

本邦では重炭酸(HCO3)濃度は血液ガス分析にて,Henderson-Hasselbalchの式から計算して求めているのが現状であり,生化学分析装置によって,直接測定している施設は少ない。当院では20年以上前から,静脈血を採血し,血清重炭酸塩(総CO2)測定を酵素法で測定している施設である。今回,我々は血清総CO2測定について,当院の依頼状況,生化学分析(酵素法)による測定値と血液ガス分析による演算値との差および採血量,採血管開栓状態の総CO2値への影響から正しく測定するための注意点を報告する。酵素法による測定値と血液ガス分析による演算値を比較したところ,良好な一致性を示した。しかし,規定量の1/3の少量採血や採血管開栓後に測定値の低下を示したことから,採血管の規定量採血や開栓後は速やかに測定することで血液ガス分析と遜色ない値を得ることが可能である。

I  はじめに

生体の恒常性を維持する緩衝系の中で,炭酸-重炭酸イオン緩衝系は最も重要な生体システムである。二酸化炭素は生体内で代謝の結果として生産され,肺呼吸によって調整される。対して,重炭酸イオン(HCO3)は生理的に炭酸への変換と血液pHの調整という役割を担い,腎臓の尿細管で調整されており1),HCO3の低下は代謝性アシドーシスの指標となる。

欧米では静脈血の重炭酸濃度をみる場合,生化学分析装置を用いた酵素法による血清または血漿の重炭酸塩(総CO2)として測定が行われている。しかし,我が国では酵素法での総CO2測定は普及しておらず,多くの施設では血液ガス分析装置によって重炭酸の測定が行われている2)。血液ガス分析におけるHCO3測定はHenderson-Hasselbalchの式からの算出値であり,日常診療では血液ガス分析を頻回に実施することは容易ではない。そのような現状の中,当院では20年以上前から腎臓の病態把握を目的とし,生化学分析装置を用いた血清総CO2測定を行っている。そこで今回,血清総CO2測定について,当院の依頼状況,生化学分析(酵素法)による測定値と血液ガス分析による演算値との差および採血量,採血管開栓状態の総CO2値への影響から測定するための注意点を報告する。

II  材料・方法

1. 分析機器・測定試薬および測定原理

分析機器は生化学分析装置としてSIEMENS社Dimension RxL Maxを用い,試薬は専用試薬のフレックスカートリッジ重炭酸塩ECO2(SIEMENS社)を用いて,血清総CO2(DIM総CO2)を測定した。測定原理は酵素法であり,HCO3および溶存CO2(H2CO3)が基質となり,aNADHの吸光度の変化量から総CO2濃度を算出した(Figure 1)。

Figure 1 

Enzyme assay principle

比較対照には血液ガス分析装置のRAPIDPOINT405(SIEMENS社)を用いて,演算によるHCO3と総CO2量(tCO2:HCO3 + H2CO3)の測定値を用いた。

2. 方法

1) 当院におけるDIM総CO2測定の状況

2013年11月から2014年10月の1年間のDIM総CO2の依頼件数および依頼科,外来病棟比の集計を行った。

2) DIM総CO2値と血液ガス分析の演算値(HCO3とtCO2)の比較

試料は血液ガス分析後の残余血液26検体とした。残余血液は遠心(2,000 G,5分)し,血漿にてDIM総CO2値を測定した。測定値の比較は相関分析(線形回帰式,相関係数)と偏位図にて解析した。

3) 測定におけるピットホール

血液は採血に同意した職員(N = 5)からテルモ社製6 mL生化学用真空採血管に対して,6 mL(規定量),2 mL(少量)の8本ずつ採血を行った。遠心後,DIM総CO2測定を行い,採血量の影響および採血管を開栓状態で30分,1時間,2時間,3時間常温放置後の影響をみた。さらに採血管未開栓においても時間変化(遠心後常温1時間,3時間)を検討した。採血量の違いにおける比較には対応のあるt検定,開栓と未開栓の時間変化にはFriedman検定および事後比較にはSteelの検定,採血量の違いによる時間変化の差にはWilcoxonの順位和検定を用いた。

III  結果

1. 当院におけるける血清総CO2測定の状況

対象とした1年間に9,252件の依頼があり,月に平均771件であった。外来病棟比は外来80.8:病棟19.2であった。依頼科は腎臓内科が約80%と最も多く,次いで泌尿器科,小児科の順となっていた(Table 1)。

Table 1  The number of orders
年間 9,252件
月間 771.0 ± 45.5件
外来:病棟 80.8:19.2
依頼科       腎臓内科 80.6%
泌尿器科 6.6%
小児科 5.2%
その他 7.6%

2013年11月~2014年10月集計

2. DIM総CO2値と血液ガス分析の演算値(HCO3とtCO2)の比較

DIM総CO2値(y)と血液ガス分析のHCO3値(x)を比較すると,相関がy = 0.977x + 0.397,r = 0.987であり,誤差平均は−0.13 ± 1.01 mmol/Lであった(Figure 2A)。一方,DIM総CO2値(y)と血液ガス分析のtCO2値(x)を比較すると,相関がy = 0.963x − 0.795,r = 0.966であり,誤差平均は−1.73 ± 1.04 mmol/Lであった(Figure 2B)。

Figure 2 

The relationship of the blood gas system and the enzyme assay

A: The correlation and the difference between total CO2 by enzyme assay and HCO3 by blood gas system. B: The correlation and the difference between total CO2 by enzyme assay and calculated total CO2 by blood gas system.

3. 測定におけるピットホール

1) 採血量の影響

規定量の6 mL採血ではDIM総CO2値は28.74 ± 1.82 mmol/Lとなり,規定量の1/3の2 mL採血では25.93 ± 1.94 mmol/Lと有意(p < 0.001)に低値であった(Figure 3)。

Figure 3 

Effect of the sample volume

The 2 mL and 6 mL of blood are collected into 6 mL vacuum tube (n = 5). There is a significant difference between 2 mL and 6 mL (p < 0.001). The values of CO2 concentration are shown by Mean ± SD.

2) 採血管未開栓・開栓状態による放置時間の影響

採血管未開栓では遠心後常温に1時間,3時間置いたところ,6 mLおよび2 mLのどちらもDIM総CO2値に有意な変動はなかった(Figure 4)。

Figure 4 

Effect of closed tube with time

The 2 mL and 6 mL of blood are collected into 6 mL vacuum tube. The Friedman’s test shows that there are not significant time-dependent changes in CO2 concentration (6 mL; p = 0.091, 2 mL; p = 0.165). N.S.: Not significant

一方,開栓し常温に放置すると,採血量に関わらず,測定値は有意な(6 mL; p < 0.001, 2 mL; p < 0.001)低下を示した(Figure 5)。さらに,開栓直後の測定値を基準とした場合,採血量が少ないほど,顕著に低下する傾向にあった。開栓3時間にて比較すると,規定量採血では15.2 ± 3.4%の低下に対して,規定量の1/3の2 mL採血では25.7 ± 6.4%低下した(Figure 6, Table 2)。

Figure 5 

Effect of opened tube with time

The 2 mL and 6 mL of blood are collected into 6 mL vacuum tube. The Friedman’s test shows that there are significant time-dependent changes in CO2 concentration (6 mL; p < 0.001, 2 mL; p < 0.001). *: p < 0.05 was considered significant.

Figure 6 

The difference of time dependency in CO2 concentration between blood collection volumes

The 2 mL and 6 mL of blood are collected into 6 mL vacuum tube (n = 5). *: p < 0.05 was considered significant.

Table 2  A decrease of CO2 concentration after opening
6 mL(規定量)採血 2 mL(少量)採血 p
開栓30分 −4.2 ± 2.2% −3.9 ± 3.1% 0.917
開栓1時間 −6.4 ± 1.9% −8.4 ± 4.9% 0.531
開栓2時間 −11.2 ± 2.5% −16.7 ± 5.2% 0.095
開栓3時間 −15.2 ± 3.4% −25.7 ± 6.4% 0.022

The 2 mL and 6 mL of blood are collected into 6 mL vacuum tube. There is a significant difference between 2 mL and 6 mL in 3 hours (p = 0.022). The rate of change is shown by Mean ± SD.

IV  考察

現在,我が国における重炭酸測定は血液ガス分析で算出する方法が主流である。しかし,当院では静脈血を採血し,酵素法にて血清総CO2を測定し,月700件前後の依頼がある需要の高い検査である。エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013において,慢性腎不全に合併する代謝性アシドーシスは補正することが推奨されている2)。そのため,血中重炭酸濃度の評価として,腎臓内科から需要の高いものと考えられる。

酵素法による血清総CO2と血液ガス分析のHCO3およびtCO2の相関性は共に良好であった。また,偏位図分析でも大きな差は認められず,良好な一致性を示した。酵素法では,H2CO3を含めてHCO3を総CO2濃度として測定しているために純粋なHCO3濃度ではない。しかし,血中のH2CO3はHCO3の約1/20であるため3),HCO3と総CO2の差は僅かであり,HCO3として,実用上に問題はない。以上より,生化学分析装置による血清総CO2測定は血液ガス分析のHCO3と遜色ない値であった。

血清総CO2測定は採血量や開栓からの放置時間により値が影響されることを確認した。採血量の影響については規定量より少ない場合,血清総CO2値は低値であった。この結果は採血管サイズの異なる古川ら4)の報告と同様であったことから,採血管サイズに関わらず,採血管上部の陰圧空間に曝されると,直ちに拡散が起こるものと思われる。

採血管の未開栓・開栓状態と放置時間の影響では採血量に関わらず,未開栓であれば,常温に3時間放置しても変動はなかった。一方,開栓した場合,開栓から血清総CO2値は低下傾向であった。この結果は空気に曝されると大気中へ次第にCO2が拡散していくことに起因すると考えられる。さらに,その影響は少量採血で顕著であった。これは体積当たりの空気に触れる表面積が大きいためと思われる。従って,検体の取り扱いとしては採血管規定量の採血および開栓後は直ちに測定を開始することが望ましい。

V  まとめ

酵素法による血清総CO2値と血液ガス分析によるHCO3およびtCO2とを比較したところ,良好な一致性を示した。生化学検査用の採血で電解質の分析に加え,重炭酸が測定できることによって,アニオンギャップが算出できることは乳酸やケント体蓄積による代謝性アシドーシスの検出に有用である。また,重炭酸測定に血清を用いることで採血量の低減や省力化ができ,利便性の高い検査となり得る。しかし,採血量や開栓による影響を受けるため,採血管規定量の採血および開栓後は直ちに測定することが望ましい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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