Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Effects of handling micropipettes on dispensing accuracy and results of a questionnaire survey of each institution
Satoko FURUKAWAKatsunori KOHGUCHIKimie OKAZAKIMutsuko MORINAGAManabu OOKUBOTakayuki TSUJIOKAKaoru TOHYAMA
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2018 Volume 67 Issue 1 Pages 44-51

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Abstract

マイクロピペットは検体の分注・希釈,凍結乾燥タイプのキャリブレーターやコントロールの溶解・調整を行う際に使用されている。マイクロピペットは操作が簡単で,素早く指定量を採取できるが,分注精度を保つには基本的な操作方法に準じて使用する必要がある。今回,マイクロピペットの操作方法が分注精度に及ぼす影響の検証および各施設における操作方法の現状把握のためのアンケート調査を行った。マイクロピペット容量規格の選択については,採取する液量がマイクロピペットの全容量に近いマイクロピペットを選択した方が,正確性・再現性ともに良好であった。また,プレウェッティングを行うことで,分注精度が高まることが確認された。分注方法による正確性についてはフォワードピペッティングの方が良好であり,理論値に対してフォワードピペッティングは低め,リバースピペッティングは高めの傾向であった。また,再現性については水ではフォワードピペッティング,血清ではリバースピペッティングの方が良好な結果となった。したがって,基本的にはフォワードピペッティングとし,粘性のある試料で精密度を保ちたい場合はリバースピペッティングとするのが望ましいと考えられる。試料の温度が室温よりも極端に低い場合,分注精度に影響が出ることも確認された。アンケート調査では各施設で操作方法に違いがあることが明らかとなり,今後,各施設における基本的操作方法の順守が望まれる。

I  はじめに

マイクロピペットはホールピペットやメスピペットなどのガラス体積計に比較し,操作が簡単で,素早く指定量を採取できるため,多くの検査室で使用されている。しかし,マイクロピペットはガラス体積計に比べ容量が変化する要因が多く,分注精度を保つには取扱説明書の基本的な操作方法に準じて使用する必要がある1)。今回,マイクロピペットの操作方法が分注精度に及ぼす影響の検証および各施設における操作方法の現状把握のためのアンケート調査を行った。

II  対象および方法

1. 操作方法が分注精度に及ぼす影響

対象は当院で実習を行っている臨床検査科学生4‍名とし,試料には滅菌精製水(水)および自家製‍POOL血清(血清)を用いた。マイクロピペットはエッペンドルフ社のリファレンス4910(容量可変式タイプ100~1,000 μL)を使用した。分注方法はTable 1に示す,基本的な操作方法に準じて行った。プレウェッティングとは液体を量り取る前に,液体をチップ内に数回往復させ,チップの内壁を液体でなじませる作業である。また,分注方法は試料を1段階吸い上げ,全量排出するフォワードピペッティングとした。採取した水および血清は精密天秤で秤量し,重量を計測した。検証時の室温は24℃であり,水1 mL = 0.997 gとなる。また,血清はメスフラスコで秤量した結果,1 mL = 1.022 gであった。使用するマイクロピペットは検証を行う前にメーカーによる検定を行い,正確性と再現性が保たれていることを確認した。なお,本研究は川崎医科大学・同附属病院倫理委員会の承認(受付番号:2609)を得て行った。

Table 1  基本的な操作方法
①ピペットにチップを装着する
②ピペットの容量設定を行う
(目的の容量より大きい数字にしてから合わせる)
③ピペットを垂直に持つ
④チップをわずかに液体に浸す
⑤ボタンをゆっくり上げ,液体をスムーズに吸引する
⑥チップを3回程度プレウェッティングする
⑦液体が確実にチップの中に入るよう,1~3秒間そのまま待つ
⑧チップをゆっくり引き上げる
⑨チップの先端を容器の内壁に当てて拭う

1) マイクロピペット容量規格の選択による違い

リファレンス4910(容量可変式タイプ100~1,000 μL)とリファレンス2V(容量可変式タイプ10~100 μL)を用い,水100 μLを10回分注した。各マイクロピペットにおける4名それぞれの平均値および変動係数(CV)を求めた。

2) プレウェッティングの回数による違い

水および血清500 μLをプレウェッティングの回数を0~10回まで変化させ,分注した。基本的な操作方法であるプレウェッティングを3回行った時の重量を基準(100%)とし,各回数での4名の平均変化率を求めた。

3) 分注方法およびピペットの角度による違い

水および血清500 μLをフォワードピペッティングとリバースピペッティングでそれぞれ10回分注した。なお,リバースピペッティングとは2段階で吸い上げ,1段階排出し,チップ内に試料が残る方法である。さらにピペットを45度に傾けて同様の方法で分注した。各分注方法およびピペットを45度に傾けた場合の4名それぞれの平均値およびCVを求めた。

4) 試料(水)の温度による違い

4℃の水500 μLをチップの交換を行わずに,連続10回分注し,各回数での4名の平均値を求めた。

2. アンケート調査

岡山県近隣施設の91施設を対象としてマイクロピペットに関するアンケートを実施した。

III  結果

1. 操作方法が分注精度に及ぼす影響

1) マイクロピペット容量規格の選択による違い

リファレンス4910を使用し10回分注を行った場合の重量平均は0.0953~0.0972 g,CVは0.32~0.68%,リファレンス2Vを使用した場合は,平均が0.0983~0.0987 g,CVは0.21~0.31%であった(Figure 1Table 2)。

Figure 1 

マイクロピペット容量規格の選択による違い

リファレンス4910とリファレンス2Vを用い,滅菌精製水100 μLを10回分注した時の4名それぞれの重量を示した。

Table 2  マイクロピペット容量規格の選択による違い
リファレンス4910(100~1,000 μL) リファレンス2V(10~100 μL)
学生1 学生2 学生3 学生4 学生1 学生2 学生3 学生4
1 0.0957 0.0956 0.0972 0.0955 0.0983 0.0982 0.0982 0.0992
2 0.0955 0.0959 0.0969 0.0952 0.0980 0.0991 0.0986 0.0986
3 0.0958 0.0942 0.0969 0.0957 0.0985 0.0983 0.0984 0.0986
4 0.0963 0.0952 0.0978 0.0959 0.0983 0.0982 0.0980 0.0983
5 0.0951 0.0955 0.0970 0.0958 0.0987 0.0982 0.0982 0.0987
6 0.0951 0.0955 0.0976 0.0952 0.0983 0.0986 0.0986 0.0982
7 0.0950 0.0959 0.0971 0.0943 0.0976 0.0986 0.0985 0.0986
8 0.0947 0.0961 0.0971 0.0944 0.0983 0.0983 0.0984 0.0989
9 0.0957 0.0958 0.0975 0.0949 0.0984 0.0984 0.0986 0.0985
10 0.0946 0.0958 0.0970 0.0963 0.0983 0.0983 0.0983 0.0990
mean 0.0954 0.0956 0.0972 0.0953 0.0983 0.0984 0.0984 0.0987
max 0.0963 0.0961 0.0978 0.0963 0.0987 0.0991 0.0986 0.0992
min 0.0946 0.0942 0.0969 0.0943 0.0976 0.0982 0.0980 0.0982
SD 0.00054 0.00054 0.00031 0.00065 0.00029 0.00028 0.00020 0.00031
CV 0.56 0.57 0.32 0.68 0.30 0.29 0.21 0.31

リファレンス4910とリファレンス2Vを用い,滅菌精製水100 μLを10回分注した時の4名それぞれの重量,平均値,最大値,最小値,SDおよびCVを示した。

2) プレウェッティングの回数による違い

水における各プレウェッティング回数での4名の平均変化率は0回が99.5%,1回:99.8%,2回:99.9%であり,4回目以降は100~100.2%であった。血清では0回が97.0%,1回:99.7%,2回:99.9%であり,4回目以降は100~100.3%であった(Figure 2)。

Figure 2 

プレウェッティングの回数による違い

滅菌精製水とPOOL血清500 μLをプレウェッティングの回数を0~10回まで変化させ,分注した。プレウェッティングを3回行った時の重量を基準(100%)とし,各プレウェッティング回数における4名それぞれの変化率を示した。

3) 分注方法およびピペットの角度による違い

水においてフォワードピペッティングで10回分注を行った場合の平均重量は0.4924~0.4928 g,CVは0.12~0.17%,マイクロピペットを45度に傾けた場合の平均重量は0.4959~0.4984 g,CVは0.10~0.28%であった。リバースピペッティングでは平均重量は0.5045~0.5084 g,CVは0.22~0.55%,マイクロピペットを45度に傾けた場合の平均重量は0.5023~0.5086 g,CVは0.14~0.31%であった。また,血清ではフォワードピペッティングの平均重量は0.5044~0.5133 g,CVは0.40~0.68%,マイクロピペットを45度に傾けた場合の平均重量は0.5138~0.5240 g,CVは0.33~0.77%であった。リバースピペッティングでは平均重量は0.5219~0.5237 g,CVは0.14~0.36%,マイクロピペットを45度に傾けた場合の平均重量は0.5234~0.5279 g,CVは0.31~0.46%であった(Figure 3, Table 3)。

Figure 3 

ピペッティング方法およびピペットの角度による違い

滅菌精製水およびPOOL血清500 μLをフォワードピペッティングとリバースピペッティングでピペットの角度を90度と45度にし,それぞれ10回分注した時の4名それぞれの重量を示した。

Table 3 

ピペッティング方法およびピペットの角度による違い

滅菌精製水
フォワードピペッティング リバースピペッティング
ピペットの角度 90度 ピペットの角度 45度 ピペットの角度 90度 ピペットの角度 45度
学生1 学生2 学生3 学生4 学生1 学生2 学生3 学生4 学生1 学生2 学生3 学生4 学生1 学生2 学生3 学生4
10.49360.49160.49250.49270.49500.49590.49790.49650.50570.50550.50540.50210.50150.50110.50570.5094
20.49240.49170.49280.49280.49480.49720.49790.49700.50160.50530.50650.50290.50380.50170.50620.5090
30.49150.49280.49230.49320.49570.49620.49890.49720.50900.50630.50590.50540.50410.50300.50530.5087
40.49360.49370.49340.49290.49700.49700.49880.49650.50820.50410.50550.50430.50350.50300.50760.5095
50.49210.49290.49240.49190.49750.49740.49900.49590.50880.50530.50700.50560.50300.50250.50530.5060
60.49420.49230.49230.49290.49600.49790.49850.49650.51070.50540.50940.50510.50370.50350.50280.5092
70.49250.49400.49290.49290.49660.49680.49820.49500.51070.50710.50750.50390.50480.50180.50340.5098
80.49280.49190.49130.49130.49780.49790.49850.49270.50950.50730.50710.50600.50550.50230.50550.5094
90.49240.49330.49290.49230.49750.49770.49860.49690.50940.50770.50770.50540.50650.50240.50610.5056
100.49270.49310.49300.49120.49800.49750.49750.49500.51040.50670.50650.50470.50430.50190.50300.5098
mean0.49280.49270.49260.49240.49660.49720.49840.49590.50840.50610.50690.50450.50410.50230.50510.5086
max0.49420.49400.49340.49320.49800.49790.49900.49720.51070.50770.50940.50600.50650.50350.50760.5098
min0.49150.49160.49130.49120.49480.49590.49750.49270.50160.50410.50540.50210.50150.50110.50280.5056
SD0.000810.000830.000570.000710.001160.000690.000490.001370.002810.001130.001190.001260.001370.000720.001550.00154
CV0.160.170.120.140.230.140.100.280.550.220.240.250.270.140.310.30
POOL血清
フォワードピペッティング リバースピペッティング
ピペットの角度 90度 ピペットの角度 45度 ピペットの角度 90度 ピペットの角度 45度
学生1 学生2 学生3 学生4 学生1 学生2 学生3 学生4 学生1 学生2 学生3 学生4 学生1 学生2 学生3 学生4
10.51070.50810.51430.50010.51420.51660.51990.51470.52320.52380.52560.52280.52800.52060.53040.5252
20.51410.50930.51060.50370.52070.51110.52230.51220.52460.52440.52420.52250.52780.52380.52830.5258
30.51050.50780.51660.50220.51970.50970.52880.51260.52610.52550.52360.52120.52770.52630.52680.5227
40.51220.50640.51410.50320.51180.51080.51990.51320.52490.52170.52450.52170.53090.52680.52450.5223
50.51370.50000.50770.50240.51820.51320.52990.51390.52470.52360.52130.52190.52650.52610.52830.5222
60.51310.50670.51490.50300.51680.51210.52680.51450.52210.52360.52480.52200.52410.52360.52660.5234
70.51240.50990.51250.50350.52080.52090.52310.51350.52260.52500.52240.52160.52710.52660.52990.5216
80.51640.50680.50830.51170.51350.51170.52190.51400.52300.52280.52450.52050.53090.52590.52800.5254
90.51340.50400.51030.50610.52280.51190.52400.51790.51980.52420.52340.52290.52780.52360.52410.5236
100.51650.50860.51470.50850.51200.51950.52330.51220.52160.52260.52280.52190.52800.52450.52330.5214
mean0.51330.50680.51240.50440.51710.51380.52400.51390.52330.52370.52370.52190.52790.52480.52700.5234
max0.51650.50990.51660.51170.52280.52090.52990.51790.52610.52550.52560.52290.53090.52680.53040.5258
min0.51050.50000.50770.50010.51180.50970.51990.51220.51980.52170.52130.52050.52410.52060.52330.5214
SD0.002040.002910.003020.003420.003980.003870.003460.001670.001860.001140.001280.000730.001980.001940.002420.00161
CV0.400.570.590.680.770.750.660.330.360.220.240.140.370.370.460.31

滅菌精製水およびPOOL血清500 μLをフォワードピペッティングとリバースピペッティングでピペットの角度を90度と45度にし,それぞれ10回分注した時の4名それぞれの重量,平均値,最大値,最小値,SDおよびCVを示した。

水および血清の理論値に対する相対%はフォワードピペッティングが水で98.8~98.9%,血清が98.7~100.5%,リバースピペッティングでは水が101.2~102.0%,血清で102.1~102.5%となった。

4) 試料(水)の温度による違い

4℃の水を分注した時の4名の平均重量は1回目が0.5073 g,2回目以降0.4929~0.4949 gであった(Figure 4)。

Figure 4 

試料(滅菌精製水・4°C)の温度による違い

4℃の滅菌精製水500 μLをチップの交換を行わずに,連続10回分注した時の各回数における4名それぞれの重量を示した。

2. アンケート調査

アンケート調査は81施設より回答が得られた。その結果,マイクロピペットの操作方法を学んだことがある施設は54.3%,ない施設は43.2%であり,操作方法のマニュアルを整備している施設は2.5%,整備していない施設が93.8%であった。チップについては純正品のチップを使用している施設が49.4%,使用していない施設は48.2%であった。定期点検を行っている施設は28.9%であり,そのうち12.0%がメーカーでの点検,16.9%は自施設で点検を行っていた。操作方法に関しては,粘性のある試料でリバースピペッティングを行っている施設は38.3%,行っていない施設が56.8%であった。チップの先を溶液に浸す深さは5 mm以下が56.8%,1 cm以下が25.9%,3 mm以下が12.3%であり,プレウェッティングを行っている施設は44.0%であった。また,吸い上げ後のチップの外側についた溶液の処理方法は,ティッシュ等で拭う施設が35.7%と最も多く,次いで何もしないが29.8%,管壁で拭うが28.6%であった(Figure 5)。

Figure 5 

アンケート調査

岡山県近隣施設の91施設を対象としてマイクロピペットに関するアンケートを実施し,81施設より得られた回答結果を示した。

IV  考察

現在,臨床検査の現場において,マイクロピペットは検体の分注・希釈,凍結乾燥タイプのキャリブレーターやコントロールの溶解・調整を行う際に使用されている。マイクロピペットは誰でも簡便に使用することができる便利な道具であるが,本来の性能を発揮するためには正しく使用する必要がある。そこで,操作方法の違いが分注精度に及ぼす影響について検証を行った。

まず,マイクロピペット容量規格の選択について,100 μLを採取する場合で検証した。リファレンス4910(100 μLが容量の下限)の分注重量の平均値はリファレンス2V(100 μLが容量の上限)に比較し低値であり,操作者間での差も大きい傾向を認めた。容量上限であるリファレンス2Vで分注した方が,水100 μLの重量である0.0997 gとの差が小さく,再現性も良好であった。また,エッペンドルフ社が公開しているテクニカルデータでも容量可変式タイプリファレンス2(10~100 μL)で10 μL,50 μL,100 μLを分注した場合の系統的誤差はそれぞれの±3.0%,±1.0%,±0.8%となっており,100 μLにおける誤差が最も小さくなっている。したがって,採取する液量がマイクロピペットの全容量に近いマイクロピペットを選択した方が,正確性・再現性ともに高まることが確認された。採取する試料が全容量に近いほど,マイクロピペット内およびチップ内の空気の量が少なくなることが要因と考えられた。

次にプレウェッティングの効果について確認した。基本的な操作方法である3回プレウェッティングを行った場合と比較して,プレウェッティングを行わなかった場合は,水で0.5%の低下,血清で3.0%の低下を認め,水よりも粘性のある血清の方がより低下傾向となった。特に粘性の高い試料についてはプレウェッティングを行うと分注精度は高まることが確認された。また,プレウェッティング回数が1~2回では−0.1~−0.3%,4~10回では0.0~+0.3%の変化率であること,エッペンドルフ社の使用法に関する冊子(Eppendorf Liquid Handling)においても,プレウェッティングを3回以上行うと分注量が安定し精度を高めると記載されていることから,分注効率を考慮し,プレウェッティング回数は3回程度が妥当であると考えられた。

分注方法の違いによる正確性についてはフォワードピペッティングの方が良好であり,理論値に対してフォワードピペッティングは低め,リバースピペッティングは高めの傾向であった。リバースピペッティングはあらかじめ規定量より多めに吸引しているため,分注後もチップ内に試料が残っている状態となる。したがって,最後の一滴を排出する際にチップ内の試料との間に表面張力が働き,多めに排出されるためと思われた。また,再現性については水ではフォワードピペッティングが,血清ではリバースピペッティングの方が良好な結果となった。特に,血清のフォワードピペッティングではプレウェッティングを3回行っても再現性が不良で,操作者間での差も大きい結果となった。粘性のある試料ではチップの先に試料が残りやすいため,リバースピペッティングを行うことで再現性が保たれると推察された。したがって,基本的にはフォワードピペッティングとし,粘性のある試料で精密度を保ちたい場合はリバースピペッティングとするのが望ましいと考えられる。

マイクロピペットを45度に傾けた場合,水,血清ともにフォワードピペッティングでは90度の場合より多く分注されたが,リバースピペッティングではあまり差を認めなかった。マイクロピペットを45度に傾けた場合は,チップ内に試料を吸引した際の液面の高さが低くなる。したがって,90度の場合より試料を吸引する力が弱くて済むため,多めに吸引されると考えられる。フォワードピペッティングは全量を排出するため,多めに吸引された試料が排出されるが,リバースピペッティングでは排出される試料の量はマイクロピペット内部の空気量に依存するため,あまり差が出なかったと思われた。

試料の温度による影響については4℃の水で検証した。1回目の平均重量は0.5073 gであり,4℃時の水の重量0.5 mL = 0.4995 gに比較し,多めに分注されていた。4℃の水を吸引した場合,マイクロピペット内のエアクッションが冷やされて体積が減り,その減少した分,設定量よりも多めに吸引されるためである。しかし,分注を続けるとエアクッションが一定の温度となり,エアクッションの体積変化は少なく,分注量は本来の設定量に近づくと考えられた。このように試料の温度が室温よりも極端に低い場合,分注精度に影響が出るため,試料は原則として室温に戻すことが望ましい。しかし,室温と試料の温度に差がある場合でもプレウェッティングの回数を増やすことで影響を少なくすることが可能であると思われた。

アンケート調査ではマイクロピペットの操作方法を学んだことがある施設は約半数であり,そのほとんどが学生時代に学んだとの回答であった。また,操作方法に関するマニュアルを整備している施設は2.5%とわずかであり,各施設および各個人で操作方法に違いがあることが推測された。マイクロピペットは純正品のチップを使用することで再現性と正確性が高まるとされているが,半数の施設ではコスト削減のため汎用チップが使用されていた。汎用チップを使用する場合,各施設のマイクロピペットと汎用チップの組み合わせで,どの程度の正確性,再現性が保たれているか,確認しておく必要があると思われた。さらに,マイクロピペットの高い精度を保つために,定期的なメンテナンスは不可欠であるが,約7割の施設で定期点検は行われていなかった。自施設のマイクロピペットの状態を確認しておくことは重要と考えられた。

操作方法に関しては,粘性のある試料でリバースピペッティングを行っている施設は約4割であった。操作方法が分注精度に及ぼす影響の検証ではフォワードピペッティングよりもリバースピペッティングの方が多めに分注され,血清検体の分注ではフォワードピペッティングの再現性が不良で,操作者間での差も大きいことが明らかとなっている。各分注方法の特徴を理解して使い分けることが必要であると思われた。

基本的な操作方法ではチップはわずかに液体に浸し,3回程度プレウェッティングをし,チップの先は内壁に当てて拭うとなっている。しかし,アンケート調査ではチップの先を溶液に浸す深さは5 mm以下の施設が約7割,プレウェッティングを行っている施設は約4割であり,チップの外側についた溶液の処理を管壁で拭う施設は約3割であった。基本的な操作方法に準じている施設は思いのほか少なく,今後の周知が必要と思われた。

V  まとめ

現在,臨床検査値の測定誤差は非常に小さく,厳密な管理が行われている。この精度を維持するためには,検体の希釈,凍結乾燥タイプのキャリブレーターやコントロールの溶解・調整などを行う際の分注精度が重要なものとなる。しかし今回の検討により,マイクロピペットの分注精度は操作方法により変動し,操作方法は施設により異なることが明らかとなった。今後,各施設において基本的操作方法の順守が望まれる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)   宮下  文秀:「質量,容量の正確な計量」,ぶんせき,2008; 1: 2–10.
 
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