Japanese Journal of Medical Technology
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Original Article
Prognostic prediction of Stanford type A acute aortic dissection using D-dimer
Yuki OKAMURATakeshi HASHIMOTOShingo NAMINORie YAMAMOTOKazuha YOSHIDAKatsuyuki UMEBASHIMasatomo TOMIZONOShinya MOTOYAMA
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2018 Volume 67 Issue 1 Pages 1-6

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Abstract

【背景】Stanford A型急性大動脈解離(acute aortic dissection; AAD)は大動脈解離の中でも上行大動脈に解離が及ぶ予後不良な疾患である。AADにおけるD-dimerは他疾患との鑑別に用いられている。Stanford A型AADの予後予測として報告は少ない。本研究はD-dimerによるStanford A型AADの予後予測評価としての有用性を研究した。【方法,結果】対象はStanford A型AAD患者103名(平均年齢69.8 ± 13.0歳,男性41名,女性62名),平均D-dimerは34.3 ± 56.3 μg/mLであった。死亡群は生存群と比較してD-dimerが上昇していた(36.8 μg/mL vs 8.5 μg/mL , p < 0.001)。ROC解析を用いたStanford A型AADにおける生存群と死亡群のD-dimerの最適カットオフ値は9.71 μg/mLであった。Kaplan-Meier解析にて観察期間での死亡率は,9.71 μg/mL以上の患者は9.71 μg/mL未満の患者より有意に高かった(p < 0.001)。【結論】D-dimerの上昇はStanford A型AADの予後予測評価に有用である。

I  序文

急性大動脈解離(acute aortic dissection; AAD)は大動脈壁が中膜レベルで二層に剥離し,二腔になった状態で,急激な胸背部痛を主訴に発症する。大動脈弁閉鎖不全や解離の進展に伴う冠動脈圧迫による心筋虚血,心嚢液貯留による心タンポナーデなど多様な合併症を呈する重篤な疾患である。大動脈解離の急性期間は発症2週間で,この期間にAADの約70~90%が死亡すると言われている1)。なかでもStanford A型AADは,症状の発症から1時間あたり1~2%の致死率があると報告されている極めて予後不良な疾患である1),2)

D-dimerは線溶系亢進マーカーであり,DICや大動脈瘤,肺血栓塞栓症で上昇する3)。AADにおいてD-dimerは高値になることから他疾患との鑑別に有用との報告があり4)~7),さらに,AADにおけるD-dimerは予後予測にも有用との報告がある8),9)。しかし,AADのなかでも特に予後不良であるStanford A型AADのみでの報告は少ない。今回Stanford A型AADと診断された患者を対象として,D-dimerによる予後予測に関する研究を行った。

II  方法

1. 対象

当院にて2012年7月から2017年4月までにStanford A型AADと診断された患者103名を対象として後方視的に研究した。本研究において,来院時心肺停止及び来院時の血液検査結果のない患者は対象から除外した。予後予測における観察期間は,AADの急性期とされている来院後2週間とした。

2. AADの診断

AADの確定診断は,放射線科医による造影CTの読影にて診断した。偽腔開存型(以下,開存型)と偽腔閉塞型(以下,非開存型)の分類は,日本循環器学会大動脈瘤・大動脈解離診療診断ガイドライン1)に基づき,真腔と偽腔に交通を認めるものを開存型,認めないものを非開存型とした。また,一部血栓閉鎖及び遺残解離は開存型として分類した。発症時間は,患者が胸背部痛の症状を自覚した時刻を推定発症時刻とし,推定発症時刻から緊急搬送時までの時間とした。

3. 血液検査

血液検査は救急搬送時に救急外来で採取された検体を使用し,凝固・線溶検査は3.2%クエン酸ナトリウム添加血漿を用いて,1,880 G,10分の遠心条件で測定した。測定機器はLSIメディエンス社製「STACIA」,測定試薬はD-dimer「エルピアエースD-DダイマーII」,APTT「ヒーモスアイエル シンサシルAPTT」,PT「ヒーモスアイエル リコンビプラスチン」を用いた。生化学・血球数算定検査の測定機器は,日本電子社製「BM-6050」,HORIBA社製「Pentra 80」を使用した。

4. 統計解析

統計学的解析には,統計解析ソフト「SPSS version 21」を使用した。2群間比較にはFisherの正確検定,Mann-Whitney U検定,血液検査と発症時間の相関関係の検討にSpearmanの順位相関関係を用いた。ROC解析により,D-dimerの最適カットオフ値および感度,特異度を算出した。予後予測の検討にKaplan-Meier検定を使用した。危険率5%未満を統計学的有意差とした。

なお,本研究は国立病院機構鹿児島医療センター倫理審査委員会の承認を得て行った(No. 28-90)。

III  結果

1. 患者背景

対象患者の患者背景と血液検査結果を示す(Table ‍1)。対象患者の平均年齢は69.8 ± 13.0歳であり,男性41名,女性62名であった。開存型は69名,非開存型は34名であった。観察期間2週間での死亡者は26名(術前死亡6名,術中死亡1名,術後死亡19名)であり,全てAADに起因する死亡だった。

Table 1  Patient characteristics
Gender (M/F) 41/62
Age (yrs) 69.8 ± 13.0
Communicating/non-communicating 69/34
Survival/non-survival 77/26
non-survival (n = 26)
 preoperative death 6
 operational death 1
 postoperative death 19
AST (U/L) 66.7 ± 157.8
ALT (U/L) 55.6 ± 136.2
ALP (U/L) 234.2 ± 85.0
CK (U/L) 132.9 ± 144.7
CRP (mg/dL) 2.7 ± 4.8
WBC (×109/L) 11.2 ± 4.6
PT (sec) 13.5 ± 2.9
APTT (sec) 31.4 ± 5.8
D-dimer (μg/mL) 34.3 ± 56.3

Value are Mean ± SD.

2. 生存群・死亡群の比較

観察期間2週間での生存群と死亡群の比較を示す(Table 2)。開存型の割合は生存群と比較して死亡群で高かった(58.4% vs 92.3%, p < 0.01)。血液検査において,生存群と死亡群で有意差のあった項目(中央値)は,D-dimer(8.5 μg/mL vs 36.8 μg/mL, p < 0.001)であった。年齢,性別,その他の血液検査項目には有意差を認めなかった。

Table 2  Comparison with survival group and non-survival group in patients with Stanford type A AAD
survival (n = 77) non-survival (n = 26) p-value
Gender (M/F) 77 (30/47) 26 (11/15) 0.946
Age (yrs) 71 (60–81) 75 (61–80) 0.768
Type
 Communicating (n = 69) 45 (58.4%) 24 (92.3%) < 0.01
 Non-communicating (n = 34) 32 (41.6%) 2 (7.7%)
AST (U/L) 27 (22–40) 25 (20–33) 0.432
ALT (U/L) 20 (15–35) 23 (13–30) 0.632
ALP (U/L) 215 (176–268) 216 (190–266) 0.888
CK (U/L) 98 (65–139) 94 (56–147) 0.559
CRP (mg/dL) 0.19 (0.06–3.06) 0.33 (0.08–3.09) 0.824
WBC (×109/L) 10.5 (8.1–13.2) 11.9 (8.5–13.6) 0.406
PT (sec) 12.7 (11.8–13.8) 13.5 (12.1–14.4) 0.291
APTT (sec) 30.4 (27.1–32.9) 31.3 (28.3–37.6) 0.071
D-dimer (μg/mL) 8.5 (4.1–22.7) 36.8 (13.2–90.2) < 0.001

Value are Median (25th–75th). AAD; acute aortic dissection.

今回研究した血液検査項目において,C反応性蛋白(C-reactive protein; CRP)以外は発症時間との明らかな相関関係は認めなかった(Table 3)。さらに,発症時間とD-dimerの影響を確認するため,発症6時間を境に生存群と死亡群のD-dimerの比較をした(Table 4)。解離発症後6時間以内,6時間以降の両時間において,死亡群は生存群と比較して有意にD-dimerが高値であった。

Table 3  Correlation between laboratory value and time from symptom onset in Stanford type A AAD
r p
AST (U/L) −0.001 0.993
ALT (U/L) 0.034 0.731
ALP (U/L) 0.136 0.172
CK (U/L) −0.171 0.084
CRP (mg/dL) 0.524 < 0.01
WBC (×109/L) −0.189 0.056
PT (sec) 0.253 0.010
APTT (sec) 0.129 0.193
D-dimer (μg/mL) −0.204 0.039

AAD; acute aortic dissection. Correlation of laboratory data with time of symptom onset in patients with Stanford type A AAD.

Table 4  Comparison of D-dimer value with from symptom onset time in patients with Stanford type A AAD
time (hour) overall survival non-survival p-value
≤ 6 (n = 58) 15.6 (5.5–44.5) 13.3 (3.8–26.6) 36.9 (13.8–83.8) 0.01
> 6 (n = 45) 8.4 (4.6–19.8) 7.7 (4.5–14.5) 19.8 (9.7–116.5) < 0.05

AAD; acute aortic dissection. D-dimer Value are Median (25th–75th). p-value; survival vs non-survival.

3. D-dimerの生存群と死亡群の最適カットオフ値の検討

D-dimerにおける,観察期間2週間での生存群と死亡群のROC解析結果を図に示す(Figure 1)。ROC曲線から得られたD-dimerの最適カットオフ値は9.71 μg/mLであり,AUC 0.730(95%CI 0.619–0.841),感度84.6%,特異度53.3%,陽性的中率37.9%,陰性的中率91.1%であった。

Figure 1 

Receiver-operating characteristics (ROC) curve of calculation of optimal cut-off value of D-dimer in patients with Stanford type A AAD without survival.

4. 観察期間2週間での死亡率との関連

ROC曲線から得られた最適カットオフ値9.71 μg/mLを用いて,観察期間2週間の生存曲線の結果を示す(Figure 2)。来院時のD-dimer値が9.71 μg/mL以上の患者は9.71 μg/mL未満の患者と比較して,有意に死亡率の上昇を認めた(p < 0.001)。

Figure 2 

Kaplan-Meier curves for cumulative survival.

Blue, value of the D-dimer more than 9.71 μg/mL. Black, value of the D-dimer lower than 9.71 μg/mL.

IV  考察

本研究ではD-dimerとStanford A型AAD患者において,以下のことが明らかとなった。①D-dimerは発症時間との有意な相関関係は認めなかった。②観察期間2週間での生存群と死亡群の比較では,死亡群はD-dimerが上昇し,開存型の割合が高かった。③来院時のD-dimerが高値の患者は,2週間以内の予後が不良だった。

今回の研究では,D-dimer と発症時間との相関関係は認めなかった。AADにおけるD-dimerと発症時間との相関関係については様々な報告がある。Eggebrechtら10)はAADの発症時間とD-dimerに相関があると報告している。一方で,Hazuiら11)の報告では相関関係がないと報告している。本研究では,発症時間と有意な相関を示さなかった。Suzukiら6)は,解離発症後6時間以内がD-dimer上昇のピークと報告している。本研究でも,全ての患者で発症6時間以降に比較して6時間以内でのD-dimerは高値であった。しかし,死亡群でのD-dimer値は,発症6時間以降または6時間以内でも,生存群と比較して有意に高値であった。これは,予後不良群の解離に伴う線溶系異常亢進が,D-dimer高値を持続させたと推測される。本研究において,発症時間に関係なく,死亡群はD-dimerが高かった。

本研究結果において,生存群と死亡群での比較では,死亡群は開存型の割合が高く,D-dimerが上昇していた。以前の報告よりAADにおける開存型は,非開存型と比して予後不良であることは知られている12)~14)。Stanford A型AADによる解離の進展に伴う広範な血管壁の破綻は,凝固能活性化のトリガーとなり広範囲な血栓形成を誘発する9),10)。この亢進した凝固能活性化により偽腔内は血栓化するが,解離範囲及びリエントリーが大きい場合は偽腔内に多量の血液が流入する。そのため,凝固系より線溶系が亢進するため偽腔内は血栓化せずに開存型を呈する。したがって,死亡群でD-dimerが上昇していた要因は,この偽腔内の線溶系亢進が関与していると考えられる。さらに,線溶系の異常活性は急性期DICや全身性炎症反応を惹起するといわれており,死亡率を上昇させる要因になると考えられる1),10)

本研究において,ROC解析による生存群と死亡群のD-dimerの最適カットオフ値は9.71 μg/mLとなった。Wenら8)の報告によると,AADの院内死亡率のカットオフ値としてD-dimer ≥ 5.67 μg/mLとの報告がある。この報告では対象患者がAADであり,疾患の対象範囲が広い。一方で,本研究は対象患者をStanford A型AADに限定し,最適カットオフ値を設定している。また,白血球(white blood cell; WBC)やCRPもStanford A型AADの予後予測マーカーとして有用であるといわれている15)。本研究では,WBCとCRPは生存群と死亡群で有意差を認めず,予後予測として有用なマーカーはD-dimerのみであった。Stanford A型AADはAADのなかでも特に予後不良であることから,型を限定した予後を予測することは非常に有用であると考える。

本研究において,D-dimerの上昇は,Stanford A型AAD患者の14日以内の死亡率と関連があり,予後予測に有用であると示唆された。Stanford A型AAD患者のD-dimer上昇群は,緊急手術前後の管理により慎重な配慮が必要かもしれない。

V  結論

本研究結果よりStanford A型AADにおける来院時D-dimerの値が上昇すると,急性期間での死亡率が高まることが明らかとなった。Stanford A型AADの予後予測にD-dimerが有用であることが示唆され‍た。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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