Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of unbound bilirubin concentration and total bilirubin/albumin ratio in infants at Gunma Children’s Medical Center
Nobuhisa TANAKAMasanori UEDA
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2018 Volume 67 Issue 2 Pages 164-169

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Abstract

当院に入院した新生児を対象に,アンバウンドビリルビン(unbound bilirubin,以下UB)値を後方視的に調査した。2011年~2015年にUBが分析された新生児は1,926名で,分析値が複数の場合には頂値を児のUB値とした。UB値は0.40~0.59 μg/dLが最多(36.6%)で,0.60 μg/dL以上は22.2%(427名),0.80 μg/dL以上は3.9%(74名)であった。UB値の日齢分布では,生後3日目が最も多かった(25.6%)。また,出生体重から分けた4群間でUB値を比較したところ,出生体重が大きい群の方が,UB値は高い傾向が認められた。得られたデータをもとに,UB値と他の検査項目との関連を検討した。その結果,間接ビリルビンの総ビリルビンに占める割合が50%以上に限定した上で,総ビリルビン/血清アルブミン比との相関が最も高かった。当比を用い,光線療法の一基準であるUB値0.60 μg/dL以上および交換輸血の一基準であるUB値0.80 μg/dL以上のカットオフ値を求めた。それぞれのカットオフ値は,前者で3.5 mg/g(感度93.1%,特異度77.6%),後者で4.0 mg/g(感度87.8%,特異度73.0%)であった。

はじめに

新生児領域では黄疸とりわけビリルビン毒性による核黄疸は重要な問題の一つである。評価・診断基準は未だ確立されていない状況下,アンバウンドビリルビン(unbound bilirubin,以下UB)値がより有用なパラメータ1)~5)と考えられている。一方で,全国の新生児医療施設のうち,黄疸評価にUB値を用いている施設は37%に過ぎないとの報告6)がある。分析装置を持たない施設が多いことが推測されることから,次善の策として日常的に得られる検査データを最大限活用することも視野に入れる必要がある。すなわち,一般的な生化学分析装置でも分析可能な総ビリルビン(total bilirubin,以下TB)値や,UBと関連の強いアルブミン(albumin,以下Alb)値および総ビリルビン/アルブミン比(以下B/A比)7),8)などが挙げられるが,前提として有用性や問題点を十分に把握しておくことは不可欠である。そこで,当院における新生児のUB値をまとめ,他の分析値との関連性を検討した。

I  方法

2011年1月1日~2015年12月31日までに当院に入院した新生児(生後28日未満)のUB値を後方視的に調査した。溶血等の不良検体を除くとともに,分析が複数回の場合は頂値を児のUB値とした。

まず,実態を把握するためUB値および日齢の分布を調べた。また,出生体重により1,000 g未満,1,000~1,499 g,1,500~2,499 g,2,500 g以上の4群に分けてUB値を比較した。

次に,UB分析時に血清中のTB,直接ビリルビン(direct bilirubin,以下DB),Albが分析されていた例をピックアップし,UB値との相関を検定した。間接ビリルビン(indirect bilirubin,以下IB)は計算(IB = TB − DB)で求めた。結果的に最もUB値と関連の強かった項目について,光線療法および交換輸血の一基準1),9)であるUB値0.60 μg/dL以上および0.80 μg/dL以上に相当するカットオフ値をROC曲線から求めた。

UBの分析にはArrows UB analyzer UA-2(アローズ)を,TB(ネスコートVL T-BIL,酵素法),DB(ネスコート D-BIL-VE,酵素法),Alb(Lタイプワコー ALB-BCP,BCP改良法)の分析には生化学的自動分析装置BM6050(日本電子)を用いた。

統計学的解析はStatcel3(オーエムエス出版)によりPeasonの相関係数およびSteel-Dwass法の多重比較検定を用い,有意水準は5%とした。

本研究は群馬県立小児医療センター倫理委員会の承認を得て行った。

II  結果

5年間にUBが分析されていた新生児は1,926名(男1,002名,女924名)であった。出生体重(n = 1,485)の中央値(範囲)は,2,434(364~4,602)g,在胎週数(n = 1,483)の中央値(範囲)は37(22~42)週であった。

UB値(各児の頂値)の分布は,0.40~0.59 μg/dLが最も多く36.6%を占めた。0.60 μg/dL以上は22.2%(427名),0.80 μg/dL以上は3.9%(74名)であった(Figure 1)。各児のUB値の頂値は日齢3が‍最‍多で,全体の25.6%(494名)であった(Figure 2)。出生体重で分けた4群の比較では,出生体重の大きい群の方がUB値が高い傾向がみられた(Figure 3)。Steel-Dwass法による多重比較検定では,1,000 g未満と1,000~1,499 gの2群,1,500~2,499 gと2,500 g以上の2群の間で有意差が認められなかった他は,各群間に有意差が認められた(p < 0.001)。

Figure 1 

Peak value of unbound bilirubin in 1,926 neonates

アンバウンドビリルビン値(頂値)の分布状況を示した。

Figure 2 

Postnatal days showing the peak value of unbound bilirubin in 1,926 neonates

アンバウンドビリルビン値が頂値を示した日齢の分布状況を示した。

Figure 3 

Mean value of unbound bilirubin in the four birth weight categories

出生体重で分けた4群ごとのアンバウンドビリルビン(頂値)の平均を示した。

UB値と他項目との関連性をみると,相関係数はいずれの項目とも0.5未満であったが(Figure 4),IB/TBを50%以上に限定すると相関係数はいずれも0.7以上となった(Figure 5)。中ではB/A比との相関が最も高く,相関係数は0.823であった(Figure 5)。

Figure 4 

Correlation between each parameter of all measured patients and unbound bilirubin

アンバウンドビリルビンと関連項目(総ビリルビン,間接ビリルビン,総ビリルビン/アルブミン比)との相関を図示した。

Figure 5 

Correlation between each parameter and unbound bilirubin in patients with indirect bilirubin/total bilirubin ratio of 50%or more

間接ビリルビン/総ビリルビンが50%以上の例に限定した上でのアンバウンドビリルビン値と関連項目(総ビリルビン,間接ビリルビン,総ビリルビン/アルブミン比)との相関を図示した。

IB/TBが50%以上の条件下,UB値0.60 μg/dL以上となるB/A比のカットオフ値は3.5 mg/g(感度93.1%,特異度77.6%),UB値0.80 μg/dL以上となるカットオフ値は4.0 mg/g(感度87.8%,特異度73.0%)であった(Figure 6)。

Figure 6 

Receiver operator characteristics (ROC) curve of total bilirubin/albumin ratio as predictors of unbound bilirubin value

アンバウンドビリルビン値を推測するため(Aは0.60 μg/dL,Bは0.80 μg/dL)の総ビリルビン/アルブミン比(間接ビリルビン/総ビリルビンが50%以上の例に限定)について,ROC曲線からカットオフ値を求めた。

III  考察

当院でのUB値について,実態をまとめた。ただし,全ての入院児にUB分析が行われたわけではなく,分析していた1,926名についても,検査のタイミングは様々であった。また,治療の有無は考慮していないため,UB値や日齢の分布は左右に移動する可能性を含んでいる。出生体重で分けた4群についてUB値を比較したところ,1,000 g未満の群から体重が上がるに従ってUB値の高い例が占める割合が大きくなる傾向が認められた。児が未熟なほどUBが低値であっても影響を受ける1),2),10)ことから,出生体重の低い児ではUB値がより低値の段階で治療が行われるためではないかと思われる。また,小児専門病院である当院の場合,成熟児であっても重篤な疾患を抱えて入院する例が多い。これらの疾患がUB値の上昇に影響している可能性も考えられる。今後,臨床検査の領域に留まることなく,治療を含む臨床データを加えた解析が必要である。

得られたデータから,UBの分析装置を持たない施設で参考にし得る検査項目を検証した。結果は用いる試薬や分析方法に依存する部分もあるが,今回検討したいずれの項目もUB値との相関は低く,利用することは困難と思われた。しかし,UB分析装置はDBの影響を受ける11)ことから,IB/TBを50%以上の例に限定して再検討したところ相関は向上し,B/A比とで最も高い相関係数が得られた。そこで,光線療法の基準として比較的よく用いられている6)UB値0.60 μg/dL以上1),9),同じく交換輸血の一基準である0.80 μg/dL以上1),9)となるB/A比のカットオフ値を求めた。櫻井ら12)はB/A比でUB値を代用することは困難としながらも,UB値0.60 μg/dL以上のカットオフ値を3.3 mg/g(感度77%,特異度77%)と算出した。UB値は血清Albの濃度以上にAlbの結合能力に左右され13),結合能力には様々な要因が関与する14)ことから,UB値をB/A比で代用するのには限界がある。しかし,今回得られた3.5 mg/gは,櫻井らの求めた3.3 mg/gと近似したものであり,UB分析装置を持たない施設では次善の策として15)参考にし得る数値と考える。ところで,IB/TBが50%未満であった8例の臨床診断名は,全例に肝機能障害(肝炎,閉塞性黄疸,ヘマクロマトーシスなど)の記載がみられた。DBの影響を受けないUB分析法の開発も求められる。

なお,医療技術の進歩に合わせ,光線療法や交換輸血のUB値の基準は,在胎週数で細分化したものに改訂が進められている16)。また,核黄疸は早産児でリスクが高い10)と考えられていることからも,今後,特に早産児のデータを集積した上で,在胎週数で細分化したUB値16)に合わせたB/A比の検討も望まれる。

IV  結語

新生児の核黄疸を回避する上で,最良のパラメータは現在のところUB値と考えられるが,UBの分析装置を持たない施設も多い。次善の策として,臨床検査領域においては,IB/TBが50%以上の場合に限ってB/A比を用いることが有用と思われる。

謝辞

貴重な資料を提供いただいた群馬県小児医療センター・丸山憲一第二内科部長に感謝します。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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