Japanese Journal of Medical Technology
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Improved Grocott staining method with less difference among performers: Investigation of staining duration for each fungus in chromic acid ammoniacal-silver nitrate method
Yousuke TORIITakafumi ONISHITadasuke NAGATOMOGen SATOJunko NAKAMURAYoshitaka TORIIEichi MORIISeiichi HIROTA
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2018 Volume 67 Issue 2 Pages 221-227

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Abstract

グロコット染色は一般に,銀液の温度や反応時間の設定が難しく,施行者間での染色性に差が生じやすい。特にメセナミン銀液を用いる従来法ではその傾向が強いことから,銀液の反応時間の許容範囲が大幅に広く,また塩化金液による菌体の染色性を調節することができるクロム酸アンモニア銀法を用いることで施行者間での相違が少なくなることが期待される。しかし,これまでには温熱下での銀液反応時間の設定や,真菌ごとの至適条件の検討は十分には行われていない。今回我々は,従来法とクロム酸アンモニア銀法における各種真菌での溶融器と温浴槽を用いた銀液の反応時間および塩化金液の反応時間を比較検討した。検討した真菌はアスペルギルス,クリプトコッカス,ニューモシスチス・イロベチーの3種類で,いずれの真菌でも溶融器を用いた場合に,良好な染色性を示す銀液の反応時間の幅が最も広いことが確認された。また,いずれの真菌においても塩化金液の反応時間を変えることで菌体の色の濃さが調節でき,いずれも1~5分で十分な染色が行えることが明らかになった。溶融器を用いたクロム酸アンモニア銀法によるグロコット染色は,塩化金液での染色時間を真菌ごとに調節することで,施行者間の差の少ない安定した結果が得られるものと考えられる。

I  目的

グロコット染色は,組織内の真菌・放線菌などを染め出す染色として広く用いられており1)~4),日常の病理診断において重要な染色の一つである。メセナミン銀液を用いる方法(以下,従来法)が一般的であるが,銀液に浸す時間が長いと過染して真菌全体が黒くなり,背景の結合組織まで褐色に染まってしまう。そのため,銀液の反応終了時間が近づくとこまめに染色性を確認する必要がある。また,銀液の温度によっても反応時間に影響を与えることから,染色施行者間の染色性のバラツキが生じやすい。

これらの問題を改善する変法として,アンモニア銀液を用いる當銘変法(以下,クロム酸アンモニア銀法)があり,銀液の反応時間の許容範囲が大幅に広いことが報告されている5)~7)。しかし,真菌ごとの詳細な銀液の反応時間の許容範囲や塩化金液の反応時間については明確に記載されていない。そこで今回我々は,3種類の真菌検体を用いて,従来法とクロム酸アンモニア銀法における銀液の温度と反応時間の関係,および塩化金液の反応時間の染色性への影響について詳細な検討を行い,施行者間の相違の少ない条件を決定した。

II  材料及び方法

1. 真菌検体

検体は臓器切除後,速やかに10%中性緩衝ホルマリンに入れ,48時間程度固定したアスペルギルス感染の肝臓組織,クリプトコッカス感染の肺組織,ニューモシスチス・イロベチー感染の肺組織を用い,それらをパラフィン包埋した。標本は5 μm切片とし,剥離防止コートスライドグラスであるクレストコートスライドグラス(松浪硝子工業(株))に貼付した。

2. 染色方法と試薬

従来法およびクロム酸アンモニア銀法の染色方法の操作過程をTable 1に示した。試薬は無水クロム酸,チオ硫酸ナトリウム(和光純薬工業(株)特級),シュウ酸(片山化学工業(株)特級),アンモニア水(石津(株)特級),硝酸銀,塩化金およびライトグリーン(メルク(株))を使用した。アンモニア銀液の組成は,10%硝酸銀水溶液10 mLに対して,28%アンモニア水を滴下していき,透明になったところで止め,蒸留水を入れ全量を100 mLにしたものとし,用時調整とした。5%無水クロム酸,2%シュウ酸水溶液,2%チオ硫酸ナトリウム水溶液,0.2%塩化金水溶液はあらかじめ作製し,各検討において同一のものを用いた。

Table 1  各染色法のプロトコール
従来法
染色工程
時間 クロム酸アンモニア銀法
染色工程
時間
1 脱パラフィン 脱パラフィン
2 流水水洗 流水
3 5%無水クロム酸 60分 5%無水クロム酸 60分
4 流水水洗 軽く水洗
5 1%亜硫酸水素ナトリウム 1分 2%シュウ酸 1分
6 流水水洗 5分 流水水洗 5分
7 蒸留水 蒸留水
8 メセナミン銀液 40~50分 アンモニア銀 40~90分
9 蒸留水 蒸留水
10 0.2%塩化金水溶液 5分 2%チオ硫酸ナトリウム水溶液 2分
11 蒸留水 蒸留水
12 2%チオ硫酸ナトリウム水溶液 3分 0.2%塩化金水溶液 1~60分
13 蒸留水 蒸留水
14 流水水洗 流水水洗
15 ライトグリーン 20 dip ライトグリーン 20 dip
16 アルコール アルコール
17 キシロールI・II・III キシロールI・II・III

3. 銀液の加温方法と反応時間の比較検討

1) 溶融器による加温

溶融器(PM-401;サクラファインテックジャパン(株))の庫内温度を65℃に保ち,メセナミン銀液またはアンモニア銀液を満たした耐熱性の50 mLのドーゼ内に切片を浸漬し,予備加温なしに溶融器内に入れて反応を開始した。0.2%塩化金液の染色時間は1分に固定し,従来法およびクロム酸アンモニア銀法の銀液反応時間をそれぞれ40分,50分,60分,70分,80分,90分として染色性の比較を行った。

2) 温浴槽による加温

温浴槽(PS-125WH;サクラファインテックジャパン(株))内の蒸留水を65℃に保ち,1)と同様にドーゼ内に切片を浸漬し,予備加温なしで温浴槽に入れて反応を開始した。塩化金液の染色時間は1)と同様,1分に固定した。従来法とクロム酸アンモニア銀法の銀液反応時間をそれぞれ10分,20分,30分,40分,50分とし,染色性の比較を行った。

4. クロム酸アンモニア銀法における0.2%塩化金液の反応時間の検討

染色操作はTable 1の通りに行い,溶融器を用いて,銀液反応温度を65℃,反応時間を上記で最も良好な染色が得られた50分に固定した。塩化金液の反応時間は1分,5分,10分,20分,30分,40分,50分,60分として染色性の比較を行った。

5. 染色性の評価法

いずれの検討においても,背景の染色性および菌体の染色性について比較した。背景に銀粒子の付着が認められる場合を共染ありと判断した。アスペルギルスは菌糸がY字状や鹿角状に分岐し,菌糸内の薄い隔壁を明瞭に確認できたものを良好とした。また,クリプトコッカスは大小の円形~楕円形を示し,厚い細胞壁の被膜の染色が確認できたものを良好とした。ニューモシスチス・イロベチーにおいても三日月状の形などを示す,薄い膜状の細胞壁を有する菌体が確認できれば良好とした。染色性の総合評価として,菌体と背景の双方の染色態度を確認した。菌体が良好に染色されていても,背景に銀粒子の付着が認められた場合は共染があるとみなし,染色は不良と判断した。

III  結果

1. 銀液の加温方法と反応時間の比較検討

1) 溶融器による加温

従来法ではアスペルギルスは40~60分,クリプトコッカスとニューモシスチス・イロベチーは50~70分で菌体の染色性が良好であった。背景においては,70分以降から銀粒子の付着などの共染が起こり,コントラストが悪くなった。そのため,どの菌体も良好な染色が得られる許容時間の幅は10分程度となった(Table 2)。

Table 2 

溶融器,温浴槽を用いた場合における銀液の反応時間の比較検討の結果

1)メセナミン銀法・溶融機65℃
時間(分) 40 50 60 70 80 90
アスペルギルス×××
クリプトコッカス××
ニューモシスチス・イロベチー××
背景×××
2)クロム酸アンモニア銀法・溶融機65℃
時間(分) 40 50 60 70 80 90
アスペルギルス×
クリプトコッカス×
ニューモシスチス・イロベチー×
背景
3)メセナミン銀法・温浴槽65℃
時間(分) 10 20 30 40 50
アスペルギルス×××
クリプトコッカス××
ニューモシスチス・イロベチー××
背景×××
4)クロム酸アンモニア銀法・温浴槽65℃
時間(分) 10 20 30 40 50
アスペルギルス×
クリプトコッカス×
ニューモシスチス・イロベチー×
背景×

それに対してクロム酸アンモニア銀法では,従来法に比べてアスペルギルス,クリプトコッカス,ニューモシスチス・イロベチーの3菌体とも80分まで良好な染色を示した。背景においては,検討最大時間の90分まで銀粒子の付着は見られず,菌体とのコントラストも良好で,銀液の許容時間の幅は30分程度という結果となった(Figure 1)。

Figure 1 

溶融器90分における各菌体の染色性

a~c:従来法

d~f:クロム酸アンモニア銀法

a,d:肝臓組織検体,アスペルギルス感染

b,e:肺組織検体,クリプトコッカス感染

c,f:肺組織検体,ニューモシスチス・イロベチー感染

2) 温浴槽による加温

従来法ではアスペルギルスは10~20分が良好な時間であり,クリプトコッカスとニューモシスチス・イロベチーは20~30分が良好であった。

クロム酸アンモニア銀法ではアスペルギルスは10~40分が良好であり,クリプトコッカスとニューモシスチス・イロベチーは20~40分が良好であった(Table 2)。また背景において,従来法では30分以降から銀粒子の付着が認められたのに対して,クロム酸アンモニア銀法では40分まで抑制された(Figure 2, 3)。

Figure 2 

銀液の時間変化による結果 肝臓組織(溶融器65℃)

1)従来法 2)クロム酸アンモニア銀法

a,f:40分 b,g:50分 c,h:60分 d,i:70分 e,j:80分

メセナミン銀法では60分以降から背景に銀粒子の沈着が認められた。

クロム酸アンモニア銀法では40~80分全ての時間で共染は認められなかった。

Figure 3 

銀液の時間変化による結果 肝臓組織(温浴槽65℃)

1)従来法 2)クロム酸アンモニア銀法

a,f:10分 b,g:20分 c,h:30分 d,i:40分 e,j:50分

メセナミン銀法では30分以降から共染が認められた。

クロム酸アンモニア銀法では40分まで銀粒子の沈着を抑えることを確認できた。

2. クロム酸アンモニア銀法における0.2%塩化金液の反応時間の検討

クロム酸アンモニア銀法を用いたこれまでの報告では,クリプトコッカス,ニューモシスチス・イロベチーの推奨染色時間は約10分とされているが4),5),今回の検討ではアスペルギルスと同様に,両者共に1~5分で適切な染色が得られることを確認できた(Figure 4)。検討の中で,塩化金液の使用頻度によって反応時間が異なることが示され,できる限り用時調整した液を使用するほうが良いと考えられた。

Figure 4 

溶融器65℃での銀液反応時間50分における塩化金液の反応時間の結果(クロム酸アンモニア銀法)

a:1分 b:5分 c:10分 d:20分 e:30分 f:40分 g:50分 h:60分

アスペルギルスにおける染色性の変化。1~5分は菌糸が,Y字状や鹿角状に分岐されていたり,菌糸内の薄い隔壁を明瞭に確認できた。

IV  考察

グロコット染色の従来法は,真菌の細胞壁に含まれる多糖類をクロム酸で酸化し,遊離アルデヒド基を生じさせ,アルデヒド基がメセナミン銀液による還元反応により銀粒子と結合して黒色化している。銀液の至適反応時間の幅が狭く,また菌体によって銀液の至適反応時間にバラつきがあるため,安定した染色結果を得ることが難しいとされている1)~4)

一方,クロム酸アンモニア銀法では,酸化により遊離アルデヒド基を生じさせ,その遊離アルデヒド基がアンモニア銀イオンで酸化され,遊離の銀により還元されることによって,アルデヒド基と銀粒子が結合して黒色化している。アンモニア銀は,メセナミン銀よりも粒子の大きさが小さく8),銀液の反応時間の許容範囲が広くなると考えられる。

今回は,各種菌体において溶融器,温浴槽を用いた際の銀液反応時間を従来法とクロム酸アンモニア銀法で比較検討し,またクロム酸アンモニア銀法における塩化金液の反応時間について菌体ごとに比較検討した。

銀液の反応時間においては,従来法では溶融器と温浴槽共に,良好な染色結果を得るには,どの菌体も10分程度と狭い許容時間範囲となった。それに対してクロム酸アンモニア銀法では,銀液の反応時間の許容範囲が広く,背景の銀粒子の付着を軽減できるため,菌体とのコントラストも良好となった。また,溶融器を用いた場合は,30~40分程度が良好な範囲となり,温浴槽を用いた場合では,許容範囲は20~30分であった。

このことから,あらかじめ菌体の種類が把握できていれば,今回の結果を目安の時間とすれば良く,菌種の分からない場合には,溶融器ならば60~80分,温浴槽なら20~40分程度を染色時間の目安とすれば良いと考えられる。今回の検討において,アスペルギルスはクリプトコッカスやニューモシスチス・イロベチーに比べて反応が速いことが確認できた。

今回の検討では溶融器と温浴槽を使った場合に菌体が染まる時間が異なった。溶融器を用いた場合では,温浴槽に比較し銀液の温度が緩徐に上昇していくため,反応が遅くなり許容範囲も広くなるのに対し,温浴槽は溶融器の場合よりも反応が速く,許容範囲は狭くなるものと考えられた。すなわち,これは熱の伝導率の差であると推測され,染色時間を短縮する際には温浴槽を用いた方が良いと思われるが,従来法で温浴槽を用いる場合には,許容範囲は大幅に狭くなり,染色の再現性が難しい。一方でクロム酸アンモニア銀法では,溶融器でも温浴槽でも染色許容時間が比較的広いことから,温浴槽を用いれば,従来法に比べて広い許容時間を保ちながら,染色時間を短縮でき,安定した染色性を得るのに有効であるといえる。

また塩化金液の反応時間は,従来法では調節が出来ないが,クロム酸アンモニア銀法では,銀液反応終了後に菌体の染色性を強めたい場合に塩化金液の時間を調整することが可能である4),5)。今回の検討結果ではアスペルギルス,クリプトコッカス,ニューモシスチス・イロベチーの3種類の菌体の染色性を強くすることが可能であった。

クロム酸アンモニア銀法の欠点として,従来法に比べて銀液の反応時間がやや長いことがある。しかし温浴槽を用いることで染色時間を20分程度短縮することができる。従来法で銀粒子の付着や共染を防ぐために,アルブミンを銀液に加える方法が報告されているが3),銀液の作製に手間がかかり,調整すべき試薬の数が増えてしまう欠点がある。一方,クロム酸アンモニア銀法は硝酸銀とアンモニア水だけで調整でき,簡便である。

今回の検討から,クロム酸アンモニア銀法を用いることで,施行者間差が少なく,再現性の高い安定した染色標本が作製できることが確認できた。

また温浴槽を用いた場合の検討やクロム酸アンモニア銀法による塩化金液の反応時間は,他の文献では詳しく明記されていなかったが,本検討で条件が決定できた。本条件で染色すれば,安定した結果が得られるものと考えられる。

V  結語

クロム酸アンモニア銀法は,銀液の反応時間の許容範囲が広く,塩化金液の反応時間で菌体の染色強度が調節できることが報告されていた。しかし,菌体ごとの明確な染色至適条件については報告がなかった。今回の検討により菌体ごとの反応時間が明確となった。

 

本要旨は第31回大阪病理技術研究会にて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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