2018 Volume 67 Issue 2 Pages 238-242
今回我々は,尿中NGAL測定試薬『ARCHITECT urine NGAL assay』の基礎的検討を行った。その結果,再現性と希釈直線性は良好であった。また,測定機器に搭載後,14週目まで測定値は安定していた。2SD法による検出限界は0.42 ng/mLと十分な感度を有していた。L(+)-アスコルビン酸,D(+)-グルコース,NaCl,尿素および溶血ヘモグロビンは,測定値に影響を及ぼさなかった。従来法であるELISA法との相関係数はr = 0.990と高く,回帰式もy = 0.855x + 13.025と両法は近似した測定値であった。以上より,本試薬は基本性能が良好で,日常検査に有用と考えられた。
急性腎障害(acute kidney injury; AKI)は,急性の腎機能障害によって体液恒常性の維持機構が破綻し,尿毒症,電解質異常や臓器不全などの様々な病態をきたす症候群である。AKIの診断基準は,RIFLE分類1),AKIN分類2)やKDIGO分類3)があり,いずれの分類も血清クレアチニン値(serum creatinine; sCr)が用いられている。しかし,sCrは軽度の腎障害では上昇しないことや,病態を反映し上昇するまでに2~3日かかるため,早期診断のマーカーとしては問題があった4)。
一方,好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin; NGAL)は,リポカリンスーパーファミリーに属する分子量25 kDaの蛋白質で,尿細管の炎症や虚血等により尿中に増加する5)。心臓手術後のAKI症例を用いた報告では,sCrは術後24~72時間で上昇したのに対し,尿中NGALは2~4時間後にピークに到達したことから,AKIの早期診断マーカーとしての有用性が示唆されている6)。
これまで,NGALの測定は酵素結合免疫吸着法(enzyme-linked immunosorbent assay; ELISA)で行われていたが,手技が煩雑で測定に長時間を要していた(約4時間)。これらの問題を克服するため,自動分析装置に搭載し約40分で解析可能な尿中NGAL測定試薬「ARCHITECT urine NGAL assay」が開発された。そこで今回我々は,本試薬の基本性能を評価した。
当院で尿検査が行われた患者の尿を用いた。本研究は,札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会の承認を得た(整理番号:282-36)。
2. 方法 1) 測定試薬および機器「ARCHITECT urine NGAL assay」(Abbott Japan)を用い,全自動化学発光免疫測定装置「ARCHITECTアナライザーi2000 SR」(Abbott Japan)で測定した。対照試薬として,Human NGAL ELISA kit(BioPorto Diagnostics)を使用した。
2) 再現性3濃度のプール尿を20回連続測定し,同時再現性を検討した。また,同じ試料を−80℃で凍結保存し,初回のみキャリブレーション後,20日間2重測定(午前と午後に1回ずつ)して日差再現性を調べた。
3) 試薬安定性試薬搭載後初回のみキャリブレーションし,再現性の検討と同様の試料を1週間に1回,14週目まで2重測定した。
4) 希釈直線性2濃度のプール尿を,専用希釈液で10段階希釈後,3重測定した。
5) 検出限界3.2 ng/mLのプール尿をそれぞれ10段階希釈後,10重測定し,2SD法で検出限界を求めた。
6) 共存物質の影響プール尿に,5段階希釈したL(+)-アスコルビン酸,D(+)-グルコース,NaCl,尿素(いずれも和光純薬工業)および溶血ヘモグロビン(シスメックス株式会社)を添加後,3重測定した。
7) 従来法との相関性50例の患者尿を本試薬と対照試薬で測定し,相関係数(r)と回帰式を算出した。
同時再現性の変動係数(CV)は1.8~2.5%と良好であった(Table 1)。また,日差再現性のCVも1.4~3.4%と安定していた(Table 2)。
low | medium | high | |
---|---|---|---|
Mean (ng/mL) | 33.5 | 358.3 | 1,031.3 |
SD (ng/mL) | 0.82 | 9.03 | 18.80 |
CV (%) | 2.5 | 2.5 | 1.8 |
low | medium | high | |
---|---|---|---|
Mean (ng/mL) | 33.2 | 353.2 | 1,021.4 |
SD (ng/mL) | 1.11 | 6.72 | 13.82 |
CV (%) | 3.4 | 1.9 | 1.4 |
日差再現性の平均値±2SD(図中破線)を連続的に超えた場合を問題ありとすると,検討範囲内で測定値の変動はみられなかった(Figure 1)。
On board stability test
Dotted line: mean value ± 2SD.
1,200 ng/mLまで良好な直線性が確認された(Figure 2)。
Dilution linearity test
Left: low value samples.
Right: high value samples.
2SD法で求めた検出限界は,0.42 ng/mLであった(Figure 3)。
Detection limit analysis
Dotted line: value of sample diluent + 2SD.
未添加時における測定値の±2SD(図中破線)を超えた場合を影響ありとすると,検討範囲内で測定値に変動はなかった(Figure 4)。
Effects of interfering substances on measurement of NGAL
Dotted line: untreated value ± 2SD.
rは0.990,回帰式はy = 0.855x + 13.025と良好な相関性が得られた(Figure 5)。
Correlation of measured values between ARCHITECT urine NGAL assay and Human NGAL ELISA kit using urine samples
*: Regression equation.
**: Correlation coefficient.
***: Standard error of regression line.
****: Number of samples.
AKI診療ガイドライン20167)では,NGALのAKI早期診断に関する16報の論文を解析している。総数2,194例中549例(25%)がAKIと診断され,心血管手術直後あるいはICU入室後から6時間までのNGALで早期診断能が評価された。ROC曲線下面積は0.50~0.98(平均0.77)であり,75%の研究で0.70以上と中等度以上の診断精度を有していた。このことから,ガイドラインではAKIの早期診断マーカーとしてNGALの測定を提案している。また,AKIの生命予後や重症度予測においても尿中バイオマーカーの中で唯一,限定的であるがNGALの測定を提案している。しかし,課題として複数の測定方法が存在し標準化がされていないこと,カットオフ値が定まっていないことや保険未収載であることなどが挙げられている。これまでNGALはELISA法で測定されていたが,本検討に用いた『ARCHITECT urine NGAL assay』は,自動分析装置に搭載可能であり今後標準化が進むことが期待される。また,本試薬による尿中NGAL測定は,2017年2月より保険適用となり,AKIの診断時に1回,その後の治療中に3回を限度として算定できるようになった。基本性能に関しては,再現性のCV%は最大でも3.4%と良好であった。本試薬は自動分析装置に搭載後14週目まで安定しており,添付文書に記載されている最大30日間よりも長かった。本試薬は1キット100テストであるが,測定頻度が少ない施設でも無駄がなく測定できると考えられた。希釈直線性は測定範囲上限(1,500 ng/mL)付近まで良好で,検出限界は測定範囲下限(10 ng/mL)より低値であり,添付文書上の測定範囲は問題なく測定可能と考えられた。当院のICUに入室した重症患者検体113例のNGAL濃度(レンジ:10–28,510 ng/mL)を調べると,23例(20.4%)が測定範囲上限の1,500 ng/mLを超えた。しかし,23例中13例は自動希釈再検機能の測定範囲上限(6,000 ng/mL)以下であり,自動希釈再検機能を用いることで重症患者の90%以上の検体が測定可能であった。
本試薬の基本性能は良好で短時間での測定が可能なため,AKIの早期診断や経過観察に有用と考えられた。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。