2018 Volume 67 Issue 2 Pages 184-188
通常,輸血の実施においては患者の血液型を確定し,同型の輸血を実施するが,近年,救命救急のための緊急O型輸血が増え,O型輸血後の血液型検査で部分凝集(mixed field agglutination; mf)となり,判定に苦慮することがある。成熟した赤血球の比重は時間の経過とともに大きくなるため,輸血赤血球は遠心した検体の下層部に分布し,検体のサンプリング位置が部分凝集の検出に影響することが考えられた。そこで,2種類の自動血液型判定装置およびスライド法について,検出できる混入赤血球濃度,技量の差による判定の違い,混入赤血球の採血後日数とサンプリング位置,異型赤血球の混入を部分凝集として検出する再現性について検討した。いずれの方法でも2単位輸血相当(10%)以上の輸血で部分凝集が検出できた。しかしスライド法では輸血業務の経験が少ない場合や,採血後日数が経過している赤血球を混入した場合,部分凝集を判定できないことがあった。サンプリング位置の影響がありO型赤血球を5%混入した場合の再現性は73%だったが,一般的に,赤血球の下層からサンプリングする全自動血液型判定装置では,部分凝集を検出しやすいことがわかった。赤血球の分布に偏りがある場合はサンプリングの位置によって血液型検査の判定に乖離が生じる場合があり,予想しない反応が起こった際の再検査には,患者情報を収集し,原因をよく考慮したうえで,適切な検査方法,適切なサンプリングをこころがける必要がある。
ABO血液型検査は,患者赤血球のAおよびB抗原の有無を調べるオモテ検査と患者血漿(血清)中の抗A及び抗B抗体の有無を調べるウラ検査を合わせて判定する。厚生労働省の指針には血液型は同一患者から異なる機会に採血した2検体で検査を行い確定することが記載されている。これにより検体の取り違いや検査過誤による患者の血液型の誤判定を防止して,安全な血液製剤の供給を可能としている。
近年,時間的な余裕がなく血液型が確定できない救命患者の赤血球輸血は,異型適合血のO型製剤を選択する1)ことが増え,血液型オモテ検査で部分凝集(mixed field agglutination; mf)となり,判定に苦慮することがある。
成熟した赤血球の比重は時間の経過とともに大きくなる2),3)ため,検体を遠心することで輸血された赤血球は下層部に集まり,検体のサンプリング位置が部分凝集の検出に影響することが考えられた。そこで,2種類の自動血液型判定装置および用手法のスライド法での部分凝集の検出で,サンプリング位置の違いの影響を比較した。
以下の4つについて検討した。検査に使用した各赤血球は健常者ボランティアよりEDTA-2Na添加の採血管を用いて採血したものを調製し,当日検査した。保存後の赤血球を用いる場合は遠心分離後4℃で保存し,検査日に調製して使用した。
検討には,自動血液型判定装置のカラムはマイクロタイピングシステムABDカード(mono)(Bio-Rad)を用い,抗A抗体・抗B抗体はマウス由来モノクローナル抗体である。抗体試薬はバイオクローン(オーソ)を用い,マウス由来モノクローナル抗体である。スライド法の判定は専任技師2人で実施し,相違のないことを確認した。
1. 部分凝集を検出できる混入濃度の確認体重60 kgの一般成人に1単位,2単位,3単位,4単位相当の異型輸血の実施を想定し,B型赤血球にO型赤血球が0%,5%,10%,15%,20%混入した血液検体を調製した。オモテ検査は,ゲルカラム凝集法を原理とする全自動血液型判定装置GelStation,IH-1000(Bio-Rad)およびスライド法で検査し,判定を比較した。スライド法は抗B抗体試薬1滴と赤血球沈査の上部よりサンプリングして約10%に調製した赤血球浮遊液1滴を反応させ2分後に判定した4),5)。
2. 技量によるスライド法での判定の違いの検証輸血検査の経験が,スライド法での部分凝集の検出に影響するため,輸血専任技師(8名,計39回分)と夜勤のみを担当する技師(43名)で判定を比較した。B型赤血球にO型赤血球が0%,5%,10%混入した検体を調製し,このうち2検体をランダムに選び,スライド法で血液型検査を実施した。評価は2件とも正しく判定できた場合に正解とした。なお,検査実施前に全員に部分凝集の説明を行った。
3. サンプリング位置の違いによるスライド法での判定の影響を検証測定機器の検体サンプリング位置が,部分凝集の検出に影響するか確認するため,GelStation,IH-1000,およびスライド法で,採血直後のB型赤血球に保存後1日と21日のO型赤血球を5%混入した検体を遠心分離し,赤血球の上層あるいは下層からサンプリングして判定を比較した。
4. 部分凝集検出の再現性サンプリング位置による部分凝集の検出の再現性を確認するため,採血当日の血液に保存後21日のO型赤血球を5%混入した検体を均等になるよう十分攪拌した後15本に分け,IH-1000で検査した。その後,赤血球の上層からサンプリングし10%赤血球浮遊液を作製してスライド法を実施した。また,検査法の違いの影響を排除するため,スライド法に用いた赤血球浮遊液を5%に希釈し,ABDカードに10 μLずつピペットで分注し,IH-1000で上層からサンプリングした場合を模擬的に作成した。
Gel-station,IH-1000は10%,15%,20%のO型赤血球混入検体で部分凝集を検出することができたが,5%では3回中2回は陽性と判定,1回は陰性と判定した。スライド法は5%,10%,15%,20%のO型赤血球混入検体で部分凝集を検出することができた(Table 1)。
部分凝集を検出できる混入濃度の確認
輸血専任技師はスライド法で39件中35件(89.7%)の部分凝集を正しく検出した。陽性を部分凝集と誤判定した例が39件中4件(10.3%)あったが,部分凝集を見落として陽性と判定した例はなかった。一方,輸血検査の経験が少ない夜勤担当技師は43件中32件(74.4%)の部分凝集を正しく検出した。しかし,陽性を部分凝集と誤判定したケースが43件中6件(14.0%),部分凝集を見落として陽性と判定したケースは6件(14.0%)あった(Table 2)。内訳としてはO型赤血球が5%と10%混入した検体を選び5%混入の部分凝集を陽性と誤判定した例が3件,0%と5%混入した検体を選び5%混入の部分凝集を陽性と誤判定した例が1件,5%と10%混入した検体を選び両者の部分凝集を陽性と誤判定した例が1例であった。専任技師は,夜勤担当技師に比べ正解率が15%高く,また部分凝集の見落としはなかった。
輸血専任技師過去5回分 (n = 39) |
夜勤担当者 (n = 43) |
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正しい判定 | 89.7%(35/39) | 74.4%(32/43) |
見落とし(mf→+) | 0%(0/39) | 14.0%(6/43) |
誤判定(+→mf) | 10.3%(4/39) | 14.0%(6/43) |
保存後21日のO型赤血球を混合した場合は,GelStation,IH-1000,遠心分離検体の赤血球の下層をサンプリングした赤血球浮遊液を用いたスライド法で部分凝集を検出できた。しかし赤血球の上層をサンプリングした赤血球浮遊液で実施すると陽性になり,部分凝集を検出できなかった。一方,保存後1日のO型赤血球を混合した場合は,GelStation,IH-1000,および赤血球の下層,上層いずれをサンプリングした赤血球浮遊液で実施したスライド法で部分凝集を検出できた(Figure 1)。
サンプリング位置の違いによる判定の影響
下層をサンプリングするIH-1000では15回中11回部分凝集を検出したが,4回は陽性と判定し,再現性は73%だった(Table 3)。必ずしも部分凝集を検出できるわけではないことがわかった。
下層(IH-1000で サンプリング) |
上層 | ||
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カラム判定 (手で分注) |
スライド判定 (用手法) |
||
mfと判定 | 11/15(73.3%) | 0/15(0%) | 0/15(0%) |
+と判定 | 4/15(26.7%) | 15/15(100%) | 15/15(100%) |
一方,上層をサンプリングした赤血球の浮遊液をカラムに10 μLずつ用手法で分注した場合とスライド法で判定した場合は,いずれも部分凝集を検出できなかった。
2単位の赤血球液の輸血相当であるO型赤血球が10%以上混在した検体の血液型検査は,GelStation,IH-1000,スライド法いずれの方法でもO型赤血球の混入を部分凝集として検出することができた。5%の混在では全自動血液型判定装置では必ずしも部分凝集を検出できるわけではなく,サンプリング位置と遠心分離後のO型赤血球の微妙な分布の違いが影響している可能性が考えられた。緊急O型輸血を2単位以上輸血した場合は,血液型検査で部分凝集となる可能性が高かった。
今回の検討では保存後21日のO型赤血球は高比重で遠心した検体の下層に分布するので,スライド法を下層からサンプリングした赤血球で実施した場合は部分凝集を確認でき,上層からサンプリングした場合はO型赤血球をほとんど含まないので,部分凝集を検出できなかった。一方,保存後1日のO型赤血球混入は,混入赤血球が偏りなく均一に分布するため,上層からでも下層からのサンプリングでも,保存後21日の赤血球混入に比べ非凝集赤血球(O型赤血球)の少ない部分凝集が検出できたと考えられた。
血液センターから供給される赤血球液の赤血球は,成熟後時間が経っているので患者の赤血球に比べ比重が大きく,輸血後の検体を遠心した場合は輸血された赤血球が下層に偏って分布すると予想される。さらに,輸血を受けた患者が貧血状態の場合は患者の赤血球の比重が小さくなっていることが予測され,比重による分布の偏りがより明確になると予測される。これらのことから,下層からサンプリングする全自動血液型判定装置や,スライド法で下層からサンプリングした場合,部分凝集を検出しやすいと考えられた。しかし用手法で実施する際は一般的に,赤血球の上層からサンプリングするため,部分凝集を検出できない可能性が高いと考えられた。方法や感度に関わらず上層をサンプリングした場合は部分凝集を検出しにくく,部分凝集が疑われる場合は下層からサンプリングする必要があることが確認できた。
また,一度部分凝集を検出した検体を再検査すると必ずしも同じ結果が得られないことがあるが,これは最初の検査で大半のO型赤血球がサンプリングされてしまったことも考えられる。献血後比較的新しいO型赤血球を輸血した場合や,検体量が少ない場合に起こりやすく,再現性が無くても最初の結果が間違っていたという解釈には注意が必要である。血算の残検体など,赤血球が偏りなく残っている検体を用いて再度検査することで,現象を確認することが望ましい。
一般的には血液型検査の採血の前に緊急O型輸血を実施した場合,輸血されたO型赤血球が体内から排除された後に改めて血液型検査を実施し,初めて本人の血液型が確定される。それまでの間,血液型は判定保留となり,輸血が必要な場合は異型適合血であるO型赤血球,AB型FFP,血小板の輸血を選択することになる。しかし大量に輸血する場合は赤血球製剤中の血漿の影響が問題となるため,なるべく早く本人の血液型と同型の輸血に切り替えることが望ましい。そのため当院では,自施設で緊急O型輸血を実施する際には必ず輸血を実施する前に血液型検査用の血液を採血することを周知徹底している。
異型適合輸血以外にも部分凝集を生じる場合として異型造血幹細胞移植後があり,この場合は新しく造血される赤血球は遠心分離した検体の上層に分布する6)と予想される。移植後の造血状況の経過検査では,サンプリング位置を決めて実施することが必要と考えられる。
今回の技量の差の検証は,部分凝集の説明後に行ったため,輸血検査の経験が少ない夜勤担当技師では,部分凝集を疑い陽性を部分凝集と判定することや非凝集赤血球が少ない場合は見逃してしまう例もあった。部分凝集の鑑別は,背景が抗体試薬の色に比べ赤血球浮遊液が混ざって赤みがかっていることが重要なポイントであり,判定に迷った場合は,既知のA1赤血球またはB型赤血球と抗体試薬との反応を陽性コントロールとし,背景色を比較することが必要と考えられた。一般的に部分凝集はスライド法で検出しやすいと言われている4),5)が,スライド法で部分凝集を検出する工夫と輸血検査の経験が必要で,遠心分離した検体の上層から赤血球をサンプリングした場合に見落とすことがあること,全自動血液型判定装置と用手法で結果が乖離する原因として異型輸血の可能性があり,患者背景を調べる必要があることを夜勤のみを担当する技師にも十分周知する必要があると思われた。
なお,今回の検討でO型赤血球が10%以上混在した検体で部分凝集を判定できることがわかったが,もし見逃して陽性と判定しても,輸血の供給に関しては交差適合試験が陰性となれば,特に問題となることはない。
異型O型輸血後の血液型検査において,赤血球の比重の違いが影響し,サンプリング位置によって結果が異なる場合があることがわかった。部分凝集を検出した場合には患者情報を収集して原因を考え,適切なサンプリングや検査で正しい検査結果を報告するように努める必要がある。
本研究には健常ボランティアの血液を用いており,臨床検体を用いていないため,倫理委員会の承認を得ていない。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。