Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of a new cerebrospinal fluid (CSF) cell collection method using a swing-type centrifuge for smear preparation
Mihoko TOMODAHiromi TAKAHASHIYoshimi KATOHNOKyouko TSUZUKIKazumi KAIHARAKyouko KOMATSUKazunori MIYAKEKounosuke NAKAYAMA
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2018 Volume 67 Issue 2 Pages 210-216

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Abstract

脳脊髄液検査において詳細な細胞鑑別を行うためには,集細胞法による塗抹標本の作製が推奨されている。我々は汎用スウィング型遠心機を用いて,自動細胞収集装置と同様の塗抹標本作製を行う方法を考案し,その妥当性の検討を行った。その作製法はサクラファインテック社の標本作製用キットと汎用スウィング型遠心機を用い,さらに大型遠心機ではアダプターを併用して800 rpm,3分間遠心し標本を作製する方法である。検討方法は,白血球浮遊液を用いて本法とオートスメア法で集細胞塗抹標本を作製し,塗抹面の細胞数,細胞分画,崩壊細胞数を写真上で算定し比較した。その結果,本法で大型遠心機を用いた場合は塗抹細胞数が増加する傾向を認めたが,崩壊細胞数および単核球と多形核球の比率には有意差を認めなかった。同様の方法で白血球浮遊液の細胞数と分注量の変化による塗抹標本の評価を行ったところ,分注細胞数が1万~5万個の範囲で鏡検に最適な塗抹標本が得られた。また,実際の脳脊髄液検体でも良好な塗抹像が得られた。本法は専用装置を用いないため安価で手技も容易であり,迅速な標本作製を必要とする髄液塗抹標本に有用であると考えられる。

脳脊髄液検査(以下,髄液検査)は,脳脊髄疾患の病態診断や腫瘍性疾患の鑑別・治療経過観察において重要な検査である。なかでも細胞数の算定と分類は,迅速性と正確性が求められる。日本臨床検査技師会による「髄液検査技術教本」1)では,細胞数算定検査にて細胞分類に苦慮する場合や不明細胞が認められた場合には,細胞塗抹標本を作製し詳細な観察を行うことを推奨している。

髄液塗抹標本の作製には,引きガラス法や自然沈降法などさまざまな手法が用いられている1)~3)。もっとも推奨される方法は,迅速かつ均等に塗抹が可能で,細胞数の少ない髄液検体に適したオートスメアやサイトスピンなどの自動細胞収集装置を用いる方法とされている1),2)。しかし,これは専用装置を必要とし,どこの検査室においても実施可能な方法ではない。さらに髄液は細胞の変性が速いため,検体採取後1時間以内1)に塗抹標本を作製できる環境が最適であり,夜間や休日など不慣れな日当直者でも適切な標本作製が行えることが望ましい4)

このため,我々は汎用スウィング型遠心機(general use swing type centrifuge)を用いて集細胞塗抹標本を作製する方法(以下,G法)を考案し,さらに大型の金属バケットを架設した遠心機への応用を試みた。今回,G法における妥当性検証のための基礎的検討を行ったので報告する。

I  材料と方法

1. G法による標本作製

1) 材料

オートスメア標本作製用キット「チャンバーシステム」サクラファインテックジャパン(以下,チャンバー) 内容:チャンバーホルダー,1 mLチャンバー,キャップ,ペーパーフィルターCyto-Tek®(サクラファインテックジャパン),スライドガラス

2) 使用遠心機

・卓上遠心機H-26F(コクサン):ローターRF-120,金属バケットMT-100

・大型遠心器H-80R(コクサン):ローターRF-420,金属バケットMT-186

3) 標本作製手順

①チャンバー使用説明書に従いスライドガラスとペーパーフィルターをセットし,検体を100~500 μL分注する(Figure 1a)。

Figure 1 

Chamber system and installation in a centrifuge

a: “Chamber system” kit (Sakura Finetek): A slide glass and paper filter was set in the chamber.

b: Metal basket with removed plastic case (Kokusan Centrifuge H-26F).

c: The chamber was placed with the cap facing outward.

②遠心機の金属バケットから樹脂ケースを外し,そこにチャンバーをキャップが外向きになるよう静かに寝かせて置く(Figure 1b, c)。大型の金属バケット(遠心機H-80R)で作製する場合は,金属バケットとチャンバーの隙間を埋めるアダプターを製作しチャンバーを固定する(Figure 2)。

Figure 2 

An adapter and installation in a large centrifuge

a: A self-made adapter for fixing the chamber of adjusted to the shape of the metal bucket of the centrifuge.

b: Inside of Kokusan H-80R centrifuge. On the right side, the chamber was fixed with an adapter.

③800 rpmで3分間遠心し,速やかに乾燥固定や湿固定を行う。

2. 検討用試料

検討用の試料は,疑似髄液として白血球浮遊液を用いた。作製方法は,ボランティア全血2 mLに0.5%メチルセルロースと3%デキストラン1:4混合液1 mLを加え混和後,室温で20分静置し上澄みを450 Gで15分遠心した。洗浄操作として,上清を破棄した沈渣成分に血清1滴を添加した生理食塩水2 mLを加えよく混和後200 Gで10分遠心し,これを2回行った。

3. 検討方法

白血球浮遊液を用いてG法およびオートスメア法(サクラファインテックジャパンオートスメア遠心機CF-120,遠心条件800 rpm 3分:以下A法)で塗抹標本を作製し,塗抹細胞の比較を行った。

1) G法とA法による塗抹細胞の比較検討

100個/μLと250個/μLに調整した白血球浮遊液を300 μL分注し,G法(遠心機H-26F)とA法で塗抹標本を作製した。標本をGiemsa染色し,塗抹面の細胞を対角線上に重ならないよう200倍で20視野写真撮影した。この写真を用いて認定一般検査技師2名が,判定可能な細胞および崩壊した細胞に分類し,写真視野当たりの全細胞数と崩壊細胞数を求めた。

2) 大型遠心機でのアダプター併用G法とA法による塗抹細胞の比較検討

150個/μLに調整した白血球浮遊液を300 μL分注し,チャンバーをアダプターで固定したG法(遠心機H-80R)とA法で塗抹標本を作製した。算定法は1)と同様で,単核球と多形核球の鑑別を追加し認定一般検査技師3名で行った。

3) 分注細胞数における塗抹標本の評価

100, 250, 500個/μLに調整した白血球浮遊液を,各100, 300, 500 μL分注しアダプター併用G法(遠心機H-80R)にて9種類の塗抹標本を作製しGiemsa染色を施行した。白血球浮遊液の細胞数(個/μL)とチャンバーへの分注量(μL)の積を分注細胞数(個)とし,各分注細胞数における塗抹標本の評価を行った。評価方法は塗抹標本を顕微鏡で観察し,①細胞の分類が可能であるか,②細胞質が保たれ核が明瞭に確認できるか,③細胞鑑別に適切な塗抹細胞数であるか,について標本毎に,鏡検に最適(3点),適(2点),鏡検がやや困難(1点),不適(0点)の4段階で採点した。標本は認定一般検査技師3名と血液検査担当技師4名の計7名で観察・採点し,1名でも0点を付けたもの,または7名の合計点が10点以下のものを鏡検に望ましくない標本と判定した。

4) 髄液試料における塗抹状態の確認

髄液試料を用いてG法(遠心機H-26F)で塗抹標本を作製し,塗抹状態を確認した。

5) 統計解析

G法とA法の各細胞数・分画比の比較は2標本t検定を行い,p < 0.05を統計学的有意とした。

II  結果

1. G法とA法による塗抹細胞の比較検討(Figure 3
Figure 3 

Relationship between number of cells on the smears obtained by our method (G) and Autosmear method (A)

G法(遠心機H-26F)はA法に比べ,250個/μLの試料で写真視野当たりの全細胞数がやや多い傾向であったが有意な差を認めなかった(p = 0.065)。100個/μLの全細胞数および100個/μL,250個/μLの崩壊細胞数には両法で有意な差は認められなかった。

2. 大型遠心機でのアダプター併用G法とA法による塗抹細胞の比較検討(Figure 4
Figure 4 

Relationship between the number of smear cells and the ratio of cells obtained by our method with adapter (G) and Autosmear method (A)

アダプター併用G法(遠心機H-80R)はA法に比べ,写真視野当たりの全細胞数,単核球数,多形核球数がいずれも20%程度多く認められた。崩壊細胞数は両法ともに10%程度で有意な差は認められなかった。単核球と多形核球の比についても有意な差は認められなかった。

3. 分注細胞数における塗抹標本の評価(Table 1
Table 1  Evaluation of the quality of smears by variation of the number of dispensed cells
細胞数(個/μL) 分注量(μL)
100 300 500
100 13点(1万個) 20点(3万個) 12点(5万個)
250 18点(2.5万個) 10点(7.5万個) 6点(12.5万個)
500 13点(5万個) 7点(15万個) 0点(25万個)

( )内は分注細胞数を示す。

評価点数が10点を超え鏡検に適していると評価された塗抹標本の分注細胞数は1~5万個の範囲で,そのうち2.5~3万個が最良の結果となった。また分注細胞数が等しい場合,細胞数が多く分注量の少ない方が高い評価であった。分注細胞数が10万個を超えると塗抹細胞が過密となり,正確な細胞判定が困難であった。さらに分注量が500 μLを超えると,細胞に萎縮傾向がみられた。

4. 髄液試料における塗抹状態の確認

G法は疑似髄液とした白血球浮遊液において日常検査に使用可能な方法と判断されたため,髄液を用いて塗抹標本を作製した。Figure 5に示すとおり単核球や多形核球および腫瘍細胞においても核や細胞質が明瞭に保たれ,細胞鑑別に良好な塗抹像が得られた。

Figure 5 

Cerebrospinal fluid smear prepared by our method

III  考察

汎用遠心機を用いた髄液の迅速な集細胞塗抹標本の作製を目的としてG法を考案した。塗抹細胞数の比較では,G法はA法に比べ細胞数が多く塗抹される傾向が認められた。遠心機の回転数および遠心時間は全ての検討で等しく,異なる点は遠心半径に伴う遠心力(G)の差で,A法が約75 G,G法(H-26F)が約110 G,G法(H-80R)が約130 Gであった。またチャンバーを固定するためのアダプターを使用することで,遠心時にチャンバーが安定したことも要因の一つと推測された。塗抹細胞数が多いことは,集細胞法としてより適した特徴であると考えられる。一方,単核球数と多形核球数の比は両法で差が認められず,作製方法による細胞の偏りはみられなかった。また崩壊細胞率も10%程度と低く,細胞が変性や崩壊しやすい髄液の標本作製には適した結果となった。

本検討で用いたアダプターは,紙粘土で遠心機の金属バケットに合わせて形成し,中央をくり抜いてチャンバーがはまるよう作製した。これは発泡スチロールでも対応可能であった。自施設の遠心機の金属バケットに合わせたアダプターを使用することで,チャンバーを固定し標本を作製することが可能となる。G法ではチャンバーをキャップが外向きになるように設置することが必須であり,Figure 2aに示すようにアダプターに設置方向を明記しておくと遠心時の誤操作を防ぐことができる。

一般的に集細胞法は細胞数の少ない検体を目的とした塗抹法であるが,本検討では細胞数に関わらずG法を用いることを目的とした。よって,鏡検に最適な塗抹標本を得るためには,細胞数が顕著に増加している症例においては希釈操作が必要となる。柴田らの検討5)において,一見して混濁がわかる液は塗抹標本作製における許容濃度を超えており,生理食塩水などを用いる希釈法によって処理する必要があるとしている。本検討においては,鏡検に適した塗抹細胞数は検体細胞数×分注量=分注細胞数として想定することが可能であり,1~5万個程度との結果が得られた。実際の髄液検査では,分注量を100~300 μLとすると細胞数は500個/μL未満が適しており,サムソン染色などによる細胞数算定の時点でこれを明らかに超えていれば,希釈して塗抹標本を作製することが望ましい。反対に細胞数が少ない場合は,分注量を500 μLまで増量することが可能であるが,それ以上の分注量では細胞に萎縮がみられ判定が困難となった。これは細胞数が著しく多い場合も同様に認められた。適切に細胞鑑別するためには,標本を速やかに冷風乾燥させることが重要1),6)とされる。しかし細胞数や分注量が多い場合は,遠心時にペーパーフィルターが余分な水分を吸いきれず乾燥に時間を要し,細胞が萎縮したと推測された。

髄液検査においてG法を用いた場合の塗抹標本作製手順をまとめると,①細胞数の算定を行う,②算定数500個/μL以下の場合は分注細胞数が1~5万個となるようチャンバーへ100~500 μL分注する,③算定数500個/μL以上の場合は分注細胞数が1~5万個を目安に検体を希釈する。希釈液は髄液の上清が望ましいが,採取量が少ない場合は同患者血清を少量加えた生理食塩水でも代用可能と推測された。

また,実際に髄液を用いてG法で標本を作製した塗抹像をFigure 5に示すが,単核球および多形核球,腫瘍細胞いずれにおいても細胞質や核の性状が保たれ適切に細胞鑑別が可能であった。一般的に引きガラス法などによる髄液塗抹標本作製には,ヒト血清6)や仔牛血清3),ウシアルブミン7)などを添加するが,本検討においては髄液のみで作製し,細胞の崩壊などは認められなかった。これは細胞崩壊の原因となりうる引きガラスを引く手技が不要であった点や,検体採取後に速やかに塗抹標本を作製できた点が有効であったと推測された。またG法は必要とする髄液量が100 μL程度からとごく少量でよいことも採取量の少ない髄液検査に適した方法であると考えられた。

G法による標本作製は,検体を分注し遠心するのみで熟練した技術等を要さず非常に簡便である。また,専用機を所有していない施設でも身近な遠心機で作製可能であり,いつでも誰でもすぐに取り扱うことができる。G法を用いることで塗抹標本作製のハードルが低くなり,塗抹標本作製の経験が乏しい技師や日当直時に活用することが期待される。また胸水や腹水などの体腔液を含む多くの液状検体においても塗抹標本が必要とされ2),3),G法は様々な検体に応用可能な汎用性の高い塗抹法であると考えられた。

IV  結語

G法は汎用スウィング型遠心機を用いてオートスメア法と同様の集細胞塗抹標本が作製可能であった。必要検体量は微量で安価なうえ手技も簡便であり,誰でもすぐに同様の集細胞標本を作製することが可能であった。特に迅速な検体処理が必要な髄液検体に利便性が高く,集細胞塗抹標本作製の迅速化と効率化に非常に有用であると考えられた。

 

本検討はがん研有明病院医学系研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2016-1082)。

また,本論文の要旨の一部は第65回日本医学検査学会(2016年9月,兵庫)にて発表した。

謝辞

本研究を行うにあたり協力をいただいた,大石ひとみ技師,水野奈々技師,梅原翼技師に心より感謝する。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  日本臨床衛生検査技師会:JAMT技術教本シリーズ 髄液検査技術教本,丸善出版,東京,2015.
  • 2)   新保  敬:「体腔液,血液検査からのアプローチと標本の作製法」,日本検査血液学会雑誌,2017; 18: 137–145.
  • 3)  細胞検査士会(編):細胞診標本作製マニュアル 体腔液,2008. http://www.intercyto.com/lecture/manual/fluid_manual.pdf
  • 4)   石山  雅大:「2.ここまでやろう・考えよう髄液検査」,Medical Technology, 2012; 40: 369–376.
  • 5)   柴田  偉雄,他:「Autosmearによる検体処理法について」,日本臨床細胞学会雑誌,1972; 11: 7–14.
  • 6)   保科  ひづる:「髄液検査の実際 塗抹標本作製(メイ・ギムザ染色)の方法と細胞所見」,Medical Technology, 2014; 42: 444–452.
  • 7)   岡田  基,他:「オートスメアによる微量検体収集装置の検討」,医学検査,1997; 46: 44–47.
 
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