Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of extreme decrease in urinary creatinine level caused by urinary bacteria
Hideyuki UNOUYuko NIKIEri YAMADAKae KAWAMURAYoshi TANAKANobuyo MORITAYoshitsugu IINUMA
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2018 Volume 67 Issue 2 Pages 254-258

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Abstract

尿クレアチニン(Cr)は様々な尿検査測定値の補正や腎機能評価に用いられており,検査の依頼頻度,臨床的有用性の高い検査項目の1つである。今回,我々は60代男性の膀胱癌患者において尿Cr異常低値の症例を経験した。尿Cr異常低値の原因について検討した結果,尿中から分離された細菌の中でPrebotella loescheiiおよび,Anaerococcus tetradiusがCrを分解することが示された。さらに採取直後の随時尿でも尿Crが極めて低値であったことから,患者の膀胱内で既にCrが分解されていた可能性が示唆された。また,2菌種とも106~107/μLの菌量でCrの低下を示していたことから,尿中に細菌がみられる患者では,尿Cr値の潜在的な負誤差に注意をする必要がある。

I  はじめに

クレアチニン(creatinine; Cr)はクレアチン,クレアチンリン酸の最終代謝産物であり,血中から腎糸球体によってろ過され,尿細管ではほぼ再吸収されずに尿中に排泄される。食事や尿量の影響をほとんど受けないため,その1日当たりの尿中排泄量は成人では体重kgあたりほぼ一定である1)。そのため,尿Cr値は様々な尿中成分の濃度補正やクレアチニンクリアランス(creatinine clearance; Ccr)に用いられており,検査の依頼頻度,臨床的有用性が高い検査項目の1つである。今回,尿Crが異常低値を示し,その原因が細菌によるCrの分解と考えられた症例を経験したので報告する。

II  症例

60歳代,男性。2013年に近医で膀胱癌を指摘され,放射線治療,リンパ球療法,BCG-CWS(bacillus calmette guérin-cell wall skeleton)療法などが行われた。同年10月に当院泌尿器科に紹介となり,受診時のMRI画像では,膀胱の背側はほぼ全て腫瘍化し,膀胱癌ステージIVと診断された。

2015年1月に化学療法を行う上での腎機能評価を目的に24時間内因性Ccrの検体が提出された。その結果,蓄尿のCrが0.24 mg/dLと極端な低値を示し,Ccr計算値も0.29 mL/minと低値であった。同時に採‍取された血液検体では,Hb 6.4 g/dL,CRP 13.83 mg/dLと高度の貧血,強い炎症反応を認めたが,BUN 12 mg/dL,Cr 0.71 mg/dLは基準範囲内であり腎機能の低下は認めなかった。尿一般検査では,尿タンパクは487 mg/dL,尿アルブミンは80.8 mg/dLと高値であったが,β2ミクログロブリンは1.4 μg/Lと低値であった。また,尿沈渣の成績からは多数の赤血球,白血球,細菌等を認めたが,顆粒円柱は僅かであった。なお,尿の色調が赤黒色で強度の混濁を認めた所見については,血尿と尿沈渣で認めた多数の細胞が原因として考えられた(Table 1)。

Table 1  Laboratory data at the time of hospitalization
Peripheral blood data Biochemical data
RBC 2.45×106/μL CRP 13.83 mg/dL
WBC 6.49×103/μL Na 130 mEq/L
PLT 186×103/μL K 3.0 mEq/L
Hb 6.4 g/dL Cl 92 mEq/L
Ht 20.7% BUN 12 mg/dL
MCV 84.4 fL Cr 0.71 mg/dL
MCH 26.3 pg eGFR 84.8 mL/min/1.73
MCHC 31.1% TP 5.4 g/dL
ALB 1.6 g/dL
Glu 119 mg/dL
Urine biochemical data Urine qualitative data
Cr 0.14 mg/dL color reddish black
UA 1.17 mg/dL turbidity strong turbidity
AMY 165 U/L pH 8.0
Glu 0 mg/dL specific gravity 1.017
TP 487 mg/dL protein 4+
ALB 80.8 mg/dL glucose (−)
β2MG 1.4 μg/L occult blood 3+
Na 58 mEq/L ketone (−)
K 14.9 mEq/L bilirubin (−)
Cl 52 mEq/L urobilinogen normal

III  検討内容

尿Cr異常低値の原因を特定するため,以下の確認試験を行った。なお,Crの測定は測定機器として日立LABOSPECT008(日立ハイテクノロジーズ),Cr測定試薬はクオリジェントCRE(積水メディカル)を用いた。

1. 尿Cr異常低値の原因の検証

1) 検体採取時の検証

尿Cr値が異常に低く,色調が赤黒色で強度混濁であったことから蓄尿時の異物混入などを疑い,確認のため随時尿の提出を依頼した。患者は泌尿器科に入院し,尿道カテーテル留置の状態であったが,再採取した随時尿は蓄尿と同様に赤黒色の強度混濁尿であった。随時尿のCr値は0.20 mg/dLと蓄尿と同程度の低値であったため,検体採取時の過誤の可能性は否定的であった。

2) Cr測定における非特異反応および阻害物質による影響の検証

尿Crの異常低値となる原因として,高イムノグロブリンに代表される非特異反応を調べた。第1,第2試薬添加時において非特異的な吸光度の変化は認められなかった。次に蓄尿時の添加剤や投与薬剤による影響を疑ったが,ホルムアルデヒドを含め添加剤2)は未使用であり,アドレナリン,ドブタミンといった,過去にCr低下の報告があった薬剤3)の使用も認められなかった。さらに,未知のCr測定における阻害剤の存在を考慮し,患者尿を蒸留水で10倍,100倍希釈を行って測定したCr値は0.14 mg/dL,0.05 mg/dLと希釈による阻害抑制は見られなかった。

3) 尿中細菌による影響の検証

尿沈渣検査で多数の細菌と悪臭を認めたことから,細菌によるCrの分解を疑い検討を行った。

薬剤投与のない健常人尿と患者尿を等量混合し,室温静置で24時間後および72時間後にCr値を測定したところ,混合直後のCr値を100%とすると,24時間後で37.4%,72時間後で8.1%に低下した。経時的にCr値が低下したため,尿中細菌によるCr値低下が強く疑われた(Figure 1)。次に健常人尿を3,000 rpm,5分遠心後,上清をφ0.2 μmのフィルターで濾過して作製した無菌尿と無菌尿に患者尿を等量混合した尿をそれぞれ室温静置し,24時間後に測定した混合尿のCr値は無菌尿に比べてCr値が37%に低下した。

Figure 1 

Changes in urine Cr value during storage at room temperature of mixed samples with normal urine

2. 尿Cr値低下の原因菌の特定

24時間内因性Ccrの尿検体を用いて,尿Cr値低下の原因菌の特定を試みた。培地はヒツジ血液寒天培地(栄研),BTB寒天培地(極東),ブルセラHK寒天培地(RS)(極東),PV加ブルセラHH寒天培地(RS)(極東),ダイア嫌気パック(LSIメディエンス)を用いた。その結果,好気性菌は,Enterococcus faecalis,CNS(coagulase negative Staphylococcus)の2菌種,嫌気性菌は,Bacteroides fragilisPorphyromonas asaccharolyticaAnaerococcus prevotiiPeptostreptococcus anaerobiusPrebotella loescheiiPeptoniphilus asaccharolyticusAnaerococcus tetradiusFinegoldai magnaVeillonella sp. の9菌種が分離された。分離された細菌を,好気性菌と嫌気性菌の2群に分けて再度健常人尿に添加したところ,嫌気性菌群でのみCr値の低下が認められた。そこで,嫌気性菌9菌種をそれぞれ無菌尿を用いておよそMcFarland 6.0に調整し,37℃の温度条件で24時間保存したところ,P. loescheiiA. tetradiusの2菌種を添加した尿でCr値の低下を認めた(Table 2)。

Table 2  Changes in Cr value before and after 24 hours storage of anaerobic bacteria added urine
Cr (mg/dL)
0 hr 24 hr
B. fragilis 173.1 171.5
P. asaccharolytica 175.3 173.0
A. prevotii 175.4 171.8
P. anaerobius 176.6 176.0
P. loescheii 168.8 1.4
P. asaccharolyticus 175.5 175.7
A. tetradius 176.4 21.6
F. magna 174.3 173.7
Veillonella sp. 178.3 173.2

3. 尿Cr値低下の検証

1) 菌量によるCr値低下の検証

尿保存中の菌量によるCr値の変化の違いを調べるため,患者尿から分離したP. loescheiiおよびA. ‍tetradiusを無菌尿に添加し,1 μL中の菌量が,前者は104,105,106,後者は105,106,107になるように調整した。菌量の測定には尿中有形成分分析装置UF-1000 i(シスメックス)を用いた。室温保存した各試料を経時的にCr測定したところ,24時間保存後のCr値低下率は菌量順に,P. loescheiiで1%,4%,15%,A. tetradiusで2%,3%,54%であった(Figure 2)。

Figure 2 

Changes in Cr value due to difference in bacterial volume in storage at room temperature

2) 保存温度の違いによるCr値低下の検証

保存温度条件の違いによるCr値の変化量を確認するため,患者尿から分離されたP. loescheiiを106/μL,A. tetradiusを107/μLになるように無菌尿で調整し,4℃,室温(22~25℃),37℃の3条件で24時間保存を行った。4℃,室温,37℃保存における24時間後のCr値低下率はP. loescheiiでは順に,3.2%,14.3%,45.7%,A. tetradiusでは順に,20.2%,53.5%,80.2%であり,2菌種とも4℃<室温<37℃の順にCr値が低下していた(Figure 3)。

Figure 3 

Changes in Cr value due to difference in storage temperature

IV  考察

尿路感染症は明らかな基礎疾患の有無により単純性と複雑性とに分類され,複雑性における原因菌は多岐にわたる4)。今回の症例では膀胱癌を基礎疾患にもつ複雑性尿路感染症であり,原因菌として好気性菌2種,嫌気性菌9種と多種類の細菌が検出された。これまでに,Cr分解酵素を産生し尿中Cr値低下の原因となる細菌として ,Aerococcus urinae5)Staphylococcus simulans5)Pseudomonas putida6)Prevotella melaninogenica7)P. loescheii7)が報告されている。また,菌は特定されていないが,尿中細菌により24時間蓄尿のCr値が低下したと考えられた症例報告もある8),9)

今回検出された菌の中ではP. loescheiiA. tetradiusによるCr値の低下を認めたが,我々が調べた中ではA. tetradiusの報告は無かった。土壌細菌の中にCrを分解して利用する菌が多数存在6)し,現在Cr測定法の主流となった酵素法の試薬も細菌が産生する酵素から作り出されていること10),および藤本ら5)による検証で実際に尿Crを分解する菌種があることから,今回の2菌種も細菌の酵素によるCr分解であると考えられた。

今回の症例では,蓄尿中のCr異常低値が発端となったが,再提出された随時尿でもCrが0.20 mg/dLと蓄尿と同程度の異常低値であった。すなわち,本症例では蓄尿中でCr値が低下したわけではなく,膀胱内でCrが分解されていたと考えられる。Figure 3で示したように,体温に近い37℃で最もCr値が低下していることから蓄尿中よりも膀胱内の方がCr値低下に適した環境であったと推測される。さらに患者は採尿時に尿道カテーテルの先端が組織片等により詰まって尿が停滞していたため,膀胱内での細菌繁殖を起こしやすい状態であったこともCr分解を促進した要因として考えられた。

検証試験で使用した菌量である104~107/μLは,日常検査でも高い頻度でみられる菌量である。この菌量で37℃,5時間保存でも尿Cr値は低下しているため,膀胱内にCrを分解可能な細菌が一定量存在すれば ,尿Crは真値に比べて低値となる可能性がある。また,今回の症例も含め嫌気性菌のCr分解酵素産生菌は複数報告されているものの,現状では尿の嫌気培養オーダーは少なく,Cr分解酵素産生菌の存在頻度,尿Cr値低下の割合等は未知である。尿Cr値は腎機能評価だけでなく様々な尿中成分の補正に用いられるため,尿中Cr測定を依頼される患者は多く,Cr値の不正確な検査データが診断に影響を与えることの問題は大きい。

以上のことより,随時尿,蓄尿を問わず,尿Cr測定における誤差要因としてCr分解酵素産生菌を考慮する必要があると考えられた。

V  結語

今回,細菌による尿Cr値低下の症例を経験した。尿Cr値を低下させるP. loescheiiA. tetradiusの2菌種を同定し,菌量及び温度依存性にCr値が経時的な低下を示すことを確認した。また,本症例では随時尿でもCr値は異常低値を示したことから,膀胱内での細菌によるCr分解が推測された。Cr分解酵素産生菌による尿Cr値低下症例が日常検査の中で存在している可能性があり,細菌尿におけるCr値の解釈には十分に注意する必要がある。

 

本症例報告の要旨は,2015年9月北陸臨床病理集談会(金沢)で発表した。なお,本症例報告は院内倫理審査委員会の承認を得ている。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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