Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of paroxysmal cold hemoglobinuria that was difficult to diagnose owing to negative Donath–Landsteiner test
Tomomi KOIKENaoki FUJITAJunko OKITAYukio HATTORI
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 373-378

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Abstract

症例は47歳男性。肉眼的赤褐色尿を主訴に近医を受診し,その後精査目的で当院紹介となった。赤褐色尿で尿潜血(3+)にもかかわらず,鏡検では赤血球はほとんど認められなかった。尿中ミオグロビンの軽度高値よりミオグロビン尿症が疑われたが,臨床症状やクレアチニンキナーゼ(creatine kinase; CK)の上昇がないことより除外された。一方,血清中に遊離ヘモグロビンが増加しヘモグロビン尿症が示唆された。血清中の乳酸脱水素酵素(lactic acid dehydrogenase; LD)(特にLD1),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase; AST),総ビリルビンの高値,ハプトグロビンの低値,網赤血球の増加より溶血性貧血( hemolytic anemia; HA)が疑われた。しかし直接,間接クームス試験は陰性で自己免疫性HAとは確定できなかった。CD55およびCD59の分析では発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria; PNH)細胞は陰性で,また寒冷凝集素価は正常であった。今迄,先天性HAを指摘されたことはなかった。患者は1年中で最も厳しい寒候期に間歇的な肉眼的血尿を主訴としていること,寒冷凝集素価低値,PNH細胞陰性などから,発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria; PCH)を疑われた。そこで血清中Donath-Landsteiner(DL)抗体の検出を初診の2週後に試みたが,検出できなかった。溶血発作は初診の1,2週間前が最高で,初診から2週後の再来までにはほぼ終息していた。このようにDL抗体陰性,直接クームス陰性であるが,寒候期の比較的短期間での間歇的ヘモグロビン尿症を来たす溶血発作より,急性の一過性PCHと考えられた。

I  はじめに

発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria; PCH)は自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia; AIHA)の1つである。AIHAは赤血球膜上の抗原とそれに対する自己抗体との抗原抗体反応の結果起こる溶血性貧血で,自己抗体が赤血球に結合する至適温度により温式と冷式に分類される。PCHは冷式に分類され,全AIHAの中でも1%と極めて稀な疾患である1)。ヘモグロビン(hemoglobin; Hb)尿を特徴とし,血清中に二相性溶血素であるDonath-Landsteiner(DL)抗体が検出される。今回我々はPCHと思われるが,DL試験陰性で診断に苦慮した症例を経験したので報告する。

II  症例

1. 対象

47歳男性。20xx年当院初診日の15日前より誘引なく赤褐色尿を認めたため,当院初診日の13日前に近医を受診した。その時の尿検査は尿潜血(2+),尿蛋白(−),赤血球0–1/HPF,顆粒円柱(+)であった。超音波検査では腎,尿路に異常は認められなかったため経過観察をしていた。しかし,その後も排尿の2回に1回程度の頻度で赤褐色尿が認められ,その程度は軽い時と激しい時があった。血尿(ミオグロビン(Myoglobin; Mb)尿の疑い)の精査のために発症から15日目に当院紹介となった。風邪気味であり,市販の風邪薬を服用していた。なお,本研究は対象者のインフォームドコンセント及び済生会山口総合病院倫理審査委員会の承認を得た上で検討を行った。

既往歴:特記すべきことなし。

2. 初診時検査所見

血清の肉眼的所見はFigure 1のとおり赤褐色透明であった。血液学的検査では大球性貧血がみられ,網赤血球は増加していた。生化学的検査ではLDの著明な上昇,間接ビリルビン(I-BIL)とASTの軽度上昇を認めた。直接クームス試験,間接クームス試験およびPNH型血球(CDs55/59)は陰性であった。VB12,C3,ハプトグロビン(haptoglobin; Hp)は低下していた。梅毒検査はTP抗体,RPR定性ともに陰性,生化学的検査上は腎機能の低下は認められなかった。

Figure 1 

Color of the serum on the first visit to our hospital

Left; patient, Rightl; normal

患者血清は健常血清と比較し,溶血が認められる。

患者血清:1+,健常血清:溶血所見なし

初診時,尿検査は潜血が(3+)にもかかわらず鏡検では赤血球はほとんど認められなかった。上皮円柱,赤血球円柱および顆粒円柱が出現しており,尿中ミオグロビンは軽度高値であった。血清遊離ヘモグロビン(Hb)は高値であった(Table 1)。初診時より2週間後の再診時の新鮮血清で間接DL試験(患者血清と正常血球の反応)を実施したが,結果は陰性であった。その時の検尿では尿潜血は陰性であった。なお,初診時の保存血清でも同時に間接DL試験を行ったがこちらも陰性であった。

Table 1  Laboratory data (on the initial visit)
CBC Biochemistry Immunology
WBC 6,370/μL TP 6.0 g/dL ANA 40倍未満
RBC 266万/μL ALB 4.1 g/dL C3 66 mg/dL
Hb 10.0 g/dL T-BiL 1.29 mg/dL C4 20 mg/dL
Ht 29.1% D-BiL 0.40 mg/dL 寒冷凝集素(4℃) 32倍
MCV 109.4 fL LDH 1,804 IU/L 寒冷凝集素(室温) 2倍未満
MCH 37.6 pg AST 61 IU/L Urine
MCHC 34.4% ALT 17 IU/L pH 8.0
PLT 26.8万/μL CK 186 IU/L 蛋白 (1+)
Ret 4.3% CRP 0.01 mg/dL 潜血 (3+)
Serology CRE 0.71 mg/dL (−)
D-coombs (−) eGFR 93 ケトン体 (−)
I-Coombs (−) BUN 10.3 mg/dL ウロビリノーゲン (−)
Ham 試験 (−) Na 143 mEq/L ビリルビン (−)
砂糖水試験 (−) K 4.00 mEq/L 尿中WBC 1–4/HPF
PNH細胞 陰性 CL 105 mEq/L 尿中RBC 1–4/HPF
ハプトグロビン 11 mg/dL Ca 10.0 mg/dL 扁平上皮 1–4/HPF
VB12 171 pg/mL 硝子円柱 (1+)
葉酸 3.9 ng/mL 上皮円柱 (1+)
血清遊離Hb 200 mg/dL 赤血球円柱 (1+)
血清ミオグロビン 21 ng/mL 顆粒円柱 (1+)
LD 1 46% 尿中ミオグロビン 130 ng/mL
LD 2 38%
LD 3 12%
LD 4 2%
LD 5 2%

3. 臨床経過

発症から当院初診時までみられた赤褐色尿はそれ以降には自覚的に殆ど認められず,通常の色調に戻っていた。実際,当院初診時から2週間後の再診時には尿潜血は陰性となっていた。当院初診時にみられた大球性の貧血所見は無治療のまま,4ヶ月後にはHb 13.6 g/dL,MCV 101.5 fLとほぼ基準値内となった。またLD 161 IU/L,総ビリルビン(T-BIL)0.91 mg/dLも基準値内となり溶血所見は完全に消失していた(Figure 2)。以上のことより急性の一過性PCHであったと思われる。

Figure 2 

Clinical course

溶血兆候は,再診時以降は終息し,4か月後には完全に回復している。

III  考察

赤褐色尿で,尿潜血(3+)にもかかわらず,鏡検では赤血球はほとんど認められなかった。Mb尿疑いで当院紹介となり,尿中Mbを測定したところ軽度高値であった。しかし臨床症状やCKの高度上昇がないことよりMb尿症は除外された。一方,高LD(特にLD1の増加),ASTやI-BILの軽度上昇,Hpの低下,網赤血球の増多を認め,溶血性貧血を疑った。しかし,直接・間接クームス試験は陰性でAIHAとの確定診断を下せなかった。クームス陰性のAIHAは,正確な頻度は不明だがAIHAの3–10%と報告されている2)。そのためクームス陰性のAIHAの可能性も考慮された。一方,患者は1年中で最も厳しい寒候期に,間歇的な肉眼的血尿を主訴としている。その時の尿検査では潜血強陽性にも関わらず,鏡検では赤血球はごく僅か(基準値内)でHb尿が強く疑われた。しかし本例のようなアルカリ性尿において赤血球は溶血しやすくHb尿と断定することは困難である。そこで尿中ではなく血清中の遊離Hbを測定したところ200 mg/dLと確かに血管内溶血に伴うHb尿であることが間接的に裏付けられた(Figure 1)。血清のHpは遊離Hbの濃度が100–130 mg/dLまでは,それを結合し除去する能力があると報告されている3)。本症例でのHpは11 mg/dLと極端に低下をしており,Hpのほとんどが遊離Hbとの結合により消費尽くされていたと考えられる。したがって測定時の血清中遊離Hbの殆どがHpと未結合のものであり,尿中には遊離Hbが容易に排泄される状態にあったと考えられる。患者は赤褐色尿を訴えており,極期にはかなりのHb高値の尿であったと推測され,容易に肉眼的に尿の色調異常を察知したと考えられる。寒冷凝集素が1,000倍をはるかに超す場合には溶血を起こす可能性が出るが4),5),この患者の寒冷凝集素は32倍で低い。ただ,寒冷凝集素価は高値でなくても低温から体温近くまでの広い温度域で活性化されると溶血を起こす可能性がある(低力価寒冷凝集素症low titer cold agglutinin disease;LT-CAD)5)。特に本症例ではDLテスト(間接法)は陰性であり,LT-CADとの鑑別が必要となる5),6)一般にCADでは,補体経路が最終段階(C5b-C9:膜侵襲複合体形成)まで活性化されることは少なく,寒冷暴露による激しいクライシスを除けば,血管内溶血には至らない7)。しかし,LT-CADでHb尿,ヘモジデリン尿の報告がある6)。我々の症例は間接クームス試験が陰性であるが,凝集素は室温あるいは37℃で活性化されていない(Data not shown)。またLT-CADでは直接クームスが陽性(補体)のものが多い5),6)が,本症例では直接クームス試験は陰性である。

後日,初診時保存血清で行った室温での寒冷凝集反応は2倍希釈で陰性であり,凝集活性を亢進させるアルブミン添加下でも同様の結果であった(Data not shown)7)。以上より,LT-CADの可能性は低いと考えられた。一方PCHでも直接クームス試験が陽性のことがあるが,本例のように陰性のものも少なくない8)~10)。この結果は,間接的に本症例がPCHであることを示唆している。

当患者は当院初診時から再診時までに尿の赤褐色調はほぼ消失していた。これは再診時の尿潜血反応が陰性であることから裏付けられている。またT-BILも基準値内となっており,再診時では激しい溶血エピソードは終息していることが示唆される。一方,半減期が2~3日とやや長いLDの値は初診時の1,804 IU/Lから再診時の1,295 IU/Lへと減少しているものの再診時でも溶血の影響はまだ残っていた可能性が高い。以上の所見より,溶血のピークは当院受診の1~2週間前であったと推測される。このことは当患者が居住する地域の当時の天候からも示唆される。当患者が肉眼的血尿を自覚した頃から最低気温がしばしば零下となり,最高気温は0~2℃,最低気温は−5~−7℃であった11)。特に当院初診時頃は強い寒気が流れ込んでいた。初診日から再診日までの間に寒波は去り最高気温,最低気温ともにやや上昇している。これら気温の変動と血管内溶血によるHb尿症等がこの患者では完全に一致している。さらにその後の気温の上昇とともに,無治療で貧血は回復している。

PCHを決定付けるために,後追いで初診日より2週間後の再診日の新鮮血清で間接DL試験を実施したが陰性であった。PCHでDL試験が偽陰性の原因として試験中の補体の消費があるが,患者の補体は軽度低下しているに過ぎないことや間接DL試験そのものが健常者の新鮮血清を添加して行う検査12)なので考え難い。また大部分のDL抗体は血液型物質のP抗原に反応するが,ごく稀にP抗原の変異により反応しないことがあるという。しかし大多数はP抗原陽性であるのでこれも可能性が低い。DL試験偽陰性の原因としてC3dgが赤血球膜を蓋いC3bが赤血球に結合できない場合や13),新鮮血清中のP抗原と交差反応するglobosideとglycosphingolipidが抗体を中和することも報告14)されているがいずれも稀である。再診日の時点では,少なくとも活動的な溶血(溶血発作)は消失しており,DL抗体は消失していたと思われた。また再診日のDL試験施行時に,初診時の保存血清で間接DL試験を行ったが陰性であった。これは血清分離中に血清が低温に曝されDL抗体が赤血球に吸着されたために,得られた血清でのDL試験(間接)は偽陰性となった可能性もある15)。この面で血清中のDL抗体による正常血球の溶血を見る間接DL試験より,全血のままで自己赤血球に対する溶血をみる直接DL試験の方が簡単で,より鋭敏ではなかったかと思われる。

一般にPCHでは溶血発作は激しいが,発症の2~3日から2~3週間の経過で発作は消失する16)。DL抗体は発作の期間中は認められるが,出現は一過性で症状が消える頃までには検出されなくなると報告されている13)。溶血症状が消失している再診時に行ったDL試験が陰性だったのはこのような背景が考えられる。

Hb尿症で最も危惧されるのは遊離Hbによる腎障害であるが,当患者では血清クレアチニンやBUNの上昇はみられていない。しかし検尿では顆粒円柱,赤血球円柱,尿細管上皮細胞がみられており,腎障害(尿細管障害)が始まっていることが裏付けられている。患者の話によると尿の赤褐色の度合いが著しい時と弱い時があったと語っており,遊離Hbの排泄量が変動している可能性がある。遊離Hbの排泄が持続的に高度でなかったことで腎障害が緩和された可能性もある。

Hb尿と間違われやすい病態としてMb尿がある。ともに尿潜血反応は陽性となり鏡検では赤血球はほとんど認められなかった。実際当患者が紹介された時,Mb尿の可能性が疑われていた。そして尿中Mbはこの症例でも検出されている。しかしMb尿の原因となるクラッシュ症候群や高脂血症に用いる薬剤の服用,筋肉疾患,心筋梗塞を思わせる病歴は当患者では全くみられていない。またCKの上昇もみられない。したがって,筋疾患や横紋筋融解症の可能性は極めて考えにくい。遊離Hbは200 mg/dLからはMb測定に干渉がみられると報告がある17)。本症例では強いHb尿症により,Mbの測定が干渉を受けた可能性がある。

本症例では,軽い大球性貧血(Hb 10.0 g/dL, MCV 109.4 fL)を呈し,ビタミンB12(VB12)の値が171 ng/mL(基準値180–914 pg/mL)と軽度低下していた。胃摘出の既往はない。老齢者ではしばしば無症状でVB12の軽度低下がみられ,英国では65才以上の20%で見られると報告されている18)。実際,本症例ではVB12の投与なしでHbレベルの回復とともにMCVはほぼ正常化している。本症例でのMCVの増加は網赤血球の増加(溶血発作時4.3%,5.4%)の影響が大きいと考えられる。

一般にPCHの多くは小児にみられ,ウイルス感染症などの後に発症することが多いとされている12,19)。大人でも稀にウイルス感染後急激に発症し,重篤な溶血性貧血を呈する症例が報告されている20)

当患者は元来風邪に罹患することが多く,今回のPCHによる溶血エピソードの前にもウイルス感染が疑われる状態にあった。このことより本症例はウイルス感染による小児PCH(続発生)との共通点がある。溶血発作が短期間で終了していることも小児のそれに類似している。

多くのPCH患者同様,当患者も無治療で軽快した。Hb値も薬物療法なしで10 g/dL以上となっていることからAIHAとしての重症度は「軽症」となる12)。寒冷暴露にならないように主治医から適切な指導がなされた。

IV  結語

本例は寒冷暴露によって間歇的Hb尿をきたしたPCHが疑われた。しかし症状が軽快したときに受診されたためか,DL試験陰性でその診断に苦慮した。気候の変動と溶血発作が一致しており,結果的に稀なPCHと診断された。激しいHb尿は腎障害を招くため,迅速な対応が求められる。寒候期のHb尿の際はPCHの可能性も常に考え,できれば速やかに直接DL試験を行うとともに,寒冷暴露を避けるように指導することが肝要と思われる。

 

本論文の要旨は第49回日本臨床衛生検査技師会中四国支部医学検査学会(2016年11月)にて報告した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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