Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of extranodal NK-/T-cell lymphoma of nasal type, suggested by skin lesions and large granular lymphocytes in peripheral blood
Kie ABEHiroaki YASUNAGAKayoko KAMADAKousei SEGAWAMizuki HASEGAWAShunichi SASOUYasuhiko TSUKUSHI
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 384-390

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Abstract

採血時に皮膚病変に気付き,血液検査で大型の顆粒リンパ球を確認し,骨髄浸潤を伴う悪性リンパ腫を推測し得た皮膚ENKTLの一例を経験したので報告した。症例は26才,女性。当院受診1か月前に右上腕内側皮膚に結節を自覚した。初期は紫斑様で,疼痛があり,次第に増大・肥厚して鶏卵大となり,潰瘍形成を示した。結節は腹部,腰部,下腿にも出現した。その後,当院受診時の採血の際,患者上腕に結節を認め,「全身に結節が生じている」という患者の訴えから,悪性リンパ腫を疑った。その末梢血液像でAzur顆粒を有する大型のリンパ球を多数認めたため,直ちに血液内科医に報告した。後日,皮膚生検の病理組織学的検索と骨髄の検索から骨髄浸潤を伴う皮膚ENKTLと診断された。採血中,注意深く患者を観察し,会話から情報を得ることで疾患をいち早く推測し得た症例であった。

I  緒言

節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型(extranodal NK-/T-cell lymphoma, nasal type; ENKTL)1)は,本邦の悪性リンパ腫に対する相対頻度で3%に満たない稀な疾患である2)。主に鼻腔を中心とする上気道領域に好発するが,皮膚,消化管,軟部組織,精巣にも発生する3)。多くの症例で Epstein-Barr Virus(EBV)が腫瘍細胞中に認められ,EBVの検出は診断に有用な検査のひとつとされている4),5)。今回,採血時に皮膚病変に気付き,血液検査で大型の顆粒リンパ球を確認し,骨髄浸潤を伴う悪性リンパ腫をいち早く推測し得た皮膚ENKTLの一例を報告した。

II  症例

患者:26才,女性。

既往歴:ラムゼイ・ハント症候群(24才)。

家族歴:特記事項なし。

現病歴:20XX年X月から右上腕内側に結節を自覚した。結節は当初,紫斑様で疼痛があり,次第に増大・肥厚して鶏卵大となり,潰瘍を形成した。その後結節は全身に出現した。1か月後,他院整形外科を受診したが診断がつかず,当院整形外科に紹介された。来院時,結節は右上腕,右前腕,左上腕,腰部,左下腿,右大腿に認められ,患部に疼痛を認めた。その他に自覚症状はなかった。

その後,精査のため当院膠原病内科に紹介された。採血時に患者の腕を見ると,左上腕と左前腕の手根関節上に3~4 cm大の淡赤色調の結節を認めた。採血中,患者からは「少し前からこのような結節ができ始めた」「全身に複数個あり,悪性腫瘍ではないかと心配している」との訴えがあった。皮膚に淡赤色調の結節が生じ,短期間に増加したという点からaggressiveな皮膚の悪性リンパ腫が推測されたため直ちに末梢血スメアを鏡検したところ,WBC 129 × 102/μL,リンパ球14.0%であり,このほかにAzur顆粒を有する大型のリンパ球(large granular lymphocyte; LGL)が70.0%出現していた(Figure 1a)。LGLは,大きさが平均14 μm大で類円形であり,非常に淡く広い好塩基性胞体を有し,Azur顆粒が散見された。核は類円形で偏在していた。核網は濃染していて核小体は目立たなかった。これらを悪性リンパ腫細胞と考え,その骨髄浸潤を推測し,LGLの出現とその形態を血液内科医に報告した。その他の血液検査結果で貧血や血小板減少は見られず,血清学的検査で肝酵素の軽度上昇を見るのみであった(Table 1)。

Figure 1 

LGL (Wright Giemsa ×100)

a)末梢血標本

b)骨髄標本

Table 1  初診時検査データ
血算・血液像検査 生化学検査
​WBC 129 × 102/μL ​CRP 0.08 mg/dL
​ Neutro 14.0% ​TP 7.4 g/dL
​ Lympho 14.0% ​Alb 4.0 g/dL
​ LGL 70.0% ​BUN 11.1 mg/dL
​ Eosino 0.0% ​Cre 0.76 mg/dL
​ Baso 0.0% ​Na 140 mEq/L
​ Mono 2.0% ​K 4.2 mEq/L
​RBC 475 × 104/μL ​Cl 103 mEq/L
​Hb 13.1 g/dL ​Ca 9.2 mg/dL
​Ht 39.4% ​AST 53 U/L
​MCV 82.9 fL ​ALT 48 U/L
​MCH 27.6 pg ​LD 331 U/L
​MCHC 32.9 g/dL ​ALP 265 U/L
​PLT 18.0 × 104/μL

ウェーバー・クリスチャン病の鑑別と診断確定のため,当院整形外科に入院し,左上腕の結節から組織生検が行われた。その後,当初から潰瘍が形成されていた右上腕部の結節が自壊したため,当院皮膚科と血液内科へ紹介された。この時点で結節は右腕2か所,左腕2か所,左肩1か所,右下肢3か所,左下肢3か所,腰部3か所に増加していた(Figure 2)。EBVは既感染パターンであった。

Figure 2 

結節部分

a)右上腕部(潰瘍形成後に壊死がみられた)

b)左上腕部(採血時に認められた結節)

c)左下肢

III  検査結果

1. 画像検査

造影CTで左右の腋窩と鼠径部のリンパ節腫大,肝脾腫が確認された。また全身の皮下結節とその周囲の脂肪織影増強が確認された。

2. 骨髄穿刺検査

骨髄穿刺検査と骨髄生検が行われた。骨髄はわずかに低形成で,全有核細胞数は45,600/μL,骨髄巨核球数は12.5/μLであった。顆粒球系,赤芽球系,巨核球系は軽度減少していたが異形成は見られなかった。血球貪食像は確認されなかった。細胞カウントのうちLGLは38.4%を占め(Figure 1b, Table 2),それらはPAS染色で一部微細顆粒状に弱陽性を呈した。染色体検査では異常は認められなかった。骨髄液の表面マーカー解析(CD45-Blast Gating法)で,LGLを含むと思われるリンパ球領域は,CD2+,CD3−,CD4−,CD7+,CD8+,CD16+,CD56+でNK細胞様の免疫形質を示した(Figure 3)。骨髄穿刺クロット検体と生検検体の免疫組織化学染色で,LGLはCD3+,CD4一部+,CD8−,CD57−,CD20−,CD79a−,CD45R0+であり,T細胞由来の腫瘍細胞の浸潤が考えられた。

Table 2  骨髄像カウント
Blast 1.4%
Promyelo 0.4%
Myelo 4.2%
Meta 5.6%
Stab 10.0%
Seg 6.2%
Eos 1.0%
Baso 0.2%
Mono 5.6%
Lym 18.0%
LGL 38.4%
Plasma 0.8%
Macrophage 0.2%
Pro-E 0.0%
Baso-E 0.8%
Poly-E 7.2%
Ort-E 0.0%
M/E 3.63
Figure 3 

骨髄液の表面マーカー解析(CD45-Blast Gating法)

a)Cytogram date

b)Gate Cによる2カラーパターン

3. 病理検査

左上腕の生検皮膚の病理組織像は,真皮で巣状から一部びまん性にLGLが浸潤していた。皮下組織では,LGLが脂肪組織内に広く中等度から高度に浸潤し,血管侵襲像や一部に壊死も見られた。脂肪細胞周囲にLGLによるrimmingも見られた(Figure 4)。免疫組織化学染色で,LGLは,LCA+,CD3+,CD4−,CD7+,CD8−,CD20−,CD79a−,CD30+/−,CD56+,GrB-7+,Bcl-2−,LMP1−,ALK-1−,IgG4−であった。これらからはsubcutaneous panniculitis-like T cell lymphomaあるいはprimary cutaneous gamma-delta T cell lymphomaが鑑別疾患に挙げられた。腹部の結節からも皮膚生検が行われたが,結果は同様であった。

Figure 4 

左上腕部の皮膚生検組織

a)大型異型リンパ球の浸潤と壊死像がみられる(HE染色×2)

b)皮下組織内に血管侵襲像を認める(HE染色×20)

c)皮下組織の脂肪細胞周囲にrimmingがみられる(HE染色×40)

4. 皮膚結節部のTCR遺伝子再構成検査

採取された皮膚組織のサザンブロット法による検査で,TCRγ鎖Jγ再構成,TCRδ鎖Jδ1再構成,TCRβ鎖Jβ再構成はすべて陰性であった。

IV  経過

THP-COP療法が2クール施行されたが,縮小傾向を示す結節と腫大傾向を示す結節が混在し,さらに新しい結節形成も認められたことから,THP-COP療法は不十分と考えられた。CHASE療法と自家末梢血幹細胞移植を患者と家族に提案したが,他院での治療を希望されたため取りやめとなり,退院した。

皮膚生検組織でTCRが胚芽型であり,免疫組織化学染色でCD3+,CD56+,CD4−,CD8−であることから,当院病理組織診の最終報告は皮膚ENKTLとされた。

[転院先での追加検査]表面マーカー解析で,骨髄・末梢血のリンパ球80~90%がsCD3−,CD8+,CD16+,CD56+でNK細胞の免疫形質を有していることが確認された。全血でEBV-DNA定量値が1.2 × 106/mLと高値であった。生検で得られた皮膚組織がEBER-ISH(+)であったため,当院と同様にENKTLと診断された。

V  考察

生理検査室での業務以外で,検査技師が疾患部位を直接観察する機会は決して多くはなく,さらに症状の経過や患者の心情などを聞く機会も滅多にあるものではない。採血中のわずかな時間であるが,本例は注意深く患者を観察し,会話から情報を得ることで推測し得た,皮膚ENKTLの症例であった。

ENKTLはNK細胞性あるいはT細胞性のLGLが腫瘍細胞となり,それらの細胞障害性因子によって皮膚をはじめとする組織が侵され,その後aggressiveに進展する予後不良な疾患である。本症例は,皮膚病変がある程度の大きさの淡赤色調皮膚結節であったために採血中でも目につきやすく,気付くことができた。そしてその気付きが,疾患の臨床経過や患者の心情を聞き出す会話の糸口になり得た。また,患者からの情報を頭の片隅に置きながら末梢血液像を鏡検したことで,腫瘍細胞の検索により注意が向き,LGLの存在を即座に専門医に報告することができた。本症例は皮膚症状と骨髄浸潤を伴った稀なENKTLであったが,ENKTL全体としてもある程度統計学的な調査が進んでおり,以下に報告をまとめた。

ENKTLは東アジア諸国及び中南米に多く発生し,血管破壊,壊死,細胞障害性分子の発現,EBVの関与を特徴とする稀なリンパ腫とされる。鼻腔・鼻咽頭やその周辺組織に主病変を有することが多く(nasal ENKTL),それ以外の節外臓器(皮膚,軟部組織,消化管,精巣など)を原発巣とすることもあり(extranasal ENKTL),中でも皮膚は鼻腔に次ぐ好発部位であるといわれる6),7)。皮膚あるいは軟部組織を原発とするENKTL 48例の調査によると,診断時の病態は年齢中央値57才(14~89才),Male:Female = 52%:48%,臨床病期がIII/IV期である患者は50%にのぼったという8)。Extranasal ENKTLは,発症時に既に進行期である場合が多く,生存期間中央値overall survivalは,臨床病期I/II期でextranasal 0.36年:nasal 2.96年(p < 0.001),III/IV期でextranasal 0.28年:nasal 0.8年(p = 0.031)と予後に差が見られることが報告されており9),nasalとextranasal ENKTLで両者を同一疾患と考えない方が良いとする意見もある。さらに他の皮膚/軟部組織を原発とするENKTL の調査10)によると,全体の生存期間中央値は15ヶ月であったが,皮膚単独病変のみの例と比較して,皮膚以外にも病変を認めた例では生存期間中央値が不良であったとされている(44.9ヶ月vs 7.6ヶ月,p = 0.001)。これらからENKTLは非常にaggressiveなリンパ腫で,原発部位や転移の有無が予後にも大きく影響するため,早期の診断が患者の利益につながる可能性がある。

皮膚症状としては紅斑,結節,丘疹を伴い,血管中心性の腫瘍細胞の浸潤を特徴とする組織所見を反映して,出現した結節は潰瘍化しやすいとされる。過去5年間の皮膚ENKTLの皮膚症状を調査したところ,19症例中12例で本例のように潰瘍化がみられたとの報告もあり11),皮膚症状の有無は重要な所見となる。

Extranasal ENKTL全体で骨髄浸潤を伴う頻度は14~33%であるとの報告3),9),12)があるが,皮膚/軟部組織原発のENKTLに限定した場合では,その頻度は10%で8),決して多くはない。本例は皮膚原発のENKTLと考えられたが,末梢血と骨髄液に認められたLGLの割合から,ENKTLの白血化が考えられた。以前よりENKTLの骨髄浸潤例や白血化とAggressive NK-cell leukemia(ANKL)との異同が着目されていたが,臨床病期IV期のENKTLとANKLとの比較から,両者は細胞起源や病態が異なる可能性が示唆されている13)

最後に,本症例のように偶然に皮膚症状を見つけたとしても,患者に話しかけ,症状の経過を伺わなければ,悪性リンパ腫の可能性を想起することはなかったかもしれない。しかしその働きかけが,疾患の早期診断,治療に結びつく糸口となった。採血という短い時間でも,患者の様子に気を配り,訴えを聞くことで,診療支援につながることを実感した一例であった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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