Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Relationship of sensation of cold feet with skin temperature and skin perfusion pressure in hemodialysis patients: Comparison based on concurrent diabetes
Koichi TAKASHIMAShinji ASAKURA
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 391-397

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Abstract

血液透析(hemodialysis; HD)患者の足の冷感と皮膚温,皮膚灌流圧(SPP)の関係を糖尿病合併の有無において検討した。対象はHD患者204例(男性144例,女性60名,うち糖尿病94名,非糖尿病110名),年齢25~91歳(平均:63.5歳),透析歴1ヶ月~34年1ヶ月である。方法は足の症状を問診して足部の皮膚温を皮膚赤外線体温計で計測し,足底SPPを測定した。検討の結果,(1)糖尿病では31例(33%),非糖尿病では31例(28.2%)に足の冷感があった。糖尿病では足の冷感に伴い足部温の有意な低下があったが,非糖尿病では足の冷感の有無による足部温の有意差はなかった。(2)糖尿病と非糖尿病の足部温と足底SPP値には正の相関が認められた。(3)糖尿病の左足底SPP値は75.3 ± 21 mmHg,右足底SPP値は76.5 ± 18.2 mmHgであり,非糖尿病の左足底SPP値80.2 ± 19.2 mmHg,右足底SPP値81.6 ± 15.7 mmHgに比して有意に低下していた。以上よりHD患者において足部温と足底SPP値に相関関係がみられたことは,HD患者の足部温低下は足の毛細血管における血流障害に起因すると考えられる。また,糖尿病HD患者は足の冷感があり,かつ足部温の低下と足底SPP値の低下も認められたことは,糖尿病の合併症である自律神経障害による血管運動異常,および細小血管障害が関与していることが示唆された。

I  はじめに

血液透析(hemodialysis; HD)患者は末梢動脈疾患(peripheral arterial disease; PAD)を合併する頻度が非常に高く1),2),PADを有するHD患者の死亡リスクは高いと報告されている3)。また,わが国のHD患者の下肢切断率は年々増加傾向にあり,調査した23万8,135人中8,274人(3.5%)で,その70%以上は糖尿病の合併がある4)。下肢切断術を施行した場合の1年生存率は51.9%,5年生存率では14.4%となり予後は極めて悪い5)。よってHD施設では積極的に医療的なフットケアを行い,下肢の病変で発症するPADを早期に発見し,その進行を防止することは重要である。

平成28年度に新設された診療報酬「下肢末梢動脈指導管理加算」6)はHD患者に対して問診,理学所見,足関節上腕血圧比(ankle brachial pressure index; ABI),または皮膚灌流圧(skin perfusion pressure; SPP)を施行してPADの病状を評価し,重症度の高い患者を専門病院に紹介するという制度である。今回,われわれは当クリニックでHD患者のフットケアの一環として,検査室で対応している足の自覚症状の問診結果と足の皮膚温,および足底SPP値の関係について,糖尿病の合併の有無による比較検討を行ったので報告する。

II  対象および方法

対象は当クリニックのオーバーナイトHD患者を含む204例(男性144名,女性60名,うち糖尿病94名,非糖尿病110名)の両下肢400趾(片側下肢切断例,不随意運動などの出現により測定不可能な症例は除外)である。年齢は25~91歳(平均63.5歳),HD歴は1ヶ月~34年1ヶ月(平均7年4ヶ月)であった。なお,本研究は小山すぎの木クリニック倫理委員会の承認を得ている。

方法は冬期に室温26~27℃の環境にて,まずHD中にベッドサイドで足の自覚症状を聴取し,次にアドバンスドメディカル社製の皮膚赤外線体温計CISE(シーゼ)99TSを使用して左右の足趾の第1趾,第3趾,第5趾(平均温度を算出)と足底の皮膚表面温度を計測した。そして左右の温度差が顕著な場合は,日本光電社製の赤外線サーモグラフィ装置インフラアイ3000で熱画像を撮影した。また,SPPは米国Vasamed社製のPAD4000を使用し,左右の足底内側部を測定した(Figure 1)。

Figure 1 

検査の様子

左:皮膚赤外線体温計(CISE 99TS)による足部温の測定。右:皮膚灌流圧計(PAD 4000)による足底SPPの測定。

統計学的解析はMann-Whitney’s U testを用い,有意水準は5%とした。

III  結果

1. HD患者の対象特性

年齢は糖尿病(94例)62.7 ± 11.8歳,非糖尿病(110例)64.2 ± 15歳と有意差はなかったが,HD歴は糖尿病5年4ヶ月 ± 4年4ヶ月に対して,非糖尿病8年11ヶ月 ± 7年8ヶ月と非糖尿病の方が有意(p < 0.01)に長期であった。

2. 足の自覚症状(Figure 2
Figure 2 

HD患者(糖尿病,非糖尿病)の足の自覚症状

糖尿病は94例中31例(33%),非糖尿病では110例中31例(28.2%)と両群ともに約1/3に足の冷感が認められた。

糖尿病94例のうち無症状が44例(46.8%),冷感が23例(24.5%),痺れが12例(12.8%),冷感と痺れが8例(8.5%),その他(こむら返り,感覚消失,浮腫)が7例(7.4%)であった。また,非糖尿病110例では無症状が58例(52.7%),冷感が23例(20.9%),痺れが13例(11.8%),冷感と痺れが8例(7.3%),その他(こむら返り,感覚消失,浮腫,発疹)が8例(7.3%)であった。以上,HD患者のうち足の冷感があった症例は,糖尿病では94例中31例(33%),非糖尿病では110例中31例(28.2%)であった。

3. 足の冷感の有無における足部温の比較

糖尿病で足の冷感がある症例の左足趾温は28.7 ± 2.5℃,右足趾温は28.8 ± 2.5℃,足の冷感がない症例の左足趾温は31.2 ± 2.2℃,右足趾温は31 ± 2.0℃となり,足の冷感のある症例の足趾温は有意(p < 0.01)に低下していた。また,足の冷感のある症例の左足底温は29.7 ± 1.9℃,右足底温は29.9 ± 2.3℃,足の冷感がない症例の左足底温は31.5 ± 1.8℃,右足底温は31.4 ± 1.7℃となり,足の冷感のある症例の足底温も有意(p < 0.01)に低下していた(Figure 3)。

Figure 3 

HD患者(糖尿病,非糖尿病)の足の冷感の有無における足部温の比較

糖尿病では足の冷感の症状がある場合,足趾と足底温の有意な低下があった。しかし,非糖尿病では足の冷感の有無による足趾と足底温の有意差はなかった。

一方,非糖尿病で足の冷感がある症例の左足趾温は30.4 ± 2.3℃,右足趾温は30.3 ± 2.1℃,足の冷感がない症例の左足趾温は30.6 ± 2.3℃,右足趾温は30.6 ± 2.1℃となり,足の冷感の有無による足趾温の有意差はなかった。また,足の冷感のある症例の左足底温は31.2 ± 2℃,右足底温は31.2 ± 2.1℃,足の冷感のない症例の左足底温は31 ± 1.6℃,右足底温は31.1 ± 1.6℃となり,足の冷感の有無による足底温の有意差もなかった(Figure 3)。

4. 足部皮膚温と足底SPP値の関係

糖尿病の左右の足部温と左右の足底SPP値には正の相関関係が認められた(左足趾r = 0.34,左足底r = 0.2,右足趾r = 0.41,右足底r = 0.32:Figure 4)。また,同様に非糖尿病の左右の足部温と左右の足底SPP値にも正の相関関係が認められた(右足趾r = 0.26,右足底r = 0.23,右足趾r = 0.32,右足底r = 0.21:Figure 4)。

Figure 4 

HD患者(糖尿病,非糖尿病)の足部皮膚温と足底SPP値の関係

5. 糖尿病と非糖尿病の足底SPP値

糖尿病の左足底SPP値は75.3 ± 21 mmHgであり,非糖尿病の左足底SPP値80.2 ± 19.2 mmHgに比して有意(p < 0.05)に低下していた(Figure 5)。同様に糖尿病の右足底SPP値は76.5 ± 18.2mmHgであり,非糖尿病の右足底SPP値81.6 ± 15.7 mmHgに比して有意(p < 0.05)に低下していた(Figure 5)。

Figure 5 

HD患者(糖尿病,非糖尿病)の足底SPP値

6. 糖尿病HD患者(代表例)

症例は77歳,女性,透析歴3年2ヶ月で主訴は左足の冷感であった。サーモグラフィは右足の第1趾28.6℃,第3趾26.4℃,第5趾26.9℃に対して左足の第1趾24.2℃,第3趾23.5℃,第5趾23.8℃となり左足が濃紺色の低温像を呈した(Figure 6白矢印)。SPP値は右足底の53 mmHgに比して,左足底は36 mmHgと低下し,サーモグラフィの左足の低温像に一致して左足底SPP値の低下が認められた(Figure 6黒矢印)。

Figure 6 

糖尿病HD患者(代表例)

IV  考察

HD患者のPADの特徴として間歇性跛行から診断されることは少なく,下肢冷感から急激に足部潰瘍を形成し,重症な状態で病巣が発見される場合がある7)。PADの重症度分類にはFontaine分類8)が用いられ,その初期のI度では無症状か足の冷感や痺れの症状がみられることから,それらをいち早く聴取して検出することがPADの早期発見に極めて重要である.われわれはPAD早期発見を目的として,足の冷感と足部温度に着目して検討した。その結果,糖尿病HD患者は足の冷感がある場合,足趾と足底温の有意な低下が認められた。しかし,非糖尿病HD患者では,足の冷感の有無による足趾,および足底温の有意差は認められないという興味深い知見が得られた。皮膚温は末梢血流量により決められており9),血流量と血圧値は一定の相関関係がある10)。HD患者において足の皮膚温と足底SPP値に正の相関がみられたことは,HD患者の足の皮膚温低下は足の毛細血管における血流障害に起因することが考えられる。また,冷感の発生機転は自律神経失調による血管運動神経障害であり,該部の毛細管攣縮による血行障害の結果として冷感が生じるといわれている11)。糖尿病を合併しているHD患者は,足の冷感の症状があり,かつ足部温の低下,および足底SPP値の低下が認められたことは,糖尿病の合併症である自律神経障害,および細小血管障害12)が関与していることが示唆された。

一方,非糖尿病HD患者では,足の冷感の有無で足趾,足底温度に有意差がなかったことに関してのメカニズムは不明である。温痛覚の伝導路は外側脊髄視床路13)であり,非糖尿病HD患者の足の冷感については,この経路のいずれかの病変も考えられる。しかし,当クリニックでスクリーニングとして施行した磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging; MRI)では脳神経の明らかな異常所見は得られなかった。冷感の自覚症状については,症状と客観的指標は,必ずしも一致しないという報告もある14)~16).東洋医学において冷え性は未病として重視されており,石田ら17)は自覚的な冷感は皮膚温によってのみ規定されるのではなく,気虚(だるい・疲れやすい・気力がない・食欲不振・風邪をひきやすい),瘀血(目のくま・舌の暗赤色または舌下静脈怒張・臍周囲または下腹部の圧痛点・月経障害),水毒(浮腫・車酔いしやすい・めまい・尿量異常)などの要因が関与すると述べている。今後,足の冷感を訴える非糖尿病HD患者に関しては経過観察の必要があると思われる。

V  結語

糖尿病HD患者は足の冷感を伴って足部温の低下,足底SPP値の低下が認められた。しかし,非糖尿病HD患者は,足の冷感と足部温の低下が一致しない症例も存在した。よってHD患者のフットケアを施行する際には,PADの早期発見のために自覚症状の聴取だけではなく,簡便な皮膚赤外線体温計を使用し,定量的な足部温の評価が必須である。

 

本論文の要旨は第40回栃木県透析医学会(2017年9月,下野)において報告した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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