Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Performance of automated fecal occult blood test analyzer “HM-JACKarc®
Junko ANDOUKatsunori KOHGUCHIHiroko UMIZUNaoko OHKURAKaoru TOHYAMA
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 328-333

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Abstract

我が国の大腸がんの罹患数,死亡数は増加傾向にあり,死亡率を減らすには早期発見・早期治療が最も重要である。今回我々は,全自動便中ヒトヘモグロビン分析装置HM-JACKarc®の基礎的検討を行った。同時再現性では低濃度(平均値47.6 ng/mL)の変動係数(CV)0.6%,高濃度(平均値212.2 ng/mL)のCV 1.6%,日差再現性では低濃度(平均値48.9 ng/mL)のCV 3.6%,高濃度(平均値207.8 ng/mL)のCV 5.2%,最小検出感度は4.0 ng/mL,希釈直線性は400 ng/mLまで良好な直線性を示した。キャリーオーバーの検討において,ヘモグロビン濃度理論値360,000 ng/mLまで0濃度試料測定1回目でcut off値(30 ng/mL)を超えることはなかったが,異常高値の検体においてのキャリーオーバーの影響は完全に否定できない結果であった。しかし,これらについては運用や検査システム等の活用で十分回避できるものであると思‍われた。プロゾーン試験では測定上限の400 ng/mLを下回ることはなかった。従来機器との相関は,線形関係式y = 0.957x − 0.421,相関係数0.995,一致率は96.6%であった。操作法も簡便で,日常検査において迅速に,精確な検査結果を臨床へ提供することが可能であり,大腸がんのスクリーニング検査に有用な装置であると考えられた。

I  はじめに

我が国の大腸がんの罹患数,死亡数は食生活の欧米化に伴い年々増加傾向にあり,国立がん研究センターがん情報サービスの最新がん統計まとめによると,2012年の大腸がん罹患数は男女を合わせ第1位,2014年の死亡数は男性で第3位,女性で第1位であった1)

大腸がんの死亡率を減らすためには早期発見・早期治療が最も重要である。免疫学的便潜血検査は簡便かつ無侵襲であり,出血性消化管疾患,初期段階では自覚症状に乏しい大腸がんのスクリーニング検査として有用とされ,広く普及している2),3)

今回我々は,全自動便中ヒトヘモグロビン分析装置HM-JACK® plusからHM-JACKarc®への分析装置変更に伴い基礎的検討を行ったので報告する。

II  対象および方法

1. 使用機器

協和メデックス株式会社(以下,協和)の全自動便中ヒトヘモグロビン分析装HM-JACKarc®(以下,arc)を使用した。対象機器として,同社の全自動便中ヒトヘモグロビン分析装HM-JACK® plus(以下,plus)を使用した。両機器ともラテックス凝集法を原理とし,便中のヘモグロビン量を測定する装置である。

2. 試料・試薬

当院外来・入院患者の便潜血用検体146検体,ヘモグロビン標準HS(協和),HM液状コントロールHS(協和),干渉チェックAプラス溶血ヘモグロビン(Sysmex株式会社)を使用した。

arc用の試薬として,エクステル「ヘモ・オート」HS L液E,エクステル「ヘモ・オート」緩衝液を使用した。plus用の試薬として,エクステル「ヘモ・オート」plus HS L液,エクステル「ヘモ・オート」plus緩衝液を使用した。採便容器は両機器ともヘモ・オートMC採便器を使用した。なお,本研究は川崎医科大学・同附属院倫理審査機構の承認(承認番号:2683-1)を得たものである。

3. 検討項目

1) 同時再現性

HM液状コントロールHS(低濃度,高濃度)を用いて10回連続測定を行い,平均濃度,SD(標準偏差),CV(変動係数)を求めた。

2) 日差再現性

HM液状コントロールHS(低濃度,高濃度)を用いて10日間測定を行い,平均濃度,SD,CVを求めた。

3) 最小検出感度

ヘモグロビン標準HS低濃度を試料とし,採便容器緩衝液で10段階の希釈系列を作製し,それぞれ6重測定した。各濃度の測定値の2SDが重ならない点を最小検出感度とした。

4) 希釈直線性

溶血ヘモグロビン(以下,溶血Hb)を採便容器緩衝液でヘモグロビン濃度(以下,Hb濃度)理論値430 ng/mLに調整し,試料とした。さらに10段階希釈し,それぞれ3重測定した。測定値は平均値を採用した。

5) キャリーオーバーの検討

溶血Hbを採便容器緩衝液で希釈し,試料とした。試料はカップに分注したものと,採便容器に分注したものを用意した。各容器の試料を測定後,0濃度試料(採便容器緩衝液)を5回連続測定した。

6) プロゾーン試験

溶血Hbを採便容器緩衝液で倍々希釈し試料とした。理論的に希釈した試料が測定範囲下限値程度になるまで希釈し,今回は高濃度試料を19段階希釈した試料を3重測定した。測定値は平均値を採用し,Hb濃度理論値と各濃度の測定値を比較した。

7) 相関性・一致率

当検査室に提出された便潜血用検体146検体を用い,両機器で測定した。arcの測定上限は400 ng/mLと設定されているため,plusで400 ng/mL以上を示した13検体を除外した133検体で相関性を求めた。

III  結果

1. 同時再現性(Table 1
Table 1  Within-run
Low High
1 48.7 213.5
2 48.5 212.6
3 48.0 212.8
4 48.2 211.1
5 47.3 210.3
6 47.0 212.7
7 46.6 212.0
8 47.3 210.4
9 47.3 214.3
10 46.6 211.9
Mean (ng/mL) 47.6 212.2
Max (ng/mL) 48.7 214.3
Min (ng/mL) 46.6 210.4
SD (ng/mL) 0.8 1.3
CV (%) 1.6 0.6

2濃度のコントロールを用いて10回連続測定した結果,CVは低濃度(平均値47.6 ng/mL)で1.6%,高濃度(平均値212.2 ng/mL)で0.6%であった。

2. 日差再現性(Table 2
Table 2  Between-day
Low High
1 46.2 200.1
2 46.0 190.8
3 48.9 212.4
4 47.6 207.4
5 45.4 201.8
6 50.8 214.1
7 52.7 216.1
8 53.0 213.8
9 49.1 210.9
10 49.5 210.7
Mean (ng/mL) 48.9 207.8
Max (ng/mL) 53.0 216.1
Min (ng/mL) 45.4 190.8
SD (ng/mL) 2.6 7.5
CV (%) 5.2 3.6

2濃度のコントロールを用いて10日間測定した結果,CVは低濃度(平均値48.9 ng/mL)で5.2%,高濃度(平均値207.8 ng/mL)で3.6%であった。

3. 最小検出感度(Figure 1
Figure 1 

Minimum detectable sensitivity

2SD法より求めた最小検出感度は4.0 ng/mLであった。

4. 希釈直線性(Figure 2
Figure 2 

Dilution linearity

測定上限である400 ng/mLまでの直線性を有することが確認できた。

5. キャリーオーバーの検討(Table 3, 4
Table 3  Carry-over (cup)
Hb濃度理論値 採便容器緩衝液(0 ng/mL)測定回数
1 2 3 4 5
 15,000 ng/mL 1.0 0.3 0.3 0.3 0.3
 25,000 ng/mL 1.5 0.3 0.4 0.1 0.1
 50,000 ng/mL 3.8 0.4 0.0 0.4 0.5
100,000 ng/mL 8.0 0.6 0.3 0.4 0.4
150,000 ng/mL 12.2 0.5 0.5 0.5 0.2
200,000 ng/mL 16.7 0.6 0.4 0.5 0.3
360,000 ng/mL 27.3 1.3 0.5 0.3 0.2
Table 4  Carry-over (feces collection container)
Hb濃度理論値 採便容器緩衝液(0 ng/mL)測定回数
1 2 3 4 5
 15,000 ng/mL 0.9 0.3 0.2 0.3 0.0
 25,000 ng/mL 3.1 0.3 0.5 0.3 0.2
 50,000 ng/mL 3.3 0.6 0.7 0.3 0.3
100,000 ng/mL 7.7 0.6 0.5 0.4 0.3
150,000 ng/mL 9.7 0.9 0.6 0.4 0.3
200,000 ng/mL 15.3 0.9 0.8 0.3 0.6
360,000 ng/mL 25.5 1.0 0.4 0.4 0.3

カップ,採便容器での測定ともにHb濃度理論値360,000 ng/mLの試料までcut off値である30 ng/mLを超えることはなかった。

6. プロゾーン試験(Figure 3
Figure 3 

Prozone test

Hb濃度理論値1,542 ng/mL以上の試料において抗原過剰による測定値の低下を認めたが,測定上限である400 ng/mLを下回ることはなかった。

7. 相関性・一致率(Figure 4, Table 5
Figure 4 

Correlation

Table 5  Rate of concordance
HM-JACK plus 合計
+
HM-JACKarc 80 5 85
+ 0 61 61
合計 80 66 146

一致率 96.6%

線形関係式y = 0.957x − 0.421,相関係数0.995の結果が得られた。また,一致率は96.6%(141/146検体)であった。不一致例を5例認め,その内訳は5例ともplusで陽性,arcで陰性であった。

IV  考察

新たに導入した全自動便中ヒトヘモグロビン分析装置HM-JACKarc®の基礎的検討を行った。同時再現性ではCV 0.6,1.6%,日差再現性ではCV 3.6,5.2%と良好な結果であった。最小検出感度は4.0 ng/mLであり,cut off値(30 ng/mL)からみて十分な感度を有していると思われた。希釈直線性は測定上限の400 ng/mLまで良好な直線性を示し,信頼できるものであった。キャリーオーバーの検討においてはカップ測定と,実測定同様の状態でデータをみるため採便容器での測定を行った。両容器の測定ともにHb濃度理論値360,000 ng/mLの試料まで,0濃度試料測定1回目でcut off値を超える測定値は認められなかった。鉛山らの検討4)ではHb濃度理論値29,700 ng/mLでcut off値を超えるキャリーオーバーが指摘されていたが,我々の検討ではHb濃度理論値360,000 ng/mLでもcut off値を超えるキャリーオーバーは確認できず,データに10倍以上の差が認められる結果となった。しかし,Table 3, 4の結果からHb濃度依存性に0濃度試料測定1回目の測定値は高値傾向を示し,キャリーオーバーの影響は完全に否定できないことが示唆された。今回のキャリーオーバーの検討では機器の性能を見極めるため,Hb濃度理論値360,000 ng/mLまでの試料を使用した。Hb濃度理論値50,000 ng/mLまでは最小検出感度の4.0 ng/mLを下回る結果となり,キャリーオーバーの影響は最小限であったと考えられる。

採便容器の採取量を健常人全血(ヘモグロビン量15 g/dL)と仮定し考えてみることとした。採便容器の採取量は2 mgであるので,水の容量として例えると2 μLとなる。採便容器の溶解液は2 mLであるので,この場合のHb濃度は理論値として150,000 ng/mLとなる。Table 4の同一濃度での0濃度試料測定1回目は9.7 ng/mLでありcut off値をかなり下回る結果ではあったが,やはり注意は必要であると思われた。当検査室では偽陽性値の臨床への報告を防ぐため,見た目に赤色を呈する検体の後にはあらかじめダミーとして空の採便容器をセットして測定する,陽性データには再検フラグを立て,自動送信しないなどの運用を行っている。キャリーオーバーの可能性がある高濃度試料ではarcの測定結果表示画面や印字用紙にエラーマーク“P(プロゾーン)”が表示されることを利用し,これをシステムでチェックし,データ確認後に報告を行うなどの対策をしている。自施設の使用機器の特性を理解し,システム上のチェック等を利用することで十分回避できる事象であり,ルーチン検査導入にあたり支障はないと考えられた。実際,導入して1年程度経過するが,偽陽性で報告した事例はないと思われる。プロゾーン試験は高濃度試料においても陰性化はみられず,また測定上限の400 ng/mLを下回ることはなく,データの信頼度が高いことが示唆された。一致率において乖離した検体(146検体中5検体)は全てplusで陽性,arcで陰性という結果であり,かつ,cut off値付近の検体であった。判定不一致の要因として,相関性の結果(y = 0.957x − 0.421)よりarcはplusより低値傾向であるため判定が変化したことが挙げられる。さらに,両機器の再現性の差による測定値の誤差や両機器で使用したラテックス試薬のLot間差,マスターカーブの差など複合要因により判定が変化したと考えられたが,真の原因は明らかではない。

従来機器であるplus導入時の基礎的検討結果と比較すると,当時とはラテックス試薬や測定上限の変更などはあるが,再現性を含めたほとんどの検討項目においてarcの方が良好な結果となり,機器の精度が高まっていると思われた5)。すでに論文等で公表されているarcの基礎的検討データ4),6),7)とも比較したが,概ね他施設と同様,良好な結果であった。

arcでは従来のplusと比較し,反応時間は7分から5.6分へと短縮された。検体架設はターンテーブルからラック架設方式へと変更され,検体・コントロール・標準液それぞれに専用ラックが設けられたことより,試料の架設,精度管理が簡易となり利便性が高まった。また,反応セルがガラスセルからディスポーザブルセルに変更されたことで,セル不良によるエラーがなくなりメンテナス面でも省力化が図られた。また,セル洗浄が不要となったことで,多量に必要としていた蒸留水が不要となり,管理も容易となった。表示画面はタッチパネル式の大画面へと変更され,操作も簡易となった8)。これら前述の変更点だけからでもルーチン業務の煩雑さが解消され,効率化がなされている。

現在,便中ヘモグロビンの濃度は,一般的にng/mLで表示されている。ところが便中ヘモグロビン検査は標準化されていないため,各メーカーにより採便量と緩衝液量の比率が異なるため単純に測定値を比較することはできない。コントロールサーベイなどデータを比較表示する場合にはμg/g便という単位が用いられている2)。今回検討したarcは高感度ラテックス試薬が使用されており,便溶解液1 mLに対して便1 mgの比率で測定となっている。この比率で測定した場合はng/mL = μg/g便となり,単位換算の必要もないという利点がある。

今回の基礎的性能評価の結果より,arcは大腸がんのスクリーニング検査として有用な装置であると考えられた。

V  結語

今回,全自動便中ヒトヘモグロビン分析装置HM-JACKarc®の基礎的検討を行った。キャリーオーバーの影響は完全に否定できないが,その他の検討結果は良好であり,操作性の簡易化,測定時間の短縮などの点からも,日常検査において迅速に,精確な検査結果を臨床へ提供することが可能な分析装置であると考えられる。

謝辞

稿を終えるにあたり,ご指導いただいた川崎医療福祉大学 椿原彰夫教授に深謝いたします。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  国立がん研究センターがん情報サービス:最新がん統計.http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
  • 2)   岡田  茂治:「便ヘモグロビン検査 大腸癌の診断・治療における臨床検査技師の役割」,Medical Technology, 2015; 43: 555–561.
  • 3)   高島  周志,他:「健診における大腸がんスクリーニングとしての便ヘモグロビン定量値の有用性」,人間ドック,2016; 31: 34–38.
  • 4)   鉛山  かおり,他:「便潜血自動分析装置2機種の比較検討」,広島臨床検査,2016; 5: 42–48.
  • 5)   高松  邦樹,他:「全自動便中ヒトヘモグロビン分析装置HM-JACK Plusの基礎的検討」,日本臨床検査自動化学会会誌,2005; 30: 462.
  • 6)   伊藤  雅浩,他:「全自動便中ヒトヘモグロビン分析装置HM-JACKarcを用いたエクステル「ヘモ・オート」HSおよびヘモ・オートMC採便器の評価」,機器・試薬,2011; 34: 387–393.
  • 7)   藤村  和夫,他:「3機種による便潜血自動分析装置の比較検討」,機器・試薬,2013; 36: 679–685.
  • 8)  KYOWA KIRIN協和メデックス:自動分析装置.http://www.kyowamx.co.jp/products/device/
 
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