Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of the screening cut-off value of meropenem for carbapenemase-producing Enterobacteriaceae isolates in Aichi Prefecture
Daisuke SAKANASHIYuka YAMAGISHIYuzuka KAWAMOTONarimi MIYAZAKITomoko OHNOAtsuko YAMADAIsao KOITAHiroshige MIKAMO
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Keywords: CRE, CPE, carbapenemase
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 294-298

Details
Abstract

2011年1月から2017年8月の期間に愛知医科大学病院を含む愛知県下14施設にて臨床分離された腸内細菌科細菌175株を対象とし,カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)の遺伝子型およびmeropenem(MEPM)の最小発育阻止濃度(MIC)を用いたCPEのスクリーニング基準を検討した。結果,国内流行型であるIMP-1(63株),IMP-6(22株)に加え,海外流行型であるKPC-2(1株),GES-5(1株),NDM-1(1株),NDM-5(2株),OXA-48-like(2株)を含む計92株のCPEが確認された。CPEにおけるMEPMのMIC値は0.25から> 32 μg/mLまで幅広い分布を示し,感性(< 2 μg/mL)を示した株が14株(15.2%)認められた。今回の検討では,CPEのスクリーニング基準は,MEPMのMIC値> 0.125 μg/mL(ヨーロッパ抗菌薬感受性試験法検討委員会設定値)を用いることが望ましいと考えられた。今後は,地域におけるCPEの蔓延を制御するため,MEPMのMIC値を考慮したサーベイランスおよび遺伝子解析など継続的な監視の実施が必要と考える。

緒言

近年,カルバペネム系抗菌薬を分解するカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase producing Enterobacteriaceae; CPE)の増加が世界的問題となっている1)。カルバペネマーゼには化学的特性が異なる複数の種類があり,それぞれ抗菌薬分解活性および検出方法(阻害剤)が異なる2)。したがって,効率的な検査体制の構築には当該地域のCPEの特徴・流行を把握することが重要である。愛知医科大学病院感染制御部では,地域における感染制御活動として2011年以降,自施設のみならず近隣医療圏を中心にMultiplex PCR法によるカルバペネマ-ゼ遺伝子検索を受託してきた。今回我々は,愛知県で臨床分離されたCPEの遺伝子型分布およびmeropenem(MEPM)の最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration; MIC)によるスクリーニング基準を検討したので報告する。

I  材料および方法

1. 菌株

2011年1月から2017年8月の期間に愛知医科大学病院(Aichi Medical University Hospital; AMU)を含む愛知県内の14施設にて臨床分離され,愛知医科大学病院感染制御部に薬剤耐性遺伝子解析の依頼があった腸内細菌科細菌175株を対象とした。なお,依頼時に提出された診療情報提供書から知りうる限りにおいて,同一患者同一菌株と考えられる菌種については重複除外処理を行った。菌種同定はMALDI Biotyper(ブルカーダルトニクス)を用いて実施した。対象菌株の菌種内訳は,Citrobacter braakii 1株,Citrobacter amalonaticus 4株,Citrobacter freundii 6株,Enterobacter aerogenes 6株,Enterobacter cloacae 35株,Escherichia coli 30株,Klebsiella oxytoca 14株,Klebsiella pneumoniae 71株,Klebsiella variicola 1株,Providencia rettgeri 1株,Raoultella ornithinolytica 2株,Salmonella spp.(Serotype O4)1株,Serratia marcescens 3株であった。

2. カルバペネマーゼ遺伝子multiplex PCR

全対象菌株に対し,6種類の獲得型カルバペネマーゼ遺伝子(KPC, GES, IMP, VIM, NDM, OXA-48-like)のスクリーニングを既報のMultiplex PCRにて実施した3)。PCR陽性となった菌株については,既報に従い塩基配列解析を実施して遺伝子型を決定した4)‍~7)

3. MEPMのMIC測定

MEPMのMIC測定はETEST®メロペネムMP(シスメックス・ビオメリュー)を用い,メーカー推奨法に従って濃度域< 0.002 μg/mLから> 32 μg/mLまで測定した。MIC値の感受性判定は米国臨床検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute; CLSI)に準じた8)

II  結果

1. CPEの検出状況

獲得型カルバペネマーゼ遺伝子Multiplex PCRにて,対象175株中92株が陽性となった。遺伝子型の内訳は,KPC-2(1株),GES-5(1株),IMP-1(63株),IMP-6(22株),NDM-1(1株),NDM-5(2株),OXA-48-like(2株)であった。検出された施設とCPEの遺伝子型分布をFigure 1に示す。AMUおよび愛知県内9施設(a,b,c,d,e,f,g,h,およびi)において,CPEが確認された。

Figure 1 

Emergence of CPE from 10 hospitals in Aichi Prefecture

2. MEPMの薬剤感受性

CPEの遺伝子型,菌種,MEPMの MIC値をTable 1に示す。CPEにおけるMEPMのMIC値は,0.25から> 32 μg/mLに分布した。GES-5産生K. oxytoca 1株,IMP-1産生E. cloacae 2株,IMP-1産生K. oxytoca 2株,IMP-1産生K. pneumoniae 7株,およびOXA-48-like産生E. coli 2株の計14株(14/92; 15.2%)は,MEPMに感性(< 2 μg/mL)を示した。MEPMのMIC値別のCPEの割合は,< 0.25 μg/mLで0%(0/30),0.25 μg/mLで17.6%(3/17),0.5 μg/mLで26.7% (4/15),1 μg/mLで58.3%(12/7),2 μg/mL以上では77.2%(78/101)であった(Figure 2)。

Table 1  Distribution of MEPM MIC for the CPE and non-CPE in this study
Carbapenemase gene* (no.) Organism (no.) Meropenem MIC (μg/mL) by Etest and clinical breakpoint** % susceptible
S I R
< 0.25 0.25 0.5 1 2 4 8 16 32 > 32
Carbapenemase-positve isolates (92) 3 4 7 14 16 17 11 6 14 15.2
 KPC-2 (1) K. pneumoniae (1) 1 0
 GES-5 (1) K. oxytoca (1) 1 100
 IMP-1 (63) C. amalonaticus (4) 1 1 2 0
C. freundii (2) 2 0
E. cloacae (12) 1 1 2 2 1 2 3 16.6
K. oxytoca (9) 2 2 5 22.2
K. pneumoniae (35) 1 2 4 4 7 10 5 1 1 20.0
P. rettgeri (1) 1 0
 IMP-6 (22) C. freundii (1) 1 0
E. aerogenes (1) 1 0
E. cloacae (2) 1 1 0
E. coli (4) 2 2 0
K. oxytoca (2) 1 1 0
K. pneumoniae (12) 1 1 3 2 5 0
 NDM-1 (1) K. pneumoniae (1) 1 0
 NDM-5 (2) C. braakii (1) 1 0
E. coli (1) 1 0
 OXA-48-like (2) E. coli (2) 1 1 100
Carbapenemase-negative isolates (83) 30 14 11 5 10 4 5 1 3 72.3

* KPC, GES, IMP, VIM, NDM, and OXA-48-like were searched by multiplex PCR.

** According to the criteria of CLSI M100-S27 Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing—Twenty-Seven Informational Supplement. S: susceptible, I: intermediate and R: resistant.

Figure 2 

Percentage of CPE to the total isolates compared to each MIC value of MEPM

III  考察

カルバペネマーゼの世界的分布には地域特異性が認められ,欧州ではNDM型,VIM型,およびOXA-48-like型,北米ではKPC型,インドおよび東南アジアではNDM型が主流である9)。一方,本邦においては様相が異なり,IMP型が高頻度であり9),特にIMP-6産生菌の増加が報告されている10)。今回の検討で最も多く検出された遺伝子型はIMP-1(63株),次いでIMP-6(22株)であった。IMP-1産生菌が過半数の施設(AMU,c,d,e,f,g,h,およびi)から検出されたのに対し,IMP-6産生菌は2施設(bおよびc)からのみの検出にとどまっており,愛知県内という限局した地域の中においてもCPEの遺伝子型に施設間差が認められた。IMP-6産生菌が最も多く検出された施設dは愛知県の西端に位置し,IMP-6産生菌の流行地域である近畿地域11)に医療圏が近接しているため検出頻度が高かったものと考えられた。また,本検討ではKPC-2,GES-5,NDM-1,NDM-5,OXA-48-like等,海外流行型CPEの臨床分離も複数施設で確認されており,今後の蔓延への警戒・監視が必要と考えられた。

本邦では,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症が5類感染症に位置付けられ全数把握対象に指定されているが,本届出はカルバペネム耐性機序についての要求はなく,届出基準の検査方法もCPE検出を目的としたものではない12)。現在のところ本邦では,CPE検出に対する明確なスクリーニング基準は示されていない。

諸外国においては,CLSI8)が,MEPMまたはImipenem(IPM)のMIC > 1 μg/mL,またはErtapenem(ETPM)のMIC > 0.5 μg/mLをカルバペネマーゼ確認試験実施基準としている。しかしながら別項に,Proteus spp.,Providencia spp.およびMorganella morganiiは,しばしばカルバペネマーゼ産生とは異なる機序でIPMのMIC値が非感性になるとの記載がある。さらに,IMP-6産生菌ではIPMのMIC値が低いために見落とされる可能性があり13),IPMのMICをCPEのスクリーニング基準に用いるのは適切でないと考えられる。

一方,ヨーロッパ抗菌薬感受性試験法検討委員会(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing; EUCAST)は,MEPMのMIC > 0.125 μg/mLまたはETPMのMIC > 0.5 μg/mLをCPEのスクリーニング基準に設定している14)。このなかでETPMは感度・特異度の両面でMEPMに劣ると記載されているうえ,本邦においては治療薬としての承認がなく測定も一般的ではない。これらの状況を踏まえ,今回我々はMEPMによるCPEスクリーニングについて検討した。結果,愛知県から分離されたCPEのMEPM のMICは0.25から> 32 μg/mLまで幅広い分布を示し,14株(15.2%)が感性(< 2 μg/mL)を示した。MEPM感性を示したCPEは,11株が本邦での検出頻度が高いIMP-1産生菌であり,他3株はOXA-48-like産生菌2株とGES-5産生菌1株の海外流行型CPEであった。本研究におけるMEPMのMIC値別のCPEの割合は,0.25 μg/mL,0.5 μg/mLおよび1 μg/mLにおいて,同順で17.6%,26.7%および58.3%であった。したがって,CPEの検出には,EUCASTが設定しているMEPMのMIC > 0.125 μg/mLを用いる必要があると考えられた。2012年臨床分離株の感受性サーベイランス15)における腸内細菌科菌のMEPMのMIC90は,Morganella morganiiが0.25であったが,他の菌種では0.12以下であった。したがって,CPEの検出にMEPMのMIC > 0.125 μg/mLの基準を用いても,陽性株が急増することは考えににくく,有用な基準であると考える。

IV  結語

愛知県内において様々な遺伝子型のCPEの臨床分離が確認された。これらのCPE株にはMEPM感性を示すものが存在しており,CPEを検出するスクリーニング基準はEUCASTが設定しているMEPMのMIC > 0.125 μg/mLを用いることが望ましいと考えられた。今後,地域におけるCPE蔓延を制御するため,MIC値を考慮したサーベイランスおよび遺伝子解析など継続的な監視の実施が必要と考える。

 

本論文の要旨は第66回日本医学検査学会(2017年6月,千葉市)で発表した。

本研究は菌株を対象とした検討であり患者の個人情報に関することを含んでいない。そのため,倫理委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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