Japanese Journal of Medical Technology
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Construction of a reagent management system for ISO 15189 using Microsoft Excel VBA and GS1-128 barcode
Tamaki YAMAMOTOAmi NAKOKenta MASUDASeiji HASHIMOTOSyuichi SHIGASatoshi ICHIYAMA
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 353-359

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Abstract

当院は2014年,臨床検査室の品質と能力に関する要求事項を定めた国際規格ISO 15189:2012を取得した。ISO 15189:2012においては,検査に関わる全てのプロセスにトレーサビリティーが求められる。検体検査における試薬などについても厳密な管理が要求され,細かな記録が必要となる。当初,当検査室においては,記録用紙による手書き方法で運用を開始したが,手間や時間を要し,また記入漏れの発生もあった。我々はこれらの問題を解決すべく,GS1-128バーコードを用いた試薬管理システムを構築した。プログラムの開発には標準的な表計算ソフトであるMicrosoft Excelに標準搭載されているプログラム言語Visual Basic for Applicationsを用いた。記録の記入をバーコードとプログラムで自動化させることで,記録作業の効率化が図られ,記入ミスなども防ぐことができるようになった。また,データが電子化されたことで,期限切れ試薬の使用などのミスの削減,また発注作業の効率化を実現した。正確で安全な臨床検査サービスの提供には,試薬の発注・在庫管理,ロット番号や使用期限の管理,使用開始日・使用終了日などの記録が欠かせない。これらの記録業務を効率よく実施できることで,検査業務が円滑に遂行できることが期待される。

I  はじめに

当院は2014年,臨床検査室の品質と能力に関する要求事項を定めた国際規格ISO 15189:2012を取得した。ISO 15189:2012においては,検査に関わる全てのプロセスにトレーサビリティーが求められる。例えば検体検査における試薬などについても厳密な管理が要求され,ロット番号,受取日,有効期限,使用開始日,業務使用から外れた日などの細かな記録が要求される1)。当初,当検査室においては,記録用紙に手書きする方法で運用を開始したが,手間や時間を要し,記入漏れの発生もあった。我々はこれらの問題を解決すべく,各試薬の外装に印字されている,GS1-128バーコードを用いた試薬管理システムを構築した。GS1-128バーコードは医療品業界で標準化されている1次元のバーコードで2),商品固有のコード(JANコード),有効期限,ロットなどの情報が含まれたコードである3),4)。バーコードから,JANコードを読み取り試薬名を自動照合させ,使用期限やロット情報を自動で入力し,職員番号と職員名も自動照合させることで,試薬管理記録作業の省力化を目指した。プログラムの開発には標準的な表計算ソフトであるMicrosoft Excelに標準搭載されているプログラム言語Visual Basic for Applications(以下,VBA)を用いた。

II  方法

1. 開発環境

OS:Windows 7 Professional Service Pack 1

ソフトウェア:Microsoft Office Professional Plus 2010(Microsoft Excel 2010)

バーコードリーダー:symbol technologies INC/LS9208-SR11011NSJR

2. GS1-128バーコード

GS1-128は,医療品業界でデータの項目,桁数及びバーコードの種類を標準化し全世界での共通利用を可能とする規格として策定されたものである3)。医療品業界では標準とされている2)

各種情報はアプリケーション識別子(以下,AI)で区切られている。臨床検査試薬によく使われるのは以下のとおりである(Figure 1, 2)。

Figure 1 

試薬外装のGS1-128バーコード

試薬箱および試薬ボトルに印字された例。

Figure 2 

GS1-128バーコード例

商品コード,有効期限,ロット番号情報を取得。

01:商品コード 数字14桁(固定長)

17:有効期限 数字6桁(固定長)

10:ロット番号 英数字1~20桁(可変長)

III  システムの概要

1. システムの基本構成

システムは,「スタートワークシート」「物品受領ワークシート」「データベースワークシート」「発注記録ワークシート」「発注履歴ワークシート」「使用開始日管理記録ワークシート」より構成される。なお「使用開始日管理記録ワークシート」は,試薬ごとに1ページのワークシートとし,ワークシート名には各試薬名を用いている(Figure 3)。

Figure 3 

ワークブック全体図

システムのワークブック構成。

「スタートワークシート」に職員番号バーコードを読ませた後,「物品受領ワークシート」を開くことで「物品受領フォーム」が自動的に開き,フォーム内のテキストボックスにGS1-128バーコードを読み込みさせる。システムはバーコード情報から商品コード部を取り出し,データベースワークシート上でコードと試薬名を照合した後に該当する試薬名を物品受領ワークシートに記入する。同時に,バーコードから有効期限・ロット番号も識別して記入し,スタートワークシートに入力した職員番号をデータベースワークシート上で照合して該当職員名および日付を記入する。バーコードを連続して読み取らせることで,物品受領ワークシートに受領する試薬情報が列挙される。バーコード読み取りがすべて完了した後に,物品受領フォーム上の「入力完了」ボタンを押すことで,物品受領ワークシート上の情報が各試薬の「使用開始日管理記録ワークシート」に転記される。各試薬の使用開始日や使用終了日を入力する場合は,ページナビゲーションフォームで試薬名を選択(またはGS1-128コードを入力)することで,該当の「使用開始日管理記録ワークシート」の入力画面が開き,入力したい使用開始日欄,または使用終了日欄のダブルクリックで「開始日・終了日入力フォーム」が表示される。ボタンクリックで作業日と操作職員名が記入される仕組みである(Figure 4)。

Figure 4 

システム動作イメージ

データベースワークシートを参照することで,各ワークシートに情報転記。

2. プログラミングコードの実際

GS1-128バーコードからの情報の読み取りにつき,実際のVBAプログラミングコードを以下に解説する。

1) 試薬名の取得

試薬名の取得は最初に変数fullbarcodeに,バーコード情報を格納する。次にワークシート関数Findを用い,fullbarcodeからGS1-128コードの「01」の位置を取得し,変数AI01に格納する。Mid関数を用い,AI01をキーとしてfullbarcodeから「01」以下の14桁を取得し,変数siyakucodeに格納する。最後にワークシート関数VLookupを用い,「データベースワークシート」上でsiyakucodeを照合させて,対応する試薬名を取得し,変数siyakumeiに格納する。

2) 使用期限の取得

使用期限の取得は最初にワークシート関数Findを用い,fullbarcodeから「17」の位置を取得し,変数AI17に格納する。次にMid関数を用い,AI17をキーとしてfullbarcodeから「17」以下の6桁を取得し,変数siyoukigenに格納する。最後にMid関数を用い,siyoukigenから2桁ずつ(年・月・日)をそれぞれ変数siyoukigen_year,変数siyoukigen_month,変数siyoukigen_dateに格納する。siyoukigen_dateの‍値が「00」となった場合は,コンピューターがこ‍れを日付を意味する数字であると認識することが‍できないため,月末の日付に置き換える。siyoukigen_year,siyoukigen_month,siyoukigen_dateから,「yyyy/mm/dd」の日付型に変換した値を変数siyoukigen_kinyuuに格納する。

3) ロット番号の取得

ロット番号の取得は最初にワークシート関数Findを用い,fullbarcodeから「10」の位置を取得し,変数AI10に格納する。次にMid関数を用い,AI10をキーとしてfullbarcodeから「10」以下の文字列を取得し,変数lotnoに格納する。

4) 職員名の入力

スタートワークシート上に入力した職員バーコードを変数jyuryousyacodeに格納する。ワークシート関数VLookupを用い,「データベースワークシート」上でjyuryousyacodeを照合し,対応する職員名を取得して変数jyuryousyaに格納する。

5) 物品受領ワークシートへの記入

物品受領の記入は物品受領ワークシートの新規データ入力行(データ最終行+1)の行数(n)を取得する。n行目のA列~G列にデータを書き込む。

6) 日付の入力

日付の入力はDate関数を用い,「今日の日付」を取得する(Figure 5)。

Figure 5 

VBAプログラミングコード

物品受領ワークシート上で動作する「物品受領フォーム」に記載したVBAプログラミングコード。

3. GS1-128のAI識別処理

本システムは,日常業務に使用しているITFバーコード(Interleaved 2 of 5)用のバーコードリーダーを共用することを前提とした。したがって,GS1-128バーコード情報については特別な編集を行わずテキスト配列として読み込み,処理できるように設計した。

今回,当検査室において利用しようとする試薬のGS1-128バーコードには(01)(17)(10)以外のAIは含まれていなかった。しかし,利用しようとする試薬のGS1-128バーコードに,(01)(17)(10)以外のAIが含まれていた場合(例:(30)数量,など)には,AI識別処理の追加記述が必要となる場合がある。なお,このような場合には,GS1-128バーコード読み取り専用のバーコードリーダーを別途用意し,バーコードリーダー本体にGS1-128バーコードについては情報編集を行って読み込むように設定することで(AIごとにデータを分割して読み込む,AIにカッコを付けて読み込む,等),対応可能となると考えられる。

4. ユーザーインターフェース

実際の試薬納入時は複数種類の試薬が同時に納入される。そのため,本システムは試薬をまとめて受領し,一度で処理が可能となるよう設計した。バーコードの読み取りミスなども,物品受領ワークシート上で確認し,修正をしてから転記が可能となっている。また,試薬の発注確認ができるよう,発注時に発注日,発注個数,発注者を記録できる機能を設け,物品受領を行うと連動して発注個数が減算され,発注済み未入庫数が確認可能となっている。

5. 電子化のメリット

データが電子化されたことで,使用期限が近付いている場合や使用期限が切れていた場合,ロット番号が変わった時などにアラートメッセージの表示が可能となった。また,各検査の試薬につき箱単位の平均使用日数を計算し,在庫が約1か月分を下回った場合に発注メッセージの表示も可能となった(Figure 6)。また任意の日付までに使用する試薬数を予測することで,発注可能な試薬個数(使用期限内に使いきれる個数)が計算可能となり,発注作業に活用することができる(Figure 7)。

Figure 6 

在庫一覧フォーム

直近5回分の使用履歴から,箱単位の使用日数を求め,在庫数の測定日数を表示。

Figure 7 

発注目安フォーム

任意の日付までに使用する試薬数の予測計算。

IV  考察

記録作業に際し,システム導入前は,ファイルから該当記録用紙を探す手間や,記録用紙の選択ミス,記録用紙の在庫切れなどの種々の要因により,記録漏れや記録ミスが発生することがあったが,システム導入後は作業が効率化されたことにより,これらが改善され作業時間も短縮された。試薬発注作業は,使用期限を加味しながら試薬ごとに異なる必要在庫数を確保する必要がある。そのため,習熟が必要であったがシステムにより発注必要数が数値化されるようになり,発注作業が簡便になった。また,試薬在庫および発注状況の確認を一度に行うことができるようになり,発注作業が効率化された。

本システムは開発に汎用的な表計算ソフトであるMicrosoft Excel を用いており,多くの検査室で費用投資が少なく活用できると思われる。また,施設独自に開発可能であることより,施設ですでに使用しているフォーマットに合わせたレイアウトの作成ができる。加えて,医療品業界で標準化されているGS1-128バーコードの利用であるため,ほとんどの試薬でシステムを利用することができる。測定機器本体やLISなどに試薬管理機能が搭載されていない場合にも,本システムの利用は有効であると思われる。

V  結語

ISO 15189が要求する正確で安全な臨床検査サービスの提供には,試薬の発注・在庫管理,ロット番号や使用期限の管理,使用開始日・使用終了日などの記録が欠かせない。これらの記録業務を効率よく実施できることで,検査業務が円滑に遂行できることが期待される。

 

なお,本論文の要旨については,日本臨床検査自動化学会第49回大会(2017年9月,横浜)において発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  日本規格協会:INTERNATIONAL STANDARD ISO15189 3rd edition 2012-11-01. Medical Laboratories-Requirements for Quality and Competence(臨床検査室―品質と能力に関する要求事項).
  • 2)  厚生労働省:「新バーコード表示の活用及び医療用医薬品のJAN/ITFコード表示の終了について」,医薬品・医療機器等安全性情報No. 323,2015
  • 3)  株式会社キーエンス:よくわかるバーコードの基本vol. 1.https://www.keyence.co.jp/ss/products/autoid/codereader/download/(検索日2017/10/23)
  • 4)  一般財団法人流通システム開発センター:GS1-128シンボルとは.http://www.dsri.jp/standard/barcode/gs1-128.html(検索日2017/10/23)
 
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