Japanese Journal of Medical Technology
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Case study of morphological changes of Corynebacterium species to gram-positive cocci
Lisa ICHIKAWAShinobu ISHIGAKIMitsuru MATSUMURAMiwa ASAHARAYoshiko ATSUKAWAYasuo ONOTaiji FURUKAWA
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 299-306

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Abstract

多くのCorynebacterium属菌は,グラム陽性の桿菌で棍棒状や松葉状の形態を示す。今回血液培養液を用いたグラム染色でブドウ球菌様の形態を呈するCorynebacterium属菌を検出した。そこで,Corynebacterium属菌がグラム陽性球菌様の形態変化を起こす可能性の有無,その菌種同定と原因の解析を行うため,培養条件を変えて検討した。また,誤同定した際のマイクロスキャンComboパネルを用いた同定検査に及ぼす影響を調査した。さらに,Corynebacterium属菌の薬剤感受性を測定し,MIC分布および薬剤感性率を集計した。球菌様の形態変化を示したのはCorynebacterium striatumおよびCorynebacterium simulansの2菌種であり,液体培地を使用し嫌気培養条件下で形態変化を示した。また,マイクロスキャンComboパネルにおいては,Micrococcus sp.と誤同定された。薬剤感性率はすべての菌種が,対象とした薬剤のうちバンコマイシン(VCM)に感性を示したが,VCMのみに感性を示す高度耐性株も存在した。血液培養から分離されるCorynebacterium属菌は一般的に血液培養検査にて汚染菌とみなされることが多いが,誤同定することで患者の不利益につながる恐れがあり,また,高度耐性を示す株も存在することから院内感染対策上重要であると考えられる。そのため,様々な情報を考慮し,慎重な検査を実施しなければならない。

I  はじめに

Corynebacterium属菌はヒトの皮膚や上気道に常在し,様々な材料から検出されるが,コンタミネーションとみなされ1),臨床的意義が低いとされることが多い。また,Corynebacterium属菌を同定するための生化学的性状の確認は日常の細菌学的検査では容易ではなく,正確な菌名の同定は困難である2)

多くのCorynebacterium属菌は,グラム染色で棍棒状や松葉状を示すグラム陽性桿菌として観察される2)。しかし,今回当院の血液培養検査においてグラム陽性球菌様の形態を呈したCorynebacterium属菌を経験した。そこで,当院の血液培養から検出されたCorynebacterium属菌を使用し,培養条件により,グラム陽性球菌様の形態を示す可能性の有無,菌種および原因の検索を行った。また,形態変化を呈したCorynebacterium属菌を誤ってグラム陽性球菌として同定検査を進めた場合の注意点について検討を行った。さらに,Corynebacterium属菌の薬剤感受性の現状を把握するため,薬剤感受性試験の成績を集計し,各抗菌薬に対する感性率を算出した。

II  対象および方法

2013年1月から2016年5月に当院の血液培養検査にてCorynebacterium属菌が分離された62症例,70株を対象とした(Table 1)。血液培養装置はBACTEC FX(ベクトン・ディッキンソン),血液培養ボトルは92F好気用レズンボトルおよび93F嫌気用レズンボトル(ベクトン・ディッキンソン)を使用した。菌名の同定はVITEK MS(シスメックス・ビオメリュー)を用いて質量分析にて実施した。

Table 1  Isolates tested
Species Number of cases Number of isolates
C. striatum 43 51
C. jeikeium 9 9
C. amycolatum 3 3
C. simulans 2 2
C. resistens 1 1
C. propinquum 1 1
C. urealyticum 1 1
C. kroppenstedtii 1 1
C. argentoratense 1 1
Total 62 70

1. グラム陽性球菌様の形態変化を呈したCorynebacterium属菌の菌種

血液培養検査陽性時に作製したグラム染色標本(ハッカー変法)のうち保存されていた55症例62株を見直し,形態変化の有無を確認した。また,血液培養陽性のボトルの種類(好気ボトル・嫌気ボトル)および検出された菌種についても集計した。

2. グラム陽性球菌様となった原因

対象菌株70株のうち,血液培養陽性時に作製した標本にて松葉状や棍棒状を呈した45株および標本が保存されていなかった8株のCorynebacterium属菌計53株を用いて,培地および培養条件の違いによる形態変化の有無を検索した。使用した培地は,固形培地として5%ヒツジ血液寒天培地(ベクトン・ディッキンソン),液体培地としてブレインハートインフュージョン(BHI)ブイヨン培地(栄研化学)を用い,それぞれの培地を好気または嫌気状態で35℃,24–48時間の培養を実施した。血液培養と同一条件にするため,液体培地は振盪培養を行った。その後,発育してきた菌についてグラム染色を実施し,鏡検にて形態を観察した。

また,抗菌薬の影響を考慮し,血液培養陽性時の標本および培地を用いた検討にて形態変化が見られた症例について,血液培養採取前の抗菌薬使用状況および使用されていた場合は抗菌薬の種類を調査した。

3. Corynebacterium属菌を誤って球菌様と判定した際の同定結果

グラム陽性球菌様の形態を示したCorynebacterium属菌をグラム陽性球菌様として誤同定した場合の注意点を検討するため,形態変化が認められた2菌種を用いてマイクロスキャンComboパネル3.3J(ベックマンコールター)およびVITEK MSにて同定を行った。

4. Corynebacterium属菌の薬剤感受性検査

薬剤感受性はEテスト(シスメックス・ビオメリュー)にて測定した。薬剤は,benzylpenicillin(PCG),cefepime(CFPM),imipenem(IPM),vancomycin(VCM),erythromycin(EM),clindamycin(CLDM)を測定した。PCG,CFPM,VCM,EM,CLDMの判定はCLSI(Clinical Laboratory Standards Institute)M-45Ed3(2016)に準じ,M-45Ed3に判定基準がないIPMはM-45Ed2(2012)を用いて判定し,MIC分布および薬剤感性率を集計した。

III  結果

グラム染色標本が保存されていた62株のうち,Corynebacterium属菌が好気ボトルのみから発育が認められたのは62株中36株(58.1%),好気および嫌気の両ボトルから発育が認められたのは62株中19株(30.6%),嫌気ボトルのみから発育が認められたのは62株中7株(11.3%)であった。好気ボトルから発育が認められた菌種ではC. striatumが最も多く,次いでC. jeikeiumC. amycolatumであった。嫌気ボトルから発育が認められた26株の菌種はすべてC. striatumTable 2)で,このうち,17株(27.4%)にグラム陽性球菌様の形態変化が認められた(Figure 1)。

Table 2  Number and species of Corynebacterium isolates obtained from blood culture bottle
Species Blood Culture Bottle
A A & N N
C. striatum 18 19 7
C. jeikeium 9 0 0
C. amycolatum 3 0 0
C. simulans 1 0 0
C. resistens 1 0 0
C. propinquum 1 0 0
C. urealyticum 1 0 0
C. kroppenstedtii 1 0 0
C. argentoratense 1 0 0
Total 36 19 7

A: Aerobic N: Anaerobic

Figure 1 

Gram stain from blood culture bottle (C. striatum)

血液寒天培地を用いた培養で発育が認められたのは,好気培養では対象とした53株中53株すべて,嫌気培養では41株であったが,どちらもグラム陽性球菌様の形態変化は認められなかった。嫌気培養で発育が認められなかった12株の菌種はC. jeikeiumC. resistensC. propinquumC.urealyticumであった。

一方,BHIブイヨン培地でも好気培養では53株すべての株の発育を認め,そのうち1株に球菌様の形態変化がみられた。菌種はC. simulansであった。嫌気培養では40株の発育を認め,6株に形態変化が見られた。また,培養時間の違いによる形態変化の差は24 hrおよび48 hrでは特に認められなかった。菌種および株数はC. striatum 4株(Figure 2)およびC. simulans 2株であった。嫌気培養で明らかな発育を認めなかった菌種はC. jeikeiumC. resistensC. propinquumC. urealyticumC. kroppenstedtiiであった(Table 3)。

Figure 2 

Gram stain from Brain-Heart Infusion Broth (C. striatum)

Table 3  Growth of Corynebacterium sp. isolates (solid/liquid media)
Species Solid media (Blood agar) Liquid media (BHI)
A N A N
C. striatum 34 34 34 34
C. jeikeium 9 9
C. amycolatum 3 3 3 3
C. simulans 2 2 2 2
C. resistens 1 1
C. propinquum 1 1
C. urealyticum 1 1
C. kroppenstedtii 1 1 1
C. argentoratense 1 1 1 1
Total 53 41 53 40

A: Aerobic N: Anaerobic

血液培養陽性時のスライドの見直し,および培地を用いた検討において形態変化がみられた21症例(23株)について血液培養採取前に使用されていた抗菌薬の有無を調べた。その結果,抗菌薬の使用が認められた症例が21症例中14症例(66.7%)であった。使用抗菌薬の内訳は,β-ラクタム系薬10症例(71.4%),マクロライド系薬1症例(7.1%),β-ラクタム系薬およびニューキノロン系薬の併用1症例(7.1%),マクロライド系薬およびニューキノロン系薬の併用1症例(7.1%),β-ラクタム系薬およびその他の薬剤の併用1症例(7.1%)であった。

次にCorynebacterium属菌を球菌様として同定した際の結果を記す。球菌様の形態変化を呈したC. striatumおよびC. simulansの2菌種はVITEK MSではそれぞれC. striatumおよびC. simulansと同定されたが,マイクロスキャンComboパネルではどちらの菌種もMicrococcus sp.と同定された。

形態変化を認めた菌種のMIC分布(Table 4)および認められなかった菌種のMIC分布(Table 5)をそれぞれ示す。形態変化が認められたC. striatumでは,21株すべてがPCG,IPM 32 μg/mL以上,CFPM 256 μg/mL以上であった。また,形態変化が認められたC. striatum 21株およびC. simulans 2株のCLDMのMIC分布は,すべて中等度耐性以上となった。形態変化が認められなかったC. striatumのMIC分布では,各種薬剤において感性を示す株も認められたが,多くの株が中等度耐性以上を示した。VCMのMIC値は形態変化の有無にかかわらず,全ての菌種において0.125–1 μg/mLと感性を示した。Table 6の薬剤感性率の集計では,C. jeikeiumC. resistensC. urealyticumの3菌種においてVCM以外の全ての抗菌薬に耐性を示し,C. striatumも多くの株がVCM以外の抗菌薬に耐性を示した。C. kroppenstedtiiおよびC. argentoratenseでは,PCGのみに耐性を示したが,他の薬剤はすべて感性であった。

Table 4 

MIC distribution of coccoid positive Corynebacterium sp.

Table 5 

MIC distribution of coccoid negative Corynebacterium sp.

Table 6  Drug sensitivity rate (%)
Species strains PCG CFPM EM CLDM IPM VCM
C. striatum 51 2 4 12 2 10 100
C. jeikeium 9 0 0 0 0 0 100
C. amycolatum 3 34 100 67 67 100 100
C. simulans 2 100 100 50 0 100 100
C. resistens 1 0 0 0 0 0 100
C. propinquum 1 100 100 0 0 100 100
C. urealyticum 1 0 0 0 0 0 100
C. kroppenstedtii 1 0 100 100 100 100 100
C. argentoratense 1 0 100 100 100 100 100

IV  考察

血液培養のスライドの見直しにおいてグラム陽性球菌様の形態を示した菌種は,嫌気ボトルに発育したC. striatumのみであった。培地の影響と菌株の形態変化の関係は,固形培地に発育したすべての菌株で形態変化はみられなかったが,液体培地に発育したC. striatumおよびC. simulansにおいてグラム陽性球菌様の形態を呈した。液体培地を使用し嫌気状態で培養すると,球菌様の形態を示す菌株が増えたことから,培養条件が影響を及ぼしている可能性が示唆された。しかし,C. simulans 1株においては好気培養での形態変化も認められた。このことから,菌種によっては好気培養でも形態変化が起こりうるが,嫌気培養を行うことで,より形態変化が起こりやすい条件になることが示唆された。

形態変化が認められた症例における,抗菌薬の影響について検索した。血液培養採取前の抗菌薬使用症例は66.7%に認められたが,33.3%は未使用であった。また,当院で使用している血液培養ボトルには抗菌薬を吸着する作用を持つレズンが入っていることから,抗菌薬の使用は形態変化に影響を与える可能性は低いと思われた。

Corynebacterium diphtheriaeについて培養条件を変えて培養を行うと,球菌化を認めたというGrubbの報告3)があるが,今回の検討でもC. striatumおよびC. simulansで同様にグラム陽性球菌様の形態変化が認められた。このことからCorynebacterium属菌にとって最適ではない条件で培養を実施したことが球菌様への形態変化をもたらした可能性のひとつとして示唆された。

近年,Corynebacterium属菌の同定は質量分析器が普及し簡便になり,同定確率もAPICoryneよりも良いとの報告がある4),5)。しかし,質量分析器が導入されている施設は限られており,多くの検査室では同定は困難である。そのため,誤同定を防ぐには嫌気ボトル培養液の鏡検結果がブドウ球菌様で,発育してきたコロニーがマイクロスキャンComboパネルにてMicrococcus sp.と同定された場合には,Corynebacterium属菌を考慮することも重要であると思われた。その場合,血液寒天培地などの固形培地上のコロニーを鏡検すると,菌体は通常の形態である棍棒状や松葉状のグラム陽性桿菌として認められることから,固形培地上に発育したコロニーのグラム染色形態を観察することが確認方法の一つとして有用であると思われた。

薬剤感受性検査については,大塚らの報告6)によるとC. jeikeiumC. resistensC. urealyticumは多くの薬剤に耐性を示していたが,今回の我々の検討でも同様の結果が得られた。また薬剤感性率は形態変化の有無にかかわらず,C. striatumでは,多くの株がVCMのみに感性,他の薬剤には耐性を示した。形態変化が認められたC. simulansでは,多くの薬剤に感性を示した。このことから,形態変化の有無はMIC値に影響を与えないことが示唆された。

一般に血液培養検査にて数セット中数本から菌の発育を認めた場合には,起因菌の可能性を考慮する必要がある2)。よって,形態の誤判定は起因菌の可能性があるCorynebacterium属菌を汚染菌と認識してしまう恐れがあり,本来治療が必要な患者の処置が行われず,患者の不利益につながる恐れがある。そのため,誤同定を防ぐには血液培養ボトルの種類を考慮し,血液培養陽性時のグラム染色標本の形態を注意深く観察することが重要である。また,日和見感染症,カテーテル由来の血流感染の起因菌としての報告もあり7),免疫不全患者から分離された場合や,無菌材料からの本菌の検出は,起因菌の可能性を考慮し,菌種の同定および薬剤感受性検査を実施する必要があると思われた。さらに,院内感染の原因菌としての報告7)や今回の検討において一番多く検出されたC. striatumによる医療関連感染が報告されていることから7),医療関連感染対策においても,早期の正しい検査結果の報告が重要であると考える。

V  結語

適切な感染症治療を行うためには,様々な情報を考慮した上で正確な結果を臨床側へ報告する必要性がある。しかし,Corynebacterium属菌がある培養条件下で形態変化を呈することが明らかとなった。そのため,グラム染色の判断を誤る可能性があり,それを防ぐためには,血液培養ボトルの種類や血液培養陽性時のグラム染色標本を注意深く観察する必要がある。さらに,血液培養陽性時のグラム染色標本だけではなく,固形培地上のコロニーを鏡検することも重要であると考える。

本論文の要旨については第53回日臨技関甲信支部首都圏支部医学検査学会において発表し,学術奨励賞を受賞した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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