Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Photic-stimulation-induced convulsive seizures in an elderly individual while undergoing electroencephalography after a self-inflicted automobile accident
Koichi TAKASHIMAToshihiko SHIMIZUShinji ASAKURA
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 403-409

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Abstract

症例は78歳,男性。夕刻に西日の眩しさを気にしながら自家用車を運転していたところ,急に右手のけいれんが起きてパニックになりガードレールに衝突した。頭部MRIのFLAIR画像では両側に高信号域が散見された。また,頭部MRAでは右中大脳動脈の狭窄があった。脳波は3 Hzの光刺激で開始から約1秒後に前頭部優位の小棘・徐波複合が出現した。その後12 Hzの光刺激において開始直後に顔面と上半身がけいれんした状態になり,名前を呼んだが無反応であった。けいれんは約10秒で治り呼名にも応じるようになった。本症例は問診,画像所見,および脳波上のてんかん性放電の出現により症候性てんかんの臨床診断となった。今後,超高齢化社会の到来により,子どもの病気と考えられていたてんかんが高齢者にも増えることが予想される。てんかんであれば薬剤で治療できる疾患である。これは脳波担当の臨床検査技師,および多くの高齢者と日常的に接する老人介護施設のスタッフ,地域のケアマネージャーも認識する必要がある。

I  はじめに

警視庁によると75歳以上の運転免許保有者が10年で倍増し,2016年6月末時点で過去最多の約495万人に達しており,全交通事故のうち75歳以上の高齢者が加害者となる事故の割合も10年前の倍になっている1)。交通事故の原因を調査した報告によると,運転者の内因性疾患による意識障害であった頻度は1,571人中14人(0.89%)で,原因疾患は心室細動4人,てんかん3人,クモ膜下出血2人,低血糖1人,肝不全1人,胸部大動脈破裂1人,血管迷走神経性失神1名,気管支喘息1名という内訳であった2)

一方,けいれんなどの発作を繰り返すてんかんは子どもの病気と考えられていたが,高齢者でも多いことがわかってきた3)。65歳以上のてんかん有病率は一般人口の1%を超え,2016年における高齢者てんかん患者数は約35万人と推定されている4)

今回われわれは自動車運転中に自損事故を起こした高齢者について,その原因を調べるために脳波検査を施行したところ,光刺激中にけいれん発作が誘発された症例を経験したので報告する。

II  症例

患者:78歳,男性。

主訴:車運転中のけいれん。

既往歴:2003年,画像診断で多発性脳梗塞を指摘された。2009年にパーキンソン症候群と診断,また,2012年に画像診断で右中大脳動脈狭窄を指摘されていた。

現病歴:数日前,夕刻に西日の眩しさを気にしながら自家用車を運転していたところ,急に右手のけいれんが起きてパニックになり,気がつくとガードレールに衝突していた。特に外傷などは無かったが家族の勧めもあり,事故の原因解明のため当クリニック脳神経外科外来を受診し,磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging; MRI)と磁気共鳴血管画像(magnetic resonance angiography; MRA),および脳波(electroencephalogram; EEG)が施行された。MRIは日立製作所製AIRIS Vento,EEGは日本光電社製EEG-1214を使用した。EEGは国際10-20法に従い電極を装着して基準導出を行った。脳波計の感度は10 μV/1 mmとし,高域遮断フィルタ60 Hz,低域遮断フィルタ 1.6 Hz(基線の動揺があったため)の条件により,紙送り速度3 cm/秒で記録した。その際に,3次元のEEG周波数電位マッピング画像も作成した。

MRIのFLAIR画像では両側の脳室辺縁,および深部皮質下白質に高信号域が散見された(Figure 1右下).また,MRAでは右中大脳動脈の狭窄がみられた。同日に記録した安静覚醒閉眼時EEGの左右差はなく,基礎律動8~9 Hz,30~60 μVのα波が頭頂部,後頭部優位に認められ,5~7 Hz,30~60 μVのθ波が 混在していた(Figure 1)。光刺激を行うと,3 Hzの頻度において開始から約1秒後にてんかん性放電である 前頭部優位の小棘・徐波複合(small spike & wave complex; small sp. & wave)が出現した(Figure 2)。そして6 Hz,9 Hz,12 Hzと光刺激の頻度を上げると,12 Hzの時に光刺激開始後0.4秒の潜時で顔面,左右の上半身がけいれんした状態になり,名前を呼んだが無反応であった。脳波はけいれんの筋収縮により筋電図が混入し,波形の判別が不可能になった(Figure 3)。けいれんは約10秒で治り呼名にも応じるようになり,脳波上の筋電図も消失した(Figure 4)。

Figure 1 

安静覚醒閉眼時EEGと頭部MRI FLAIR画像(黒矢印:高信号域)

Figure 2 

光刺激(3 Hz)によりsmall sp. & wave(黒矢印)が出現したEEGと3次元電位マッピング画像

Figure 3 

光刺激(12 Hz)によりけいれん発作が起きた時のEEG[その①]

Figure 4 

光刺激(12 Hz)によりけいれん発作が起きた時のEEG[その②]

以上,本症例は問診,画像所見,および脳波上のてんかん性放電の出現により症候性てんかんの臨床診断となり,バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン)が処方された。現在,数ヶ月経過するがけいれん発作は起きていない。

III  考察

てんかんを持つ患者の交通事故としては,栃木県内では平成23年に起きた鹿沼市クレーン車暴走事故が記憶に新しい。しかし,Naikら5)は「てんかんのあるドライバーはてんかんのないドライバーよりも自動車事故の割合が高いですか?」との疑問を呈している。また,同様に社会的な問題となっている認知症の交通事故であるが,本症例は2014年から75歳以上の高齢者ドライバーの免許更新時に,義務化されている認知機能検査に合格しており,臨床的にも認知症による記憶障害や見当識障害などはみられていない。

一方,高齢者人口の急速な増加を背景に,高齢者の初発てんかん患者が増加している。65歳以降にてんかんを発症するものを高齢者てんかんと呼び6),原因は脳血管障害17~69%,脳腫瘍2~36%,頭部外傷2~21%,認知症2~14%,炎症性疾患2~7%という報告がある7)。本症例も78歳であり,かつ画像診断で多発性脳梗塞と右中大動脈狭窄を指摘されているため,脳血管障害を原因とする高齢者症候性てんかんに合致すると思われる。

高齢者てんかんの発作型は大脳の一部が障害され,そこから発作が始まる部分発作が最も多く,ミオクロニー発作や一次性の硬直間代発作も稀にみられる。部分発作はてんかんにより引き起こされる発作の際,意識を失わない発作(単純部分発作)と意識を失う発作(複雑部分発作),二次性全般化発作がある4)。本邦の報告では高齢者てんかんの約50%がけいれんのない複雑部分発作(側頭葉てんかん),約40%が全身けいれん発作であった8)。高齢者の側頭葉てんかんは突然,意識が途切れてぼんやりして,不注意,朦朧,無反応,健忘,奇異な行動など成人の発作と異なり,てんかんらしくない症状のため認知症と誤診されることがあり6),これも医学的な話題となっている9)。本症例はけいれん中に意識消失があったことから複雑部分発作の範疇であるが,臨床症状も異なり,また,EEGのsmall sp. & waveの出現は側頭部ではなく 前頭部優位であり,側頭葉てんかんではないと考える。

本症例では光刺激により 前頭部優位のsmall sp. & waveおよび,けいれん発作が誘発されたことは興味深い。光刺激によって誘発されるてんかん性放電は多棘徐波(multiple spike and wave),またはsp. & waveが多く,左右対称的,同期的であり,前頭・中心部に出現する。臨床症状は欠神発作やミオクロニー発作が起き,全般性強直間代発作になることもある10)。今回の症例ではてんかん性放電の出現様式は合致するが,症状は10秒程度のけいれん発作であり,静かな発作という印象であった。1997年12月に放映されたテレビアニメのポケットモンスターを見ていた視聴者に気分不良,意識障害,けいれんなどの症状が全国的に発生し,総計685人が各地の救急医療機関を受診し,これはポケモン事件と呼ばれた。この発作例の中には光過敏性てんかん(photosensitivity epilepsy; PSE)11)に含まれるものもあり,本症例の自損事故時のエピソードに「夕刻に西日の眩しさを気にしながら運転していたところ,急に右手のけいれんが起きた」という訴えがあったことから,PSEに類すると考える。このような症例では強い太陽光や木漏れ日,夜間の対向車のヘッドライトでてんかん発作が誘発される可能性がある。対策としては運転時のサングラスの着用は必須であり,夜間運転は自粛することも必要であると思われる。

本症例のように生理機能検査室で行っている日常の脳波検査業務において,てんかん発作などの緊急事態に遭遇することは比較的まれである。しかし,特にてんかんが疑われている患者の脳波を記録する場合には,Figure 512)に示すような硬直間代発作も起こりうるので注意が必要である。硬直間代発作は症状が激しいので驚くが,脳波担当者は気持ちを落ち着けて以下の点に注意する。①可能であれば1人で対処しないで応援を呼ぶ。②医師に緊急連絡して指示を仰ぎ,注射用器具と抗てんかん薬を準備しておく。③患者の体を無理に押えつけずに寄り添い,顎の下から手を当てがい上に押し上げ,気道の確保をしながら発作の様子を観察する。この時,口のなかにハンカチやタオルなどの物を挟んだりしないようにする。発作が落ち着いたら衣服を緩めて汗や唾液を拭き取り,顔を横に向けて医師が来るのを待つ。吐物の誤嚥による呼吸障害も起こりうるので,吸引器や滅菌サクションチューブ,酸素吸入の準備も必要に応じて行う。④脳波記録者は,発作の始まりから終わりまでの顔面や四肢の動き,眼球の偏位や意識状態などの発作の様子を観察して詳細に記載するなどになる。

Figure 5 

強直間代発作時の対処

文献12より引用

IV  結語

車の自損事故の原因が高齢者てんかん(PSEの素因もある)であったと考えられる症例を経験した。今後,超高齢化社会の到来により,子供の病気と考えられていたてんかんが高齢者にも増えることが予想される。てんかんであれば薬剤で治療できる疾患である。高齢者てんかんについては脳波担当の臨床検査技師,および多くの高齢者と日常的に接する機会のある老人介護施設のスタッフ,地域のケアマネージャーも認識する必要がある。

脳波担当者は高齢者の脳波検査も小児と同様な対応が求められ,てんかん性放電の検出率が上がる睡眠,光刺激,過呼吸などの賦活をてんかん発作に注意しながら行うことが大切である。

なお,本報告は小山すぎの木クリニック倫理委員会の承認を得ている。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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