Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of the utility of the automated hematology analyzer XE-5000 for cellular classification in CAPD drainage
Hidehiro IWATAAya UMEMURAKenji NITTAHiroe MIZUSHIMAHiroyuki OSADAKazuyasu SHIBATAShuko SEKONagako MAEDA
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 314-320

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Abstract

持続携帯式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis; CAPD)排液中の細胞分画検査は,腹膜透析患者における腹膜炎の早期診断の指標として重要である。XE-5000は血算以外の体腔液測定も可能な体液モードを搭載している。今回我々は,CAPD排液の細胞分画検査におけるXE-5000の有用性について検討した。2016年8月~2016年12月の間に,日勤時間帯に当検査室に提出されたCAPD排液検体87例に対し,単核球,多核球,中皮細胞についてXE-5000と目視法の結果を比較した。多核球(y = 0.8381x + 14.69, R2 = 0.5386)と単核球(y = 0.8672x + 1.26, R2 = 0.6169)には有意な相関が認められ(p < 0.05),XE5000による全測定細胞数が多いほど相関性は強くなる傾向が認められた。一方で,中皮細胞(y = 0.0549x + 3.52, R2 = 0.2978)の検出には相関は認められなかった(p = 0.2978)。全測定細胞数が少ない場合には,XE-5000と目視法で多核球の比率に乖離のみられる症例も少数認められた。今回の結果から,XE-5000と目視法の相関はほぼ良好な結果が得られた。必要に応じて目視法を併用する等の運用条件を設定することは重要であるが,スクリーニング検査としてXE-5000によるCAPD排液中の細胞分画検査を行うことにより,検査の省力化および迅速な結果報告に繋がると思われる。

序文

持続携帯式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis; CAPD)排液中の細胞分画検査は,腹膜透析患者における腹膜炎の早期診断の指標として重要である。CAPD排液の細胞数において,白血球数が100個/μL以上,そのうち好中球の割合が50%以上ある場合には炎症を示しており,腹膜炎がその原因である可能性が高いと言われている1)。また,CAPD排液中の大型中皮細胞や核分裂像の出現は,被嚢性腹膜硬化症予防のために腹膜透析中止基準の一つとして報告されている2)

当院でのCAPD排液検査は,多項目自動血球分析装置XE-5000(Sysmex社,以下XE-5000)にて細胞数を測定後,細胞分画は目視法により行っている。しかし,目視法による検査は,目視用の標本作製および鏡検過程が必要であり,結果報告までに時間を要する。CAPD排液中の細胞数計測とともに細胞分画に関してもXE-5000による自動化が導入できれば,検査の迅速化および省力化が期待できる。

XE-5000は血液以外の体腔液測定も可能な体液モードを搭載している。これまでに,髄液,胸水,腹水などの検体に対する体液モードを用いた自動化細胞算定の検討は多く報告されている3)~5)が,CAPD排液についての報告は少ない。今回我々は,CAPD排液の細胞分画検査におけるXE-5000の有用性について検討し,若干の知見を得たので報告する。

I  対象及び方法

1. 対象

2016年8月~2016年12月の間に,日勤時間帯に当検査室に提出されたCAPD排液検体15名87例について検討した。男性8名,女性7名で,平均年齢は49.9歳(10~79歳)で,一人あたりの平均検査件数は5.8回(1~20回)であった。年齢,性別以外の属性は全て破棄し,すべての検体を患者と連結不能とすることにより,患者のプライバシーを保護した。

2. 測定機器の測定原理

XE-5000は,半導体レーザーを用いたフローサイトメトリー法を原理としており,体液モードは側方蛍光と側方散乱光から得られる情報を組み合わせてDIFFスキャッタグラムを作成し,白血球数のカウントおよび細胞分類を行っている6)。スキャッタグラムの縦軸は細胞の核酸量を捉える側方蛍光強度を,横軸は核の分葉や顆粒の含有情報を捉える側方散乱光強度で,これらの情報を組み合わせることにより,MN領域(mononuclea cell:単核球),PMN領域(polymorphonuclea cell:多核球)HF-BF領域(中皮細胞・腫瘍細胞等)に分類される(Figure 1)。測定に必要な検体量は130 μLである。

Figure 1 

XE-5000 DIFF Scattergram (Body Fluid Mode) and representative cell images (May-Giemsa stain ×100)

3. 目視法による細胞分画方法

検査室に提出されたCAPD排液をXE-5000を用いて細胞数および細胞分画を測定後,同検体を当日中にオートスメア法により標本作製,乾燥固定した。標本作製には5 mLのCAPD排液を用いた。メイ・ギムザ染色を行い,標本中から100個の細胞を選別し分類した。細胞分類は日本臨床細胞学会認定細胞検査士2名がダブルチェックで行った。

4. XE-5000と目視法の相関

XE-5000と目視法で共に細胞分類可能であった検体を対象とした。CAPD排液中に含まれる細胞成分には,単核球であるリンパ球,多核球である好中球のほか,腹膜を構成する中皮細胞が報告されている7)。今回は,XE-5000の体液モードによりMN領域に分類された細胞はリンパ球,PMN領域に分類された細胞は好中球,HF-BF領域に分類された細胞は中皮細胞とし,目視法の結果と比較した。CAPD排液中の全細胞数が1個/μL以上,5個/μL以上,10個/μL以上,50個/μL以上,100個/μL以上の場合に分けて,単核球,多核球,中皮細胞のそれぞれについて相関および回帰分析を行った。

5. XE-5000と目視法の結果の乖離

CAPD排液中の好中球の割合が50%以上の症例は,腹膜炎など疾患を疑う臨床上重要な指標であるため,多核球の割合が50%を超えるか否かは細胞分類を行う上で最も重要な所見である。XE-5000と目視法でこの結果に乖離がみられるかを検討した。同様に,XE-5000のHF-BF領域の割合と,目視法による中皮細胞検出の乖離の有無についても検討した。

6. 統計解析

統計解析は,JMP11(SAS社,米国)を用いて行った。XE-5000と目視法の相関には単回帰分析を用い,回帰式の有意性はp値が0.05未満の場合を統計学的に有意であるとした。

7. 研究の倫理審査承認

本研究は,名古屋第二赤十字病院治験・臨床研究審査委員会の承認(整理番号No. 1194)を得て行った。

II  結果

87例中,XE-5000および目視法で細胞分類可能であったのはそれぞれ80例(92%),84例(97%)であった(Table 1)。XE-5000による測定細胞数の中間値は22個/μL(最小1個/μL,最大3,568個)であった。XE-5000で測定困難であった7症例のうち,5例は目視法では分類可能であったが,目視法でも細胞成分は少数認めるのみであった。残りの2例は細胞変性が非常に強い検体で,目視法でも細胞分類は困難であった(Figure 2A)。目視法で細胞分類困難であった1例は細菌多数により細胞の識別が困難であった症例であった(Figure 2B)。2つの方法で共に細胞分類可能であったのは78例(90%)であった。

Table 1  Case numbers that were measured by XE-5000 and manual method, respectively (N = 87)
XE-5000
Possible Impossible Total
Manual method Possible 78 6 84
Impossible 2 1 3
Total 80 7 87
Figure 2 

The case that was not able to count by XE-5000 and manual method due to degenerative cell (A) and cluster of bacteria (B) (May-Giemsa stain ×100)

XE-5000と目視法の相関については,多核球と単核球には有意な相関が認められたが,中皮細胞の検出には相関は認められなかった(Figure 3)。また,多核球と単核球においては,XE5000による測定細胞数が多いほど相関性は強くなる傾向が認められた(Figure 4)。一方で中皮細胞は,測定細胞数が増えても相関性に変化はみられなかった。

Figure 3 

Correlation between XE-5000 and manual method in MN, PNM, HF-BF (X-axis: manual method, Y-axis: XE-5000)

Figure 4 

Correlation between counted cell numbers and correlation coefficient of XE-5000 and manual method in MN, PNM, HF-BF

多核球の割合が50%以上の症例の検出がXE-5000と目視法で乖離がみられた検体は78例中7例(9%)であった(Table 2)。これらのうち,XE-5000で多核球50%以上だが目視法で多核球50%未満であった症例は4例で,XE-5000による測定細胞数はそれぞれ1個/μL,2個/μL,2個/μL,4個/μLであった。一方で目視法により多核球50%以上だがXE-5000で多核球50%未満であった症例は3例で,XE-5000による測定細胞数はそれぞれ1個/μL,4個/μL,24個/μLと,乖離のあった症例の細胞数は少ない傾向がみられた。これらのうち1例は,標本中に多数の細菌が認められた。この症例のXE-5000によるスキャッタグラムは,単核球領域とHF-BF領域の境界部分にドットが密にプロットされており,明確な細胞集団の判別が困難であった(Figure 5)。

Table 2  Correlation between PMN% by XE-5000 and neutrophil by manual method (N = 78)
XE-5000
PMN ≥ 50% PMN < 50% Total
Manual method Neutrophil ≥ 50% 10 3 13
Neutrophil < 50% 4 61 65
Total 14 64 78
Figure 5 

Scattergram with unclear area due to a large number of bacteria

中皮細胞検出について乖離がみられた症例は28例(36%)であった(Table 3)。XE-5000で中皮細胞が認められたが目視法で認められなかった症例が7例(9%)であった。これらのうち5例には標本中に多数の細菌が認められ,Figure 5と類似したスキャッタグラムを示した。残りの2例の測定細胞数とHF-BF領域の割合は,それぞれ3.568個/μL,0.5%と997個/μL,0.6%であった。標本を再鏡検したところ,多数の好中球やリンパ球とともにごく少数の中皮細胞様細胞を認めた(Figure 6)。

Table 3  Correlation between HF-BF% by XE-5000 and mesothelial cell by manual method (N = 78)
XE-5000
HF-BF
≥ 1%
HF-BF
= 0%
Total
Manual method Mesothelial cell ≥ 1% 34 21 55
Mesothelial cell 0% 7 16 23
Total 41 37 78
Figure 6 

The case that a few mesothelial-like cells were present in (May-Giemsa stain ×10, Inset; May-Giemsa stain ×100)

中皮細胞がXE-5000で認められなかったが目視法で認められた症例は21例(27%)で,これらの測定細胞数の中間値は4個/μL(最小1個/μL,最大33個/μL)で,10個/μL未満の症例は17例であった。標本を再鏡検したところ,結合性の強い中皮細胞集塊が少数認められた(Figure 7)。

Figure 7 

Cluster of mesothelial cells. XE-5000 was not able to distinguish these cells as mesothelial cells (May-Giemsa stain ×100)

III  考察

CAPD排液中の細胞分類におけるXE-5000の有用性について検討した。今回の結果から,単核球や多核球に対する目視法との相関は良好な結果であった。これは,胸水や腹水などの検体を用いて検討された過去の報告と一致し3),4),CAPD排液の細胞分類においてもXE-5000による細胞分画の有用性が示唆された。特に臨床的に重要となるCAPD排液中に含まれる細胞数が100個/μL以上の場合は強い相関を示した。現在の当院の運用では,CAPD排液中の細胞分画は翌日以降に報告しているため,XE-5000による細胞分類の報告が可能になれば,早期の腹膜炎の診断に貢献できると思われる。一方で,CAPD排液中の細胞数が少ない場合,目視法では細胞分類可能だが,XE-5000では測定困難であった症例が87例中5例認められた。XE-5000による測定細胞数の検出限界は1個/μLであるためそれを下回ると細胞分類は困難だが,目視法では5 mLのCAPD排液中の細胞をオートスメア法で集細胞しているため細胞分類が可能になったと思われる。また,測定細胞数が10個/μL未満で,多核球の比率に目視法との乖離のある症例が6例認められた。このように,測定細胞数が少ない場合はXE-5000による分画は信頼性に欠ける可能性があるが,明らかに細胞数が少ない検体での細胞分類は臨床的意義が乏しいため,大きな問題はないと思われる。

中皮細胞の検出には,XE-5000と目視法に相関はみられず,乖離のみられた症例は28例と多数認められた。この理由として,第一に,CAPD排液中に出現する中皮細胞の割合は少ないことが多く,目視法では観察者が選択する視野によっても値が変動する場合がある。また,中皮細胞は集塊で認められる際には,XE-5000のフローサイトメトリー法による測定原理上,正確な細胞数をプロットできない可能性もある。今回の結果より,特に集塊状になりやすい反応性中皮細胞の検出には目視法による精査が不可欠であることが分かった。以上のことから,腹膜炎が疑われた場合の診断にはXE-5000による細胞分画は有用であるが,被嚢性腹膜硬化症が疑われ,反応性中皮細胞での出現の有無を確認し腹膜透析を中止するかどうかを診断する場合には,目視法により確認する必要がある。このように,検査の目的に応じて目視法を併用する運用の設定が重要である。

CAPD排液中に細菌が多数存在した全ての症例において,多核球の割合の比率や中皮細胞の検出など,目視法との乖離が認められた。細菌は様々な大きさのクラスターを形成するため,側方蛍光と側方散乱光により様々な位置にドットがプロットされることによりスキャッタグラムにて明確な細胞集団の判別が困難になり,細胞分類に目視法との乖離に影響を与えることが報告されている8)。今回の結果でも同様に,標本中に細菌が認められた全症例で,単核球領域とHF-BF領域の境界部分にドットが密にプロットされており,明確な細胞集団の判別が困難なスキャッタグラムが認められた(Figure 5)。CAPD排液においても,このような特徴的なスキャッタグラムを確認した場合は,細菌の存在を疑い,目視法による再検を実施する必要があると思われる。

IV  結語

今回の結果から,一部にXE-5000と目視法の細胞分画結果に乖離がみられる症例が認められたが,目視法との相関は細胞が少数出現する症例を除き,ほぼ良好な結果が得られた。スキャッタグラムを確認した後,必要に応じて目視法を併用する等の運用条件を設定することは重要であるが,スクリーニング検査としてXE-5000によるCAPD排液中の細胞分画検査を行うことにより,検査の省力化および迅速な結果報告に繋がると思われる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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