Japanese Journal of Medical Technology
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Original Articles
Relationship between electrocardiographic findings and long-term prognosis in patients with chronic kidney disease
Natsumi MATSUURATakanori KURATAEtsuko MIYAJIMARie YAGINUMAToshiya MAKIHideki KATONorihiro YUASA
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2018 Volume 67 Issue 3 Pages 281-288

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Abstract

慢性腎臓病(CKD)患者は末期腎不全へ進展するリスクが高いことに加え,心血管疾患の発症・死亡のリスクが高い。CKD患者の予後因子に関する研究はこれまで数多くなされてきたが,心電図所見との関連を検討した研究は少ない。この研究の目的はCKD患者の予後因子を心電図所見から明らかにすることである。2009年4月から2010年3月までの12ヶ月間に当院で12誘導心電図検査と血液検査を同時期に行った16,424患者のうち,心房細動および心室性不整脈を認めた3,509患者を除き,推定糸球体濾過量が60 mL/min/1.73 m2未満であった3,325患者を対象とした。年齢,性,CKDの重症度,心電図所見(心拍数,PR間隔,QRS間隔,QTc間隔,左室肥大)と,心血管疾患・非心血管疾患による死亡と関連する因子を単変量,多変量解析で検討した。心拍数,QTc間隔,PR間隔,QRS間隔は心血管疾患死亡・非心血管疾患死亡と有意に関連した。CKD患者において心電図での心拍数 > 100 bpm,QTc間隔 ≥ 440は心血管疾患/非心血管疾患を問わず,年齢,性,CKDの重症度とは独立した長期予後不良指標である。

I  はじめに

慢性腎臓病(CKD)患者は人口の10%以上を占め,近年,世界的に末期腎不全による透析患者が増加している1),2)。CKDは心血管疾患の重要なリスクファクターの1つであり3),透析患者の多くが心血管疾患,慢性心不全,末梢血管疾患を有している4)。これを背景に,CKDと心血管疾患を関連づけた「心腎連関」という概念が近年,提唱されるようになった2)。これまでCKD患者の予後に関する研究は数多くなされ,喫煙,大量飲酒,糖尿病はCKD進行の独立した危険因子であり,蛋白尿,アルブミン尿,血尿などは重要な予後規定因子であると報告されてきた5)~9)。しかし心電図所見とCKD患者の予後との関連を検討した研究は少ない10)

心電図検査所見は心筋の電気生理学的状態を反映し,血清電解質,イオン電流,代謝の変化,薬物などの影響を受ける。医療において心電図検査はその簡便性,有用性から,多くの入院患者及び手術前患者において心疾患のスクリーニングを目的に日常的に行われている。CKD患者の予後因子が心電図検査で明らかになれば,介入可能なリスク因子の発見につながり,これによってCKD患者の予後が改善する可能性がある。本研究はCKD患者の予後因子を心電図所見から明らかにすることを目的とした。

II  対象と方法

2009年4月から2010年3月までの12ヶ月間に,当院で12誘導心電図と血液検査を1週間以内に行った16,424患者のうち,心房細動および心室性不整脈を認めた3,509患者を除き,推定糸球体濾過量(eGFR)が60 mL/min/1.73 m2未満であった3,325患者(平均年齢73.1 ± 11.1歳,男:女 1,807:1,518)を対象とした。12誘導心電図はCardio Star FCP-7431(フクダ電子,東京)を用い,標準化された手順によって記録した11)。心拍数,PR間隔,QRS間隔,QTc間隔を正常洞調律中に自動記録し,ミネソタ分類に従って以下の5項目の心電図所見を評価した:心拍数 < 50 bpm/50–100 bpm/> 100 bpm,PR間隔 < 200 ms/≥ 200 ms,QRS間隔 < 100 ms/100–119 ms/≥ 120 ms,QTc間隔 < 440/≥ 440,左室肥大(LVH)の有無(V5(6)のR波の高さ+V1のS波の高さ≥ 35 mm)12)。血清クレアチニンはJCA-BM6070(日本電子,東京)を用いて測定し,eGFRは日本腎臓学会が提唱する日本人の推定糸球体濾過量計算式から計算した13)

対象の3,325患者の2015年3月までの生死を電子カルテで調査し,死因をカルテの記述または死亡診断書から同定した。心筋梗塞,うっ血性心不全,大動脈解離などが死因と考えられた場合は心血管疾患死亡とし,これらを除く悪性腫瘍,呼吸器疾患,脳血管疾患,腎疾患などが死因と考えられた場合は非心血管疾患死亡とした。そして,心血管疾患死亡・非心血管疾患死亡と年齢・性別・CKDの重症度・心電図所見との関連を調査した。

生存率は死亡をイベントとし,調査時点での生存を打ち切りとして扱ってKaplan-Meier法で計算し,群間の比較をlog-rank検定で検討した。単変量解析でp < 0.05であった因子を多変量解析(Cox比例ハザードモデル)に投入して検討した。p < 0.05を統計学的有意差ありとし,統計学的解析にはJMP,version 11(SAS Institute, Japan)を用いた。なお,本研究は院内倫理委員会の承認を得ている。

III  結果

対象の3,325患者の平均観察期間は41.6ヶ月(四分位範囲:9.4–72.9ヶ月),5年全生存率は77.5%であった。死因は心血管疾患63例(10%),悪性腫瘍288例(44%),呼吸器疾患87例(13%),脳血管疾患38例(6%),腎疾患21例(3%),その他159例(24%)であった。

心血管疾患死亡と患者背景・心電図所見との関連を単変量解析で検討すると,eGFR,心拍数,PR間隔,QRS間隔,QTc間隔に有意な関連を認め,LVHと関連のある傾向があった(Table 1, Figure 1)。多変量解析では,LVHを除くこれらの因子はすべて独立した有意な心血管疾患死亡のリスク因子であった(Table 1)。心拍数が100 bpm以上の患者では50–100 bpmの患者と比較すると,心血管疾患による死亡のリスクは3.56倍(ハザード比(HR):3.56,95%信頼区間(CI):1.85–6.55,p = 0.0003)であった。QTc間隔が440以上の患者では440未満の患者と比較すると,心血管疾患による死亡のリスクは3.20倍(HR: 3.20, 95%CI: 1.77–6.03, p < 0.0001)であった。

Table 1  患者背景,心電図検査所見と心血管疾患死亡との関連
単変量解析 多変量解析
n 5年生存率 p ハザード比 95%信頼区間 p
年齢(歳) < 65 619 98.5 0.159 1
65–75 1,053 97.8 1.64 0.72–4.23 0.2484
≥ 75 1,653 97.3 1.93 0.89–4.86 0.1011
1,807 97.1 0.221 1.27 0.75–2.17 0.377
1,518 98.3 1
eGFR(mL/min/1.73 m2 < 15 214 96.2 < 0.001 1.72 0.69–3.68 0.2243
15–30 362 94.7 2.02 1.04–3.69 0.039
30–60 2,749 98.1 1
心拍数(bpm) < 50 95 97.1 < 0.001 0.95 0.15–3.15 0.9534
50–100 2,920 98.1 1
> 100 310 93.6 3.56 1.85–6.55 0.0003
PR間隔(ms) < 200 2,881 98.0 0.00489 1
≥ 200 435 95.4 1.97 1.04–3.57 0.0372
QRS間隔(ms) < 100 1,617 98.1 < 0.001 1
100–119 1,236 98.6 1.11 0.58–2.12 0.7573
≥ 120 472 93.2 2.12 1.1–4.11 0.0241
QTc間隔 < 440 2,048 99.1 < 0.001 1
≥ 440 1,277 94.8 3.20 1.77–6.03 < 0.0001
LVH なし 3,039 97.9 0.0656 1
あり 286 95.1 1.92 0.88–3.7 0.0942
Figure 1 

心血管疾患死亡との関連

(a)心拍数,(b)PR間隔,(c)QRS間隔,(d)QTc間隔

非心血管疾患死亡と患者背景・心電図所見との関連を単変量解析で検討すると,年齢,性,eGFR,心拍数,PR間隔,QTc間隔に有意な関連を認めた(Table 2, Figure 2)。多変量解析ではこれらの因子に加えてQRS間隔も独立した有意な非心血管疾患死亡のリスク因子であった(Table 2)。心拍数100 bpm以上の患者では50–100 bpmの患者と比較すると,非心血管疾患による死亡のリスクは2.22倍(HR: 2.22, 95%CI: 1.75–2.8, p < 0.0001)であった。QTc間隔が440以上の患者では440未満の患者と比較すると,非心血管疾患による死亡のリスクは1.54倍(HR: 1.54, 95%CI: 1.29–1.84, p < 0.0001)であった。

Table 2  患者背景,心電図検査所見と非心血管疾患死亡との関連
単変量解析 多変量解析
n 5年生存率 p ハザード比 95%信頼区間 p
年齢(歳) < 65 619 85.7 < 0.001 1
65–75 1,053 82.8 1.42 1.08–1.88 0.0123
≥ 75 1,653 74.5 2.16 1.68–2.82 < 0.0001
1,807 77.1 0.00178 1.51 1.27–1.79 < 0.0001
1,518 82.3 1
eGFR(mL/min/1.73 m2 < 15 214 72.9 < 0.001 1.35 0.97–1.85 0.0781
15–30 362 66.7 1.7 1.35–2.11 < 0.0001
30–60 2,749 81.4 1
心拍数(bpm) < 50 95 89.8 < 0.001 0.58 0.78–1.05 0.0762
50–100 2,920 81.0 1
> 100 310 58.6 2.22 1.75–2.8 < 0.0001
PR間隔(ms) < 200 2,881 78.8 0.0323 1
≥ 200 435 83.3 0.71 0.54–0.93 0.0103
QRS間隔(ms) < 100 1,617 77.7 0.0807 1
100–119 1,236 81.4 0.78 0.65–0.94 0.0085
≥ 120 472 80.3 0.70 0.54–0.91 0.0065
QTc間隔 < 440 2,048 82.8 < 0.001 1
≥ 440 1,277 73.4 1.54 1.29–1.84 < 0.0001
LVH なし 3,039 79.7 0.32 1
あり 286 75.3 1.15 0.86–1.51 0.3303
Figure 2 

非心血管疾患死亡との関連

(a)心拍数,(b)PR間隔,(c)QRS間隔,(d)QTc間隔

長期生存しているCKD患者,経過中に死亡したCKD患者の心電図所見をFigure 3に示す。

Figure 3 

CKD患者の心電図

(a)8年生存中の85歳女性,(b)心血管疾患により3年1ヶ月後に死亡した74歳男性,(c)膀胱癌で4年9ヶ月後に死亡した82歳男性

IV  考察

本研究ではCKD患者において長期予後と関連する心電図検査所見を検討した。CKD患者において心拍数・PR間隔・QRS間隔・QTc間隔は,心血管疾患死亡/非心血管疾患死亡を問わず,年齢,性,CKD重症度と独立した有意な長期予後指標であった。とくに心拍数100 bpm以上,QTc間隔440以上は有意な予後不良因子であった。

CKD患者数は増加しており,日本の成人人口の12.9%,1,330万人が治療介入の必要なCKD患者と推定されている2)。CKDの背景には糖尿病,高血圧などの生活習慣病があり,これらをもつ患者も近年増加している。CKDは末期腎不全へ移行するリスクが高いだけでなく,心血管疾患のリスク因子でもある。Keithら14)はCKD患者において透析が導入される患者よりも心血管疾患により死亡する患者のほうが多いことを報告した。CKD患者の心電図所見との関連を検討した研究は少ないが,Deoらの報告10)と一致して,本研究においても心拍数,PR間隔,QRS間隔,QTc間隔はCKD患者の心血管疾患死亡の有意な予測因子であった。加えて,本研究ではこれらの心電図所見は非心血管疾患死亡においても有意な予測因子であった。

本研究において,心拍数上昇とQTc間隔延長は心血管疾患死亡/非心血管疾患死亡の両者において有意な予後不良因子だった。心疾患,悪性腫瘍,呼吸器疾患などの疾患においては全身状態の悪化,炎症などにより交感神経系が活性化されて心拍数が上昇するため,心拍数上昇はこれらの因子を反映している可能性がある。一方,心拍数上昇は虚血性心疾患や心不全による死亡率増加と関連する15),16)。Zhangら17)は46文献のメタアナリシスを行い,心血管死亡/全死亡は心拍数が上昇するほど高いと報告している。

QTc間隔は心室の活動電位持続時間を反映する。虚血性心疾患では心筋の構造的変化やカリウム濃度の変化が誘導されてQTc間隔が延長し,致命的な不整脈による突然死の原因となる。また,脳血管疾患患者では脳血管の攣縮に伴って冠動脈が攣縮し,QTc間隔が延長する18)。Goldsteinら19)はくも膜下出血の患者の71%,脳出血の患者の50%,脳血栓症の患者の37%にQT延長を認めたと報告している。またMedenwaldら20)は一般住民1,779人を平均8.8年フォローアップし,QTc間隔延長は全死亡率と有意に関連したと報告している。これらの報告は本研究の結果を支持している。

PR間隔やQRS間隔の延長は心筋内伝導障害を反映しており,心血管疾患死亡のリスク因子であることはよく知られている21),22)。本研究においては,PR間隔およびQRS間隔の延長は心血管疾患の有意な予後不良因子であったが,非心血管疾患では有意な予後良好因子であった。これまでの研究においてPR間隔と患者の予後に関する結果は様々である。Framingham Heart StudyではPR間隔延長は全死亡率の約40%の増加と関連したが21),一方,Kestenbaumら23)は65歳以上の患者を対象としたCardiovascular Health StudyでPR間隔延長は死亡の有意な予測因子ではなかったとしている。Hisamitsuら24)は一般の日本人9,051人を平均24.3年フォローアップし,PR間隔延長と心血管疾患死亡/全死亡に有意な関連はなかったと報告した。一方,Deoら10)はCKD患者においてPR間隔延長は非心血管疾患死亡の有意な低下と関連したと報告している。非心血管疾患死亡患者には多様な患者が含まれるため解釈が難しいが,Deoらの結果は本研究結果と一致している。

QRS間隔の延長は左室の電気的伝導異常を示し,脚ブロックや心筋虚血によるものが多いが,血清カリウム値上昇と関連する可能性もある。Badarauら25)は慢性血漿透析患者においてQRS間隔延長は心血管イベント・全死亡の有意な予測因子であると報告している。本研究においてPR間隔延長・QRS間隔延長の心血管疾患死亡と非心血管疾患死亡にあたえる影響が反対の結果になったことは興味深いが,その機序を明らかにするにはさらなる研究が必要である。

本研究で検討した心電図所見でのLVHは左室高電位を示しており,必ずしも臨床的な左室肥大とは一致しない。臨床的に左室肥大が進行すると,虚血性心疾患の発症につながる26)。Kannelら27)はFramingham研究で,心電図での左室肥大・T波異常と冠動脈疾患による5年死亡率低下との関連を報告した。我々の研究では,心電図所見でのLVHは心血管疾患死亡と関連がある傾向を認めたが,非心血管疾患死亡と有意な関連はなかった。

本研究には考慮すべきいくつかの制限がある。第1に,解析に用いた血液データや心電図データは来院時あるいは入院中の一時点での値を用いており,経時的変化,治療介入による影響を検討していない。第2に,データを取得した時点での心血管疾患の既往の有無を調査していない。第3に,心電図所見として心拍数,PR間隔,QRS間隔,QTc間隔,LVHの有無を検討したが,心筋梗塞を反映する異常Q波,ST変化などの所見を検討していない。心筋梗塞の既往は心血管死亡のリスク因子であることはよく知られており28),また,心筋梗塞の判定が心電図自動記録の解析からだけでは困難であったからである。第4に,心房細動,心室性不整脈を認めた患者を対象から除いたが,これらの患者は本研究の対象患者とほぼ同数で,本研究結果の一般化に制限をもたらしている。本研究対象に含めなかった理由は,心房細動や心室性不整脈はCKDの有無に関係なく重大な心血管イベントのリスクが高いためである29)。今後の研究においては以上の点が考慮されれば,CKD患者の予後予測における心電図所見の意義がさらに明らかになるだろう。

V  結語

CKD患者において心電図での心拍数 > 100 bpm,QTc間隔 ≥ 440は心血管疾患/非心血管疾患を問わず,年齢,性,CKD重症度と独立した長期予後不良指標である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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