Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Fundamental study of thyroid hormone measurement reagent using the fully automated chemiluminescent enzyme immunoanalyzer Accuraseed
Tetsuya USUISoichirou MINAMINorihito KAKUKatsunori YANAGIHARA
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2018 Volume 67 Issue 4 Pages 443-450

Details
Abstract

患者への速やかな治療の開始と患者への負担低減などの観点から診療前検査が普及している。今回検体の採取から結果報告までの迅速化の可能性を検討するために,測定時間が10分という自動化学発光酵素免疫分析装置Accuraseedを用いてTSH,FT4,FT3の基礎的検討を行った。また本装置とルーチン法のモジュラーおよびARCHITECT,ルミパルスの3機種の装置を用いて迅速性に関する比較検討を行ったので報告する。甲状腺3項目の基礎的検討として,再現性(同時,日差),相関性,最小検出感度,直線性,共存物質の影響について検討を行った。その結果,ルーチン法との相関性において本法での低値傾向および乖離検体(1例)が認められたが,それ以外の同時再現性,最小検出感度等他の検討の全てにおいて,良好な結果が得られた。なおFT3において発生した乖離検体1例についてはPEG処理による測定値挙動から異好性抗体等血清成分の影響を本法が受けている可能性が考えられた。また迅速性の検討において,5検体(3項目測定‍/検体)を架設した検体ラックを分析機に投入してから検体ラック排出までの時間について本装置とモジュラー,ARCHITECTおよびルミパルスについて測定を行った。その結果ARCHITECTが約5分,本装置は約7分であった。5検体分(15テスト)の結果報告時間は,本装置では15分で,モジュラー,ARCHITECTおよびルミパルスは各々27分,33分,37分となり,本装置を用いることでTATの短縮化の可能性が示唆された。

緒言

患者への速やかな治療の開始と患者への負担低減などの観点から,検査当日のうちに検査結果を確認し問診を受けることができる診療前検査が普及してきている。診療前検査の運用において,迅速な測定結果報告が求められている中,今回,甲状腺項目等免疫項目の測定時間が10分という迅速測定を可能にした自動化学発光酵素免疫分析装置Accuraseedを評価する機会を得た。そこで甲状腺項目TSH,FT4,FT3について同時再現性,最小検出感度等基礎的な性能の評価を行った。さらにAccuraseedとルーチンで使用している免疫自動分析装置を含めた3機種を用いて測定結果報告時間の比較等迅速性について検討を行ったので報告する。

I  方法および対象

1. 検討装置および試薬

検討装置は全自動化学発光酵素免疫分析装置Accuraseed(和光純薬工業株式会社),使用試薬はアキュラシード TSH(和光純薬工業株式会社),アキュラシード FT4(三洋化成工業株式会社),アキュラシード FT3(三洋化成工業株式会社)を用いた。

2. 測定原理

Accuraseedの特徴は,従来の免疫項目の分析装置に比べ測定時間が短く,10分で迅速に測定できることが最大の特徴である1)。測定原理は,化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)を採用している。固相として使用している磁性粒子にマグラピッドという新規な磁性粒子を採用している。マグラピッドは,微小金属粒子を高密度に含む内部構造になっており,従来の磁性粒子に比べ格段に迅速に集磁し,かつ迅速に分散するという特性を併せ持つ。このマグラピッドの高集磁性と高分散性という特性が測定時間の迅速化を可能にしたポイントである(Figure 1)。

Figure 1 

Principles of Accuraseed

3. 比較に用いた装置

比較装置として,生化学・免疫検査測定装置モジュラーアナリティクスE-170(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)(以下,モジュラー),免疫発光測定装置ARCHITECTアナライザー2000SR(アボットジャパン株式会社)(以下,ARCHITECT),全自動化学発光酵素免疫測定システム ルミパルスG1200(富士レビオ株式会社)(以下,ルミパルス)を用いた。

4. 比較に用いた試薬

エクルーシス試薬TSH,FT4,FT3(いずれもロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)。

5. 対象

本研究はヘルシンキ宣言に従い,長崎大学病院倫理委員会より承認された連結不可能匿名化した172検体を使用した。

6. PEG処理による乖離検体の解析

乖離検体および対照検体にPEG-6000(和光純薬工業株式会社)を等量混合し,3,000 rpmで30分遠心してγ-グロブリン分画を除去した2)。γ-グロブリン分画除去後の上清中のFT3を測定し,PEG添加後の回収率を比較した。

II  検討結果

1. 再現性

TSH,FT4,FT3の同時再現性は,低濃度,中濃度,高濃度の管理血清を用いn = 30で実施した。その結果,TSHはCV 1.9~2.4%,FT4はCV 1.3~2.6%,FT3はCV 2.0~2.6%となった(Table 1)。また低濃度,高濃度の2種の管理血清の小分け凍結保存(−40℃)試料を用いた日差再現性(15日間,n = 6)は,TSHがCV 1.2~1.3%,FT4がCV 1.2~2.4%,FT3がCV 1.0~2.8%と(Table 2)良好な結果が得られた。

Table 1  Within-run precision
項目 TSH FT4 FT3
試料 管理血清1(μIU/mL) 管理血清2(μIU/mL) 管理血清3(μIU/mL) 管理血清1(ng/dL) 管理血清2(ng/dL) 管理血清3(ng/dL) 管理血清1(pg/mL) 管理血清2(pg/mL) 管理血清3(pg/mL)
n 30 30 30 30 30 30 30 30 30
mean 0.369 4.418 26.806 0.78 2.36 3.15 2.69 7.38 11.94
SD 0.007 0.084 0.654 0.02 0.05 0.04 0.07 0.15 0.28
CV% 1.9 1.9 2.4 2.6 2.1 1.3 2.6 2.0 2.3
Min 0.352 4.132 25.13 0.75 2.28 3.06 2.54 7.01 11.29
Max 0.385 4.539 27.754 0.83 2.48 3.23 2.78 7.59 12.69
Range 0.033 0.407 2.624 0.08 0.20 0.17 0.24 0.58 1.40
Table 2  Between-day precision
項目 TSH FT4 FT3
試料 管理血清4(μIU/mL) 管理血清5(μIU/mL) 管理血清4(ng/dL) 管理血清5(ng/dL) 管理血清4(pg/mL) 管理血清5(pg/mL)
開始時 0.378 29.393 0.84 3.41 2.55 7.34
3日目 0.382 29.033 0.85 3.40 2.60 7.25
5日目 0.385 29.502 0.81 3.43 2.52 7.31
9日目 0.376 29.001 0.80 3.33 2.47 7.15
12日目 0.374 29.782 0.82 3.42 2.49 7.24
15日目 0.384 29.873 0.83 3.45 2.41 7.18
mean 0.380 29.431 0.83 3.41 2.51 7.25
SD 0.005 0.366 0.02 0.04 0.07 0.07
CV% 1.3 1.2 2.4 1.2 2.8 1.0

2. ルーチン法との相関性

ルーチン法で使用しているモジュラーと本法との相関性をn = 122で確認を実施した。その結果,TSHが回帰式y = 0.806x − 0.027,相関係数(r) = 0.987,FT4がy = 0.916x + 0.234,r = 0.968,FT3がy = 0.925x + 0.406,r = 0.971という結果が得られた(Figure 2)。なおFT3において乖離検体が1例認められた。

Figure 2 

Correlation between modular and Accuraseed

3. PEG処理による乖離検体の解析

FT3の本法とルーチン法であるモジュラーとの相関性において乖離検体が1検体認められた。乖離原因を調査するためPEG処理を実施した。

乖離検体および対照検体6検体をPEG処理後測定し,回収率を出したところ対照検体は49~64%であるのに対し乖離検体は0%となり,乖離原因が血清中の異好性抗体等血清成分の影響であることが推測された(Figure 3)。

Figure 3 

Change in measured value by PEG treatment

4. 血清と血漿との相関性

本法による血清と血漿との相関性をn = 50で確認を実施した。その結果,TSHがy = 1.000x + 0.006,r = 0.999,FT4がy = 0.993x − 0.01,r = 0.995,FT3がy = 1.020x − 0.04,r = 0.988と良好な結果が得られた(Figure 4)。

Figure 4 

Correlation between serum and plasma

5. 最小検出感度

TSHについて0,0.001,0.002,0.003,0.004 μIU/mLの試料をn = 10で測定し±2SD法により最小検出感度の検討を行った。その結果,0 μIU/mL + 2SDの濃度が0.001 μIU/mL − 2SDの濃度より低くなり,最小検出感度は0.001 μIU/mLとなった(Figure 5)。

Figure 5 

Detection limit

 

 

6. 直線性

TSHについて,低濃度検体(1.100 μIU/mL),中濃度検体(10.120 μIU/mL),高濃度検体(81.836 μIU/mL)を用いて希釈直線性の確認を実施した。その結果,3濃度とも原点を通る直線性が得られた(Figure 6)。

Figure 6 

Dilution linearity

7. 共存物質の影響

TSH,FT4,FT3に関し共存物質の影響検討としてアスコルビン酸(50 mg/dLまで),乳び(イントラファットとして2.0%まで),F-ビリルビン(50 mg/dLまで),C-ビリルビン(40 mg/dLまで),溶血(ヘモグロビンとして500 mg/dLまで)について確認した。その結果,TSH,FT4,FT3の3項目ともいずれの共存物質の影響も認められなかった(Figure 7, 8, 9)。

Figure 7 

Effect of interfering substances: TSH

Figure 8 

Effect of interfering substances: FT4

Figure 9 

Effect of interfering substances: FT3

8. 迅速性の評価

迅速性評価を目的に,2つの方法を用いて評価を行った。

1) 分析装置からのラック排出時間の比較

検体ラック投入から排出までの時間について本装置を含む4機種で比較した。1検体あたり3項目測定依頼した5検体を架設した検体ラック1ラックを装置投入しスタートボタンを押してから排出までの時間を比較した。その結果,本装置が約7分,モジュラーが約9分,ARCHITECTが約5分,ルミパルスが約10分という結果となり,ラック排出時間はARCHITECTが最も短かった。

2) 測定結果報告時間の比較

分析装置から測定結果が出てくるまでの時間に関し本装置を含む4機種で比較した。1検体あたり3項目測定依頼した5検体を架設した検体ラック1ラックを装置投入し,スタートボタンを押してから測定結果が装置画面に出るまでの時間を比較した。その結果,本装置が1検体目の3項目の結果(3テスト)が出るまでの時間および5検体目の全ての結果(15テスト)が出るまで時間は各々11分と15分だった。それに対しモジュラーが22分と27分,ARCHITECTが29分と33分,ルミパルスが31分と37分だった。以上の結果より,3テストおよび15テストの結果報告時間の検討において,本装置が他の3機種に比べ約半分の時間という結果となり大幅な時間短縮となった(Figure 10)。

Figure 10 

Comparison of the results reporting time

III  考察

今回我々は,Accuraseedを用いて甲状腺3項目(TSH, FT4, FT3)の測定試薬の基礎的検討を検討した。また本装置と他の3機種の免疫装置(モジュラー,ARCHITECT,ルミパルス)と迅速性の比較を行った。基礎的検討では,同時再現性,日差再現性共にCV 2.6%以下と良好な結果であった。またTSHの最小検出感度も0.001 μIU/mLと良好な結果が得られ,バセドウ病の薬物治療の効果判定においては,TSHの高感度測定が要求される3)。そのためAccuraseedのTSH測定試薬を用いることでTSHのわずかな変動も捉えることができ,正確な病態把握が可能となると考えられる。直線性は低濃度域(0~約1 μIU/mL),中濃度域(0~約10 μIU/mL),高濃度域(0~約80 μIU/mL)において原点を通る直線性が得られた。血清検体と血漿検体との相関は,3項目とも回帰式はほぼy = xとなり,相関係数rはTSHが0.999,FT4がr = 0.995,FT3が0.988と良好な結果が得られ,血漿検体での測定が可能であることが確認できた。なおAccuraseedとルーチン法であるモジュラーとの相関については,TSHがy = 0.806x − 0.027でr = 0.987,FT4がy = 0.916x + 0.234でr = 0.968,FT3がy = 0.925x + 0.406でr = 0.971(n = 122)という結果が得られた。またFT3において本法の異好性抗体の影響によると考えられる乖離検体が1例認められた。またルーチン法との相関性において回帰式傾きがTSHで0.806,FT4で0.916,FT3で0.925となった。これは,小林らの報告4)の本法とコバスの相関性とほぼ同様の傾向でコバスに比べアキュラシードが低め傾向であった。またこの小林らの報告には本法とアーキテクトの相関性についても報告されており,回帰式傾きは,TSHが0.957,FT4が1.429,FT3が1.268で,コバスとの傾向と大きく異なる。これは甲状腺3項目のメーカー間差が大きいことを表しており,早急な標準化の必要性を感じた。迅速性の比較では,1ラック5検体の分析機投入から排出までの時間については,1時間あたりの検体処理能力に比例しARCHITECTが約5分と最も速く,その次に本装置の約7分であった。本装置は搬送ライン等に接続した場合でも問題なく運用可能な時間と考えられた。検査結果報告時間の比較では,本装置が1本目(3テストの測定値報告)11分,5本目(15テストの測定値報告)15分で報告完了となったが,その他3機種は,モジュラーが22分および27分,ARCHITECTが29分および33分,ルミパルスが31分および37分の結果報告時間となった。Accuraseedで5検体15テストの測定終了時,他の3機種すべて1テスト目の測定が終わっていなかった。現在各施設では診療前検査をより効率よく運営するため,中央採血室の設置や検体搬送方法などに工夫をし,TATの短縮に努めている5),6)。今回検討した全自動化学発光酵素免疫分析装置Accuraseedの導入による測定時間の短縮化によるTATの短縮化が可能であることが確認できた。

IV  まとめ

全自動化学発光酵素免疫分析装置AccuraseedによるTSH,FT4,FT3測定試薬の基礎的検討において,良好な結果が得られ,測定時間10分という迅速測定でありながら,良好な試薬性能が担保されていることが確認された。また他の免疫装置と比較して測定時間が短く,Accuraseedは診療前検査におけるTATの迅速化への貢献の可能性が示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)   山本  裕貴:「これからの新しい免疫検査のかたち」,生物試料分析,2016; 39: 234–241.
  • 2)   猪俣  啓子,他:「甲状腺ホルモン測定における異常反応の検索」,医学検査,2003; 52: 194–199.
  • 3)  浜田 昇,他:「第3章治療」,甲状腺疾患診療パーフェクトガイド改訂第3版,51–182,浜田 昇(編),診断と治療社,東京,2014.
  • 4)   小林  千明,他:「新しいハイスループット免疫システムAccurseedの性能評価(第1報)」,JJCLA, 2017; 42: 187–194.
  • 5)   楠木  晃三,他:「診療内容を優先した採血システムの構築」,医学検査,2016; 65: 660–666.
  • 6)   曽根  伸治,他:「採血システムの更新による外来採血室の待ち時間短縮への取り組み」,JJCLA, 2016; 41: 314–320.
 
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