2018 Volume 67 Issue 4 Pages 451-455
Clostridium difficile(CD)は抗菌薬投与などにより引き起こされる抗菌薬関連下痢症の原因菌であり,接触感染により伝播するため院内感染対策が必要である。当院では,患者糞便検体からのトキシン産生CD検出のためC. DIFF QUIK CHEK COMPLETE®(アーリアメディカル)(以下QUIK CHEKと略す)を用いて一次検査を行っている。QUIK CHEKでグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)(+)・CDトキシン(−)の検体は培養を行い,得られたコロニーで再度QUIK CHEKによる検査を実施し最終報告を行っているが,培養には2日を要する。この問題を解決するために,CDトキシン遺伝子を検出するBDマックスCDIFF®(日本BD)の有用性を検討した。CD菌株を用いたBDマックスCDIFF®によるCDトキシン遺伝子の検出感度は,QUIK CHEKによるGDHと同等もしくはそれ以上であった。さらに,当院でCDトキシン検査の依頼があった38検体を用いて検査を行った。その結果,GDH(+)・CDトキシン(−)であった24検体のうち22検体は,培養法とBDマックスCDIFF®によるCDトキシン遺伝子の結果が一致し,ほぼ同等の結果が得られた。以上のことより,BDマックスCDIFF®は結果が90分と短時間で得られ,高感度かつ迅速なCDトキシン検査法として役立つものとして期待される。
Clostridium difficile(CD)は偏性嫌気性グラム陽性桿菌で,健常人でも数%が腸内に保菌している1)。抗菌薬投与などにより腸内の正常細菌叢が減少し,異常増殖したCDがトキシンA(腸管毒)およびトキシンB(細胞毒)を産生することにより病原性を発揮する2)。CDは,それぞれのトキシン産生の有無によりトキシンA(+)B(+)株,トキシンA(−)B(+)株,トキシンA(−)B(−)株の3つに分類される3)。トキシンを産生するCD株は抗菌薬関連下痢症の原因菌であり,芽胞を形成しアルコールに抵抗性で環境中に長期間生存できるため,院内感染の原因菌として重要である。
当院では,イムノクロマトグラフィー法を測定原理としたC. DIFF QUIK CHEK COMPLETE®(アーリアメディカル)(以下QUIK CHEKと略す)を用いて便中CDトキシン検査および分離菌株のCDトキシン検査を行っている。QUIK CHEKは菌体抗原であるグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)及びCDトキシンAおよびBの両毒素を検出することができる3),4)。しかし,CDトキシンはGDHと比べ産生量が少ないためQUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(−)の場合,CDトキシン非産生CD株の存在あるいはCDトキシンが検出感度以下なのかの判断が難しい。そのため,QUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(−)の結果が得られた場合には,CD培養を行って分離菌株のCDトキシン検査を行う必要がある3)。当院でも,QUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(−)の結果が得られた場合には,便検体をCD選択培地であるCCMA培地EX(日水製薬)で嫌気培養し,発育したコロニーについてQUIK CHEKを用いて分離菌株のCDトキシン検査を行い最終判定としている。しかし培養には2日を要し,結果報告までに日数を要する。
一方,BDマックスCDIFF®(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)は,リアルタイムPCR法を用いて便検体から直接CDトキシン遺伝子を感度よく検出できることが報告されており5),6),結果判定までの時間も大幅に短縮できる。本法は,便中CDトキシンBをコードする遺伝子をリアルタイムPCR法で検出する。我々は,BDマックスCDIFF®をQUIK CHEKおよび培養法と比較し,その有用性について検討した。
GDH(+)・CDトキシン(+)であったCD株1株をCCMA培地EXに接種して2日嫌気培養し発育した分離株を用いて再培養を行った。再培養して得られた菌を滅菌精製水でマックファーランド(Mcf.)1(推定菌濃度3.0 × 108CFU/mL)に調整し,さらに10倍連続希釈系列を作成した。これらをサンプルとして,QUIK CHEKおよびBDマックスCDIFF®で測定した。
2. 臨床検体のQUIK CHEKおよびCD培養2016年7月から2017年4月までに,当院でCDトキシン検査実施依頼のあった患者の便検体38検体を使用した。まず,便検体をQUIK CHEKを用いてGDHおよびCDトキシンを測定した。QUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(−)と判定された検体については,CDの選択培地であるCCMA培地EXで2日間嫌気培養し,発育したコロニーを用いてQUIK CHEKで再検査を行った。本研究は宮崎大学医の倫理委員会の承認を得て実施した。
3. 臨床検体のBDマックスCDIFF®測定前述した便,38検体をBDマックスCDIFF®を用いてCDトキシン遺伝子を検出した。便検体を10 μLループで1白金耳採取し専用のサンプルチューブに入れよく混和し,サンプルとして用いた。測定は機器の手順書に従い操作を行った。
QUIK CHEKのGDHとCDトキシンおよびBDマックスCDIFF®の検出感度をTable 1に示す。QUIK CHEKのGDHは推定菌濃度3.0 × 106 CFU/mLまで,QUIK CHEKのCDトキシンは推定菌濃度3.0 × 108 CFU/mLまで,BDマックスCDIFF®は推定菌濃度3.0 × 105 CFU/mLまで陽性と判定された。
QUIK CHEK | BDマックスCDIFF | ||
---|---|---|---|
推定菌濃度(CFU/mL) | GDH* | CDトキシン | CDトキシン遺伝子 |
3.0 × 108 | (+) | (+) | (+) |
3.0 × 107 | (+) | (−) | (+) |
3.0 × 106 | (+) | (−) | (+) |
3.0 × 105 | (−) | (−) | (+) |
3.0 × 104 | (−) | (−) | (−) |
3.0 × 103 | (−) | (−) | (−) |
3.0 × 102 | (−) | (−) | (−) |
滅菌精製水 | (−) | (−) | (−) |
* GDH:グルタミン酸デヒドロゲナーゼ
臨床検体38検体におけるQUIK CHEKおよびBDマックスCDIFF®の結果を示す(Table 2)。その結果,3検体がQUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(+)と判定され,BDマックスCDIFF®でも陽性であった。QUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(−)であった24検体のうち,12件体がBDマックスCDIFF®陽性,12件体はBDマックスCDIFF®陰性であった。残りの11検体はGDH(−)・CDトキシン(−)であり,BDマックスCDIFF®も陰性であった。
QUIK CHEK | BDマックスCDIFF | 計 | |
---|---|---|---|
(+) | (−) | ||
GDH*(+)・CDトキシン(+) | 3(7.9%) | 0 | 3(7.9%) |
GDH(+)・CDトキシン(−) | 12(31.6%) | 12(31.6%) | 24(63.2%) |
GDH(−)・CDトキシン(−) | 0 | 11(28.9%) | 11(28.9%) |
計 | 15(39.5%) | 23(60.5%) | 38(100%) |
* GDH:グルタミン酸デヒドロゲナーゼ
QUIK CHEKがGDH(+)・CDトキシン(−)であった24検体について,CCMA培地EXで培養し発育した菌株を用いてQUIK CHEKでCDトキシンの産生を調べた。その結果,CD培養陽性・BDマックスCDIFF®陰性およびCD培養陰性・BDマックスCDIFF®陽性が,各1検体認められた(Table 3)。
BDマックス CDIFF®陽性 |
BDマックス CDIFF®陰性 |
計 | |
---|---|---|---|
CD培養*・陽性 | 11 | 1 | 12 |
CD培養・陰性 | 1 | 11 | 12 |
計 | 12 | 12 | 24 |
感度92% 特異度92%
* CD培養:Clostridium difficile培養
CDは抗菌薬関連下痢症の原因菌であり,CDトキシンを産生するCDが病原性を有する。本菌は芽胞を形成しアルコールに抵抗性があるためベッドやトイレなど病院施設の環境中に長期間生存可能であることから,院内感染対策上特に注意すべき細菌であり,迅速な感染対策と治療が重要となる。
GDHは米国病院疫学学会/米国感染症学会(SHEA/IDSA)のガイドラインでCDの一次スクリーニングとして採用されている7)。西尾ら3)によるとGDH(−)は培養検査陰性と完全に一致し,GDH(−)の場合には培養検査は不要と考えられることを報告している。症例数は少ないが我々の結果も同様であった。当院でもQUIK CHEKでGDH(−)の場合にはCD(−)とし培養検査は行っていない。QUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(+)の結果が得られた場合には,CDトキシン産生CD株が存在すると考え速やかに担当医と感染対策チーム(infection control team; ICT)に報告を行っており,この結果が感染対策にも反映されている。QUIK CHEKにおいてCDトキシン(−)でも培養法で陽性となることがあり,その陽性一致率は41〜86%と低いことが報告されている3),8)。そのためQUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(−)の結果が得られた場合,CDトキシン非産生CD株あるいはトキシン産生が検出感度以下の両者の可能性があるため,CD培養を実施して発育した菌株を用いてCDトキシンを検査する必要がある。当院では,GDH(+)・CDトキシン(−)であった患者は培養結果が得られるまでトキシン陽性患者として扱い感染対策を行ってきた。しかしながら,CD培養には2日を要するため,CD培養で陰性の結果が得られた患者にとって結果として不要な2日間の隔離を招くことになる。このため,迅速な検査法であるリアルタイムPCR法を測定原理とするBDマックスCDIFF®を検討した5),6),9)。
BDマックスCDIFF®の検出感度(3.0 × 105 CFU/mL)は,QUIK CHEKのCDトキシン(3.0 × 108 CFU/mL)より1,000倍,QUIK CHEKのGDH(3.0 × 106 CFU/mL)より10倍高く,高感度であった。
QUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(−)の24検体において,BDマックスCDIFF®は培養法に対して感度,特異度ともに92%であった。一方で,培養法陰性の1検体がBDマックスCDIFF®で陽性,培養法陽性の1検体がBDマックスCDIFF®で陰性を示した。不一致の原因として,培養法陽性でBDマックスCDIFF®が陰性の例ではコロニーの発育はわずか1個であった。検体中のCDの菌数が少なく検出感度以下であったものと推定された。CDトキシン遺伝子を検査するにあたり,BDマックスCDIFFR®の検出感度や,偽陽性・偽陰性反応の可能性に留意すべきである10)。また検討に用いた検体の性状を観察すると,粘性の便や血液の混入している便もみられた。このような性状の便は,PCR反応が阻害され正しい結果を得られない可能性があるため,白金耳で採取する前に検体をよく混和する,もしくは滅菌水を加えて均一にする必要があると考えられた。以上の点を考慮しても,BDマックスCDIFF®が培養法と比較して2日間検査時間が短縮されること,検出感度がQUIK CHEKのCDトキシンおよびGDHより高感度であったことから,臨床的に有用であると考える。
以上の結果からQUIK CHEKでスクリーニングを実施し,GDH(+)・CDトキシン(−)と判定された検体についてCDトキシンの遺伝子を検出することの有用性が示された。当院では2017年3月より便検体においてQUIK CHEKでGDH(+)・CDトキシン(−)であった場合,培養検査に代わりBDマックスCDIFF®を用いた検査法をルーチン法として新たに導入した。今後迅速かつ効率的なCDトキシン検査の実施が診療や院内感染対策に活用されると期待される。
BDマックスCDIFF®を用いることで,高感度かつ迅速にCDトキシン陽性の結果を得られることから,迅速な結果報告が可能となり感染対策および治療に貢献できるものと期待される。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。