2018 Volume 67 Issue 4 Pages 535-540
感染症診断や医療関連感染にとって細菌検査は重要な役割を果たしている。敗血症は早期治療が不可欠であり,治療の遅れは予後不良に大きく影響することから,細菌検査結果を早急に提供することが求められる。また,Clostridium difficile感染症(CDI)などの接触感染対策が求められる病原体においては,迅速さに加え,精度の高い検査結果が要求される。しかしながら,細菌検査は標準化された検査法や判定法に乏しく,施設間差が生じやすい現状にある。今回われわれは,国公私立大学病院および技師会北日本支部所属の病院における細菌検査の現状アンケート調査を実施した。本調査成績は,今後の細菌検査の標準化や検査内容の改善において有益な資料となると考えられたため報告する。
臨床検査において正確な検査結果を速やかに診療側に報告することは重要である。現在,各施設において,使用している機器,検査方法,結果の報告の方法は様々であり,これらを全て統一することは難しい。特に細菌検査項目においては定められている検査の標準法が少なく,施設間差や個人の力量の差により大きく影響される1)。口広ら2)は,2012年に関西地区における細菌検査の現状を把握する目的でアンケート調査を実施し,施設により検査法や結果報告方法などに違いがみられることを報告した。
今回,全国の国公私立大学病院,技師会北日本支部所属の病院を対象に,同様のアンケート調査を実施したので報告する。
2015年10月に,国公私立大学病院(以下,大学病院),技師会北日本支部所属の病院(以下,北日本病院)を対象にアンケート調査を行った。調査項目はグラム染色に関するものが10項目,菌種同定が5項目,薬剤感受性が20項目,コメント報告についてが8項目,CDI検査が8項目で合計51項目である。調査方法はすべてE-mailを使用し,Excelファイルを用いた電子媒体で行った。
大学病院55施設,および北日本病院81施設から回答を得た。アンケート回答施設の概要をTable 1に示す。Table 2にグラム染色に関する項目,Table 3に菌種同定に関する項目,Table 4に薬剤感受性に関する項目,Table 5にコメント報告についての項目,Table 6にCDIに関する項目の集計成績を示す。結果は全て,大学病院,および北日本病院にわけて集計した。
検査施設数 | 病床数 | ISO15189取得 (取得中含む)施設数 |
微生物検査技師数 (専任) |
認定取得者数 | 年間検体数 (一般細菌) |
年間検体数 (抗酸菌) |
|
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大学病院 | 55施設 | 320~1,275床 (中央値800床) |
26施設 | 1~11名 (平均5.9名) |
0~6名 (平均1.7名) |
6,000~60,000 (平均22,000) |
700~14,000 (平均2,300) |
北日本病院 | 81施設 | 60~837床 (中央値382床) |
1施設 | 1~6名 (平均2.8名) |
0~3名 (平均0.2名) |
60~24,000 (平均6,900) |
外注(0)~3,000 (平均760) |
設問1 喀痰の品質評価(Miller & Jonesの(MJ)分類,Geckler分類)は報告していますか? | |
---|---|
A.両方報告している | 64%/43% |
B.MJのみ報告している | 15%/21% |
C.Gecklarのみ報告している | 11%/18% |
D.どちらも報告していない | 11%/19% |
設問2-1 塗抹スライド作製の際に,喀痰の洗浄操作を行っていますか? | |
A.いつも実施している | 16%/12% |
B.できる限り実施している | 7%/4% |
C.時々実施している | 7%/9% |
D.実施していない | 69%/75% |
設問2-2 分離培養の際に,喀痰の洗浄操作を行っていますか? | |
A.実施している | 24%/18% |
B.実施していない(喀痰を直接培地に接種) | 49%/50% |
C.実施していない(均質化液で処理後に定量培養を実施) | 27%/31% |
D.その他(均質化液で処理後に定性) | 0%/1% |
設問3 起炎菌と思われる菌を認めた時,どのように報告していますか? | |
A.いつも菌種推定して報告 | 7%/20% |
B.できる限り菌種推定して報告 | 71%/48% |
C.形態のみ報告 | 22%/32% |
設問4 白血球の貪食像について報告していますか? | |
A.あれば必ず報告 | 80%/65% |
B.起炎菌と思われる場合のみ報告 | 18%/20% |
C.報告していない | 2%/15% |
設問5 便のグラム染色は行っていますか? | |
A.いつも行っている | 24%/45% |
B.必要と判断したときに行っている | 27%/19% |
C.必要に応じて白血球とCampylobacterをみている | 27%/9% |
D.行っていない | 22%/27% |
設問6 常在菌と思われる菌の報告は行っていますか? | |
A.いつも行っている | 73%/66% |
B.必要と判断したときに行っている | 20%/31% |
C.行っていない | 7%/3% |
設問7 膣分泌物においてBV(nugent)スコアを報告していますか? | |
A.いつも報告している | 33%/23% |
B.必要と判断したときに報告している | 13%/15% |
C.報告していない | 54%/62% |
設問8 カテーテル先端のグラム染色は行っていますか? | |
A.いつも行っている | 55%/52% |
B.可能な限り行っている | 5%/18% |
C.行っていない | 40%/30% |
設問9 グラム染色の至急検査に対応していますか? | |
A.24時間対応している | 26%/22% |
B.可能な限り対応している | 71%/70% |
C.対応していない | 4%/9% |
設問10 通常,グラム染色結果の臨床への報告はいつされていますか? | |
A.当日中 | 94%/57% |
B.翌日午前中 | 2%/17% |
C.翌日午後以降 | 4%/27% |
設問11 培養にて菌の属名のみが判明した時点での中間報告を行っていますか? | |
---|---|
A.いつも報告している | 54%/22% |
B.必要と判断した時に行っている | 42%/64% |
C.報告していない | 4%/14% |
設問12 菌種が判明した時点での中間報告を行っていますか? | |
A.報告している | 69%/31% |
B.必要と判断した時に行っている | 29%/60% |
C.感受性結果が出てから報告している。 | 2%/9% |
設問13 菌種の同定はどの方法で行っていますか? | |
A.主に自動細菌同定機器 | 93%/76% |
B.主にマニュアル同定 | 4%/24% |
C.PCR等のその他の検査 | 4%/0% |
設問14 常在菌については同定を行わずに報告していますか? | |
A.同定していない | 31%/75% |
B.必要と判断した時に同定している | 62%/24% |
C.発育してきたものはすべて同定を行う | 7%/0% |
無記入 | 0%/1% |
設問15 質量分析を用いた同定機器を導入していますか? | |
A.導入している | 47%/0% |
B.導入していない | 35%/94% |
C.導入を予定している | 18%/6% |
設問16 一般細菌で実施している感受性検査の方法は? | |
---|---|
A.微量液体希釈法,ディスク拡散法の両方 | 60%/41% |
B.微量液体希釈法のみ | 40%/53% |
C.ディスク拡散法のみ | 0%/6% |
設問17 一般細菌の感受性検査に自動検査機器を使用していますか? | |
A.使用している | 98%/88% |
B.使用していない | 2%/12% |
設問18 一般細菌の微量液体希釈法に使用しているパネルやカードの種類は? | |
A.ブレイクポイントパネル | 27%/32% |
B.コンボパネル | 47%/51% |
C.その他(MICパネル) | 26%/10% |
無記入 | 0%/7% |
設問19 嫌気性菌で実施している感受性検査の方法は? | |
A.微量液体希釈法,ディスク拡散法の両方 | 19%/8% |
B.微量液体希釈法のみ | 66%/40% |
C.ディスク拡散法のみ | 15%/30% |
D.実施していない | 0%/22% |
設問20 真菌で実施している感受性検査の方法は? | |
A.MICプレート(栄研) | 14%/1% |
B.ASTY(極東) | 60%/12% |
C.その他(E-test, RAISUS) | 26%/0% |
D.実施していない | 0%/87% |
設問21 感受性結果の判定に用いている基準は? | |
A.CLSI | 100%/100% |
B.EUCAST | 0%/0% |
C.日本化学療法学会 | 0%/0% |
設問22 CLSIドキュメントのM100-S……変更がアナウンスされる毎に,自施設の判定基準の変更を行っていますか? | |
A.毎回行っている | 16%/24% |
B.必要と判断した時に行っている | 75%/65% |
C.特に変更は行っていない | 9%/11% |
設問23 感受性検査において,ATCC精度管理菌株を用いて精度管理を行っていますか? | |
A.週に1度実施している | 46%/6% |
B.不定期に行っている | 15%/14% |
C.特になにもしていない | 35%/22% |
D.その他(月一度,毎日:1施設) | 5%/58% |
設問24 ブドウ球菌において,PCG感性のMIC値が≤ 0.12あるいは阻止円径が≥ 29 mmの感性の菌株の誘導性βラクタマーゼ試験を実施していますか? | |
A.いつもしている | 26%/24% |
B.必要に応じて行っている | 27%/20% |
C.実施していない | 47%/56% |
設問25 MRSA検出のために,オキサシリン(MPIPC)とセフォキシチン(CFX)の感受性測定を行っていますか? | |
A.両方測定している | 95%/79% |
B.MPIPCのみ測定 | 5%/19% |
C.CFXのみ測定 | 0%/2% |
D.測定していない(PBP2'の検出) | 0%/0% |
設問26 ブドウ球菌やβ溶血レンサ球菌のDテスト(クリンダマイシン誘導耐性試験)を必要時に実施していますか? | |
A.両方実施している | 29%/9% |
B.ブドウ球菌のみ実施 | 29%/12% |
C.レンサ球菌のみ実施 | 4%/8% |
D.実施していない | 38%/71% |
設問27 肺炎球菌のPCGについて,CLSIの現在の判定基準(非髄膜炎;S ≤ 2 μg/mL)を用いて報告していますか? | |
---|---|
A.現在の基準を用いて報告している | 84%/71% |
B.旧基準(S ≤ 0.06 μg/mL)で報告している | 16%/19% |
C.MICを測定していない | 0%/10% |
設問28 ESBLの判定基準・報告はどのように行っていますか? | |
A.M100-S19を用いて確認試験を実施し,陽性であればペニシリン,セフェム,モノバクタムはRに変換する | 70%/64% |
B.M100-S20を用いて通常確認試験を実施せず,カテゴリの変更もしない | 30%/29% |
C.特に行っていない | 0%/7% |
設問29 E. coli,Klebsiella,Proteus mirabilisに関して,感受性菌とESBLを区別して報告していますか? | |
A.分けて報告している | 85%/85% |
B.分けてないがコメントで報告している | 13%/10% |
C.特になにもしていない | 2%/4% |
無記入 | 0%/1% |
設問30 緑膿菌に関して感受性菌とMDRPを区別して報告していますか? | |
A.分けて報告している | 85%/84% |
B.分けてないがコメントで報告している | 13%/15% |
C.特になにもしていない | 2%/0% |
無記入 | 0%/1% |
設問31 緑膿菌に関して感受性株と2剤耐性株を区別して報告していますか? | |
A.分けて報告している | 38%/32% |
B.分けてないがコメントで報告している | 36%/46% |
C.特になにもしていない | 26%/21% |
無記入 | 0%/1% |
設問32 Haemophilus influenzaeに関して,感受性菌とBLNARを区別して報告していますか? | |
A.分けて報告している | 64%/59% |
B.分けてないがコメントで報告している | 18%/14% |
C.特になにもしていない | 18%/26% |
無記入 | 0%/1% |
設問33 メタロβラクタマーゼ産生菌が検出された場合,感受性菌と区別して報告していますか? | |
A.分けて報告している | 66%/38% |
B.分けてないがコメントで報告している | 27%/43% |
C.特になにもしていない | 7%/18% |
無記入 | 0%/1% |
設問34 プラスミド性AmpC産生菌が検出された場合,感受性菌と区別して報告していますか? | |
A.分けて報告している | 16%/25% |
B.分けてないがコメントで報告している | 53%/32% |
C.特になにもしていない | 31%/42% |
無記入 | 0%/1% |
設問35 同定菌名と感受性結果のかい離があった場合の対応は? | |
A.同定,感受性両方を別の検査法で再検査 | 82%/72% |
B.同定のみ再検査 | 2%/12% |
C.感受性のみ再検査 | 16%/14% |
無記入 | 0%/2% |
設問36 検査に不適な材料(唾液痰,汚染尿,乾燥検体)であった場合何かコメントしていますか? | |
---|---|
A.不適な材料であることをコメントしている | 49%/38% |
B.できる限り検体を受理せず再提出をお願いしている | 31%/42% |
C.特にしていない | 20%/20% |
設問37 分離菌に対する評価(起炎菌であるか否か)をコメントしていますか? | |
A.いつもしている | 0%/5% |
B.判断可能な限りしている | 47%/17% |
C.していない | 53%/78% |
設問38 血液培養分離菌に対する評価(起炎菌かコンタミか)をコメントしていますか? | |
A.いつもしている | 4%/8% |
B.判断可能な限りしている | 29%/33% |
C.していない | 67%/59% |
設問39 血液培養に関してシグナル陽性化の時間報告していますか? | |
A.いつもしている | 16%/14% |
B.判断可能な限りしている | 4%/11% |
C.していない | 80%/75% |
設問40 血液培養に関して本数を報告していますか? | |
A.いつもしている | 49%/52% |
B.判断可能な限りしている | 6%/11% |
C.していない | 45%/36% |
無記入 | 0%/1% |
設問41 耐性菌に関するコメントをしていますか? | |
A.いつもしている | 69%/61% |
B.必要と判断した時のみしている | 27%/32% |
C.していない | 2%/7% |
D.実施していない | 2%/0% |
設問42 グラム染色検査と培養同定検査の各結果を踏まえた総合コメントをしていますか? | |
A.いつもしている | 0%/8% |
B.不一致の場合行っている | 24%/10% |
C.必要と判断した時のみしている | 45%/33% |
D.していない | 31%/49% |
設問43 治療に関するコメントをしていますか? | |
A.いつもしている | 0%/1% |
B.可能な限りしている | 9%/14% |
C.していない | 91%/84% |
無記入 | 0%/1% |
設問44 クロストリジウム・ディフィシル下痢症の検査法として,どのような検査法を採用していますか? | |
---|---|
A.糞便中トキシンA抗原検出法 | 0%/0% |
B.糞便中トキシンA & B抗原検出法 | 13%/31% |
C.糞便中グルタメートデヒドロゲナーゼ(GDH)検出法 | 0%/1% |
D.糞便中GDH検出法およびトキシンA & B検出法の併用 | 87%/63% |
E.その他(外注検査) | 0%/1% |
無記入 | 0%/4% |
設問45 クロストリジウム・ディフィシルの分離培養検査を実施していますか? | |
A.実施している | 93%/45% |
B.実施していない | 7%/54% |
無記入 | 0%/1% |
設問46 分離培養検査を実施している施設のみ;どのような場合に分離培養を実施しますか? | |
A.依頼があれば常に実施 | 56%/26% |
B.限定して実施(例:GDHとトキシンの結果が乖離した場合,入院患者限定など) | 36%/20% |
無記入 | 7%/54% |
設問47 分離培養検査を実施している施設のみ;糞便の前処理(等量アルコール処理)を実施していますか? | |
A.いつも実施している | 29%/13% |
B.限定して実施(実施基準を記載してください) | 0%/0% |
C.実施していない | 64%/30% |
D.他の方法で実施している(外注検査) | 0%/1% |
無記入 | 7%/56% |
設問48 分離培養検査を実施している施設のみ;どのような培地を使用していますか? | |
A.非選択分離培地(ABHK寒天培地など) | 0%/2% |
B.選択分離培地(CCMA,CCFA寒天培地) | 93%/41% |
C.増菌培地 | 0%/0% |
無記入 | 7%/57% |
設問49 分離培養検査を実施している施設のみ;培養サンプル(糞便あるいは前処理液)を何μL培地に接種していますか? | |
A.一白金耳程度 | 49%/21% |
B.一定量(100 μL,50 μL,綿棒など) | 29%/11% |
C.特に決めていない | 15%/9% |
無記入 | 7%/59% |
設問50 分離培養検査を実施している施設のみ;分離菌株のトキシン産生性の確認試験を実施していますか? | |
A.実施している | 62%/27% |
B.実施していない | 31%/15% |
無記入 | 7%/58% |
設問51 糞便中GDH検出法およびトキシンA & B検出法の併用を実施している施設のみお答えください;“GDH陽性/トキシンA & B陰性”の場合の結果報告をどのようにしていますか? | |
A.“トキシンA & B陰性”で報告 | 24%/11% |
B.“GDH陽性/トキシンA & B陰性”で報告 | 16%/31% |
C.追加検査(培養など)を実施し,その結果を報告する | 42%/18% |
D.その他(陰性で報告し培養結果を追加報告するなど) | 7%/5% |
無記入 | 11%/35% |
細菌検査では検体の質が極めて重要である。不適切な検体は誤った検査結果を導くもととなり,ひいては誤った感染症診療を引き起こすもとにもなる。特に喀痰などの検体採取時の常在菌汚染が避けられない検査材料の場合には適切な採取方法を遵守するとともに,採取後の品質評価とその評価成績の有効活用が必要不可欠である。今回のアンケート結果で,喀痰の品質評価(設問1:Miller & Jonesの分類あるいはGeckerの分類)を行っている施設が80%以上,さらに,不適切材料への取り組み(設問36:コメント付記,検体再提出依頼など)を行っている施設が80%を占めたことは特記すべきことである。これらの結果は,臨床検査技師等に関する法律の改正に伴い,上気道検体や直腸検体の検体採取が臨床検査技師の業務範囲に認められたことや,ISO15189などの普及により検査前プロセスの重要性が再認識されたことにより,細菌検査を担当する技師の意識の向上を反映しているものと考える。検査精度を実質的に高めるためには検査の始まり(適切な検体採取・品質評価)の時点から臨床検査技師が関わることが重要であり,また検体採取時の容器選択や保管方法について,医師,看護師等にも正しい知識が広まるように臨床検査室から積極的に発信していくことは,全ての施設に共通する課題である。
グラム染色は細菌検査の中で最も迅速かつ簡便に行え,臨床的有用性の高い検査である。今回のアンケート調査においてグラム染色の至急対応を行っている施設は約9割と高い水準を示した。その一方で,貪食像の報告を行っていない施設が約1割存在し,さらに,当日中の結果報告を行っていない施設も(大学病院:6%,北日本病院:44%)みられるなど,グラム染色の利点を十分に生かせていない施設が多く存在することも浮き彫りとなった。
菌種同定では近年,質量分析装置が普及し始めたことにより,同定時間が短縮され,遺伝子検査と同等の精度で結果が得られるようになった。アンケート調査では,質量分析を導入している施設もしくは導入を予定している施設が,大学病院65%,北日本病院6%であり,両者に差が見られる。検査の自動化が進むにつれて,機器等も新たに開発され,検査手技の簡易化が加速している。使用機器により各施設で報告時間に格差が生まれるなど今後の問題点として挙げられる。
薬剤感受性検査は,個々の患者の治療のみならず,医療関連感染対策にも関わる重要な検査である。近年,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌などの様々な薬剤耐性菌の出現と伝播が問題となっており,検査室における検査対応と精度の高い結果報告が求められている3)。薬剤感受性検査は,細菌検査の中で最も標準化・自動化が進められてきた検査であり,今回のアンケート調査においても100%の検査室でCLSI標準法が採用されており,一般細菌に関しては自動検査機器を使用している施設が全体の9割を超えていた。これらの結果は,薬剤感受性検査に関しては検査室間差の問題が改善されつつあることを示すものであり,好ましい動向である。その一方で,自動検査機器では検査できない細菌(設問19,20)や薬剤耐性菌(設問24,26,28,33,34)への検査対応に関しては未だ検査室間でのバラつきが認められ,さらに,内部精度管理をまったく実施していない施設(大学病院:35%,北日本病院:22%)も多くみられるなど,改善すべき点が多々認められた。新たな薬剤耐性菌検査が次々に出現するなか,各々の検査室において必要性の高い検査と低い検査を見極めていくことが困難となりつつある。国や学会等での指針作成および行政を含めた精度保証体制の整備が強く望まれる。
コメント報告は,検査結果に加えて重要な情報を診療側に伝える手段である。時間や労力を費やしても結果が得られないことがある細菌検査の世界では,特定は困難であっても多くの情報をコメントとして提供することが望まれる。今回のアンケート調査によると耐性菌コメントを報告している施設(大学病院:96%,北日本病院:93%)と比べ,総合コメントを報告している施設(大学病院:69%,北日本病院51%)や起炎菌か汚染菌かのコメント(問37:分離菌に対する評価あるいは問38血液培養に対する評価)を報告している施設は少ない。結果報告とは違い,コメント報告は様々なデータを読み解く力が問われる。広い視点から検査データを解釈するためには個人のスキルアップとともに,教育制度の充実も重要となる。勉強会の開催や参加など,知識を共有する場を設けることが必要不可欠である。
微生物検査は個々の患者の感染症診療はもちろんのこと,院内アウトブレイクの監視や感染経路別予防策の徹底など,感染対策を的確に行う上においても重要な役割を有する。今回のアンケート調査では,院内感染原因菌として極めて重要なCDIを対象にそれぞれの施設における検査法の調査を行った。CDIの診断には糞便中のトキシン検出が極めて重要である。しかしながら,糞便中トキシン抗原検出法は検出感度が不十分であることから,検査による見逃しを防ぐためには分離培養検査を併せて実施することが推奨されている4)。今回の調査結果では,大学病院ではすでに93%の施設が分離培養検査を実施していたが,北日本病院では45%と約半数の施設にすぎなかった。一方,分離培養検査を実施している施設であっても,その具体的な方法(前処理の有無,培地へのサンプル接種量,分離菌株のトキシン産生性確認試験の有無,結果報告方法)には大きな施設間差が認められた。これは同じ検体を検査したとしても検査施設によって検査結果に大きな違いが生じることを示唆するものである。特に,分離菌株のトキシン産生性確認試験は検出菌の病原性を判断するうえで必要不可欠な情報であることから,分離培養検査を実施する際には必ず実施する必要がある5)。
細菌検査は標準的検査法が確立されていない項目が多く,また,施設間差是正のための取り組みもほとんど行われていないのが現状である。しかしながら,検査結果の品質を保証するためには,検査プロセスの確認と見直し(PDCAサイクル)を随時行う必要があり,他施設の現状を把握することは,自施設の客観的評価をするうえで,重要な情報になると考える。本アンケート結果が検査プロセス見直しのための参考となれば幸いである。
本報告には個人情報が含まれていないため,倫理委員会の承認は得ていない。
本論文の主旨は第66回日本医学検査学会にて発表した。
アンケート調査にご協力いただいた皆様に深謝致します。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。