Japanese Journal of Medical Technology
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Influence of diet on novel liver fibrosis marker “Mac-2 binding protein glycosylation isomer (M2BPGi)”
Yutaka TAKINOTakahiro MATSUMURAToshihiko FUTAGIEmiko KAWABATAYuri HOSHINARisa HONDATomoji YUNOHiroshi SHIBATA
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2018 Volume 67 Issue 4 Pages 541-545

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Abstract

肝炎ウイルスやアルコール性肝炎,非アルコール性脂肪性肝疾患などによる慢性肝炎は線維化の過程を経て,将来的に肝硬変症を経て肝癌に至ることが知られている。肝線維化診断のゴールデンスタンダードは肝生検であるが,侵襲的な検査であることから血液成分であるヒアルロン酸やIV型コラーゲン,および生理学的な検査法が利用されている。新しい肝線維化マーカーとしてMac-2 binding protein glycosylation isomer(M2BPGi)が保険適応された。ヒアルロン酸は食事の影響を受けやすいことが知られているが,M2BPGiについての食事の影響は調査されていない。今回,M2BPGiの食事の影響を血中ヒアルロン酸値とIV型コラーゲン値の変動と比較した。ヒアルロン酸のみが食事摂取1・2時間後に食前と比べ有意に測定値が上昇した。M2BPGi値とIV型コラーゲン値は食事の影響を受けなかった。このことから,M2BPGi値測定は随時採血の検査においても正しい評価ができると考えられた。

I  はじめに

肝炎ウイルスやアルコール性肝炎,非アルコール性脂肪性肝疾患などによる慢性肝炎は将来的に肝硬変症を経て肝癌に至ることが知られている。この過程は肝線維化であり,病理組織学的に4段階に分類される。肝線維化診断のゴールデンスタンダードは肝生検であるが,入院を必要とする侵襲的な検査である上に様々なリスクがある。そこで,血液成分であるヒアルロン酸(hyaluronic acid; HA)やIV型コラーゲン(type IV collagen;IVコラーゲン),血小板数減少などが用いられているが,線維化の直接的な成分ではないため,肝機能検査項目や年齢等を考慮した係数1),2),および生理検査的な測定法3),4)も実施されている。2015年1月に新しい肝線維化マーカーとしてMac-2 binding protein glycosylation isomer(M2BPGi)5)が保険収載された。このM2BPGiは肝の線維化とよく相関すること,また,従来の他のマーカーや係数に比べ最も有効であるとの報告がある6)。さらにこのマーカーは,肝の線維化後の肝癌発癌マーカーとしても有用7)であるとされている。HAやIVコラーゲンは食物中にも含まれているために食餌内容の影響を受けやすいことが知られている8)。しかしながら,M2BPGiについての食餌の影響は調査されていない。今回,M2BPGiの食餌の影響を血中HAやIVコラーゲン値の変動と比較した。

II  対象と方法

対象は,本研究の目的,意義,内容について説明を受け,十分に理解した上で本研究への参加を自発的に同意した健常ボランティア20人(男14人,女6人:18~64歳)に,HAやコラーゲンを含む食事を摂食1・2・3時間後の血中HA値,IVコラーゲン値,およびM2BPGi値を食前の値と比較した。

食餌の献立は,牛筋丼,水菜と大根のサラダ(ジュレドレッシング添え),なめことオクラの味噌汁,およびはちみつレモンゼリーであり,1食あたりコラーゲン4,830 mg(牛筋のコラーゲン量を含まない),HA 40 mg以上含む内容(総962 KCal)を全量食べた(Table 1)。食前の採血血液については肝機能,血糖値等も測定して肝機能異常のないことを確認した。肝機能検査や血糖値検査,およびM2BPGi値測定は金沢赤十字病院検査部において実施した。M2BPGi値の測定は,HISCL®M2BPGi試薬を用いて,全自動免疫測定装置HISCL-8000(いずれもシスメックス社)で測定した。HAとIVコラーゲンの測定は外部委託検査(BML社)において測定した。

Table 1  Nutrition component on one meal
subjects concentration
energy 962 Kcal
protein 39.2 g
lipid 29.2 g
carbohydrate 131.7 g
sodium (NaCl) 2,136 mg (5.3 g)
collagen* 4,830 mg
hyaluronic acid 40 mg

* Collagen concentration does not include concentration in bovine muscle.

統計解析は,Wilcoxon検定(ペアごとのノンパラメトリック比較)で行った。

本研究は,北陸大学の臨床教育・研究倫理審査において承認(北陸大学H28第5号)を得て実施した。

III  結果

1. M2BPGi値への食餌の影響

血中M2BPGi値は,食前値の0.451 ± 0.249(平均±SD)cut off index(C.O.I.)に対し1時間後0.458 ± 0.261 C.O.I.(pre vs post_1h p = 0.7555),2時間後0.450 ± 0.241 C.O.I.(pre vs post_2h p = 0.8603),および3時間後0.450 ± 0.230 C.O.I.(pre vs post_3h p = 0.7148)であった(Figure 1)。

Figure 1 

Effect of diet on M2BPGi value

Each point shows a blood level of M2BPGi in the drawing blood timing. Pre shows M2BPGi concentrations out of preprandial blood. Post_1h shows M2BPGi concentrations out of the blood one hour after eating. For Post_2h and 3h, we show M2BPGi concentrations out of the blood two hours and three hours later after eating. The horizontal line in a figure show the mean of all specimens.

The center line of the box diagram shows the median value. The bottom of the box diagram shows 1/4 quantile and the lid shows the 3/4 quantile. The upper line of the whiskers shows 100% percentile and the underline shows 0% percentile. The horizontal lines in a figure show the mean of all specimens.

2. HA値への食餌の影響

血中HA値は,検出感度未満であった10 ng/mL未満の測定範囲以下の結果を9 ng/mLとしたとき,食前値の16.6 ± 13.2 ng/mL(平均±SD)に対し1時間後35.6 ± 29.3 ng/mL(pre vs post_1h p = 0.0013),2時間後25.9 ± 16.6 ng/mL(pre vs post_2h p = 0.0118),および3時間後21.6 ± 15.1 ng/mL(pre vs post_3h p = 0.1888)であった(Figure 2)。

Figure 2 

Effect of diet on hyaluronic acid

Each point shows a blood level of hyaluronic acid in the drawing blood timing. Pre shows hyaluronic acid concentrations out of preprandial blood. Post_1h shows hyaluronic acid concentrations out of the blood one hour after eating. For Post_2h and 3h, we show hyaluronic acid concentrations out of the blood two hours and three hours later after eating. The horizontal line in a figure show the mean of all specimens.

The center line of the box diagram shows the median value. The bottom of the box diagram shows 1/4 quantile and the lid shows the 3/4 quantile. The upper line of the whiskers shows 100% percentile and the underline shows 0% percentile. The horizontal lines in a figure show the mean of all specimens.

3. IVコラーゲン値への食餌の影響

血中IVコラーゲン値は,食前値の130.6 ± 23.0 ng/mL(平均±SD)ng/mLに対し1時間後128.7 ± 20.0 ng/mL(pre vs post_1h p = 0.8604),2時間後127.2 ± 21.8 ng/mL(pre vs post_2h p = 0.6847),および3時間後125.9 ± 21.9 ng/mL(pre vs post_3h p = 0.5337)であった(Figure 3)。

Figure 3 

Effect of diet on type IV collagen

Each point shows a blood level of type IV collagen in the drawing blood timing. Pre shows type IV collagen concentrations out of preprandial blood. Post_1h shows type IV collagen concentrations out of the blood one hour after eating. For Post_2h and 3h, we show type IV collagen concentrations out of the blood two hours and three hours later after eating. The horizontal line in a figure show the mean of all specimens.

The center line of the box diagram shows the median value. The bottom of the box diagram shows 1/4 quantile and the lid shows the 3/4 quantile. The upper line of the whiskers shows 100% percentile and the underline shows 0% percentile. The horizontal lines in a figure show the mean of all specimens.

IV  考察

臨床検査項目にはさまざまな項目が存在している。ヘモグロビンなどの性差や,ホルモンなどの日内変動のある検査,血糖値や脂質のように食餌の影響を受けるものなどである。臨床検査技師は,患者や他種の医療従事者に検査説明できることが求められている。日々新しい検査項目が研究開発されているが,新しい検査項目の基準値や影響因子を知ることは臨床検査技師として,重要な課題である。

新しく保険収載された肝硬度測定検査のM2BPGiは,産・官・学共同開発による糖鎖抗原をターゲットとした,肝線維化マーカーとして開発8),9)されたが,食餌成分の影響については検討されていなかった。今回,栄養学的に明らかにヒアルロン酸とコラーゲンを含む制限食摂取前後の血中M2BPGi値,HA値,およびIVコラーゲン値濃度を比較した結果,HAのみが大きく食餌の影響を受け,食前の濃度に比べ1時間後,2時間後の値が有意に高値になった。一方,目的のM2BPGi値は食後4時間後まで変動は見られなかった。また,IVコラーゲン値は有意差を認めなかったが,平均値は若干低値傾向を示した。

食事後にHA値が上昇することは古くから知られていた10)。Fraserら11)は,29歳から68歳までの健常ボランティア14人に対し,低脂肪食,高脂肪食,糖液,生理食塩液,および消化管運動抑制剤と消化管運動亢進剤を与えて経過観察した結果,高・低脂肪食,糖液,消化管運動亢進剤服用例ではいずれも血中HA値は上昇したが,生理食塩液と消化管運動抑制剤投与例では血中HA値が上昇しなかったことを認めた。このことから,胃腸組織からのHAの血中への移行は,栄養素摂取に応答する血管拡張の増大とその後の腸収縮による腸管リンパ流の増加によると報告し,血中HA測定には空腹時にサンプリングすることにより臨床的価値があると報告している。このことから,食後に増加するリンパ流の中にHAは含まれているが,IVコラーゲンやM2BPGiは含まれていないと考えられる。

血糖値や血中脂質成分は,食餌成分の吸収により血中濃度が影響を受けることは周知のことである。今回,食餌成分にM2BPGiが含まれていなかったために変動しなかったのではないかとの疑問もある。しかしながら,“糖鎖”は種特異性や疾患特異性を有している5),9)ことから,ヒト由来のM2BPGiを食餌成分に加えることは困難である。本来食餌中の糖質とタンパク質は,グルコースとアミノ酸に分解されて吸収される。今回の検討から,HAのみが食後のリンパ流の影響により,IVコラーゲンやM2BPGiと異なった血中動態を示したと考えられた。

V  結語

今回,線維化マーカーであるM2BPGi,HA,およびIVコラーゲンの食後の変動を比較した結果,HA値のみが食後に有意に上昇し,M2BPGi値およびIVコラーゲン値は有意な差を認めなかった。このことは,食後に増加するリンパ流の中にHAは含まれているが,IVコラーゲンやM2BPGiは含まれていないと考えられる。

M2BPGi値の測定は肝の線維化だけでなく,肝細胞癌の発生リスク判定や,抗ウイルス療法による線維化改善のモニタリング12)~14),突発性肺線維症患者のバイオマーカー15)としても有用とされている。M2BPGiは,全自動免疫測定装置と専用試薬を用いて短時間(17分)で精度よく測定可能16)である。今後対象患者の拡大が考えられることから,臨床検査技師は,食餌の影響を受けないと考えられることを,臨床へ情報提供すべきである。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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