2018 Volume 67 Issue 4 Pages 492-496
成熟好中球におけるアルカリフォスファターゼ活性は,慢性骨髄性白血病や夜間発作性血色素尿症で低下することが知られている。また,その他の血液疾患でも変動がみられるため,アルカリフォスファターゼ活性の程度をスコア化した値であるneutrophil alkaline phosphatase(NAP)スコアは,各種血液疾患の鑑別のために日常的に実施される検査である。検査方法は,薄層塗抹標本にNAP染色を施した後,成熟好中球を観察し,陽性指数を計算するのみである。しかしスコアの算定は,当院では担当技師による計算に任せられるため,数値誤入力による単純計算ミスのリスクが常に伴うことが課題であった。そこで,Excelの標準機能であるVisual Basic for Applications(VBA)を用いて,好中球のNAP活性度分類と同時にNAPスコアおよびNAP陽性率の算出を自動で行う専用システムを開発した。これにより好中球分類作業が容易となるだけでなく,計算ミスのリスク回避,そして計算値の二重チェックにかかる手間も省略できる。またシステム開発費はかかっておらず,費用対効果は申し分ないといえる。本システムは,当院のようにNAPスコア算定業務の改善を図りたい施設にとって,作業効率および費用対効果の面で有用であると考える。
好中球アルカリフォスファターゼ(neutrophil alkaline phosphatase; NAP)は,成熟好中球にあるリソソーム酵素の一種である。NAP活性は好中球造血能と関連して変導し,特に慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia; CML)や夜間発作性血色素尿症(paroximal nocturnal hemogrobinuria; PNH)では低下することがよく知られている。また,その他の血液疾患でも増減するため,NAP活性の程度をスコア化するNAPスコア算定は,各種血液疾患の鑑別診断のための補助的手法として有用である1)~3)。
検査方法は,薄層塗抹標本にNAP染色を施した後,成熟好中球を観察し,陽性指数を計算するのみである。しかしスコアの算定は,当院では電卓を使用し,担当技師による計算に任せられるため,数値誤入力による単純計算ミスのリスクが常に伴うことが課題であった。そのため,別の技師による計算値の二重チェックが必須となり,作業工程が増える。報告値の二重チェックは重要な作業であるが,業務が忙しく慌しい中での作業というのは,少なからず負担感を伴うものである。
そこで我々は,NAPスコア算定業務の効率化,とくに計算ミスのリスク軽減,さらに低コストを意識した専用システムの開発に取り組んだ。
なお本論文の趣旨は検査システムの開発に限定され,患者情報を扱わないため,倫理委員会の承認は得ていない。
システム開発に際して,重要項目として3点を掲げた。【第1項目】NAPスコア算定作業の効率化:程度に応じた好中球のNAP活性度分類が可能な専用カウンターを開発することで,末梢血細胞分類と同様の作業効率でカウントを実施できる。【第2項目】計算ミスのリスク回避:NAPスコアおよびNAP陽性比率を,Excel表計算機能を用いて自動計算させる。これにより計算ミスは完全に回避できることになる。【第3項目】費用対効果の最大化:昨今の検査科を取り巻くコスト意識の高まりは決して無視できるものではない。そこで早急な業務改善のためにも,極力コストをかけない方法が必要であった。
以上の3点が開発における重要項目であり,これらを達成するための開発手段として,Excelの標準機能であるVisual Basic for Applications(以下,VBA)を利用した。
2. Visual Basic for Applications(VBA)VBAとはマイクロソフト製のMicrosoft Officeシリーズに搭載されているプログラミング言語のことである4)。一般的に,Excelでの作業を自動化させるためにはExcelの操作を記録し,その内容を再生するように自動実行できる「マクロ」機能を使うことが多い。マクロの記録では一連の作業工程をコードとして記録するため,そのコードを再利用させることで同一作業を自動化できるものである。そこにVBAを用いると,マクロ機能で作られる作業コードを自分で記述することができるため,システム開発などが自在に可能となる。当院は,VBAを利用してシステム開発を行い,データの集計や抽出作業など,単一的な処理作業の自動化・効率化を進めている。さらに,VBA技術を実務や教育に応用し,とくに血液検査においては,新人・実習生向けの教育用カウンターや,骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes/neoplasms; MDS)における異形成定量専用カウンターの開発5)も行ってきた。本システムも,このノウハウを生かして開発したものである。
3. システムのデザイン(Figure 1, 2, 3, 4, 5)システム画面
システムはExcelファイルを開くことで起動する。
NAPカウンター
①患者情報を入力するとデータベースに保存できる。
②活性型とテンキーが対応し,カウント時点滅する。
③スコア表示により,結果の視認性が向上する。
NAPカウンター(一人仕様)
①チェックボックスで一人仕様が選択可能できる。
②二人目カウンターをOFF。平均計算が作動しない。
③スコアは単独カウントの結果から計算される。
データベース
①チェックボックスにチェックを入れると作動する。
②登録と同時にデータベースに結果が格納される。
③患者データは登録ごとに追加される。
VBAプログラミング画面
マクロの作成・編集はVisual Basic Editorで行う。カウンター構成コードの一部を示す。
システムの外観となるユーザーインターフェース(UI)はVBAのフォーム機能を用いてデザインした。システムの特徴を挙げる。①PCテンキーと対応したカウンター:朝長法におけるNAP活性程度0型~V型について,PCテンキーと対応したカウンターテンキーの「0」~「5」にそれぞれ対応させた。②各NAP活性度カウント数の表示:NAP活性程度(0型~V型)それぞれのカウント数をリアルタイムに表示させることで,結果の視認性を向上させた。③NAPスコアおよびNAP陽性比率の自動計算:本システムの核となる機能で,Excelによる自動計算のため計算ミスは無くなり,表示結果を検査システムへ入力するだけで完了する。④技師二人による平均値をとるための第2カウンター:当院では,精度を高めるために,2人の技師によるカウントを行っており,必要時に使用することができる。⑤検査結果のデータベース化:患者ID,患者氏名,検査の目的となる疾患,そしてNAPスコアおよびNAP陽性比率が,データベースに格納されるようにした。
カウント画面は当院で使う末梢血カウンターと同様であるため,鏡検と同時にテンキーでのカウントが可能となった。鏡検とカウントの同時作業は,末梢血の細胞分類業務と同じ作業効率のため,操作性に対する抵抗も少なく,スムーズなシステム導入が可能となった。そしてカウント後,NAPスコアは自動計算されるため,計算ミスのリスクを完全に無くすことができた。さらに,NAPスコアとNAP陽性比率がデータベースに蓄積されるため,将来的に検査対象となる疾患について,NAPスコアとの関連性を解析することも可能である。これは膨大に蓄積される検査結果を無駄にせず,臨床検査の発展に寄与するために必須の機能であるといえる。そして最後に特筆すべき点としては,システム開発費は一切かかっておらず,費用対効果は申し分ないということである。
以上,システム開発における重要3項目について,計画通りに達成することができた。
各種血液疾患の鑑別診断のために,NAPスコア算定の有用性はいうまでもない。しかしながらNAPスコア算定にかかる計算過程において,当院のようにシステム化されていない現場では,常に計算ミスのリスクを負うことになる。我々検査技師にとって,正確な計算能力は必須であり,それに代わるNAPスコア算定システムの開発は非常に有益であるといえる。またVBAはマイクロソフト製のMicrosoft Officeシリーズに搭載されているプログラミング言語であり,システム開発にかかる費用がかからない点も重要なポイントである。本システムは,当院と同じく,NAPスコア算定にかかる計算ミスのリスク,さらには分類作業を含めた業務の効率化を課題とする施設にとっても,非常に利用価値が高いといえる。
一つ現状の課題を挙げると,VBAシステムは検査システムと連携していないため,NAPスコアは自動計算されるが,結果自体は検査システムへ直接入力することになる。理想的には検査システムと連携がとれ,結果まで自動反映されることが望ましいが,検査システム上の利用権限など,環境面からのアプローチが必要となる。今後,新たな検査システム導入の際に,VBAシステムとの連携を一つのアイデアとして提案していくことも考えている。
NAPスコア算定システムは,NAPスコア算定業務にかかる一連の作業効率を向上させるだけでなく,スコアの計算ミスのリスクを無くすことができる。さらにVBAによるシステム開発により費用対効果は申し分ない。本システムの開発は,当院にとって非常に有益である。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。