2018 Volume 67 Issue 4 Pages 497-502
HTLV-1抗体とHTLV-2抗体の同時測定および検出感度と特異度の改良のために開発されたルミパルスHTLV-I/II(富士レビオ)について評価を行った。ルミパルスHTLV-I/IIの同時・日差再現性はいずれも変動係数が4%以内と良好な結果が得られた。HTLV抗体陰性およびHTLV-1抗体陽性およびHTLV-2抗体陽性のパネル検体を測定した結果,データシートと完全に一致し高い特異性が確認された。また,陽性検体の希釈系列で調べた測定感度もルミパルスHTLV-I(従来試薬)に比較して8~16倍高い結果であった。臨床検体199検体を用いてルミパルスHTLV-I/IIと従来試薬を比較したところ,2例が不一致を示した。この2例をウエスタンブロット法とNested-PCR法で確認したところ2例とも陰性と判定され,ルミパルスHTLV-I/IIの結果と一致した。これらの結果より標識抗原を用いたルミパルスHTLV-I/IIは従来試薬と比較し,検出感度および特異度に優れたHTLV抗体スクリーニング検査であることが示された。
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1; HTLV-1)は成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia; ATL)の原因ウイルスである1)~3)。HTLV-1浸淫地域は,カリブ海沿岸諸国,南アメリカ,中央アフリカ,国内では西南日本で認められ,その主要な感染経路は母子感染(主に母乳を介する)および配偶者間での水平感染であることが知られている。HTLV-1ウイルス感染者のほとんどが無症候性のままキャリアとして一生を終えるが,その一部(2~5%)は数十年の潜伏期間を経てATLを発症することが報告されている4)。現在日本には72~82万人のHTLV-1キャリアが存在すると推計されている5)。
一方,ヒトT細胞白血病ウイルス2型(human T-cell leukemia virus type 2; HTLV-2)は有毛細胞白血病患者由来の細胞株より分離された6)。HTLV-2の感染も地域集積が認められる他,一部の米国やヨーロッパの麻薬常用者に感染が拡大していることが報告されている7)。また,HTLV-2感染は日本でも報告8)されており,今後,海外からの入国者の増加に伴い日本でも問題になる可能性が考えられる。
HTLV感染の診断には,HTLV抗体検出によるスクリーニング検査が行われ,スクリーニング陽性の場合にはウエスタンブロット法による確認検査が実施される。今回,HTLV-1抗体とHTLV-2抗体の同時測定を可能とするルミパルスHTLV-I/II(富士レビオ)の試薬性能について評価を行う機会を得た。
新規検討試薬としてルミパルスHTLV-I/II(富士レビオ)を用いて,ルミパルスG1200(富士レビオ)で測定した。比較対照の試薬としてルミパルスHTLV-I(富士レビオ)(従来試薬)およびA社試薬を用い,それぞれルミパルスG1200とA社試薬の専用分析装置で測定した。それぞれの試薬で用いられている抗原は,ルミパルスHTLV-I/IIにはgp21(HTLV-1)リコンビナント蛋白質,gp46(HTLV-1/2)ペプチド抗原,およびp19(HTLV-1/2)ペプチド抗原とされており,従来試薬ではHTLV-1感染細胞培養から得られた精製抗原,A社試薬はgp46(HTLV-1/2)ペプチド抗原およびgp21(HTLV-I/II)リコンビナント蛋白質を用いている9)。判定は,それぞれの試薬の添付文書に従いCut Off Index(C.O.I.)あるいは発光強度/カットオフ値(S/CO)が1.0以上を陽性とした。
2. ルミパルスHTLV-I/IIによる同時再現性および日差再現性HTLV-1抗体陽性の市販血清(Trina Bioreactives AG)をHTLV-1/2抗体陰性の市販健常人血清(Golden West Biologicals)で希釈を行い,HTLV-1抗体濃度の異なる4検体(陰性および陽性3濃度)を調製した。同時再現性は,これら4検体を各キット用い10回繰り返し測定した。日差再現性の検討では同時再現性で使用した同一の4検体(陰性1濃度および陽性3濃度)を10日間繰り返し測定した。
3. HTLV-1抗体陽性検体とHTLV-2抗体陽性検体との反応性市販のHTLV-1抗体陽性血清30検体およびHTLV-2抗体陽性血清30検体(Trina Bioreactives AG),HTLV-I抗体陰性を確認されている健常人血清60検体(ProMedDx)をルミパルスHTLV-I/II,従来試薬およびA社試薬で測定した。HTLV-I抗体陰性60検体のうち従来試薬で陽性と判定された1検体は,ウエスタンブロット法(プロブロットHTLV-I;富士レビオ)を用いてHTLV抗体の確認検査を実施した。
4. 希釈試験HTLV-1抗体陽性の市販パネル血清5検体(SeraCare Life Sciences)をそれぞれHTLV-1/2抗体陰性の血清で4倍から2,048倍まで希釈し,ルミパルスHTLV-I/II,従来試薬およびA社試薬で検出感度を比較した。
5. 臨床検体を用いた比較検討当院においてHTLV-1抗体測定依頼があり従来試薬で陽性となった94検体および陰性の105検体をルミパルスHTLV-I/IIおよびA社試薬で測定した。なお,本検討は宮崎大学医の倫理委員会の承認を得て実施した(宮崎大学・医の倫理委員会承認番号854)。
6. ウエスタンブロット法およびNested PCRを用いた確認検査臨床検体を用いた従来試薬とルミパルスHTLV-I/II,A社試薬の結果に乖離が見られた2例についてウエスタンブロット法とNested PCR法を用いて確認を行った。ウエスタンブロット法にはプロブロットHTLV-I(富士レビオ)を用い,添付文書に従って実施した。Nested PCR法は,梅木らの報告10),11)に従い実施した。
同時再現性と日差再現性を調べた結果,いずれも変動係数(CV)4%未満と良好であった(Table 1)。
同時再現性(n = 10) | 陰性 | 陽性-1 | 陽性-2 | 陽性-3 |
---|---|---|---|---|
Mean(C.O.I.) | 0.1 | 7.67 | 22.84 | 41.32 |
SD | 0 | 0.08 | 0.24 | 0.35 |
CV(%) | 0 | 1.07 | 1.04 | 0.85 |
日差再現性(n = 10) | 陰性 | 陽性-1 | 陽性-2 | 陽性-3 |
Mean(C.O.I.) | 0.1 | 7.65 | 22.75 | 42.33 |
SD | 0 | 0.29 | 0.9 | 0.98 |
CV(%) | 0 | 3.77 | 3.94 | 2.31 |
C.O.I.: Cut Off Index
ルミパルスHTLV-I/IIではHTLV-1抗体陽性およびHTLV-2抗体陽性パネル血清は全て陽性,HTLV-1抗体陰性60検体は全て陰性の結果が得られ,パネル血清のデータシートと完全に一致した(Table 2)。従来試薬ではHTLV-1抗体陽性30検体およびHTLV-2抗体陽性30検体は全て陽性と判定された。しかし,HTLV-1抗体陰性60検体のうち1検体は陽性(C.O.I. = 4.0)と判定された。この陽性となった1検体についてウエスタンブロット法を用いてHTLV-1抗体の確認検査を実施したところ,陰性と判定され従来試薬での偽陽性反応であると判断した(Figure 1)。A社試薬についても同様の検討を行ったが,ルミパルスHTLV-I/IIと同じ結果であった。
パネル血清 | ルミパルス HTLV-I/II |
従来試薬 | A社試薬 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
陽性 | 陰性 | 陽性 | 陰性 | 陽性 | 陰性 | |
HTLV-1 (−) HTLV-2 (−) |
0 | 60 | 1 | 59 | 0 | 60 |
HTLV-1 (+) HTLV-2 (−) |
30 | 0 | 30 | 0 | 30 | 0 |
HTLV-1 (−) HTLV-2 (+) |
30 | 0 | 30 | 0 | 30 | 0 |
Confirmation of HTLV-1 antibody by Western Blot analysis (Problot HTLV-1) of an HTLV-1 antibody negative panel serum with disagreement between assays of previous kit and Lumipulse HTLV-I/II
The arrows indicate the antigens to confirm HTLV-1 antibody. PC, positive control; H1, HTLV-1 negative panel serum sample with disagreement between assays of previous assay kit and Lumipulse HTLV-I/II; NC, negative control; P1, weak-positive control; P2, strong-positive control.
希釈検体を用いてルミパルスHTLV-I/II,従来試薬,A社試薬でHTLV抗体を測定した結果,ルミパルスHTLV-I/IIは従来試薬に比べて8から16倍希釈された検体においても陽性結果が得られた。また,A社試薬はルミパルスHTLV-I/IIとほぼ同等の検出結果を示した(Table 3)。
検体 | 希釈倍率 | ルミパルスHTLV-I/II | 従来試薬 | A社試薬 |
---|---|---|---|---|
CLEIA(C.O.I.) | CLEIA(C.O.I.) | CLIA(S/CO) | ||
A | 原液 | ≥ 50 | 16.9 | 95.6 |
1:32 | 16.3 | 1.2 | 11.34 | |
1:64 | 8 | 0.7 | 5.31 | |
1:128 | 4.5 | 0.4 | 2.95 | |
1:256 | 2.2 | 0.3 | 1.42 | |
1:512 | 1.1 | 0.2 | 0.81 | |
1:1,024 | 0.5 | 0.2 | 0.36 | |
1:2,048 | 0.3 | 0.1 | 0.23 | |
B | 原液 | ≥ 50 | 25.7 | 84.23 |
1:8 | 13.8 | 1.1 | 9.55 | |
1:16 | 7.1 | 0.6 | 5.00 | |
1:32 | 3.5 | 0.4 | 2.60 | |
1:64 | 1.8 | 0.2 | 1.36 | |
1:128 | 0.9 | 0.2 | 0.71 | |
1:256 | 0.4 | 0.2 | 0.34 | |
1:512 | 0.2 | 0.1 | 0.21 | |
C | 原液 | ≥ 50.0 | 12.3 | 82.07 |
1:4 | 22.1 | 1.7 | 15.35 | |
1:8 | 10.9 | 0.9 | 7.85 | |
1:16 | 5.6 | 0.5 | 3.53 | |
1:32 | 2.8 | 0.3 | 1.73 | |
1:64 | 1.3 | 0.2 | 0.84 | |
1:128 | 0.7 | 0.2 | 0.48 | |
1:256 | 0.3 | 0.2 | 0.3 | |
D | 原液 | ≥ 50.0 | 6.3 | 55.97 |
1:4 | 23 | 1.7 | 16.74 | |
1:8 | 12.2 | 0.9 | 8.18 | |
1:16 | 6.2 | 0.5 | 4.17 | |
1:32 | 3.4 | 0.3 | 2.02 | |
1:64 | 1.6 | 0.2 | 1.06 | |
1:128 | 0.8 | 0.2 | 0.59 | |
1:256 | 0.4 | 0.2 | 0.31 | |
E | 原液 | ≥ 50.0 | 27.2 | 84.36 |
1:32 | 15.3 | 1.1 | 10.64 | |
1:64 | 8.3 | 0.6 | 5.81 | |
1:128 | 4.1 | 0.4 | 2.8 | |
1:256 | 2.0 | 0.3 | 1.48 | |
1:512 | 1.0 | 0.2 | 0.76 | |
1:1,024 | 0.5 | 0.2 | 0.38 | |
1:2,048 | 0.3 | 0.2 | 0.24 |
C.O.I. and S/CO indicate Cut Off Index and luminescence intensity/cut off value, respectively. Positive of HTLV antibody was determined by C.O.I. ≥ 1.0 or S/CO ≥ 1.0. Positive samples are highlighted by gray.
臨床検体を用いてルミパルスHTLV-I/IIおよびA社試薬の比較検討を行った(Table 4)。従来試薬でHTLV-1抗体陰性と判断された105例は,ルミパルスHTLV-I/IIでも全例陰性と判定された。従来試薬でHTLV-1抗体陽性と判定された94検体のうち2検体は,ルミパルスHTLV-I/IIでは陰性と判定された。この不一致の2検体における従来試薬のC.O.I.はそれぞれ1.2と7.9で,ルミパルスHTLV-I/IIのC.O.I.は2検体とも0.1であった。一方,ルミパルスHTLV-I/IIとA社試薬は全ての検体で結果が一致し,ルミパルスHTLV-I/IIと従来法で乖離の認められた2検体もA社試薬で陰性と判定された。
従来試薬 | A社試薬 | ||||
---|---|---|---|---|---|
陽性 | 陰性 | 陽性 | 陰性 | ||
ルミパルスHTLV-I/II | 陽性 | 92 | 0 | 92 | 0 |
陰性 | 2 | 105 | 0 | 107 |
ルミパルスHTLV-I/IIと従来法で乖離の認められた2検体についてウエスタンブロット法で調べたところ2検体中1検体(Sample 1)でメンブレン全体が非特異的に染色されたが,2検体とも特異的バンドが認められず陰性と判断した(Figure 2a)。また,HTLV-1 pX領域を増幅するNested PCR法の結果では2検体とも増幅産物が認められずHTLV-1プロウイルスDNAは検出されなかった(Figure 2b)。これらの結果より,不一致の2検体はウエスタンブロット法でHTLV-1抗体陰性,Nested PCR法でもプロウイルスが検出されず,従来試薬の偽陽性と判断した。
Analysis of two clinical samples with disagreement between assays of current kit and Lumipulse HTLV-I/II
a: Identification of HTLV-1 antibody by Problot HTLV-I (FUJIREBIO). The arrows indicate the antigens to confirm HTLV-1 antibody. S1 and S2, Two clinical samples with disagreement between assays of previous assay kit and Lumipulse HTLV-I/II; NC, negative control; negative control; P1, weak-positive control; P2, strong-positive control.
b: Detection of HTLV-1 provirus DNA by Nested PCR. The arrow indicates amplification product of HTLV-1 provirus DNA. S1 and S2, Two clinical samples with disagreement between assays of previous assay kit and Lumipulse HTLV-I/II; NC, negative control; P1, weak-positive control; P2, strong-positive control.
現在,本邦ではHTLV-1抗体スクリーニングに発光基質を用いた抗体検出試薬12)が広く用いられており,感度と特異度の改良がなされてきた。また,日本でもHTLV-2の報告例8)があることからHTLV-1抗体とHTLV-2抗体の両方が検出可能なスクリーニング検査と確認検査への移行が望まれる。
このような目的で新たに開発されたルミパルスHTLV-I/IIを検討した結果,同時再現性および日差再現性のCV値がそれぞれ4%未満であり,良好な精度で測定できることが示された。測定感度を比較するため希釈試験を行ったところ,ルミパルスHTLV-I/IIは従来試薬より高い感度でHTLV抗体の検出が可能で,A社の試薬とほぼ同等の感度であった。HTLV-I/IIとA社試薬はともに標識抗原を用いた測定法であり,2次抗体を用いる従来試薬と異なることが感度の差に表れた可能性がある。さらに,今回は検討していないが,この測定原理からHTLV-I/IIとA社試薬はIgM抗体も検出できると予想され,臨床検体での検出感度の向上および感染初期から検出可能となりウインドウ期の短縮が期待される。HTLV-1抗体陽性,HTLV-2抗体陽性,およびHTLV抗体陰性のパネル血清をルミパルスHTLV-I/IIおよびA社試薬で測定したところ,データシートの結果と一致し,良好な反応性を示した。従来試薬でもHTLV-2抗体陽性パネル血清30検体は全て陽性となった。従来試薬と同じ抗原材料と原理を有する測定法において,HTLV-1とHTLV-2が構造上類似しているため交差反応によりHTLV-2抗体が陽性となることが知られている13)。今回HTLV-2抗体パネル血清が従来試薬で陽性となった結果も交差反応により検出されたものと考えられた。
また,従来試薬はHTLV抗体陰性のパネル血清60検体のうち1検体で陽性(C.O.I. = 4.0)を示した。このため,ウエスタンブロット法でHTLV抗体の確認検査を実施した結果,陰性と判定され,従来試薬の偽陽性反応と判断された。この検体はルミパルスHTLV-I/IIおよびA社試薬はともに陰性となりそれぞれC.O.I. 0.1とS/CO 0.07であった。1検体のみの結果ではあるが,ルミパルスHTLV-I/IIとA社試薬は従来法より高い特異性を有することが推測された。
HTLV-1抗体スクリーニング検査陽性の一部では偽陽性がみられるため,スクリーニング陽性の場合にはウエスタンブロット法による確認検査が必要となる14)。本研究において,臨床検体を使用してルミパルスHTLV-I/IIの測定結果を確認したところ,従来試薬で陰性となった検体はルミパルスHTLV-I/IIでも全例陰性であった。また,従来試薬で陽性となった94検体のうち2検体(2%)がルミパルスHTLV-I/IIでの陰性と判定された。この2検体についてウエスタンブロット法およびNested PCR法で確認したところ陰性であったことから,従来試薬の偽陽性と判断した。従来試薬はHTLV-1感染細胞培養から得られた精製抗原を固相に,マウス由来の標識抗ヒトIgG抗体を2次抗体として用いている。これに対し,ルミパルスHTLV-I/IIは組換え蛋白質および合成ペプチドを固相化抗原と酵素標識抗原に用いる抗原サンドイッチ法である。これらの変更により,非特異反応が抑えられたものと考えられた。今回の検討でもHTLV-I/IIとA社試薬で臨床検体を測定した結果は完全に一致し,従来法で偽陽性と判定された2検体も陰性であったことから,標識抗原を用いた測定法の高い特異性が示された。
ルミパルスHTLV-I/IIは,1)HTLV-1抗体およびHTLV-2抗体の両方を同時検出可能であり,2)測定原理に固相化抗原と酵素標識抗原を用いた2ステップ抗原サンドイッチ法を用いたことにより,IgG抗体だけでなくIgM抗体も検出可能となっている。今回の検討で,ルミパルスHTLV-I/IIは従来試薬よりも特異的かつ高感度に抗HTLV-1/2抗体を検出することが示され,HTLV抗体のスクリーニング検査として有用であると考えられた。
本論文の内容は,第61回日本臨床検査医学会九州地方会(2016年3月,長崎)で報告した。検討に用いた試薬は富士レビオより提供を受けた。
資料を提供して頂きました相良康子先生(日本赤十字社九州ブロック血液センター)に深謝いたします。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。