2018 Volume 67 Issue 4 Pages 558-562
子宮頸部細胞診のliquid based cytology(LBC)標本においてカンジダ症では,串刺し様集塊が観察されることが知られている。今回,Surepath法(日本ベクトン・ディッキンソン)を用いて作製した子宮頸部LBC標本において,この出現様式が特徴的な所見なのかカンジダ陽性標本と陰性標本で比較した。さらにカンジダ陽性LBC標本とカンジダ陽性直接塗抹標本で出現頻度に差があるのかについても検討した。「串刺し様集塊」はカンジダ陽性例において高頻度に認められた。直接塗抹標本では,LBC標本に比べて出現頻度は少なかった。LBC標本で有意差を認めた原因は,集細胞密度勾配法によると考える。この方法により,(+)荷電でコートされたスライドガラスと(−)荷電の表面をもつ精製水中の浮遊細胞が引き合い,細胞はガラスに塗抹されるため,串刺しのような立体的細胞集塊が出現すると考える。それに対して直接塗抹法では,綿棒などで子宮頸部を擦過し,ガラスに直接,細胞を塗抹するために細胞や菌糸が観察されると思われる。実際に串刺し現象をPAS染色,銀染色を用いて検証したが,串刺しになっている現象は確認できなかった。今回の検討結果より「串刺し様集塊」は,カンジダ症の子宮頸部LBC標本(Surepath法)で直接塗抹標本に比べ,高率に出現していた。この集塊を観察した場合,カンジダ症を念頭に置いて鏡検することが重要と考えられる。
子宮頸部液状細胞診(liquid based cytology; LBC)標本においてカンジダ症では,柵状に配列した扁平上皮細胞をCandida albicans(以下,カンジダ)の仮性菌糸(以下,菌糸)が串刺しにするように観察される傾向にある1),2)。今回,LBC標本と直接塗抹標本で,この「串刺し様集塊」の出現頻度に差があるのかどうか検討した。
2016年3月から8月の間にSurepath法(日本ベクトン・ディッキンソン)を用いて作製した子宮頸部のLBC標本6,613例の中からカンジダ陽性のNILM標本100例とカンジダ陰性のNILM標本100例を無作為に選んだ。選ばれた標本を用いて,「串刺し様集塊」の重要な構成要素である扁平上皮細胞の柵状集塊の有無について検討した。「串刺し様集塊」とは扁平上皮細胞が縦に並んで配列した集塊を指す。各標本において,100倍視野で容易に認識できる長径600 μm以上の扁平上皮細胞柵状集塊の数を数え,カンジダ陽性群と陰性群の間で集塊数を比較した。カンジダ陽性群では,菌糸が柵状集塊に垂直に交わっている所見の数も検討した。なお,扁平上皮細胞が柵状に配列していても,集塊の大きさが600 μm未満の小集塊は柵状と捉えることが難しいため除外した。
さらに子宮頸部の直接塗抹標本からカンジダ陽性標本55例を無作為に選び,LBC標本と同様の基準で扁平上皮細胞柵状集塊の数を数え,カンジダ陽性のLBC標本と比較した。
また,菌糸と扁平上皮細胞柵状集塊の相互関係を見るために,PAS染色と銀染色を施行し,その構造を観察した。
LBC標本カンジダ陽性100例の年齢中央値は33.9歳(18–64歳),LBC標本カンジダ陰性100例は44.3歳(21–67歳)であった。
扁平上皮柵状集塊の1例あたりの出現数はカンジダ陽性群で平均4.17個,カンジダ陰性群で平均0.03個であった。「串刺し様集塊」はカンジダ陽性例において有意に高頻度に認められた(p < 0.05)。
カンジダ陽性直接塗抹標本では,集簇性に観察されるものの,扁平上皮柵状集塊の1例あたりの出現数は平均0.02個とカンジダ陽性LBC標本と比べると著しく少なかった。
PAS染色と銀染色では,カンジダの菌糸が細胞質を貫く,いわゆる串刺し状態とは認識できなかった(Figure 1, 2)。
Endocervical cytology of candidiasis in the LBC specimens (PAS stain, ×40)
ABCD Photographed with shifting the focus of microscope. No such penetration of the hyphae of Candida through the cytoplasm.
Endocervical cytology of candidiasis in the LBC specimens (Silver stain, ×40)
ABCD Photographed with shifting the focus of microscope. No such penetration of the hyphae of Candida through the cytoplasm.
SurePath法では分離用試薬を用いた集細胞密度勾配法を利用している。この方法では,(+)荷電でコートされたスライドガラスと,(−)荷電の表面をもつ精製水中の浮遊細胞が引き合うので細胞はガラスに塗抹される3)。この作用によって,柵状に配列した扁平上皮細胞の集塊にカンジダの菌糸が垂直に交わった串刺しのような立体的細胞集塊が出現すると考える(Figure 3)。それに対して直接塗抹法では,綿棒などで子宮頸部を擦過しガラスに直接細胞を塗抹するために細胞や菌糸がばらけて観察されると思われる(Figure 4)。
Endocervical cytology of candidiasis in the LBC specimens (Pap. stain, left ×40, right ×40)
The hyphae of Candida looks like stuck on the squamous epithelium cells.
Endocervical cytology of candidiasis in the direct specimens (Pap. stain, ×40)
The cells and the hyphae of Candida are spread two-dimensionally.
Howellら4)はLBC法は,過剰な炎症性背景を取り除くことで非特異的な炎症や反応性変化の診断を減らし,カンジダ等の感染症の検出を増加させると報告している。
Takeiら5)は,カンジダ症には直接塗抹標本よりもLBC標本の方が効果的でトリコモナス膣炎,細菌性膣炎は直接塗抹標本の方が有効であると報告している。トリコモナスや細菌は小さく,LBC標本作製の工程過程で多数のそれらが失われる。しかし,カンジダの菌糸はそれらに比べてはるかに大きいため,作製工程で失われにくいと述べられている。
実際,自施設のカンジダ検出率は,LBC法導入時以降の方が従来の直接塗抹法主体の時より検出率(1.9%–2.4%)が上がっている6)。カンジダがトリコモナスや細菌に比べ大きいことや菌糸が扁平上皮細胞に絡まるという性質により,串刺し様の大きな集塊を形成することで標本作製中の喪失はより少ないのではないかと考える。
菌糸と扁平上皮細胞柵状集塊の相互関係を,畠ら1)は「串刺し現象」やシシカバブ効果と表現している。今回のPAS染色と銀染色において,菌糸が扁平上皮細胞に串刺しになっている現象は確認できなかった。むしろ,上皮細胞に絡まっている状況ではないかと推察される。このことが,串刺し様の集塊が出現する要因と考えられる。
今回の検討結果より「串刺し様集塊」ないし扁平上皮細胞の柵状集塊は,カンジダ症の子宮頸部LBC標本(Surepath法)で直接塗抹標本に比べ,高率に出現していた。この集塊を観察した場合,カンジダ症を念頭に置いて鏡検することが重要と考えられる。
本検討にあたり,ご指導を賜りました東京医科大学茨城医療センター病理診断科 森下由紀雄先生に深謝申し上げます。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。