Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of Evans syndrome in a 5-month-old infant, which was difficult to differentiate from autoimmune lymphoproliferative syndrome (ALPS)
Haruka YAMANAKAHiromi NAKAGAWAYoshie SASAKIHiromi HARADAKyoko KAJIHARAMiki OMORIKazuko TSUGAWAMichiya YOKOZAKI
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2018 Volume 67 Issue 4 Pages 580-584

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Abstract

乳児期の発症は稀なEvans症候群の1例を経験した。症例は生後5か月の男児。主訴は発熱と嘔吐であった。近医での血液検査で高度の貧血と血小板減少を指摘された。入院時の生化学検査では溶血性貧血を示し,直接・間接クームス試験はいずれも陽性であった。血小板関連免疫グロブリンG(PAIgG)は高値であった。骨髄所見では過形成であったが,骨髄細胞に異形成は認めずmyeloid erythroid ratio(M/E比)は低下しており,巨核球の増加を認めた。本症例では年齢が低く,膠原病や感染症などの自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia; AIHA)および特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura; ITP)をおこす主な基礎疾患があることは否定的であったため,自己免疫性リンパ増殖症候群(autoimmune lymphoproliferative syndrome; ALPS)の検索も行った。しかし,フローサイトメトリー検査や遺伝子検査からALPSは否定された。以上からEvans症候群と診断し,γグロブリン製剤や各種免疫抑制剤併用による治療が継続されている。

I  はじめに

Evans症候群は自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia; AIHA)と特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura; ITP)が合併した病態である。ことに乳児期における発症は稀とされ,我々の文献的検索の限りでは本邦での報告はこれまでに6例のみである1)~6)。また,Evans症候群はsystemic lupus erythematosus(SLE)などの免疫疾患と合併することが知られていたが1),近年では自己免疫性リンパ増殖症候群(autoimmune lymphoproliferative syndrome; ALPS)との合併が注目されている7)。今回我々は,生後5か月でEvans症候群を発症し,ALPSについても検討した1例を経験したので報告する。

II  症例

1. 症例

患者:5か月,男児。

主訴:発熱,嘔吐。

家族歴及び既往歴:特記すべき事項なし。

予防接種歴:ヘモフィリスインフルエンザ菌b型ワクチン,肺炎球菌ワクチン,3種混合ワクチン,BCG,ロタウイルスワクチン。

現病歴:38℃の発熱と嘔吐で近医を受診した。血液検査にて高度の貧血と血小板減少を認め血液悪性腫瘍の可能性が疑われたため,当院紹介となった。

入院時現症:体表に点状出血斑および紫斑は認められなかった。頚部リンパ節腫脹および肝脾腫も認めなかった。

2. 入院時所見(Table 1
Table 1  入院時所見
〈血液検査〉 〈凝固・線溶〉 〈免疫検査〉 〈骨髄像〉
WBC 8.39 × 109/L PT時間 12.3秒 IgG 561 mg/dL N.C.C 39.86 × 104/μL
 My 1% PT活性 94% IgM 39 mg/dL Mgk 250/μL
 Meta 2% INR 1.03 IgA 40 mg/dL M/E比 0.4
 Stab 2% APTT 26.2秒 葉酸 20 ng/mL Blast 1%
 Seg 27% Fib 182.7 mg/dL VB12 726 pg/mL Plomyelo 1.4%
 Mono 2% AT 118% 抗核抗体 < 80倍 Myelo 4.4%
 Eo 1% FDP < 2.5 μg/dL 寒冷凝集反応 32倍 Meta 4%
 Baso 1% DD 0.6 μg/dL PAIgG 183 ng/107 cells Stab 4.6%
 Ly 63% 〈生化学検査〉 〈感染症検査〉 Seg 6.2%
 反応性Ly 1% 総ビリルビン 2 mg/dL マイコプラズマ抗体 < 40 Eos 1.2%
RBC 1.60 × 1012/L 間接ビリルビン 1.5 mg/dL CMVIgG < 4.00 Baso 0%
Hb 4.8 g/dL AST 47 U/L CMVIgM 陰性 Lym 13.6%
Ht 14.3% ALT 33 U/L EBV抗EA-DR-IgG < 10 Mono 1.8%
MCV 89.4 fL LD 398 U/L 〈輸血検査〉 Pro-EB 1%
MCH 30 pg Fe 229 μg/dL 直接抗グロブリン試験 抗IgG(4+)抗補体(−) Baso-E 1.8%
MCHC 33.6% UIBC 105 μg/dL 間接抗グロブリン試験 (+) Poly-E 58.4%
Plt 7 × 109/L CRP 0.06 mg/dL   Orth-E 0.6%
IPF 13.38% フェリチン 104 ng/mL   染色体検査 46,XY[20/20]
網状赤血球 21.41% ハプトグロビン < 10 mg/dL    

末梢血液検査ではWBC 9.39 × 109/L,RBC 1.60 × 1012/L,Hb 4.8 g/dL,Ht 14.3%,MCV 89.4 fL,MCH 30 pg,MCHC 33.9%,Plt 7 × 109/L,網状赤血球21.41%,幼若血小板比率(IPF)13.38%であり正球性正色素性貧血と血小板減少を認めた。末梢血液像では多染性赤血球と赤血球の大小不同を認めたが,他に球状赤血球などの形態異常はなかった。生化学検査では間接ビリルビンの増加とハプトグロビンの低下を認め,溶血性貧血の所見を認めた。クームス試験は直接・間接ともに陽性であった。免疫検査では各種ウイルス抗体価検査に有意な上昇はなく,寒冷凝集素は正常,抗核抗体も陰性であった。血小板関連免疫グロブリンG(PAIgG)は183 ng/107 cellsと増加していた。骨髄検査では骨髄は過形成で巨核球の増加が認められた。myeloid erythroid ratio(M/E比)は0.4と低下し,赤芽球系細胞の増加を呈していたものの,各血球の異形成及び成熟障害は観察されなかった。骨髄の染色体検査の結果は46,XYで正常核型であった。

フローサイトメトリー検査(Figure 1):末梢血のリンパ球サブセットに異常は認められなかった。T細胞レセプター(TCR)α/β鎖陽性でCD4,CD8陰性のdouble negative T(DNT)細胞は1.2%であり,増加は認められなかった。

Figure 1 

末梢血液のフローサイトメトリー検査

遺伝子検査:KRASでsynonymous変異のみであり,Fas,FasL,CASP10,SH2D1Aの遺伝子異常は検出されなかった。

3. 入院後経過(Figure 2
Figure 2 

入院後経過

以上の臨床所見からALPSに特徴的な遺伝子変異が検出されず,DNT細胞の増加が無いことからALPSは否定し,Evans症候群と診断した。入院時を1病日とし,入院第6病日よりプレドニゾロン(PSL)9 mgによる治療を開始した。血小板の増加とヘモグロビンの上昇を認めたが,PSLの減量と共に再燃したため,第86病日に再びPSL 9 mgに増量した。その後,γグロブリンを併用することでPSLの減量を試みたが,PSLの減量とともに貧血が進行したため,PSLの併用薬を免疫抑制剤であるシクロスポリン(CsA)による治療に変更した。しかし,PSLの減量とともに再び貧血が進行するため,併用する免疫抑制剤をタクロリムス(FK506)に変更した。FK506を併用し,PSLを4.5 mgまで減量したところで,Hbの低下を認めなくなったため退院となった。

III  考察

Evans症候群は,なんらかの原因で自己の赤血球膜抗原に対する抗体が産生され抗原抗体反応によって赤血球が障害されることにより血管外あるいは血管内で溶血を起こすAIHAと,血小板膜糖タンパクGP IIb/IIIaまたはGP Ib・トロンボポエチン受容体に対する抗血小板抗体が産生され血小板破壊が亢進して血小板減少をきたすITPを合併した疾患である。本邦における正確な頻度は不明であるが,ことに乳児期においての発症はまれであり,我々が検索した限りにおいてはこれまでに6例の報告を見るのみである1)~6)。一方,フランスにおいては2004年1月から2007年12月までの4年間に登録された18歳未満のEvans症候群は99例であり,このうち1歳未満の乳児は7例であったとの報告もある8)

今回我々はクームス試験陽性の貧血と,PAIgG陽性の血小板減少を伴った5ヶ月の乳児のEvans症候群を経験した。Hb 4.8 g/dL,MCV 89.4 fL,MCHC 33.9%,の正球性正色素性貧血で網状赤血球21.41%と上昇,間接ビリルビン1.5 mg/dL,ハプトグロビン< 10 mg/dLと溶血所見があり,クームス試験陽性,Plt 7 × 109/Lと低下しPAIgG 183 ng/107 cellsと上昇,骨髄検査では骨髄細胞に異形成は認められなかったが,M/E比0.4と低下,以上の検査結果からは典型的なEvans症候群が疑われたが,近年ALPSとの合併が注目されているため7),検索を追加した。ALPSはリンパ球のアポトーシスの異常により脾腫やリンパ節腫脹が遷延する遺伝的な症候群で,溶血性貧血や血小板数減少などの自己免疫疾患を合併することが多い。主症状は脾腫及びリンパ節腫脹である。その他に糸球体腎炎や自己免疫性肝炎の合併症の報告もある。ALPSの診断には通常末梢血液ではほとんどみられないDNT細胞の増加と,Fas遺伝子変異の検査が必要である。Fasリガンド系は生体にとって不要になったリンパ球をアポトーシスを介して排除するシステムを持つため,Fas遺伝子変異によってリンパ球の異常増殖が起こると言われている7)。しかし,本症例においてはフローサイトメトリー検査および遺伝子検査の結果,およびリンパ節腫大や肝脾腫も認められなかったことから,ALPSは否定的と考えEvans症候群と診断した。

Evans症候群における自己抗体の産生機序は不明であるが,感染症,膠原病,薬剤性によると報告がある9)。今回我々が経験した症例では感染症や膠原病の基礎疾患は明らかではなかった。また予防接種によりITPを発症した報告があり10),今回の症例において5種類のワクチン接種事実があるが,本症例では予防接種との因果関係は不明であった。今後,膠原病などの自己免疫性疾患の発症に注意し検査結果を経過観察する必要があると考える。

IV  結語

乳児期におけるEvans症候群の症例を経験した。乳児期における自己免疫性溶血性貧血と特発性血小板減少性紫斑病を来した際は,ALPSを含めた免疫系疾患の除外・鑑別診断が必要であると考えた。

症例報告は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」によると1例の症例報告については倫理審査を必要としないため倫理審査委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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