2018 Volume 67 Issue 5 Pages 681-686
肝細胞癌に特異性の高い腫瘍マーカーとして知られているprotein induced by vitamin K absence or antagonist II(PIVKA-II)は診断の補助,治療効果の判定および経過観察に有用とされている。今回新たにCLIAを測定原理としたアーキテクトPIVKA-IIおよびCLEIAを測定原理としたステイシアCLEIA PIVKA-IIが開発され,基礎的検討および従来法であるECLIAを測定原理とするピコルミPIVKA-II MONOとの比較検討を行った。両試薬ともデータの信頼性は良好であり,従来法との相関性が高いことが確認できた。これらのPIVKA-II試薬を用いた院内測定により診察前検査が可能となり,肝細胞癌の診療における腫瘍マーカーの有用性がより高まると思われる。
肝細胞癌の腫瘍マーカーとして,主にα-Fetoprotein(AFP)およびprotein induced by vitamin K absence or antagonist II(PIVKA-II)が知られているが,この2つの腫瘍マーカーは相関関係を示さないため,組み合わせて測定することにより診断効率が高まる1)。PIVKA-IIは血液凝固第II因子プロトロンビンの生合成不全に由来する異常タンパクである。すなわち,プロトロンビンは肝臓内で生合成されるが,ビタミンK欠乏あるいはワーファリンのようなビタミンK拮抗剤の投与があった場合,ビタミンK酸化還元サイクルが正常に働かず,一部のグルタミン酸残基が残り,凝固活性を持たない異常プロトロンビンとなる。この異常プロトロンビンのことをPIVKA-IIという2)。今回,新たに化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay; CLIA)を測定原理としたアーキテクトPIVKA-II(以下,アーキテクト;アボットジャパン株式会社)と化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を測定原理としたステイシアCLEIA PIVKA-II(以下,ステイシア;積水メディカル株式会社)が開発され,基礎的検討を行ったので報告する。
当院にてPIVKA-II測定依頼があった検体167件(原発性肝細胞癌:48例/70検体,その他肝疾患:88例/93検体,その他:4例/4検体)を対象とした。
2. 試薬および測定機器①アーキテクトPIVKA-IIはARCHITECTi4000SRを用いて測定した(試薬,機器:アボットジャパン株式会社)。②ステイシアCLEIA PIVKA-IIはSTACIAを用いて測定した。(試薬:積水メディカル株式会社,機器:株式会社LSIメディエンス)。③対照試薬としてピコルミPIVKA-II MONO(電気化学発光免疫測定法:electro chemiluminescence immunoassay,以下,ピコルミ)はピコルミIIIを用いて外部委託先(株式会社エスアールエル:試薬,機器ともに積水メディカル株式会社)にて測定した(Table 1)。
Product | ARCHITECT PIVKA-II | EDIA STACIA PIVKA-II | PIVKA-II MONO |
---|---|---|---|
Manufacturer | Abbott Japan | SEKISUI | SEKISUI |
Assay principle | CLIA | CLEIA | ECLIA |
Instrument | ARCHITECT | STACIA | PICOLUMI |
Assay time | 29 mins. | 13.3 mins. | 19 mins. |
Cut-off value (mAU/mL) | 40 | 40 | 40 |
Assay range (mAU/mL) | 5.06~30,000 | 10~75,000 | 10~75,000 |
Sample type | Serum・Plasma | Serum・Plasma | Serum・Plasma |
Capture Ab | 3C10 | MU-3 | MU-3 |
同時再現性は,2濃度のプール血清を10回連続測定した。ただし,プール血清2はアーキテクトとステイシアで異なる試料を用いた。日差再現性は,各専用コントロール(アーキテクト:3濃度,ステイシア:2濃度)と2濃度のプール血清(同時再現性と同一の試料)を10日間測定した。
2. 検出限界各試薬の専用希釈液で低濃度血清を5段階希釈した試料と,0濃度試料(アーキテクトは0濃度標準液,ステイシアは専用希釈液)を多重測定した。この測定により得られた0濃度試料の発光強度(アーキテクトはRLU,ステイシアはCOUNT)の平均+2SDと,希釈試料の発光強度の平均−2SDが重ならないPIVKA-II濃度を検出限界とした。
3. 希釈直線性PIVKA-II高値患者検体を各試薬の専用希釈液を用い,128倍まで2n連続希釈した試料を2重測定した。
4. 干渉物質の影響干渉チェック・Aプラス(シスメックス株式会社)を用い,ビリルビン,溶血,乳びの影響について確認した。試料の調製は,干渉チェック・Aプラスの添付文書に従って,患者プール血清を用い,遊離型ビリルビン19.1 mg/dL,抱合型ビリルビン19.8 mg/dL,溶血ヘモグロビン510 mg/dL,乳び1,660ホルマジン濁度数が最大添加量になるよう添加物質を10段階に添加し測定した。
5. 相関性相関性は,対象検体を採取日当日に冷蔵保存にて外部委託先に提出し,後日得られた結果をピコルミの測定値とした。また,アーキテクトとステイシアによる測定値は,小分注した検体を−60℃で凍結保存し,3ヶ月以内にアーキテクトとステイシアで同時に測定した。
2濃度のプール血清を用いて行った同時再現性は,アーキテクトがCV 2.7~3.3%,ステイシアがCV 4.7~4.8%であった。各専用コントロールと2濃度のプール血清を用いて行った日差再現性は,アーキテクトがCV 2.9~6.0%,ステイシアがCV 4.4~7.7%であった(Table 2)。
Reproducibility
ARCHITECT | STACIA | |||
---|---|---|---|---|
Pool Sera | Pool Sera | |||
1 | 2 | 1 | 2 | |
Mean (mAU/mL) | 30.9 | 153.4 | 31.6 | 109.2 |
SD | 1.0 | 4.1 | 1.5 | 5.2 |
CV (%) | 3.3 | 2.7 | 4.8 | 4.7 |
ARCHITECT | STACIA | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Control | Pool Sera | Control | Pool Sera | ||||||
1 | 2 | 3 | 1 | 2 | 1 | 2 | 1 | 2 | |
Mean (mAU/mL) | 53.4 | 507.2 | 10,469.3 | 31.7 | 152.8 | 71.6 | 299.9 | 35.1 | 122.0 |
SD | 1.9 | 21.1 | 383.8 | 1.9 | 4.4 | 3.1 | 15.5 | 2.7 | 8.2 |
CV (%) | 3.6 | 4.2 | 3.7 | 6.0 | 2.9 | 4.4 | 5.2 | 7.7 | 6.7 |
0濃度標準液および希釈液の発光強度の平均+2SDと重ならない識別可能な検出限界は,アーキテクトが4.0 mAU/mLステイシアは5.0 mAU/mLであった(Figure 1)。
Detection limit
a: ARCHITECT, b: STACIA
ステイシアでは測定値が57,585 mAU/mLあった患者検体を希釈したところ,33,000 mAU/mLで直線性が確認できた。また,アーキテクトは測定値が30,000 mAU/mL以上(キャリブレーションのRLUより3次多項近似式により推測値51,380 mAU/mLとした)であった患者検体を希釈したところ,27,700 mAU/mLまで直線性が確認できた(Figure 2)。
Dilution linearity
両試薬とも,各干渉物質において全ての添加量ポイントで測定値が対照値(添加無し)の±10%以内であった。よって,両試薬とも最大添加量である遊離型ビリルビン19.1 mg/dL,抱合型ビリルビン19.8 mg/dL,溶血ヘモグロビン510 mg/dL,乳び1,660ホルマジン濁度数までの影響は認められなかった(Figure 3)。
Effects of interfering substances
各試薬間の相関性を確認したところ,アーキテクトとステイシアの相関性は,相関係数r = 0.959,回帰式y = 0.901x − 17.977(Figure 4a),アーキテクトとピコルミでは,相関係数r = 0.954,回帰式y = 0.745x + 9.845(Figure 4b),ステイシアとピコルミでは,相関係数r = 0.992,回帰式y = 0.825x + 32.646であった(Figure 4c)。また,PIVKA-IIのcut off値を40 mAU/mLとしてピコルミの測定値とアーキテクトおよびステイシアの各測定値の一致率を求めたところ,ピコルミに対してアーキテクトは87%,ステイシアは94%の一致率であった(Table 3)。
Correlation among three diagnostic agents of PIVKA-II
a: ARCHITECT vs. STACIA, b: ARCHITECT vs. PICOLUMI, c: STACIA vs. PICOLUMI
ARCHITECT | STACIA | ||||
---|---|---|---|---|---|
≥ 40 | < 40 | ≥ 40 | < 40 | ||
PICOLUMI | ≥ 40 | 15 | 7 | 20 | 2 |
< 40 | 6 | 72 | 4 | 74 |
100 subjects up to 60 mAU/mL PIVKA-II
今回,アーキテクトとステイシアによるPIVKA-II測定試薬が開発され,院内導入を目的に基礎的検討を行った。その結果,同時・日差再現性(CV%)は,アーキテクトで最大6.0%,ステイシアで最大7.7%であった。検出限界はメーカーが設定した検出限界と同等であった(アーキテクト:5.06 mAU/mL,ステイシア:10 mAU/mL)。希釈直線性は両試薬とも30,000 mAU/mL付近まで直線性が確認できた。アーキテクトは30,000 mAU/mLがキャリブレーション範囲の最大値であるが,ステイシアは75,000 mAU/mLがキャリブレーション範囲の最大値であるため,測定値がキャリブレーション範囲内であっても30,000 mAU/mL以上であった場合は希釈再検を行う必要があると考えられた。干渉物質の影響は今回検討したビリルビン,溶血,乳びについては認められなかった。また,各試薬間の相関性は,同一抗体(MU-3抗体)を使用しているステイシアとピコルミ3)は相関係数r = 0.992であった。しかし,アーキテクトとステイシアでは相関係数r = 0.959,アーキテクトとピコルミでは相関係数r = 0.954であり,いずれも高濃度領域でのばらつきを認めた。ステイシアおよびピコルミは,1次抗体にMU-3抗体を使用しているが,アーキテクトでは3C10抗体を使用している。3C10抗体はMU-3抗体とほぼ同じエピトープを認識している4)と報告されているが,抗原であるPIVKA-IIと各抗体の認識部位との反応性の違いが,相関性に影響している可能性が示唆された。
PIVKA-IIは肝細胞癌に特異的な腫瘍マーカーであるが,以前より広く測定されているAFPとは異なった結果を示すため組み合わせて測定することで,より感度よく肝細胞癌の発生や進行を診断することができると報告されている5)。肝細胞癌の要因には①ウイルス性(HAV, HBV, HCV),②アルコール性,③自己免疫性,④非B非C等があるが,日本における肝細胞癌の要因の約7割がHCVの感染によるものである6)。現在HCV感染症は新たな治療薬が次々と開発され治癒する病気となったが,HCV駆除後も発癌の可能性を否定できないことから,経過観察のためには,定期的な腫瘍マーカーの測定が必要である。当院では,AFPは院内で測定を行っているため即日報告しているが,PIVKA-IIは外部委託のため結果が出るまでに数日を要していた。しかし,PIVKA-IIの院内導入により,診療前検査としてAFPとPIVKA-IIの同時報告が実現でき,迅速な肝細胞癌発症の診断に貢献できると思われる。また,一方で院内の導入の選択条件として業務の運用に合致した測定機器・試薬の選択とその特性を考慮することが肝要と思われた。
今回,両試薬の基礎的検討を実施した結果,概ね良好な性能を有していた。また,両試薬のPIVKA-II測定値は,対照試薬(ピコルミ)と比較して優れた相関性を示した。PIVKA-II測定値がAFPと同時に診察前測定可能となれば肝細胞癌の診断,治療に重要な役割を果たすものと考えられる。
尚,本検討の要旨は第32回世界医学検査学会にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。