Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of weak partial D type 15 diagnosed by genetic analysis
Takahiro ISHIIWataru OGURANaomi KOJIMAKumiko SEKIGUCHIYasushi TAKAGIHiroaki ONISHI
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2018 Volume 67 Issue 5 Pages 785-790

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Abstract

症例は44歳女性。子宮筋腫の手術目的に当院婦人科を紹介受診された。RhD血液型判定において,カラム凝集法は陰性であったが,試験管法による間接抗グロブリン試験で試薬間差が認められたため精査を実施した。抗D被凝集価の測定では,対照のR1R2赤血球に比べ8管差と大幅な減弱を認めた。抗D吸着解離試験では,被検血球から得られた解離液とパネル赤血球との反応において抗D特異性を示した。12種類のモノクローナル抗Dとの反応では,全体的に弱い凝集であったが,partial D category DFRと一致したパターンを示した。総合判定に苦慮したため遺伝子検査を行ったところ,特徴的な845G>A(Gly282Asp)の変異を認めたため,weak partial D type 15と確定した。weak partial D type 15はD抗原の抗原性が弱く,かつDエピトープの一部を欠いているため,反応は弱いがpartial Dに類似したパターンを示す。Gly282Aspの変異部位が膜表面近くの膜貫通ドメインに存在することより,RhDタンパクの高次構造に何らかの影響を及ぼし,このような血清学的特徴を示したと考えられた。本例のように血清学的検査ではRhD変異型間の鑑別が困難な例もあり,遺伝子検査の実施はweak partial D type 15の判定に有用であると考えられた。

I  はじめに

RhD抗原は免疫原性が強いため,RhD血液型はABO血液型に次いで臨床的に重要であり,正確な判定が必要とされる1)。しかしながら,RhDの変異型の中には血清学的検査で反応性が類似しているタイプがあり2),鑑別が難しい症例も時に経験される。RhDの変異型はD抗原の発現が減少したweak DとDエピトープの一部を欠いたpartial Dに大別される3)が,今回我々は,血清学的検査では判定が困難となり,遺伝子検査を行いweak partial D type 15と判定できた症例を経験したので報告する。

II  症例

1. 患者情報

患者:44歳,女性。

現病歴:2年半前に前医で子宮筋腫と診断され以降経過観察されていたが,筋腫の増大傾向,過多月経を認めたため手術目的に当院婦人科を紹介され受診した。

既往歴:1経妊1経産,特記すべき疾患なし。

輸血歴:なし。

2. 検査所見

MRI検査で子宮前壁筋層内に直径75 mm大の平滑筋腫を認め,その他筋層内,漿膜下に20~30 mm大の筋腫を複数認めた。血液検査および生化学検査では軽度の小球性貧血を認める以外に異常所見は見られなかった。血液型検査ではオーソバイオビュー抗A抗B抗Dカセット(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社:以下オーソ)を用いたカラム凝集法の結果からABO血液型はオモテ検査・ウラ検査ともにO型であった。一方,RhD血液型は抗Dモノクローナル抗体(ヒト)とコントロールの両試薬に対して凝集を認めなかったため,精査を実施した。

III  方法および試薬

1. 試験管法によるRhDおよびRh式血液型検査

使用した抗D試薬およびRh式血液型判定用試薬を以下に示す。添付文書に従い検査を実施した。

①オーソバイオクローン抗D(オーソ):IgM型抗Dモノクローナル抗体(ヒト)+gG型抗Dポリクローナル抗体(ヒト)

②抗Dモノクロ三光(積水メディカル):抗Dモノクローナル抗体(ヒト由来IgG)+抗ヒトIgGモノクローナル抗体(マウス由来IgG)

③モノクローナル抗Dワコー(和光純薬):モノクローナル抗D食塩液・アルブミン液抗体(ヒト)

④ガンマクローン抗D(イムコア):ヒト/マウス由来モノクローナル抗体(IgM/IgG)

⑤オーソバイオクローンRh式血液型判定用(オーソ):抗Cモノクローナル抗体(ヒト),抗Eモノクローナル抗体(ヒト),抗cモノクローナル抗体(ヒト),抗eモノクローナル抗体(ヒト)

上記の試薬における陰性対照として,オーソバイオクローンコントロール(オーソ)を使用した。

2. 抗D被凝集価測定

上記の抗D試薬について2n倍希釈系列を作成し,患者赤血球と37℃60分間反応させ間接抗グロブリン試験(indirect antiglobulin test; IAT)を実施した。対照赤血球は,O型R1R2を用いて反応を比較した。

3. 抗D吸着解離試験

5倍希釈したオーソバイオクローン抗Dを用いて患者赤血球と37℃60分間反応させ,グリシン酸解離システム(イムコア)により抗体を解離した。解離液中の抗体は,リゾルブ パネルC(オーソ)を用いて検出した。

4. モノクローナル抗Dとの反応

患者赤血球と各種モノクローナル抗D抗体との反応について,市販されているPartial RhD Typing Kit(イムコア)を用いて添付文書に従い検査を実施した。

5. 遺伝子検査

過去の文献等を参考にし4),患者末梢血白血球からDNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN)を用いてgenomic DNAを抽出し,RHD遺伝子のexon 4,5および6を以下に示すプライマーを用いてpolymerase chain reaction(PCR)にて増幅した。PCR反応にはAmpliTaq Gold 360 Master Mix(Applied Biosystems)を用い,熱変性95℃10分の後,熱変性95℃30秒,アニーリング58℃30秒,伸長72℃60秒を30サイクル行い,最後に72℃7分の伸長反応を行った。RHD遺伝子の塩基配列は,3500Dx Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いて直接シーケンス法により解析した。

Exon 4(F):5'-GGCAGAGGATGCCGACACTC-3'

Exon 4(R):5'-CCCCACCTTGTCCTTACCCA-3

Exon 5(F):5'-CTTGTGGATGTTCTGGCCAAGTG-3'

Exon 5(R):5'-CACAGCTCCACCACCCGGCA-3'

Exon 6(F):5'-ACGCCCAACACAGGGGAGAA-3'

Exon 6(R):5'-GCAGCTGTGCACTGCACAGT-3'

遺伝子検査における患者への説明と同意は主治医により行った。本症例は,ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針が改正される以前であったため,遺伝子解析における倫理委員会の承認および専用の同意書は取得していない。

IV  精査結果

1. 試験管法によるRhDおよびRh式血液型検査

4種類の抗D試薬を用いて試験管法を行った結果,直後判定は4種類とも陰性となり,さらにD陰性確認試験を実施した結果,w+~2+の凝集反応を示した(Table 1)。weak Dを疑ったが試薬間差がみられ,また,一般的なweak Dに比べ弱い反応性を示した。

Table 1 

ABO・RhD血液型検査所見

カラム凝集法
抗A0
抗B0
A1赤血球4+
B赤血球4+
抗D(モノクローナル)0
control0
試験管法
抗D試薬 直後判定 D陰性確認試験
オーソバイオクローン抗D01+
抗Dモノクロ三光0w+
モノクローナル抗Dワコー02+
ガンマクローン抗D01+
Rhコントロール00

その他のRh式血液型は,C − c + E + e + であった。

2. 抗D被凝集価測定

使用した4種類の抗D試薬のいずれにおいても,対照赤血球に比べ8管差以上と大幅な減弱を認めた(Table 2)。

Table 2  抗D被凝集価測定
抗D試薬 ×1 ×2 ×4 ×8 ×16 ×32 ×64 ×128 ×256 ×512 ×1,024
オーソバイオクローン抗D 患者 1+ w+ 0 0 0 0 0 0 0 0 0
対照 4+ 4+ 4+ 3+ 2+ 2+ 2+ 1+ 1+ w+ 0
抗Dモノクロ三光 患者 w+ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
対照 4+ 3+ 3+ 3+ 3+ 2+ 2+ 1+ w+ w+ 0
モノクローナル抗Dワコー 患者 2+ 1+ w+ 0 0 0 0 0 0 0 0
対照 4+ 4+ 4+ 4+ 3+ 2+ 2+ 2+ 1+ 1+ 0
ガンマクローン抗D 患者 1+ w+ 0 0 0 0 0 0 0 0 0
対照 4+ 3+ 3+ 2+ 2+ 2+ 2+ 1+ 1+ w+ 0

対照赤血球:O型R1R2

3. 抗D吸着解離試験

被検赤血球から得られた抗体解離液とD陽性赤血球の反応はIATで2+であり,またパネル赤血球との反応パターンにおいて抗D特異性が観察された。これにより被検赤血球上のD抗原の存在が確認された。

4. モノクローナル抗Dとの反応

陽性対照赤血球と比較して弱い凝集を認めるが,反応パターンはpartial D category DFRと一致していた(Table 3)。

Table 3  モノクローナル抗Dとの反応
キットID 抗D セルライン weak D type 1 and 2 D II & DNU D III D IV D V DCS D VI D VII DOL DFR DMH DAR DAR-E DHK & DAU-4 DBT RoHar 検査結果
陽性対照 陰性対照 患者
A LHM76/58 + + + + +/0 + 0 + + + + + 0 0 0 (+)/0 4+ 0 1+
B LHM76/59 + + + 0 + + + + + + + + + + 0 0 4+ 0 1+
C LHM174/102 (+)/0 + + 0 0 + 0 + 0 0 + 0 0 0 0 0 3+ 0 0
D LHM50/2B + + + + + + 0 + + + + + + + 0 0 4+ 0 1+
E LHM169/81 + + + 0 0 + 0 + + + + 0 0 0 0 0 3+ 0 1+
F ESD1 + + + 0 + + + + + + + + + + 0 0 4+ 0 1+
G LHM76/55 + + + 0 + + + + + + + + + + 0 0 4+ 0 1+
H LHM77/64 + 0 + 0 + + + + + + + + + +/0 0 0 4+ 0 w+
I LHM70/45 (+)/0 + + 0 0 0 0 + 0 0 0 0 0 0 0 0 3+ 0 0
J LHM59/19 + + + + + + 0 0 0 0 (+) 0 (+) + + 0 4+ 0 0
K LHM169/80 + + + + + + 0 + + + + + + 0 0 0 4+ 0 1+
L LHM57/17 + + + + + 0 0 + + 0 + + 0 0 + 0 4+ 0 0

5. 遺伝子検査

RHD遺伝子のexon 6において,weak partial D type 15に特異的な変異とされる845G>A(Gly282Asp)を認めた。また,partial D category DFRに認められるexon 4における変異505A>C(Met169Leu),509T>G(Met170Arg),514A>T(Ile172Phe)は検出されなかった。

V  経過

外来受診2週間後に全腹腔鏡下子宮全摘術のため入院され,翌日に手術を施行された。手術準備血としてO型RhD陰性RBC-LR-2単位を準備したが,術中出血量は38 mLと少量で,輸血は行わなかった。また,子宮全摘検体に悪性所見は認めなかった。その後,術後合併症なく経過良好で,術後5日目に退院となった。

VI  考察

一般的に,weak DはRhDタンパクの膜内または膜貫通ドメインのアミノ酸変異によりD抗原が量的に減少しているタイプであり,抗原数は赤血球1個あたり5,000以下とされている5)。一方,partial DはRHD遺伝子とRHCE遺伝子のハイブリッドや膜表面ドメインにコードするRHD遺伝子のアミノ酸変異によって,Dエピトープの一部を欠失しモノクローナル抗Dの反応性に違いを生じるタイプとされる6)。遺伝子解析技術の進歩により多くの変異型が報告され,これまでにweak D alleleは140種以上,partial D alleleは110種以上が国際輸血学会(International Society of Blood Transfusion; ISBT)に登録されている7)。欧米では,weak D type 1,2,3と4.0/4.1がweak Dの一般的なタイプとされるが,日本を含むアジア諸国では非常に稀である8)。日本人のweak Dの遺伝子解析では,960G>A(Leu320Leu)のサイレント変異が多く報告されており,その他にweak partial D type 15やweak D type 24などが確認されている9)‍~11)

weak partial Dについては,ISBTのガイドラインによるとweak Dの血液型的特徴を持ち,さらに抗D産生の可能性がある場合に用いるとされている12)。今回我々が経験したweak partial D type 15は,12回膜貫通型のRhDタンパクにおける第5膜外ループの膜貫通ドメインにアミノ酸変異(Gly282Asp)が生じたものであり(Figure 1),抗原数は赤血球1個あたり300ほどしかないとされる5)。この変異により膜外構造の異常が引き起こされ,Dエピトープの一部を欠いてしまい,さらに抗原性が減弱しているものと考えられた。本症例の血清学的検査においても,D陰性確認試験での反応が一般的なweak Dに比べ弱く,さらに各種抗D試薬の反応に差が生じた点については,weak partial D type 15の特徴を示していると考えられた。一方で,モノクローナル抗Dとの反応において,弱い凝集ながらもpartial D category DFRと反応パターンが一致した点より,遺伝子検査を実施しなければ判定を誤っていた可能性がある。Dエピトープの欠失や抗原性の減弱が,種々の検査においてどのような反応を認めるか未だ不明な点もあり,判定の際は細心の注意を払わなければならない。以上のことから,本症例のように血清学的検査ではRhDの変異型間の鑑別が困難な例もあり,遺伝子検査による確認はweak partial Dといった稀なタイプを判定する際に必要であると考えられた。

Figure 1 

赤血球膜におけるRhタンパクの構成

417個のアミノ酸からなる12回膜貫通型のタンパク。青:partial Dにおけるアミノ酸変異,赤:weak Dにおけるアミノ酸変異,黄:RhDとRhCEタンパクの相違箇所。文献8)より改変して転載。

partial Dにおける抗D産生例は,D IVbやD VIで数例報告があり,輸血や妊娠によって抗Dを産生することが少ないながらもみられる13)~16)。一方,weak partial D type 15についても,わが国での報告はないが,抗体産生の報告例を認める8)。本症例は妊娠歴を有するものの抗Dは検出されなかったが,今後輸血された場合は抗D産生の可能性もあり,注意して抗体検査を進める必要があると思われた。

VII  結語

RhD血液型判定に苦慮したweak partial D type 15の1例を報告し,若干の文献的考察を加えた。RhDの変異型間の鑑別は,血清学的検査では困難な場合もあるため,遺伝子検査を追加することが望ましい。

 

本論文の要旨は第66回日本医学検査学会にて発表した。

本研究は症例報告のため,倫理委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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