Japanese Journal of Medical Technology
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Relationship between automated auditory brainstem response and high risk factors for impaired hearing in newborns or infants
Jumpei YAMAUCHIOsamu ITORika USUIHideki KATONorihiro YUASA
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2018 Volume 67 Issue 5 Pages 631-635

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Abstract

新生児聴覚スクリーニングによって聴覚障害を早期に発見することは早期の療育につながり,聴覚障害児のquality of lifeを向上させる可能性がある。本研究は,新生児・乳児において自動聴性脳幹反応(automated auditory brainstem response; AABR)での要再検(refer)と関連の強い臨床的因子を明らかにすることを目的とした。2013年から2016年の3年間に当院でAABRを実施した4,193例を対象として,AABRでのrefer率と聴覚障害ハイリスク因子との関連を検討した。単変量解析では,先天異常症候群・頭頸部奇形・重症仮死・5日以上の人工換気療法・耳毒性薬剤の使用・極低出生体重児は有意にAABRでのrefer率が高かった。多変量解析では,先天異常症候群・頭頸部奇形・重症仮死がreferと独立して有意に関連した。これらの因子を有する児は可及的速やかにAABRを行い,早期療育につなげるべきである。

I  はじめに

新生児の先天性聴覚障害の発生頻度は1,000人に1~2人と報告されており,これはマススクリーニングが実施されているガラクトース血症やフェニルケトン尿症などの先天異常症と比較して高い1)。米国のJoint Committee on Infant Hearing(JCIH)は2000年に「聴覚障害の早期発見・早期支援」(Early Hearing Detection and Intervention; EHDI)ガイドラインを策定した2)。これは生後1ヶ月までに聴覚スクリーニング(newborn hearing screening; NHS)を行い,生後3ヶ月までに精密診断を実施し,生後6ヶ月までに支援を開始する『1-3-6ルール』というものである。この内容は本邦においても推奨されており,聴覚障害児を早期に発見し,早期に療育を開始することは言語発達,コミュニケーション能力の向上をもたらし,こうした児のquality of lifeを高める可能性がある3),4)

当院は名古屋市西部に位置する病床数852床の総合周産期母子医療センター指定病院で,新生児集中治療室(neonatal intensive care unit; NICU)を有しており,愛知県内の多くの施設から母体搬送,新生児搬送を受け入れている。そして,平成13年からNHSとして自動聴性脳幹反応(automated auditory brainstem response; AABR)を行ってきた。聴覚障害と診断するためには,AABRで要再検(refer)と判定されたのち,精密検査として聴性脳幹反応(auditory brainstem response; ABR)によるABR閾値の判定や,聴性定常反応検査(acoustic steady-state response; ASSR)による周波数ごとの聴力判定が必要である。精密検査であるABRと比較して,AABRは検査時間が短く睡眠導入も不必要であるため,簡便に実施できる。また,AABRの要再検率とABR閾値の異常検出率には大きな差がないことがこれまで報告されている5),6)。本研究はAABRでのreferと関連の強い臨床的因子を明らかにすることを目的とした。

II  対象と方法

対象は2013年4月から2016年3月の36ヶ月間に,当院でAABRを実施した新生児あるいは乳児4,193例(出生後日数平均7.6 ± 0.3日,範囲:0–233日,中央値2日,四分範囲1–4日,男女比2,157:2,036)である。これは当院で同期間に出生した児の94.9%であった。このうち生後1ヶ月までにAABRを行った症例は3,905例(93.1%)であった。

本対象におけるrefer率と厚生労働科学研究データより引用した全国データのrefer率を比較した7)。さらにJCIHの定義する聴覚障害ハイリスク因子(極低出生体重児,重症仮死,交換輸血を必要とする高ビリルビン血症,子宮内感染,頭頸部奇形,先天異常症候群,細菌性髄膜炎,先天聴覚障害の家族歴,耳毒性薬剤の使用,5日以上の人工換気療法)のうち8),臨床記録から充分な情報が得られなかった細菌性髄膜炎,先天聴覚障害の家族歴の2因子を除き,残りの8因子について,各聴覚障害ハイリスク因子の有無とAABRでのrefer率との関連を検討した。耳毒性薬剤については,アミカシン,バンコマイシン,フロセミドの3剤の投与歴を調査し,この3剤いずれかの投与歴とrefer率との関連を検討した。重症仮死については,Apgar scoreを用いて呼吸数,心拍数,出生直後の皮膚の色,筋緊張,刺激による反射の5つの評価基準を0~2点の3段階で評価し,出生5分後の点数が4点未満の場合を重症仮死とした9)

AABRはNatus ALGO5(アトムメディカル社)を使用し,35 dBクリック音にて最高で15,000回までデータを収集し続け,クリックが15,000回に達してもABR信号が存在することが99%を超える統計的信頼度で確定できない場合をreferとした。

カテゴリー変数の比較にはχ2検定あるいはFisher直接確率法を用い,referとp < 0.05の関連を認めた因子を多変量ロジスティック回帰分析に投入して,referと独立して関連する因子を検討した。p < 0.05を統計学的有意とし,解析にはJMP version 10.0(SAS Institute, Japan)を用いた。

本研究は当院の臨床研究審査委員会の承認を受けている(2017-098)。

III  結果

全対象4,193例におけるAABRでのrefer率は1.1%(45例/4,193例)であった。これは全国データ(厚生労働科学研究データ)の0.38%(73例/19,071例)よりも有意に高かった(p < 0.0001)。

8つの聴覚障害ハイリスク因子を持つ児のAABRでのrefer率をTable 1に示す。対象の4,193例のうちいずれかの聴覚障害ハイリスク因子を有する症例は802例であった。Table 1の聴覚障害ハイリスク因子を有する患者数にはハイリスク因子を重複して持つ症例を含んでいる。refer率が最も高かった因子は先天異常症候群(n = 35)でrefer率は45.7%であった。続いて頭頚部奇形(n = 41)でrefer率は29.3%であった。先天異常症候群ではDown症候群,Edwards症候群が多く(Table 2),頭頚部奇形では口蓋裂,頭頚部腫瘤が多かった(Table 3)。

Table 1  Number and AABR-refer rate in newborns or infants with high risk factors of impaired hearing
聴覚障害ハイリスク因子 患者数 refer数(%)
先天異常症候群 35 16(45.7%)
頭頸部奇形 41 12(29.3%)
重症仮死(Apgar score 4未満) 86 7(8.1%)
5日以上の人工換気療法 137 11(8.0%)
耳毒性薬剤の使用 741 24(3.2%)
極低出生体重児(1,500 g未満) 227 7(3.1%)
子宮内感染 179 4(2.2%)
交換輸血を必要とする高ビリルビン血症 2 0(0%)
Table 2  Number and AABR-refer rate in newborns or infants with congenital malformation syndromes
先天異常症候群 症例数 refer数(%)
Down症候群 14 2(14%)
Edwards症候群 8 7(88%)
性染色体分化異常 4 1(25%)
多発奇形症候群 3 1(33%)
遺伝子部分欠損 2 1(50%)
Patau症候群 1 1(100%)
Treacher-Collins症候群 1 1(100%)
Cornelia de Lange症候群 1 1(100%)
Cockayne症候群 1 1(100%)
Table 3  Number and AABR-refer rate in newborns or infants with head and neck deformity
頭頚部奇形 症例数 refer数(%)
口蓋裂(唇顎裂,口唇裂等含む) 14 4(29%)
頭頚部腫瘤 12 1(8%)
脳奇形(脳梁欠損,白質軟化症等) 8 1(13%)
耳介奇形,低形成 4 3(75%)
耳道異常,狭窄 3 3(100%)

聴覚障害ハイリスク因子とAABRでのrefer率との関連を検討すると,単変量解析では極低出生体重児,重症仮死,頭頚部奇形,先天異常症候群,耳毒性薬剤の使用,5日以上の人工換気療法はrefer率が有意に高かった。多変量解析でrefer率と独立して有意に関連した因子は先天異常症候群,頭頸部奇形,重症仮死であった。先天異常症候群のある児はこれのない児と比較して62倍refer率が高く,頭頸部奇形のある児はこれのない児と比較して29倍refer率が高かった。また,重症仮死を認めた児はこれを認めなかった児と比較して6倍refer率が高かった(Table 4)。

Table 4  Relationship between high risk factors of impaired hearing and AABR-refer rate
聴覚障害ハイリスク因子 pass refer 単変量解析 多変量解析
p 相対リスク 95%信頼区間 p
極低出生体重児(1,500 g未満) 220(96.9%) 7(3.1%) 0.0097 1.27 0.32–5.26 0.7355
3,928(99.0%) 38(1.0%)
重症仮死(Apgar score 4未満) 79(91.9%) 7(8.1%) < 0.0001 5.61 1.36–22.65 0.0158
4,069(99.1%) 38(0.9%)
交換輸血を必要とする高ビリルビン血症 2(100%) 0(0%) > 0.9999
4,146(98.9%) 45(1.1%)
子宮内感染 175(97.8%) 4(2.2%) 0.1237
3,973(99.0%) 41(1.0%)
頭頸部奇形 29(70.7%) 12(29.3%) < 0.0001 28.95 9.87–78.01 < 0.0001
4,119(99.2%) 33(0.8%)
先天異常症候群 19(54.3%) 16(45.7%) < 0.0001 62.47 23.19–167.15 < 0.0001
4,129(99.3%) 29(0.7%)
耳毒性薬剤の使用 717(96.8%) 24(3.2%) < 0.0001 1.33 0.50–3.21 0.5449
3,431(99.4%) 21(0.6%)
5日以上の人工換気療法 126(92.0%) 11(8.0%) < 0.0001 3.46 0.95–13.13 0.0629
4,022(99.2%) 34(0.8%)

IV  考察

本研究におけるAABRでのrefer率は全国データと比較して有意に高かった。多変量解析では,先天異常症候群,頭頚部奇形,重症仮死を認める児において,これを認めない児と比較して,AABRのrefer率は有意に高かった。

本邦では2000年度より新生児聴覚スクリーニングがモデル事業として導入され,以後全国的に急速に拡大した。2014年の日本産婦人科医会調査によると,2002年の時点でのNHS普及率は全国平均32%であったが,2005年には60%,2014年は88%と年々増加している10)。しかしながら,スクリーニング実施にはいまだ地域差が大きいのが実情である。愛知県内ではNHSの公費負担を実施している市区町村はなく,各産科施設でNHSや聴覚障害の早期発見の重要性について説明が行われ,同意を得られた希望者のみに自費負担でNHSが行われている11)。その中で当院におけるNHS実施率94.9%,refer率1.1%という数字は比較的高く,当院が総合周産期母子医療センター指定病院であるという特殊性を反映していると考えられる。しかし,当院においても金銭面に不安を抱える親からNHSの同意が得られないことがあり,現行制度の限界が示唆される。

聴覚障害はさまざまな原因で生じるが,先天性聴覚障害の約70%は遺伝性難聴であり,このうち症候群性難聴が30%,非症候群性難聴が70%と報告されている12)。症候群性難聴にはAlport症候群やUsher症候群,Waardenburg症候群などの比較的高頻度のものもあるが,これらの多くの症候群はまれな疾患で,疾患の種類は多岐に渡る。本研究では先天異常症候群のある児はこれのない児と比較して有意にAABRのrefer率が高かった。Down症候群は21番染色体が過剰である染色体異常のひとつで,出生児1万人あたり14.49人の頻度でみられる。精神運動発達遅滞,特徴的な顔貌(眼瞼裂斜上,低い鼻根部,耳の変形など),短い頚・四肢・指趾などの変異徴候を伴う13)。さらに合併症として,先天性心疾患(心室中隔欠損,心房中隔欠損,Fallot四徴症など)を伴うことが多く,難治性の滲出性中耳炎(otitis media with effusion; OME)をきたすことがある。その理由は,上気道炎を反復しやすい,頭蓋骨が短形で鼻咽腔が狭い,乳突蜂巣の発育が不良,耳管機能が著しく不良であるためである14)。OMEの他に,蝸牛神経や脳幹の聴覚伝導路における神経線維の髄鞘化の遅れも聴覚障害の原因と考えられている。Edwards症候群は18番染色体全長あるいは一部の重複に基づく先天異常症候群である。出生児3,500~8,500人に1人の頻度でみられ,女児に多い(男:女=1:3)。重度発達遅滞,手指の重なりなどの身体的特徴,先天性心疾患,肺高血圧症,無呼吸発作などの呼吸器系合併症,食道閉鎖などの消化器系合併症,難聴,Wilms腫瘍や肝芽腫などの悪性腫瘍を伴うことがある15)

本研究では頭頸部奇形を認めた児はこれのない児と比較して,有意にAABRでのrefer率が高かった。口蓋裂児の多くは耳管を開大する筋の走行異常があり,耳管軟骨が脆弱である。側頭骨乳突蜂巣の面積も小さい。そのためOMEを早期から高率に合併する14)

本研究では重症仮死を認めた児はこれを認めなかった児と比較して,有意にAABRでのrefer率が高かった。早産児,満期産児ともにApgar scoreが増加するにつれて生存率が増加することが知られており16),Apgar scoreが低い児では死亡率が高く,また生存児でも神経学的後遺症が有意に多い17)。重症仮死(Apgar score 4未満)では低酸素血症をしばしば合併し,低酸素血症は中枢神経だけでなく内耳にも同時に影響を及ぼし,これが難聴の発症に関連している18)

本研究には考慮すべきいくつかの制限がある。第一に,当院でAABRを行った児のうち生後1ヶ月までにAABRを実施したのは93.1%であったが,6ヶ月を過ぎてAABRを実施した例もあった。これらの児は極低出生体重,長期間の人工換気,低酸素虚血性脳症などを合併しており,生存のための治療が優先され,早期にAABRを行うことが出来なかった。第二に,JCIHの定義する聴覚障害ハイリスク因子との関連を検討したが,細菌性髄膜炎,先天聴覚障害の家族歴の2因子は臨床記録から充分な情報が得られなかったため,検討因子から除いた。髄膜瘤や水頭症症例において細菌性髄膜炎の合併の有無が臨床記録から明らかでなかったため,あるいは,先天聴覚障害の家族歴はNHS説明同意書よりアンケート形式で家族から情報を得たが,記載が不十分なものがあったためである。第三に,NHSであるAABRの結果を基に検討を行ったが,AABRの結果がreferであった場合,ABRを行って難聴の程度やAABRの偽陽性率等を検討したこれまでの研究もある19)。したがって本研究のrefer例の中には,非聴覚障害児でAABRがreferと判定された偽陽性例が含まれている可能性がある。AABRに続くABRの結果を踏まえ,人工内耳手術や補聴器装用といった介入までを追跡し,新たな知見を得ることが今後の課題である。

V  結語

AABRと聴覚障害ハイリスク因子との関連について検討を行った。先天異常症候群,頭頸部奇形,重症仮死といった因子を有する児はAABRにおいてrefer率が独立して有意に高かった。これらの因子を有する児は可及的速やかにAABRを行い,結果がreferであった場合にはABRやASSRなどの精密検査を行い,早期支援につなげるべきである。

謝辞

本研究にご協力,ご指導をいただいた当院小児科・大城 誠部長に感謝いたします。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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