2018 Volume 67 Issue 5 Pages 708-715
尿沈渣目視法における識別基準の標準化と検査担当者の分類精度を明らかにするため,『尿沈渣検査法2010』の画像による内部精度管理(internal quality control; IQC)システムを開発した。これは担当者に沈渣成分画像をモニタ上で分類させて,その精度を定量評価するものである。本研究は担当者の分類精度の検証と,臨床検査値の技師間差に対する効果の検証を目的とした。3名の担当者がシステムによるIQCを実施し,成分ごとの一致率と的中率を算出した。さらに臨床検査値の沈渣成分ごとの技師間差と陽性率の時系列変化を観察した。一致率または的中率は,60%を下回った成績不良な成分が担当者により異なっていることを示した。技師間差と陽性率変動幅の経時的推移は,IQC実施後に両値が拡大または縮小した成分があることを示した。さらに技師間差に統計学的有意差を認めた成分の数がIQCを実施した前後3ヶ月で比較すると,11成分から7成分に減少したことがわかった。開発したシステムは担当者の力量を数値化し,またIQCとしての活用により臨床検査値の技師間差に影響する可能性を示した。これは尿沈渣目視法における識別基準を標準化し,さらに検査室内の精密度の向上が期待できる。しかし患者背景などから総合的な判断が必要な沈渣成分ではその効果が限定される可能性があり,臨床検体での陽性率による技師間差の定期評価が必要である。
尿沈渣目視法は,検査担当者の主観的判断が沈渣成分の同定に影響し,担当者間の誤差(以下,技師間差)が大きい1),2)。そこで同じ検体を供覧して検査室内の分類基準を揃える,いわゆる“目合わせ”が内部精度管理(internal quality control; IQC)として技師間差の是正を目的に行われる3)~5)。本法の課題は,沈渣成分が時間経過で変性6)するために出現が稀な成分の検証が困難なことや,誤同定した成分の復習が困難なこと,また成分ごとの正確度や精密度を把握できず担当者の分類傾向を定量的に把握できないことである。また基準となる担当者を施設内で定める場合,その正確性を保証する方法が確立されておらず,標準物質のない形態検査における限界といえる。
我々は血液像検査における担当者の分類精度を定量するシステムを開発してIQCに応用した7)。これは日本検査血液学会から標準化を目的に公開された血液細胞画像を担当者にモニタ上で分類させ,一致率や細胞分類の偏りを集計するシステムである。今回,このシステムを『尿沈渣検査法2010』の沈渣成分画像(以下,標準画像)を使って尿沈渣目視法のIQCに応用した。本研究は検査担当者の分類精度の検証と,システム導入が臨床検査値の検査室内変動に対する影響の検証を目的とした。
『尿沈渣検査法2010』(JCCLS GP1-P4)8)の沈渣成分画像を300 dpiのjpg形式でスキャニングし,非上皮細胞類(84画像),上皮細胞類(226画像),異型細胞類(60画像),円柱類(194画像),塩類・結晶類(70画像)の分類グループごとに保存した。
2. システム構成と動作システムはMicrosoft ACCESS 2013(Microsoft)で開発した。画像セットは各分類から最低5画像をランダム抽出し,合計30画像からなる画像セットをシステム利用日ごとに自動生成した(Figure 1A)。画像をモニタに表示して担当者に分類させた(Figure 1B)。その回答をデータベースに登録,成分ごとに回答の正誤と回答成分名を表示し,担当者間で分類結果を確認,比較できるようにした(Figure 1C)。
システム構成
A:合計634画像から分類グループ別にランダム抽出し,モニタ上で1画像ずつ合計30画像を分類させた。出題画像とその回答をデータベースに登録し,分析評価した。B:画像の分類画面。実際の業務と同じ分類コードをキー入力により実施。C:結果確認画面。担当者間で正誤を確認できる。また画像参照ボタンを押すと出題した画像と解説文を表示する。
3名の検査担当者が2017年2,4,5月の期間で各自任意のタイミングでシステムによるIQCを実施した(Table 1)。なお検査歴は2017年2月時点である。システムに登録された結果から一致率(成分X画像をXと回答した割合)と的中率(成分Xと回答した画像のうち真にXであった割合)を算出した。
担当者 | 検査歴 | 実施回数 | 出題数 | 正解数 | 一致率(%) |
---|---|---|---|---|---|
全体 | 28 | 840 | 639 | 76.1 | |
A | 172ヶ月 | 7 | 210 | 173 | 82.4 |
B | 26ヶ月 | 11 | 330 | 239 | 72.4 |
C | 14ヶ月 | 10 | 300 | 227 | 75.7 |
2016年9月から2017年8月までの尿沈渣の臨床検査値を集計し,成分ごとのχ2値と陽性率を担当者間で比較した。各成分について診療科別陽性率(Pij)と診療科別目視検体数(Cij)から担当者かつ沈渣成分ごとの陽性検体数の期待値(Ehj)を算出し,実際の観測値(Ohj)からχ2値を求めた。
h:検査担当者,i:診療科,j:成分
なお空胞変性円柱は陽性数が少ないため期待値の算出に診療科による区別を行わなかった。成分ごとの陽性件数とその期待値から担当者間のχ2値と3ヶ月ごとの移動平均を求めた。また赤血球と白血球は目視検査で全件報告対象としているため集計から除外した。なお本研究は,侵襲及び介入を伴わず,人体から取得された試料を用いない研究であるため,倫理委員会の承認を得ていない。
5. 統計処理統計処理はR version 3.2.3で行った。陽性検体数の技師間差はχ2検定を,空胞変性円柱はフィッシャーの正確確率検定で検討した。また本研究では有意水準1%以下を統計学的に有意であると判定した。
分類グループ毎に標準画像に対する一致率と的中率を集計した(Table 2)。非上皮細胞類および塩類・結晶類は,全担当者で一致率,的中率とも80%以上であった。上皮細胞類および円柱類は,担当者BとCで一致率,的中率ともに70%を下回った。また異型細胞類は,全担当者で的中率80%以上であったが,担当者AとBの一致率は,的中率よりもおよそ20ポイント低い結果であった。
分類グループ | 担当者 | 出題数 | 回答数 | 正解数 | 一致率(%) | 的中率(%) |
---|---|---|---|---|---|---|
非上皮細胞類 | A | 41 | 41 | 36 | 87.8 | 87.8 |
B | 62 | 66 | 53 | 85.5 | 80.3 | |
C | 57 | 51 | 46 | 80.7 | 90.2 | |
塩類・結晶類 | A | 48 | 49 | 41 | 85.4 | 83.7 |
B | 74 | 74 | 60 | 81.1 | 81.1 | |
C | 71 | 74 | 60 | 84.5 | 81.1 | |
上皮細胞類 | A | 43 | 52 | 40 | 93.0 | 76.9 |
B | 68 | 80 | 46 | 67.6 | 57.5 | |
C | 58 | 64 | 38 | 65.5 | 59.4 | |
円柱類 | A | 40 | 38 | 28 | 70.0 | 73.7 |
B | 67 | 68 | 44 | 65.7 | 64.7 | |
C | 57 | 55 | 36 | 63.2 | 65.5 | |
異型細胞類 | A | 38 | 29 | 28 | 73.7 | 96.6 |
B | 59 | 42 | 36 | 61.0 | 85.7 | |
C | 57 | 56 | 47 | 82.5 | 83.9 | |
その他 | A | 0 | 1 | 0 | ― | 0.0 |
B | 0 | 0 | 0 | ― | ― | |
C | 0 | 0 | 0 | ― | ― |
5回以上出題した成分のうち一致率が60%未満であった成分を示す(Table 3)。担当者Aに脂肪円柱が5回出題されたが,正解した数は2回であり一致率40.0%であった。他に表に示した成分で一致率が60%を下回り,その構成や誤って回答した成分は担当者ごとに異なっていた。なお卵円形脂肪体の担当者Aに対する出題数はn = 1(一致率100.0%),炭酸カルシウム結晶の担当者A,Bに対する出題数は各n = 3(一致率はA:0.0%,B:33.3%)であった。
担当者 | 成分 | 出題数 | 正解数 | 一致率(%) | 回答した成分(no.) |
---|---|---|---|---|---|
A | 脂肪円柱 | 5 | 2 | 40.0 | その他円柱1,塩類円柱1,硝子円柱1 |
上皮円柱 | 7 | 4 | 57.1 | 尿細管上皮細胞2,顆粒円柱1 | |
B | 卵円形脂肪体 | 6 | 1 | 16.7 | 尿細管上皮細胞2,脂肪円柱2,上皮円柱1 |
脂肪円柱 | 9 | 4 | 44.4 | 上皮円柱2,顆粒円柱1,卵円形脂肪体1,その他円柱1 | |
糸球体型赤血球 | 11 | 6 | 54.5 | 赤血球4,赤血球円柱1 | |
C | 炭酸カルシウム結晶 | 6 | 1 | 16.7 | シュウ酸カルシウム結晶4,リン酸カルシウム結晶1 |
卵円形脂肪体 | 7 | 2 | 28.6 | 上皮円柱2,脂肪円柱1,尿細管上皮細胞1,大食細胞1 | |
大食細胞 | 11 | 4 | 40.0 | その他細胞4,尿路上皮細胞1,異型細胞1 |
5回以上出題した成分のうち的中率が60%未満であった成分を示す(Table 4)。担当者Aは上皮円柱を7回答えたが,正解した数は4回であり的中率57.1%であった。他に表に示した成分で的中率が60%未満を下回り,その構成や正解の成分は担当者ごとに異なっていた。
担当者 | 成分 | 回答数 | 正解数 | 的中率(%) | 正解の成分(no.) |
---|---|---|---|---|---|
A | 上皮円柱 | 7 | 4 | 57.1 | その他円柱2,白血球円柱1 |
B | 硝子円柱 | 9 | 3 | 33.3 | 白血球円柱3,その他円柱2,ウイルス感染細胞1 |
顆粒円柱 | 8 | 3 | 37.5 | 上皮円柱3,脂肪円柱1,その他円柱1 | |
無晶性リン酸塩 | 6 | 3 | 50.0 | 無晶性尿酸塩2,塩類円柱1 | |
尿細管上皮細胞 | 37 | 21 | 56.8 | 異型細胞6,尿路上皮細胞3,卵円形脂肪体2,円柱上皮細胞1,上皮円柱1,核内封入体細胞1,大食細胞1,その他結晶1 | |
扁平上皮細胞 | 7 | 4 | 57.1 | 異型細胞2,尿細管上皮細胞1 | |
C | ロウ様円柱 | 7 | 2 | 28.6 | 顆粒円柱2,その他円柱2,空胞変性円柱1 |
上皮円柱 | 19 | 9 | 47.4 | その他円柱3,卵円形脂肪体2,尿細管上皮細胞2,脂肪円柱2,白血球円柱1 | |
無晶性リン酸塩 | 8 | 4 | 50.0 | 無晶性尿酸塩3,塩類円柱1 | |
尿細管上皮細胞 | 21 | 12 | 57.1 | 異型細胞3,円柱上皮細胞2,その他円柱2,卵円形脂肪体1,上皮円柱1 | |
扁平上皮細胞 | 12 | 7 | 58.3 | 異型細胞5 |
各成分のχ2値の経時的推移を示す(Figure 2)。糸球体型赤血球,尿細管上皮細胞,扁平上皮細胞,尿路上皮細胞,卵円形脂肪体,上皮円柱,赤血球円柱および硝子円柱は観察期間内でχ2値の減少傾向を認めた。特に卵円形脂肪体および赤血球円柱はIQC実施後に低下を認めた。一方で封入体,異型細胞および顆粒円柱でχ2値の増加傾向を認め,特に前2成分ではIQC実施後に増加を認めた。それ以外の成分ではχ2値に大きな変動を認めなかった。またIQC実施前後3ヶ月間で比較したところ,2016年11月から3ヶ月間で技師間差に有意な差を認めた成分は11成分であったが,2017年6月から3ヶ月間では7成分であった。
χ2値の時系列推移
χ2値と3ヶ月ごとの移動平均値をプロットした。点線はχ2 = 9.12(自由度2,有意水準1%)をあらわす。プロットが点線を超過する月では担当者間の陽性検体数に有意な差があったと言える。なお空胞変性円柱は各月の集計値でフィッシャーの正確確率検定を行った。*を付けた月では陽性検体数に有意差を認めた。
各成分の陽性率の経時的推移を示す(Figure 3)。担当者間の変動幅は,χ2値が低下した成分では縮小を,増加した成分では拡大を認めた。特に卵円形脂肪体と赤血球円柱はIQC実施後の変動幅に縮小を認めた。一方,異型細胞と封入体のそれは拡大を認めた。
陽性率の時系列推移
全体の陽性率は観察期間を通して多くの成分でほぼ一定であり,その変動幅が5%以内に収束していた。しかし尿細管上皮細胞(13.5%),扁平上皮細胞(7.3%),尿路上皮細胞(7.5%)および硝子円柱(6.6%)で変動幅が5%を超え,扁平上皮細胞を除き陽性率に増加傾向を認めた。
『尿沈渣検査法2010』の沈渣画像を用いた尿沈渣目視法の内部精度管理システムを開発した。本システムは担当者が標準画像を分類した結果をデータベース化し,成分ごとの分類精度を算出した。この結果は担当者の分類傾向を明らかにし,成績不良な成分を特定することにつながった。さらにシステムによるIQCの実施は,ほとんどの成分で臨床検体の技師間差を改善または安定した管理状態を維持したが,一部の成分では悪化したことが明らかになった。
IQCは簡易に反復して実施でき,かつ安価な方法が求められる。開発したシステムはこの要件を満たし,さらに既存の管理方法の課題であった沈渣成分の網羅性と正確性の確保を解決した。本システムの課題は半定量値の技師間差を管理できないことである。検査結果の定性的側面は正確性の担保された本法で検証し,定量的側面は尿検体を使用した既存の方法で内部精度管理を構築することが望ましいと考える。
尿沈渣では尿中有形成分測定装置が上市され,自動化ならびに省力化に貢献している。しかし詳細な成分分類には目視分類の必要があり,また鏡検法との乖離例や,異型細胞や結晶類の分類では検査技師が勝っているという状況である9)。したがって担当者の技量を客観的に管理することが重要であり,臨床検査室の国際標準規格であるISO15189でもそれが求められている10)。本システムは,担当者ごとの技量を一致率と的中率として表した。一致率は分類の正確性を,的中率は分類のバイアスを表し,同定が不正確または偏った傾向にある成分が担当者ごとに異なっていることを示した。例えば顆粒円柱では,担当者Bの的中率が37.5%であり上皮円柱を顆粒円柱に誤分類しやすい傾向をIQCで認めた。担当者Bが検査した臨床検体では上皮円柱と顆粒円柱の陽性率が共に増加傾向を認めたが,そのうち後者の増大はIQCの結果から上皮円柱の顆粒円柱への誤分類が疑われる。一致率や的中率は担当者の技量を証明する客観的な証拠となり,またその精度管理としての利用は担当者に応じた効果的なトレーニングにつなげられることが期待できる。
技師間差は尿沈渣における大きな誤差要因の一つであり,IQCはその是正を目的としている。本研究では臨床検体の成分ごとにχ2値と陽性率を算出し,技師間差の時系列変化を可視化した。このうち異型細胞はIQC実施後の連続3ヶ月間にわたって技師間差の拡大を認めた。異型細胞の検出割合は腎臓内科と泌尿器科で全体の96.8%を占め,両科の検体数に担当者の違いによる差を認めなかった(data not shown)。よって検査前確率は全ての担当者で同じであったと考える。次に異型細胞はS染色で鑑別可能とされることから,標準画像のS染色の有無でIQC結果を比較した。その結果,一致率は染色像で86%,無染色像で51%であった(data not shown)。“異型細胞は一つの所見だけで判定できるものではなく,細胞をさまざまな角度から細かく観察し,標本全体に出現している個々の細胞の多様性などを総合的に判断することが大切である”11)と言われ,一箇所の細胞集塊のみで判断させる本IQCシステムでは無染色標本での異型細胞分別能を改善できるとは言えない。また無染色像での一致率の不良は見落としのリスクを避けるためにS染色実施の誘引になると考えられ,IQC実施後に担当者の検査行動を変容させた可能性がある。したがって技師間差拡大の要因は無染色像での分別能の低さとS染色実施頻度の差であると考えるが,本検討では染色の有無を記録したデータがなく,検査手技も含めた検証が今後の課題である。
我々は『尿沈渣検査法2010』の基準画像に担当者の目合わせを実施することで検査室内の分類基準を標準化し,また担当者の技量を指標化するシステムを構築した。本システムの活用は検査室内の尿沈渣目視法の品質を向上させることができる一方で,出現成分の多様性や患者背景を含めて同定する必要がある沈渣成分ではその効果が限定される可能性がある。これらの成分では臨床検体における陽性率を利用した技師間差の定期的な評価が必要である。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。