2018 Volume 67 Issue 5 Pages 636-642
慢性期患者を取り扱う障害者病棟において,メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生腸内細菌科細菌保菌患者の集積を経験した。本研究では,長期療養入院患者におけるMBL産生菌保菌者のリスク因子を明らかにするため,保菌調査のため提出された糞便74検体を対象として保菌群と非保菌群との症例対照研究を行い,保菌群の背景因子を多重ロジスティック回帰分析を用いて解析した。その結果,14%(10/74)のMBL産生菌保菌者が同定された。保菌群は非保菌群と比較して,胃瘻の使用が有意に多く(p = 0.009),入院期間は平均26か月で非保菌群の2倍であった。抗菌薬投与歴は有意に関連せず,プロトンポンプ阻害薬(PPI)投薬が有意に多かった(p = 0.009)。多重ロジスティック回帰分析でのオッズ比は,PPI投薬14.7(95%CI 1.8~121.4, p = 0.013),胃瘻使用3.9(95%CI 0.8~19.3, p = 0.098)であった。また,PPI投薬中の胃瘻使用患者では,保菌するリスクが15.6倍高まる(95%CI 1.4~164.4, p = 0.021)ことがわかった。感染制御チームによる手指衛生の徹底と本研究の結果を踏まえた対策により,感染は制御された。胃瘻やPPI投薬がある長期療養入院患者は,MBL産生菌を腸管内に保菌するリスクが高く,重点的に監視する必要があると考えられた。
カルバペネム系抗菌薬はグラム陰性桿菌感染症の治療における切り札的存在であり,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase; ESBL)産生菌やAmpCβ-ラクタマーゼ産生菌の治療に対して重要な役割を果たしている。しかし,近年ではカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae; CRE)が世界規模で広がりを見せており1),CREの中でも特にカルバペネム系抗菌薬を加水分解するカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)が問題となっている2)。カルバペネマーゼには様々な種類が存在するが3),本邦では西日本を中心にメタロ-β-ラクタマーゼ(metallo-β-lactamase; MBL)が多く4),大規模なアウトブレイクも報告されている5)。
アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention; CDC)のCREコントロールのための施設ガイダンスでは6),CPEのコントロールには可能な限り潜在的な保菌者を検出して感染対策をとる努力が必要とされており,保菌スクリーニングをしないと約50%の保菌者を見逃してしまうという報告もある7)。本邦でも,これまでにESBL産生菌やMBL産生菌の腸管内保菌調査の報告はあったが8),9),これらは急性期病院での報告であり,より入院期間の長い療養型病院や慢性期患者を取り扱う障害者病棟における報告はない。
当院は神経難病疾患の拠点病院であり,複数の障害者病棟を有する。2014年7月から2015年3月にかけて,これらの病棟でMBL産生菌保菌患者の集積を経験した。MBL産生菌による感染症はなかったものの,感染制御チーム(Infection Control Team; ICT)は,患者背景やパルスフィールドゲル電気泳動法による分子疫学的解析の結果から,保菌状態でのアウトブレイクと判断した。院内感染対策を長期に継続するにあたって,高リスク患者を重点的に監視すれば,感染の拡大を効率よく防ぐことができると考えられる。また,回避可能なリスク因子が見出せれば,保菌リスクの低減にも役立つ。本研究は,保菌に至るリスク因子を明らかにすることを目的とし,検討した。
2014年7月から2015年3月にかけて臨床検体からMBL産生菌分離が相次いだ,3つの障害者病棟に入院中の患者を対象とした。2015年4月から5月に,MBL産生菌の保菌調査に口頭同意を得た対象病棟入院患者74名から採取された糞便74検体(同一患者の重複は初回のみ採用)を調査した。
対象者はすべて神経筋疾患患者で,男性51% (38/74例),年齢(±SD)は平均75.6歳(±12.4),平均入院月数は15.0か月(±17.2)であった。
2. 培養方法カルチャースワブTM(日本BD)で採取された糞便を,トリプトソイ培地(日研生物)で均質化し,CHROMagarTM KPC/ESBL分画培地(関東化学,以下KPC/ESBL培地)に塗布後,37℃で24時間および48時間培養した。KPC/ESBL培地に発育した腸内細菌科細菌が疑われるコロニーを,TSI培地(日研生物)で生化学的性状を確認しつつ純培養した。
なお,KPC/ESBL培地の両方の分画に同様の色調・形状を示すコロニーが発育した場合は,TSI培地・LIM培地(日研生物)で生化学的性状を確認した。一致したものは同一菌として,KPC分画に発育した菌株を用いた。
3. MBL産生確認試験純培養した菌株について,MBL産生確認試験を行った。
MBL産生確認試験は,メタロ-β-ラクタマーゼSMA‘栄研’(栄研化学,以下SMAディスク)を用いたdouble disk synergy test(以下,DDST法)で行った。DDST法は,McFarland 0.5に調整した菌液をポアメディア®ミュラーヒントンS培地(栄研化学)に塗布し,センシ・ディスクTM ディスペンサー(BD)を用いてメロペネム・イミペネム・セフタジジム・スルバクタム/セフォペラゾン・セフェピム・ラタモキセフの各KBディスク®‘栄研’(栄研化学)を配置し,培地の中央にSMAディスクを配置した。37℃で18時間培養した後,SMAディスクといずれかのディスクの間に発育阻害帯の拡張が認められた場合に,DDST法陽性と判定した(Figure 1)。
double disk synergy testによるMBL産生確認試験
MEPM: meropenem, IPM: imipenem, CAZ: ceftazidime, SBT/CPZ: sulbactam/cefoperazone, CFPM: cefepime, LMOX: latamoxef
double disk synergy testでは,周囲の各薬剤ディスクから中心のSMAディスクにかけ発育阻害帯の拡張が認められる。
またDDST法で陽性および陰性判定が困難なものは,クイックチェイサー®IMP(ミズホメディー)を添付文書に従い実施し,陽性ラインが認められたものをMBL産生菌と判定した。
4. 同定試験MBL産生菌と判定した菌株は,VITEK®2 GN同定カード(ビオメリュー)を添付文書に従い実施し,菌種を同定した。
5. MBL産生菌保菌のリスク因子解析検体が提出された患者を,MBL産生菌検出患者を保菌群,MBL産生菌未検出患者を非保菌群として症例対照研究を行い,MBL産生菌保菌のリスク因子を検討した。推定されるリスク因子として,以下1)~3)の背景因子を診療録から抽出した。
1) 臨床因子性別,年齢,原疾患,入院期間,過去3か月の使用歴(胃瘻,中心静脈カテーテル,気管切開),現在の使用状況(膀胱留置カテーテル,おむつ使用),過去6か月の内視鏡検査歴
2) 薬剤因子過去2週間および3か月以内の抗菌薬投与歴(第1世代セフェム系,第2世代セフェム系,第3および第4世代セフェム系,スルバクタム/アンピシリン,タゾバクタム/ピペラシリン,カルバペネム系,グリコペプチド系,リンコマイシン系,ニューキノロン系,アミノグリコシド系)およびプロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor; PPI)の投薬状況
3) 臨床検体からの多剤耐性菌分離歴MBL産生腸内細菌科細菌,ESBL産生腸内細菌科細菌,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSA)の臨床検体からの分離歴
4) 統計解析保菌群と非保菌群の背景因子を,カテゴリー変数はχ2法,連続変数はt検定を用いて比較した。2群間で有意に異なった因子について,多重ロジスティック回帰分析を行いMBL産生菌保菌に対するリスク比をオッズ比として推定した。また,各因子が重なった場合のリスク比を,Fisher正確確率検定を用いてオッズ比として推定した。解析はIBM® SPSS® statistics version 21(IBM)にて実施し,p < 0.05を統計学的有意とした。
6. 倫理的配慮本研究は,ヘルシンキ宣言および人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成27年4月1日施行)に従い計画し,本研究の計画書は,宇多野病院生命倫理委員会で承認された(承認番号27-13)。
MBL産生菌の検出率は13.5%(10/74例)であり,菌種はすべてKlebsiella pneumoniaeであった。また,DDST法陽性菌株はすべてクイックチェイサー®IMPも陽性であった。
2. MBL産生菌保菌のリスク因子(Table 1)保菌群 n = 10 |
非保菌群 n = 64 |
p値 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
臨床因子 | 性別 | 男性 | (%) | 6 | (60.0) | 32 | (50.0) | 0.556 |
年齢 | 平均 | (SD) | 73.3 | (12.6) | 75.9 | (12.5) | 0.430 | |
罹病期間 | 平均年 | (SD) | 15.9 | (14.3) | 11.4 | (9.8) | 0.225 | |
入院期間 | 平均月 | (SD) | 26.0 | (26.8) | 13.1 | (14.5) | 0.167 | |
入院経路 | 自宅以外 | (%) | 3 | (30.0) | 16 | (25.0) | 0.736 | |
総室入院歴 | 有 | (%) | 8 | (80.0) | 49 | (76.6) | 0.810 | |
胃瘻 | 過去3か月使用歴 | (%) | 7 | (70.0) | 18 | (28.1) | 0.009 | |
中心静脈カテーテル | 過去3か月使用歴 | (%) | 2 | (20.0) | 6 | (9.4) | 0.314 | |
気管切開 | 過去3か月使用歴 | (%) | 3 | (30.0) | 7 | (10.9) | 0.101 | |
膀胱留置カテーテル | 現在の使用状況 | (%) | 5 | (50.0) | 19 | (29.7) | 0.202 | |
おむつ使用 | 現在の使用状況 | (%) | 10 | (100.0) | 54 | (84.4) | 0.179 | |
内視鏡検査 | 過去6か月の実施 | (%) | 4 | (40.0) | 6 | (9.4) | 0.008 | |
薬剤因子 | 過去3か月の投与歴 | 第1世代セフェム系 | (%) | 0 | (0.0) | 1 | (1.6) | 0.691 |
第2世代セフェム系 | (%) | 2 | (20.0) | 5 | (7.8) | 0.221 | ||
第3および第4世代セフェム系 | (%) | 2 | (20.0) | 8 | (12.5) | 0.519 | ||
スルバクタム/アンピシリン | (%) | 2 | (20.0) | 8 | (12.5) | 0.519 | ||
タゾバクタム/ピペラシリン | (%) | 2 | (20.0) | 3 | (4.7) | 0.073 | ||
カルバペネム系 | (%) | 4 | (40.0) | 12 | (18.8) | 0.129 | ||
グリコペプチド系 | (%) | 2 | (20.0) | 6 | (9.4) | 0.314 | ||
リンコマイシン系 | (%) | 1 | (10.0) | 1 | (1.6) | 0.126 | ||
ニューキノロン系 | (%) | 3 | (30.0) | 16 | (25.0) | 0.376 | ||
アミノグリコシド系 | (%) | 1 | (10.0) | 3 | (4.7) | 0.490 | ||
いずれかの抗菌薬 | (%) | 7 | (70.0) | 35 | (54.7) | 0.363 | ||
過去2週間の投与歴 | 第1世代セフェム系 | (%) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | ― | |
第2世代セフェム系 | (%) | 1 | (10.0) | 1 | (1.6) | 0.126 | ||
第3および第4世代セフェム系 | (%) | 0 | (0.0) | 3 | (4.7) | 0.485 | ||
スルバクタム/アンピシリン | (%) | 0 | (0.0) | 3 | (4.7) | 0.485 | ||
タゾバクタム/ピペラシリン | (%) | 1 | (10.0) | 1 | (1.6) | 0.126 | ||
カルバペネム系 | (%) | 0 | (0.0) | 3 | (4.7) | 0.485 | ||
グリコペプチド系 | (%) | 2 | (20.0) | 0 | (0.0) | 0.571 | ||
リンコマイシン系 | (%) | 0 | (0.0) | 1 | (1.6) | 0.691 | ||
ニューキノロン系 | (%) | 0 | (0.0) | 4 | (6.3) | 0.416 | ||
アミノグリコシド系 | (%) | 1 | (10.0) | 2 | (3.1) | 0.305 | ||
いずれかの抗菌薬 | (%) | 3 | (30.0) | 19 | (38.0) | 0.984 | ||
プロトンポンプ阻害薬(PPI)の投薬状況 | (%) | 7 | (70.0) | 18 | (28.1) | 0.009 | ||
臨床検体からの 多剤耐性菌分離歴 |
MBL産生菌分離歴 | (%) | 6 | (60.0) | 7 | (10.9) | < 0.001 | |
ESBL産生菌分離歴 | (%) | 7 | (70.0) | 17 | (26.6) | 0.011 | ||
MRSA分離歴 | (%) | 5 | (50.0) | 20 | (31.3) | 0.290 |
MBL: metallo-β-lactamase, ESBL: extended-spectrum β-lactamase, MRSA: methicillin-resistant Staphylococcus aureus
保菌群では,男性が60%(6/10例),年齢(±SD)は平均73.3歳(±12.6)であり,非保菌群と有意差はなかった。平均入院月数は,保菌群で26.0か月(±26.8)に対して非保菌群で13.1か月(±14.5)と有意ではないものの,保菌群で約2倍であった(p = 0.167)。また,保菌群において胃瘻の使用7例(70%)に対して非保菌群では18例(28.1%)と,保菌群に多く認められた(p = 0.009)。過去6か月に内視鏡検査を受けた患者の割合が,保菌者で4例(40%)と有意に高かった(p = 0.008)。入院経路,総室入院歴,おむつ使用,中心静脈カテーテル,膀胱カテーテル,気管切開にはいずれも2群間に有意差はなかった。
保菌群の原疾患は,パーキンソン病5例,筋強直性ジストロフィー2例,筋萎縮性側索硬化症1例,大脳皮質基底核変性症1例,アルツハイマー病1例であった。
2) 薬剤因子抗菌薬投与歴では,過去2週間および過去3か月のいずれにおいても2群間で有意なものは認められなかったが,PPI投薬中の患者は,保菌群中7例(70%)に対して非保菌群では18例(28.1%)と,保菌群に有意に多く認められた(p = 0.009)。
3) 臨床検体からの多剤耐性菌分離歴臨床検体からのMBL産生菌の分離歴は保菌群6例(p < 0.001),ESBL産生菌は保菌群7例(p = 0.011)にみられいずれも非保菌群に比して有意であったが,MRSAの分離歴は関連が認められなかった。
4) 胃瘻,内視鏡検査,PPI内服の関連性の検討胃瘻使用と内視鏡検査は密接な関連があったが(p < 0.001),内視鏡とPPI投薬(p = 0.244),もしくは胃瘻とPPI投薬(p = 0.184)の間には明らかな関連はなかった。内視鏡検査は胃瘻交換に使用されており,内視鏡内部洗浄液からMBL産生菌は認められなかった。そのため,内視鏡検査の有無は胃瘻使用の交絡因子と判断し,以下の多重ロジスティック回帰分析には胃瘻使用とPPIの投薬を独立因子として採用した。
5) MBL産生菌保菌に関連するリスク因子のオッズ比2群間比較で推定された保菌に関連するリスク因子は,過去3か月の胃瘻の使用とPPIの投薬であり,また,有意ではないものの入院期間は保菌群で約2倍に延長していた。そのため,多重ロジスティック回帰モデルには胃瘻の使用およびPPI投薬を独立因子として投入し,入院期間で調整した調整オッズ比を算出した(強制投入法)。結果,胃瘻使用のオッズ比は3.9(95%信頼区間(CI)0.8~19.3,p = 0.098),PPI投薬は 14.7(95%CI 1.8~121.4, p = 0.013)であった(Table 2)。
オッズ比 | 95%信頼区間 | p値 | |
---|---|---|---|
過去3か月の胃瘻使用歴 | 3.9 | 0.8–19.3 | 0.098 |
プロトンポンプ阻害薬(PPI)の投薬状況 | 14.7 | 1.8–121.4 | 0.013 |
入院期間(月) | 1.1 | 1.0–1.1 | 0.025 |
また,胃瘻使用患者にPPIを投薬すると,MBL産生菌を保菌するリスクが15.6倍高まる(95%CI 1.4~164.4, p = 0.021)ことがわかった(Table 3,Fisher正確確率検定)。
オッズ比 | 95%信頼区間 | p値 | |
---|---|---|---|
過去3か月の胃瘻使用歴あり | 15.6 | 1.5–164.4 | 0.021 |
過去3か月の胃瘻使用歴なし | 1.3 | 0.1–15.2 | 1.000 |
今回の研究では,MBL産生菌の保菌率は14%(10/74例)であった。同様に糞便を用いた検討である吉川らの報告9)では保菌率3.5%(入院患者のみで8.6%)である。本研究は,MBL産生菌保菌患者の集積がみられた病棟での調査であり,すでに糞便以外の臨床検体からMBL産生菌の分離歴がある患者を含んでいるものの,かなり高い保菌状況であることがわかった。
また,本研究ではこれまでの報告9)と異なり,MBL産生菌の保菌とカルバペネム系をはじめ各種抗菌薬の投与歴とは関連しなかったが,これは抗菌薬による腸管内細菌叢の選択増菌が行われない状態でも検出されるほど高度に定着している可能性が考えられた。本研究では,MBL産生菌保菌のリスク因子としてPPI投薬を見出した。これは,PPIをESBL産生菌保菌のリスク因子としたHuizingaらの報告10),カルバペネマーゼ産生菌保菌のリスク因子としたChengらの報告11)と同様に,PPIの投薬が多剤耐性菌を腸管内に定着させるリスク因子であることを強く示唆している。また,Søgaardら12)はPPIの投薬がESBL産生Escherichia coliによる尿路感染症のリスク因子となっていると報告している。
入院期間が長期にわたる療養型病院では,医療ケア頻度が多く,その都度患者は菌の曝露機会に晒される。そこへ,PPIによる胃液pHの中性化により胃のバリア機能が低下し,胃瘻を介してMBL産生菌の体内への侵入・腸管内への定着を許すことになった可能性が考えられた。
今回,MBLの遺伝子型の同定は行っていないが,MBL産生確認試験陽性株は全例,PCRとの相関性の高いクイックチェイサー®IMP13)で陽性を示していることからIMP(imipenemase metallo-β-lactamase)型MBLであることが示唆された。この点は,近年近畿地区ではカルバペネマーゼの遺伝子型としてIMP型MBLが多く検出されているという報告9)からも矛盾しないと考えられた。
本邦では2000年を過ぎたころから徐々にESBL産生菌の増加が見られ,近年では急激に分離数が増加しており14),市中にも拡散していると考えられる9)。多剤耐性菌のアウトブレイクに対しては早期発見,早期対策が重要であるが15),本研究でも臨床検体からMBL産生菌が検出されていない患者からも便スクリーニングにより保菌が確認されたように,CREを無症状で保菌している患者も多い16),17)。これに対して腸内細菌科細菌の保菌部位に近い糞便を用いたアクティブサーベイランスを行い,多剤耐性菌の保菌患者を見つけ出すことは院内感染対策上,重要である。しかし,網羅的なアクティブサーベイランスは,長期になると多大な費用と労働力が必要である。そこで,本研究の結果判明した高リスク患者を重点的にモニタリングすることで,効果的かつ効率的な感染コントロールが可能になると考える。
当院ではアウトブレイクと判断した後,まず最初にICTから全職員に対する手指衛生の徹底に関する指導を行った。さらに,本研究の結果をもとに胃瘻関連物品のディスポーザブル化を行い,PPI投薬期間を最短にするよう主治医に働きかけた。また,当該病棟に入院する全胃瘻使用患者を対象に,定期的な便スクリーニングを開始した。同時に複数の対策を行ったため,いずれの対策が最も奏功したかは判別できないが,その後2年間,入院患者の糞便検体から新たにMBL産生菌を検出することはなく,感染は制御されている。
本研究にはいくつかの限界があり,その一つ目として,多くの候補因子を検討するには対象とした症例数が少ないことが挙げられる。そのため,単変量解析を行い候補因子をしぼった上で多重ロジスティック回帰分析を行ったが,それでも十分でない可能性がある。二つ目には,本研究は障害者病棟の長期入院患者を対象としており,一般病棟患者のリスク因子とは異なる可能性がある。PPIもしくはその他の胃酸分泌抑制薬内服については,一般病棟患者においても今後検討が必要であろう。
なお,本論文の要旨は,第70回国立病院総合医学会(2016年11月,沖縄)で報告した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。