2018 Volume 67 Issue 5 Pages 766-771
臨床検査値のうち感染指標である,白血球(white blood cell; WBC)数,C-reactive protein(CRP)値,エンドトキシンについて,血流感染における診断上の有用性を検討した。平成24年4月~29年3月の期間に0~18歳の患児において血培陽性となった151エピソードを対象に,血液培養提出日および前日と翌日におけるWBCとCRP値,エンドトキシンの分析結果を後方視的に調査した。陽性群(126エピソード)とコンタミ群(25エピソード)に分け,WBC数とCRP値を比較したところ,提出日のCRP値は陽性群が有意に高値であった。カットオフ値は1.70 mg/dL(感度55.6%,特異度78.3%,陽性的中率93.3%)であった。CRPの高値は陽性の判断には有用だが,低値による否定は行うべきではないと思われた。また,WBC数の前日値との差およびCRP値の翌日値との差も,陽性群が有意に高値であり,これらも参考になり得る情報と考える。一方,エンドトキシンの分析は,151エピソードのうち33例で行われ10例(30.3%)が陽性であった。グラム陰性桿菌が検出されたエピソードの陽性率は75.0%(9例/12例)であった。当分析は,より早い段階での対応につながる。
血液培養(以下,血培)により菌を検出し,菌種と薬剤感受性を明らかにすることは,血流感染の診断・治療におけるゴールドスタンダードである。しかし,コンタミネーション(以下,コンタミ)の可能性が潜在し,陽性時の検出菌が「起因菌かコンタミ菌か」の判断が難しいケースがある。当院では,判断材料として同時に採取された別の培養ボトルの状況,陽性化までの培養時間,他の検査材料からの検出菌などを総合的に検討し,最終的に担当医が決定している。その際,各種の臨床検査値も参考になるものと思われるが,最大限活用するためには根拠となる基礎資料は不可欠である。そこで,感染指標として広く用いられている白血球(white blood cell; WBC)数およびC-反応性蛋白(C-reactive protein; CRP)値について,データをまとめ,有用性を検討した。
また,血培は最終報告までに日数を要することが弱点であり,結果を待たずに治療が開始されることも多い。エンドトキシンはグラム陰性桿菌の細胞外膜に由来するため,特異性は高い。当院では,検出菌のグラム染色の結果を第一報として中間報告しているが,当分析では菌の検出以前に結果を得ることが可能で,より早い段階での対応につながる。そこで当院におけるエンドトキシン分析の実態についても検証した。
平成24年4月1日~平成29年3月31日の期間に,0~18歳の患児において血培が陽性を示した例を対象とした。同一患者から30日以内に同一の菌種が検出された場合には最初のみを1エピソードとして扱い,異なる菌種が検出された場合には別エピソードとした。全エピソードについて,血培提出日(以下,当日),前日,翌日の末梢血中WBC数(×103/μL)と血清中CRP値(mg/dL)を後方視的に調査した。同一日に複数の検査値があった場合には,平均値を採用した。全エピソードを真の陽性群(以下,陽性群)とコンタミ群に分け,当日値を比較した。コンタミの判定1),2)は,判断材料として同時に採取された別の培養ボトルの状況,陽性化までの培養時間,他の検査材料からの検出菌,などから担当医が行った。また,前日から当日の変化量(当日値-前日値)と,当日から翌日の変化量(翌日値-当日値)を計算し,陽性群とコンタミ群で比較した。欠測値のあるエピソードは除外し,血液腫瘍科患児のWBC数は欠測値として扱った。有意差を認めた当日のCRP値については,ROC解析によりカットオフ値を求めた。
血漿中エンドトキシンについては,当日または前日あるいは翌日に分析が行われていたエピソードを調査した。検出菌のグラム染色によって区分し,陽性率を求めた。
培養ボトルにはVersa TREK REDOX1およびVersa TREK REDOX2(ともにThermo)を,培養装置にはVersa TREK(コージンバイオ)を使用し最長7日間まで培養した。菌の同定はMicroScan WalkAway40(シーメンス)を主に,場合により各種同定キットを用いた。WBC数はXE-5000またはXS-500i(ともにシスメックス),CRP値はBM6050(日本電子)またはラテシエM(シノテスト)を使用し,CRPの分析試薬には,NアッセイLA CRP-S(ニットーボーメディカル,ラテックス凝集法)およびクイックターボCRP-NV(シノテスト,ラテックス免疫比濁法)を用いた。エンドトキシンは,トキシノメーターMT6500(和光純薬)を用いたLimulus testで分析した。
統計学的解析にはStatMate V(アトムス)を使用した。2群の比較にはMann-WhitneyのU検定およびχ2検定を用い,有意水準を5%とした。
本研究は群馬県立小児医療センター倫理委員会の承認(GCMC2017-13)を得て行った。
5年間の血培陽性エピソードは151例で,うちコンタミと判断されていたのは25例であった。陽性群で検出された菌種の最多はStaphylococcus aureus(MRSA10例を含む)20例(15.9%)で,以下Escherichia coli 15例(11.9%),Group B Streptococci(GBS)8例(6.3%),Klebsiella pneumoniae 6例(4.8%),Streptococcus pneumoniae 6例(4.8%)と続き,coagulase-negative Staphylococci(以下,CNS)は38例(30.2%)であった(Table 1-1)。グラム染色により分類すると(球菌か桿菌かの記載のない1例を除き),グラム陽性球菌が77件(61.6%),陰性桿菌が35件(28.0%)と,両者で89.6%を占めた。
Organisms isolated from positive blood cultures
Organism | Number of episodes (%) |
---|---|
coagulase-negative Staphylococcus spp.* | 38 (30.2) |
Staphylococcus aureus | 20 (15.9) |
Escherichia coli | 15 (11.9) |
Group B Streptococci | 8 (6.3) |
Klebsiella pneumoniae | 6 (4.8) |
Streptococcus pneumoniae | 6 (4.8) |
Stenotrophomonas maltophilia | 4 (3.2) |
Acinetobacter lwoffi | 3 (2.4) |
Klebsiella oxytoca | 3 (2.4) |
Candida parapsilosis | 3 (2.4) |
Streptococcus bovis | 2 (1.6) |
others | 18 (14.0) |
total | 126 (100) |
* Including 15 (11.9%) cases of Staphylococcus epidermidis, and 13 (10.3%) cases of Staphylococcus capitis subsp. ureolyticus.
Organism | Number of episodes (%) |
---|---|
coagulase-negative Staphylococcus spp.† | 21 (84.0) |
others | 4 (16.0) |
total | 25 (100) |
† Including 17 (68.0%) cases of Staphylococcus epidermidis.
陽性群およびコンタミネーション群から分離された菌種の一覧を示した。
一方,コンタミ群は25例のうちCNS(Staphylococcus epidermidis 17例を含む)が21例(84.0%)を占めていた(Table 1-2)。
血培陽性群とコンタミ群で有意差を認めた検査項目は,当日のCRP値,WBC数の前日から当日の変化量,CRP値の当日から翌日の変化量で,いずれも陽性群で高値であった(Table 2, 3, 4)。当日のCRP値(Figure 1)について,図には示していないがROC曲線からカットオフ値を求めたところ1.70 mg/dL(感度55.6%,特異度78.3%,陽性的中率93.3%)であった。また,陽性群126例中29例(23.0%)はCRP値が0.5 mg/dL未満であった。
Laboratory parameters | Caracteristics | Positive group | Contamination group | p value |
---|---|---|---|---|
WBC count, ×103/μL | Median (range) | 12.5 (1.5–38.2) | 10.6 (3.4–34.1) | NS |
Male/Female | 53/62 | 8/13 | NS | |
Median (range) , month old | 2 (0–191) | 6 (0–102) | NS | |
CRP level, mg/dL | Median (range) | 2.40 (0.00–38.88) | 0.80 (0.00–5.50) | p < 0.01 |
Male/Female | 60/66 | 8/15 | NS | |
Median (range) , month old | 5 (0–191) | 6 (0–102) | NS |
NS, not significant
血液培養提出日における白血球数とCRP値の中央値(範囲)を示した。
Laboratory parameters | Caracteristics | Positive group | Contamination group | p value |
---|---|---|---|---|
ΔWBC count*, ×103/μL | Median (range) | 3.8 (−5.6–21.0) | −1.7 (−6.2–2.9) | p < 0.01 |
Male/Female | 19/20 | 3/6 | NS | |
Median (range) , month old | 2 (0–78) | 5 (0–28) | NS | |
ΔCRP level†, mg/dL | Median (range) | 1.60 (−6.20–21.20) | 0.00 (−4.00–2.70) | NS |
Male/Female | 25/26 | 4/8 | NS | |
Median (range) , month old | 2 (0–133) | 3 (0–35) | NS |
Day 0 was defined as the day of presented blood culture.
* ΔWBC count caculated by computing 0 day’s level minus the previous day’s level.
†ΔCRP count caculated by computing 0 day’s level minus the previous day’s level.
白血球数およびCRP値における血液培養提出日と前日値との差について中央値(範囲)を示した。
Laboratory parameters | Caracteristics | Positive group | Contamination group | p value |
---|---|---|---|---|
ΔWBC count*, ×103/μL | Median (range) | 0.6 (−15.7–20.6) | 0.4 (−2.6–7.5) | NS |
Male/Female | 39/45 | 5/8 | NS | |
Median (range) , month old | 2 (0–148) | 5 (0–28) | NS | |
ΔCRP level†, mg/dL | Median (range) | 1.70 (−19.70–15.70) | 0.00 (−0.51–0.60) | p < 0.01 |
Male/Female | 43/51 | 5/10 | NS | |
Median (range) , month old | 2 (0–167) | 5 (0–35) | NS |
Day 0 was defined as the day of presented blood culture.
* ΔWBC count caculated by computing the next day’s level minus the 0 day’s level.
†ΔCRP level caculated by computing the next day’s level minus the 0 day’s level.
白血球数およびCRP値における血液培養提出日と翌日値との差について中央値(範囲)を示した。
Comparison of true-positive group and contamination group by C-reactive protein levels in the day of presented blood culture
Standard box plot, in which the horizontal line represent the median, the thick line represents the interquartile range, and the thin line represents the maximum and minimum values.
エンドトキシンに関しては,陽性群126例のうち33例(26.2%)で分析され,10例(30.3%)が陽性であった。グラム陰性桿菌が分離された35例のうち12例(34.3%)でエンドトキシンが分析され,9例(75.0%)が陽性であった。一方,グラム陽性球菌が検出された18例や真菌2例はすべて陰性であった。例外として,グラム陰性球菌であるMoraxella (Branhamella) catarrhalisの検出例で,エンドトキシン値が468.8 pg/mLを示した例があった(Table 5)。なお,グラム陰性桿菌12例の検出菌種はEscherichia coli 7例,Stenotrophomonas maltophilia 3例,Klebsiella pneumoniaeおよびPseudomonas aeruginosaが各1例で,陰性となったのはEscherichia coliの2例とStenotrophomonas maltophiliaの1例であった(Table 6)。
Isolated strains with blood culture |
Number of episodes |
Number of positive (%) |
---|---|---|
Gram-positive cocci* | 18 | 0 (0.0) |
Gram-negative bacilli† | 12 | 9 (75.0) |
Gram-negative cocci‡ | 1 | 1 (100.0) |
Fungus | 2 | 0 (0.0) |
* Including 11 cases of coagulase-negative Staphylococcus spp.
† Including seven cases of Escherichia coli.
‡ Moraxella (Branhamella) catarrhalis.
エンドトキシンが分析された陽性群の33例について,グラム染色から区分した分析件数,陽性数(陽性率)を示した。
Case | Isolated bacteria | Endotoxin value (pg/mL) |
---|---|---|
1 | Escherichia coli | 3,323.0 |
2 | Escherichia coli | 399.2 |
3 | Escherichia coli | 15.00 |
4 | Escherichia coli | 30.74 |
5 | Escherichia coli | 5.86 |
6 | Escherichia coli | negative |
7 | Escherichia coli | negative |
8 | Stenotrophomonas maltophilia | 1,621.1 |
9 | Stenotrophomonas maltophilia | 44.34 |
10 | Stenotrophomonas maltophilia | negative |
11 | Klebsiella pneumoniae | 5.70 |
12 | Pseudomonas aeruginosa | 20,000 |
The other 23 episodes were not analyzed.
エンドトキシンの分析例のうちグラム陰性桿菌が分離された12例について,菌名と分析結果を示した。
敗血症等の予測因子3),4)あるいは重症度の推測5),6)などの観点から各種臨床検査値の有用性が数多く検討されている。しかし,血培陽性時の「コンタミ菌か否か」の指標としてWBC数やCRP値が検討された報告は少ない。McCabeら7)はこの指標としてCRP値は有用ではないと結論付けており,El-Naggariら8)もCRP値は有用ではないとしつつも,WBC数には有意差を認めたと報告している。一方,Shaoulら9)はコンタミの区別にCRP値は有用との見解を示しており,渡部ら10)もCRP値が陽性群で有意に高かったと報告している。今回の検討では,当日のCRP値は陽性群で有意に高値であり,カットオフ値1.70 mg/dL(感度55.6%,特異度78.3%,陽性的中率93.3%)が得られた。しかし,CRP値が0.50 mg/dL未満(当院基準範囲)であった陽性例が126例中29例(23.0%)あった。Laiら11)も指摘しているが,CRP値が基準範囲であっても安易にコンタミと判断することは行うべきではないと考える。Mölkänenら12)はCRPの反応性と一塩基多形との関連を指摘しているが,既報により指標としてのCRPの評価が分かれるのはこの影響である可能性が推測される。なお,WBC数の当日値も,有意差は認められなかったものの陽性群で高い傾向があった。今回,両群の年齢構成にほぼ差がみられなかったため,年齢を考慮した詳細な比較は行っていない。WBC数の基準範囲は小児期では年齢ごとの差が大きいので,WBC数を検討する場合,年齢を考慮した細分化した検討が求められる。
WBC数とCRP値の推移をみると,前日から当日のWBC数の変化量,および当日から翌日のCRP値の変化量は陽性群で有意に大であった。WBC数の推移は,陽性群では前日から当日に上昇し,当日からはほぼ一定であるのに対し,コンタミ群ではほとんど変化がなかった。一方,CRP値の推移は,陽性群では前日からは当日,さらに翌日にかけても上昇していたが,コンタミ群ではほとんど変化がなかった。こういった情報も,補助的な指標として参考となり得るものと考える。今後,各パラメータを組み合わせて指標化すること3),13)も,検討の余地がある。なお今回,血液培養ボトルが提出されたタイミングは検証していない。検査値の検討に当たっては,ボトルに採血されたタイミングが極めて重要となることから,この点を加味した検討が課題である。
エンドトキシンは,グラム陰性桿菌の細胞外膜に由来するため分析の特異性は高い。今回の検証では,血培からグラム陰性桿菌が検出されたエピソード12例中9例(75.0%)が陽性で,岡本ら14)とほぼ同じ成績であった。対して,グラム陽性球菌が検出された18例や真菌2例はすべて陰性であった。当分析の有用性は高いと思われるが,陽性群126例のうち33例(26.2%)しか分析されていなかった。グラム陰性桿菌が検出された35例に限定しても,分析されていたのは12例(34.3%)であった。当分析は2時間ほどで結果が得られ,より早い段階での対応につながることから,積極的な検査依頼が望まれる。なお,グラム陰性球菌であるMoraxella (Branhamella) catarrhalisの検出エピソードで,エンドトキシンが陽性となった例があった。理由として,血流以外に感染叢があった,あるいは死菌由来,などが推測されるが,原因は不明である。
血培は血流感染におけるゴールドスタンダードであるが,それを補足する情報として臨床検査値の重要性は大きい。日常の検査値を感染指標として最大限活用するためには,各施設の特性に応じて,科学的根拠となる基礎資料を集積させていく必要がある。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。