Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Right bundle branch block (RBBB)-like pattern during right ventricular pacing
Kanna HAYASHIRitsuko MORISHITAMika MATSUMOTOKaoru YANAGAWAIsamu KAWASUMIHisashi TAKEURA
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2018 Volume 67 Issue 5 Pages 797-801

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Abstract

恒久的ペースメーカ植込み患者の心電図波形は,右心室心尖部ペーシングの場合,胸部誘導のQRS波形は一般的には左脚ブロック様波形を呈すると考えられ,右脚ブロック様波形を呈した場合は,リードの位置異常や右心室の穿孔などが推測される。我々は,右心室ペーシング患者において標準12誘導心電図(12誘導心電図)記録を行い,右脚ブロック様波形を呈した1例を経験した。本症例は,胸部レントゲン,心臓超音波検査にて右心室リードの位置異常はないと確認できた。リードの位置異常を認めない場合にも,右脚ブロック様波形を示すことが報告されており,リードの位置を検討するため,胸部誘導の通常肋間より1肋間下部での記録,電気軸,移行帯などをみることが提唱されている。我々の報告も,胸部誘導での1肋間下部での記録で左脚ブロック様波形,電気軸は−30°,移行帯はV1とV2の間であることを認め,既報のアルゴリズムに相違はなかった。右心室リードの位置異常の検出に,心電図も有用な検査の一つと考えられた。

I  はじめに

恒久的ペースメーカ植込み患者において,心室リードを右心室心尖部に植込んだ時,右心室からペースメーカ刺激が伝導されるため,左心室より先に右心室が興奮する。このため,12誘導心電図の胸部誘導のQRS波形は左脚ブロック様波形を呈し,右脚ブロック様波形を示した場合はリードの位置異常や右心室の穿孔などが考えられる。

今回,我々は右心室ペーシング患者の12誘導心電図検査で,右脚ブロック様波形を示した1例を経験したので報告する。

II  症例

症例:90歳台,男性。

併存症:高血圧,糖尿病,前立腺肥大症。

既往歴:70歳台に大動脈弁置換術施行。

経過:78歳時に洞不全症候群と診断され,他院にてペースメーカ植込み術を施行。植込んだペースメーカはSt. JUDE MEDICAL製,植込み時の設定はDDDモードであったが,心房細動を併発したためDDIモードに変更した。基本rate 60/min,AV delay 170/150 ms,リードパルス極性はBipolarである。

今回,当院受診時の12誘導心電図では心拍数60/分,波形はペースメーカ調律(心房細動により心房センシング,心室ペーシング),電気軸は−30°,移行帯はV1とV2の間であり,V1でRs,V2でRS,V3~V4でrS,V5~V6でQSであった(Figure 1A)。

Figure 1 

12誘導心電図(ペースメーカ調律)

(A)通常肋間での記録。V1でRs,V2でRS,V3~V4でrS,V5~V6でQS。

(B)1肋間下部での記録。V1~V2でrS,V3~V6でQSとR波の減高を認めた。

胸部誘導を通常より1肋間下部で記録すると,V1~V2誘導でrS,V3~V6誘導でQSとR波の減高を認めた(Figure 1B)。

ペースメーカ植込み前および直後の心電図波形は残っていなかったが,2010年7月の心電図波形で自己脈が検出されており,右脚ブロックではないことが確認できた(Figure 2)。胸部レントゲンでペースメーカリードによる右心室の穿孔は認めず(Figure 3),心臓超音波装置(VividS6:GE社製)においてもペースメーカリードは右心房を経由し,右心室心尖部に確認できた(Figure 4)。

Figure 2 

12誘導心電図(自己脈)

胸部誘導に右脚ブロックは認めなかった。

Figure 3 

胸部レントゲン写真

(A)正面,(B)側面

ペースメーカリードの心室中隔および右心室自由壁の穿孔は認めなかった。

Figure 4 

心臓超音波像(心尖部四腔断面)

(A)ペースメーカリードは右心房を経由し,右心室に認める。

(B)ペースメーカリード先端は右心室心尖部に認める。

RA:右房,RV:右室,LA:左房,LV:左室,↑:ペースメーカリード

III  考察

恒久的ペースメーカリードを,右心室に植込んだ患者において,胸部誘導で右脚ブロック様波形を示した場合,右室中隔あるいは右室自由壁の穿孔,心室中隔を介した左心室へのリードの位置異常があると考えられる1)。V1とV2にR波が記録された場合,まず電極装着部位の間違いを確認することが必要である2)

右心室ペーシングでは,右心室からペースメーカ刺激が伝導し,左心室より先に右心室が興奮するため,胸部誘導のV1~V4誘導のQRS波は左脚ブロック様の波形を示す。さらに心尖部から遠ざかるように伝導されるため左軸偏位となり,左心室のペーシングであれば右軸偏位となる2)

しかし,右心室ペーシング患者において,ペーシングリードの位置異常を認めないにも関わらず,右脚ブロック様波形を示す症例があるとこれまでに報告されている。

Hermanら3)は胸部誘導を1肋間下部で記録し,右脚ブロック様波形から左脚ブロック様波形への変化が認めれば穿孔の可能性は低く,穿孔の可能性が考えられるのは,通常記録に胸部誘導で右脚ブロック様波形と,I誘導でS波を認める場合であると報告した。

一方,Almehairiら4)は,右心室ペーシング例の8~10%に右脚ブロック様波形がみられ,左心室ペーシングでは電気軸は+90°~+180°が50%,−90°~−180°が20%,0°~90°が30%にみられ,0°~−90°は認めなかった。対して,右心室ペーシングの右脚ブロック様波形例では,0°~−90°が約90%,移行帯はV1~V3が約90%にみられた。電気軸が0°~−90°,移行帯がV3を示す場合は,感度68%,特異度100%で右心室ペーシングであるとした。他の研究結果でも,感度97%,特異度100%と報告されている5)

本来,右脚ブロックはV1とV2誘導において,QRS波形はrSR’型,幅広いR波を示す。今回,我々の症例のQRS波形は,典型的な右脚ブロック波形ではないが,V1とV2誘導において幅広いR波を認めたことを考えると,右脚ブロック波形に近い形態を示していると言える。胸部誘導を通常肋間より1肋間下部で記録すると,左脚ブロック様波形に変化した。電気軸は0°~−90°の範囲で,移行帯はV1とV2の間であり,既報のAlmehairiらの報告4)と相違はなく,ペースメーカリード先端部位が右心室心尖部に固定されていることを胸部レントゲンと心臓超音波検査でも確認できた。

ペーシングリードが右心室に存在するにも関わらず,右脚ブロック様波形を示す原因として,Listerら6)は右心室ペーシング時に多数の異常経路を通り,左心室が最初に興奮すると仮説している。Mowerら7)は,ペースメーカ刺激が右脚から房室結節を逆行性に伝導し,左脚に伝導する可能性と,右室中隔が左心室と同じような機能や電気的興奮を起こしている可能性を示唆している。一方でBaroldら8)は,右心室伝導系の障害による右室活動の遅れと,左心室伝導系の電気的刺激の早い介入が組み合わさった結果と示唆している。

右心室ペーシングにも関わらず,右脚ブロック様波形を示す明確な原因は未だに解明されていないが,我々の症例において,右脚ブロック様波形を示した要因の一つとして,心臓の位置が関与しているのではないかと推察した。本症例は,胸部レントゲンより心胸郭比62%の心拡大を認めており,心臓が通常より前面かつ上位に位置していると考えると,胸部誘導に電位が近づくため,V1とV2誘導にR波が出現する。また,移行帯に関しても心臓位置と電極位置を考慮すると,本来第4肋間で記録されるV1とV2誘導は本症例では心臓が上位に存在するため,第5肋間の高さで記録されることに相違はないと思われる。そのため,移行帯はV1とV2誘導に推移したと考えられる。左軸偏位については,心拡大の影響が示唆される。このように心臓の位置が関与していると考えられる場合では,胸部誘導を1肋間下部で記録することで心電図波形は変化するが,リードの位置異常や右心室の穿孔があった場合は変化しない。

右心室ペーシング植込み患者で,心電図胸部誘導が右脚ブロック様波形を呈する症例において,胸部誘導を1肋間下部で記録すると,左脚ブロック様波形を呈した。電気軸が0°~−90°,移行帯がV3よりも上位肋間に存在していることで,ペースメーカリードの位置異常の有無は,12誘導心電図でも推測できると考えられた。

 

本研究は,当院倫理委員会の承諾を得て実施した(承認番号:201601-09)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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