Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Basic examination of the electrochemiluminescence immunoassay (ECLIA) method for measuring everolimus blood concentrations
Chinami OYABUItsuko SATOKanae HIGASHIGUCHIKazuhiro YAMAMOTOTakeshi ISHIMURAYuji NAKAMACHIJun SAEGUSA
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2018 Volume 67 Issue 5 Pages 722-726

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Abstract

mTOR阻害薬であるエベロリムスは,臓器移植における免疫抑制剤として主に用いられている。エベロリムスの投与に関しては,急性拒絶反応に対する有効性,副作用に対する安全性から薬物血中濃度モニタリング(TDM)を定期的に行うことが必要である。全血中のエベロリムス濃度測定には,LC-MS/MS法が用いられていたが,操作が煩雑であるために臨床の日常業務における測定には不適当であった。近年,ラテックス免疫比濁法(LTIA法)を原理とする試薬が開発されたが,推奨トラフ値はLC-MS/MS法の測定値をもとに設定されており,測定法による値の差の評価が必要であると言われている。そこで今回,新たに開発された電気化学発光免疫測定法(ECLIA法)による「エクルーシス®試薬エベロリムス」の基礎的検討を行った。ECLIA法による測定は再現性および感度が良好であり,LTIA法による測定値との相関は,y = 1.24x + 1.48(r = 0.854)と良好であった。以上の結果から,ECLIA法はLTIA法による血中エベロリムス濃度の測定と同等以上の感度・精度を有することが確認され,エベロリムスのTDMに有用である可能性が示唆された。

I  はじめに

エベロリムスは,Mammalian (mechanistic) target of rapamycin(mTOR)の選択的阻害剤であり,免疫抑制薬および抗がん薬として使用されている。mTORは細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼで,p70S6キナーゼやelF4E結合蛋白などを介して細胞成長を制御している。エベロリムスはFK506結合蛋白12(FKBP12)と結合して複合体を形成し,その複合体がmTOR活性を阻害することで免疫担当細胞などの細胞周期G1での停止を引き起こし,細胞増殖を抑制する1)。主な副作用として,口内炎,高脂血症および間質性肺炎などが挙げられ2),有効性と安全性に濃度依存性が示唆されていることから推奨血中濃度が設定されている3)

国内では,エベロリムスの血中濃度測定法は液体クロマトグラム・タンデム質量分析法(LC-MS/MS)および蛍光偏光免疫測定法(FPIA法)が主な測定法であったが,その煩雑な操作のために臨床の現場では不適当であった。そこで,2013年にラテックス免疫比濁法(LTIA法)による測定キットが発売されたが,移植患者における推奨トラフ値3~8 ng/mLはLC-MS/MS法の測定値をもとに設定されたものであるため,測定法による値の差の評価が必要であると言われている4)。また,LTIA法は前処理操作が2ステップであることから測定者間誤差を生じる可能性があ‍る。

今回,新たに開発された電気化学発光免疫測定法(ECLIA法)を原理とし,前処理操作が1ステップと簡便になった「エクルーシス®試薬エベロリムス」の基礎的検討を行ったので,報告する。

II  対象および方法

1. 対象

神戸大学医学部附属病院にて2016年9月から2017年3月まで,エベロリムス血中濃度測定の依頼があった患者検体129検体を対象とした。検体は採取当日にECLIA法およびLTIA法の2法の同時測定を13日間随時行った。なお,本研究は神戸大学医学部附属病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号170096)。

2. 測定方法

ECLIA法はcobas 8000(e602)(ロシュ・ダイアグノスティックス)を測定機器として,エクルーシス‍®試薬エベロリムス(ロシュ・ダイアグノスティックス)にて測定した。比較対照としてLTIA法をJCA-BM8040(日本電子)を測定機器として,ナノピアeTDM®エベロリムス(積水メディカル)にて測定し‍た。

3. 統計解析

結果は全てMean ± Standard Deviation(SD)で示した。ECLIA法とLTIA法との相関関係については,Spearmanの相関係数による評価を行った。

III  結果

1. 再現性試験

3濃度の専用コントロール(プレチコントロール エベロリムス)および2濃度のプール全血を用いた同時再現性(N = 10)はCV = 2.58~3.91%(3.02~16.32 ng/mL)であった。また,3濃度の専用コントロールおよび2濃度の患者プール全血を用いた日差再現性(N = 10)はCV = 3.23~5.44%(2.6~15.56 ng/mL)であった(Table 1)。

Table 1 

Reproducibility of everolimus concentration by ECLIA

A: Within-run variation (n = 10)
Control Pooled blood
L M H L H
Mean (ng/mL) 3.02 10.29 16.32 8.18 10.89
SD (ng/mL) 0.12 0.40 0.42 0.30 0.29
CV (%) 3.91 3.86 2.58 3.64 2.68
B: Within-day precision (n = 10)
Control Pooled blood
L M H L H
Mean (ng/mL) 2.60 9.54 15.56 4.96 9.39
SD (ng/mL) 0.11 0.39 0.70 0.16 0.51
CV (%) 4.34 4.09 4.52 3.23 5.44

2. 定量限界(LOQ)

全血(EDTA加血)を用いて2濃度のプール全血を作成した。それぞれO型全血(EDTA加血)を用いてサンプル1は5,10および20倍に希釈,サンプル2は5および10倍に希釈し,各希釈検体を同日に10重測定した。CV(10%および20%)での濃度はそれぞれ0.166,0.059(ng/mL)であった(Figure 1)。

Figure 1 

Limit of quantitation of everolimus by ECLIA

Limit of quantitation (LOQ) was defined as the concentration at which the mean CV was 10% and 20%.

3. LTIA法との相関性

患者検体129例を用いて,ECLIA法とLTIA法と‍の相関性を評価した結果,r = 0.854と良好であり,‍標準主軸回帰式y = 1.24x + 1.48であった(Figure 2A)。また,Bland-Altman解析を行った結果,測定値の平均差は2.6 ng/mL,誤差の許容範囲‍(平‍均値±1.96SD)は0.9~4.3 ng/mLであった(Figure 2B)。

Figure 2 

Correlation tests

A: Correlation between ECLIA and LTIA measurement of everolimus.

B: Bland-Altman plot showing to be a difference between everolimus concentrations of ECLIA and LTIA.

IV  考察

エベロリムスは主に心移植及び腎移植後の免疫抑制に使用されており,既存の免疫抑制薬との併用により,急性拒絶反応を抑制する3)。エベロリムスの投与に関しては,食事および患者の病態の影響を受けること5),既存の免疫抑制薬がエベロリムスの血中濃度に影響を与えること6),有効治療域の下限未満では急性拒絶反応の発症率が高まること7)などから定期的な薬物血中濃度モニタリング(TDM)が必要である。従来本邦では,LC-MS/MS法とFPIA法によりエベロリムスの血中濃度測定が行われていたが,いずれも専用の機器が必要であること,LC-MS/MS法では操作が煩雑で測定に時間を費やすことなどの問題があった。そこで,LTIA法を原理とするナノピアeTDM®エベロリムスが発売された。エベロリムスの代謝産物の薬理活性はエベロリムスよりも60~500倍低く,免疫抑制に寄与しないと考えられているが8),LTIA法では2~63%起こるとされる代謝産物との交差反応9)を考慮し,キャリブレータをエベロリムスの重量濃度の約70%で値付けしている10)

また,免疫抑制薬TDM標準化ガイドライン2014では,LTIA法とLC-MS/MS法との相関回帰式はy = 0.69x + 0.71とLTIA法の測定値は低値傾向を示すことが記載されているが,この相関式は開発品による臨床性能試験結果から得られたものである。製品化後はキャリブレータの値付け方法の調整に伴い,以後の検討報告では,傾きが0.91~1.03とLC-MS/MS法とLTIA法との測定差は修正されている11)~13)。2016年の免疫抑制薬コントロールサーベイにおいて,LTIA法では交差反応の是正のためエベロリムスを特定濃度添加した外部コントロールの場合,正確な結果が得られない可能性が示唆されている10)。一方,ECLIA法では6~109%起こるとされる代謝産物との交差反応を考慮した是正を行っていないため,同サーベイにおいてLC-MS/MS法と近似した値を示すことが報告されている。

今回の検討においてもECLIA法はLTIA法よりも高値傾向であることが確認されたが,両者のキャリブレーション法及び交差反応性の違いに基づく結果であり,LC-MS/MS法と近似した値を示したと考えられる。また,心,肝および腎移植患者による検討から,LTIA法では心移植患者において過小評価となり,ECLIA法では肝移植患者において過大評価となるなど,患者の肝機能によって2法の測定値に代謝産物濃度に起因する差異が生じる可能性も示唆されている14)。Stromら15)は,腎移植患者128例を対象にLC-MS/MS法により検出した代謝産物とエベロリムスの濃度とを比較し,中央値(範囲)はそれぞれ,46-ヒドロキシエベロリムス44.1%(0–784%),24-ヒドロキシエベロリムス7.7%(0–85.6%),25-ヒドロキシエベロリムス14.4%(0–155.4%)であったと報告しているが,範囲が幅広く個体差を考慮したさらなる検討が必要であることも述べられている。

ECLIA法は日差再現性および同時再現性もCV 2.58~5.44%と良好であり,定量限界の検討において‍は,CVが10%付近を定量限界下限とすると,0.2 ‍ng/‍mLでありLTIA法の添付文書記載の定量限界2.0 ng/mL9)よりも高感度であった。

以上のことから,ECLIA法は基本性能に優れLTIA法によるエベロリムスの血中濃度と同等以上の感度・精度を有することが確認されたため,エベロリムスの血中濃度のモニタリングに有用であると考えられる。検査方法の違いにより起こりうる結果の差異は,医療スタッフの適正な検査値の解釈において極めて重要であり試薬の特性を十分に把握し,的確な情報提供を行うために測定間誤差に関する情報蓄積が必要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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